表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/85

第79話 WSS

 異世界といえども青髪はめずらしい。

 いわく、青は自然な色ではないそうだ。


 現代社会でも金髪や茶色は不思議じゃないので、それと同じだろう。


 なのになぜ青なのか。


 それは、あまりにも魔力が強すぎる結果、色素が定着した可能性が高いということらしい。

 アイスは名前の通り幼い頃から氷魔法が得意だったらしい。


 見るものをすべて凍らせるほど魔力が強いときいていたが、その異名に相応しい冷たい目をしていた。


 だが驚いたのは俺の名を呼んだことだ。


 剣術大会の優勝をきっかけに話しかけられる事は増えていたが、それは一時のもの。

 今は落ち着いていたし、何より後ろ側からなんて。


 いや、それより――。


「初めまして。アイス・シードルさんで間違いないでしょうか」


 相手は国家錬金術師だ。いうなれば錬金術師の中の最高権威。

 一端の俺が挨拶をしないわけにはいかない。

 例えばライバルだとしても礼儀は重んじる。


「そう」


 ……やけに短文だな。

 話かけてきたというのに、じぃっと俺を見つめている。

 何よりも身長が高い。いや、俺のが高いが、女性にしてはかなりだ。


「錬金術師のレナセールです。よろしくお願いいたします」

「よろしく」


 レナセールも丁寧に挨拶をし、頭を下げる。

 だがアイスは動かない。


 流石に「じゃあこれで」というわけにもいかないだろう。

 アイスからのアクションを待っていると、何かぼそぼそと言い始めた。


 え、小さくて聞こえないぞ。


「……私のほうが」

「え?」

「……私も……私が……」

「あ、あの……アイスさん?」


 すると突然、キリッと俺を睨んだ。


「どうして私を呼んでくれなかったのですか」


 ……な、なんの事!?


「だ、誰かとお間違えていませんでしょうか……?」

「私だって、参加したかった」

「……え?」


 これにはさすがのレナセールも困惑していた。

 いや、本当どういうこと!?


 そのまま早歩きで近づいてきて、目の前で足を止めた。


 そして――。



「私も打ち上げに呼んで欲しかったのにいいいいいいい!」



 目にいっぱい涙をためて感情のままに叫んだ。



 ……打ち上げ?



  ◇



  “アイス・シードルside”



「アイスは本当に凄いわねえ」

「ほんと、アイスは凄い」

「シードル家の期待の星だな」


 幼いころから、私はできる(・・・)子だと言われて育った。

 運動、座学、魔法、すべて一位を取った。


 でもみんな間違っている。


「天才だなアイスは」

「本当に天才だ。アイスは」

「神が作り上げたものだ」


 私は、私はただ頑張ったのだ。


 病弱だった母は学校にほとんど行けない幼少期を過ごした。

 いつも家で窓から外を眺めていたらしく、友達が欲しかったらしい。


「アイスはいっぱい友達ができるといいわね」

「お母さんがいればそれでいい」

「ふふふ、ありがとうね。でも、ダメよ。友達はいっぱい作りなさい。そして、いっぱい勉強して、沢山褒められなさい」

「……お母さんが褒めてくれたら、それでいい」

「あなたはいつも偉いわ。だから、私がいっぱい褒めてあげる。でも、沢山の人から褒められるのは嬉しいものよ」

「ほんと?」

「ええ」


 大好きなお母さん。

 父は仕事で忙しくてほとんど家にいなかった。私は、お母さんに褒められたくてずっと頑張っていた。


 でも、お母さんは心臓の病気で亡くなってしまった。


「……お母さん」


 それ以来、私はどうしたらいいのかわからなくなった。


 お母さんに褒められたくてはじめた勉強は、いつしか他人からねたまれることが多くなった。


「いいよなー天才は努力もせずに」

「ほんと、羨ましい」

「勉強なんてしたことないんじゃない?」


 直接言われることはなかった。友達はできなかった。


 あなたは人と違う。あなたは特別よ。あなたは、神が作り上げた奇跡ね。


 これって、褒められてるの? ねえ、お母さん。


 私は神なんて信じていない。


 私を育ててくれたのは、お母さんだ。


 お父さんは相変わらず仕事で忙しかった。

 でもそれは後に、お母さんの心臓の病気の治療費を必死で稼いでいたと知った。


 亡くなってからは、お母さんのことを考えないように必死で働いていた。


 私は一人だった。


 みんな私を避けていた。どれだけいい点数をとっても、友達なんてできない。

 みんな私を、別の人間だと思っている。


 そんな時、私をただの人間だと、人だと思ってくれる人と出会った。


「お前の錬金術を見た。確かに素晴らしいが、あの構造はまだまだ改良の余地がある。少し手を抜いたんじゃないのか?」

「……それ、私に言ってるんですか?」

「当たり前だろ。アイス・シードル、君以外に誰がいる?」


 そのとき作り上げた魔道具は私にとって大したことのない出来だった。

 言われた通り手を抜いたものだ。でもみんな絶賛し、誰も何も言わない。


 誰も私を見ていないのだ。


 私の作り上げた。虚像のアイス・シードルをみんな信じている。


 でも、私を見てくれている人がいた。


「あなたに何がわかるんですか」

「天才だともてはやされ、調子に乗って手を抜くことを覚えた錬金術師じゃないのか?」


 初めての感情だった。心からの怒り。


 思わず声を上げた。


「何も……知らないくせに、なにも!」

「確かに私は君の事を知らない。でも、君が作ったものはすべて知っている。素晴らしかったよ。でも、このままでは君は何も作らなくなるだろう。――私のようにな」

「……あなたと私が同じ? そう言いたいんですか」

「そこまでおこがましくないよ。ただのおせっかいだ。おばさんのな」


 失礼だった。とても失礼で、そして――いい人だった。


 みんな私の名前を聞いただけで褒めてくれた。でもそれはちゃんと評価してるわけじゃない。


 しかし、この人だけは違った。


「ま、突然こんなことを言うほうが悪いな。すまない。私は人の気持ちに疎いんだ。じゃあな――」

「あ、あの!」

「なんだ?」

「……まだ、お名前を聞いていません」


 するとその人はとても素敵な笑顔を見せてくれた。


「レベッカだ。――レベッカ・ガーデン」


 そのとき、私はハッと息をのむ。


『お母さんはね、レベッカ・ガーデンさんが好きなんだよね』

『それ、だあれ?』

『伝説の錬金術師さんだよ。凄いんだよ。逸話がいっぱいあってね』

『へえ、教えてお母さん』


 お母さんが好きだった、伝説の人だった。



 ある日私は、彼女の家を訪ねた。

 上級魔物がうようよしている、混沌の森。


「驚いたな。ここに自力で来たのは君が初めてだよ。――アイス・シードル」

「見てください」

「? 何の話だ?」

「指摘された部分を、すべて改良してきました」


 私が魔道具を見せるとレベッカさんは高らかに笑った。


「何だ、褒められたくてきたのか」

「…………」


 嘘をつきたくなかった。いや、この人にはバレると思った。


 私は、求めていたんだ。


 しかってくれる人を。自分を、見てくれる人を。


「……はい」

「私は厳しいぞ。だが見てやろう」


 そして私は何度も怒られた。

 こんなんじゃだめだ、この作り方はダメだと。


 ……嬉しかった。


 いつしか私は、レベッカさんを師匠と呼ぶことにした。

 彼女は嫌がっていたが、私がそうしたかったからだ。


 ほどなくしてセラスティ学園を辞めた。

 師匠といるほうが居心地が良かったからだ。


「流石だなアイス。お前の努力は私を超えているよ」

「……うぅ……うぁっぅうう……」

「何だ、なんで泣いている」

「嬉しいんです。本当に、嬉しいんです」


 これが、褒められる事なんだと。


 でも私は師匠の心の溝を埋めることはできなかった。


 もっと有名になって、もっと素晴らしい人になって、その時、私は言う。


 師匠は素晴らしい。レベッカ・ガーデンは、この世界で誰よりも。


 ただひたすらにがんばっていた。


 なのに、なのに。


「ベルク・アルフォン、優勝」


 王都剣術大会で彼を見た。

 凄まじい動き、何よりも日本刀という武器に驚いた。


 でも、私は気づいてしまった。


「……あの輝き、あの動き、似ている」


 心臓が高鳴る。

 

 おかしい。おかしい。そんなことありえない。


 いや、でも、なんで。


 そして私は、ベルク・アルフォンの後を付けていった。


 レナセールさんも一緒だ。


 私は元々二人を知っていた。

 質のいいポーションを降ろしていること、腕がいいこと。

 一度だけ購入してみたが、もっと凄いのが作れるだろうとわかった。


「……飲み屋さん?」


 大会優勝の打ち上げだろうか。

 仲良し、いいな。


「……一人です」

「はい、いらっしゃーい!」


 隣でポテトフライを頼んで動向を観察していた。

 あの動きはレベッカ師匠と似ていた。


 何か、何か聞けるんじゃないかと。


 でもその時、なんと師匠が現れた。


 あろうことかワイワイ騒ぎ始め、なんと――。


「し、師匠ちょっと――」

「ベルク、お前は偉いぞ。毎日頑張って文句も言わずに。偉いな。お前は偉い。そして可愛いな」


 大好きな師匠とイチャイチャしながら褒められるなんて!!!!!



 いやだああああああああああああああ。



 私のほうが、私のほうが。


 WわたしがSさきにSすきだったのにいいい



 ただ、それよりそれよりも――。



「なんで、私も打ち上げに呼んでくれなかったのおおおおおお!」



 感情のまま、私は高らかに叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ