第74話 勉強会
魔法の杖とは、魔法を使う際に用いる道具だ。
人によっては杖ではなく指輪やネックレス、剣を代わりにしているものもいる。
用途としては魔法を安定させたり、威力を増加させるものだ。
大きいほうが威力も高くなるが、その分取り扱いが難しくなる。当人の魔力量や質によっても相性があるので、魔法使いが武器を選ぶのはそれこそ生涯をかけて探す必要がある、と言われている。
ちなみにレベッカ師匠は指輪を装着している。どこで買ったんですか? と聞いたら自分で作ったといっていて、値段にすれば億ぐらいかなあと言っていた。多分、冗談ではないだろう。
しかしレナセールは特別で、彼女は媒体を必要としない。そのため武器を失うリスクもない。
とはいえそれはエルフという種族のみだが。
「凄い。いっぱいありますねえ」
「だな。久しぶりに来たが凄いな」
壁いっぱいに並んでいたのは、ありとあらゆる形、水晶が先端についている魔法の杖だった。
ここは魔法使い専門の店。好奇心できたことはあるがしっかりと見るの初めてだ。
リティアの杖を作るのは了承したものの、彼女の特性に合わせたものを作らなければならない。
レシピが思いついてもアイディアは別。
よって、今は勉強モード。
「……魔法の杖って、こんなに金額の桁が違うんですね」
「先端のクリスタルがダイアモンドみたいな価値だからな。未熟なものが行えば魔力の乱発で跡形に消えることもあるらしいぞ」
「えええ……。でも、ベルク様なら安心ですね!」
「どうだろうな。俺の能力は一度目より二度目、三度目と良いものを作れるものだ。普通の人より恩恵もいただいているみたいだが、気を付けないとな」
「私もお手伝いします!」
「ああ。というか、今回はレナセール、君がかなり要になるだろう。色々と頼んだぞ」
エアコンを作ったときもそうだったが、今回は特にレナセールの魔法が鍵だ。さらにただ良いものを作るだけじゃない。
これは、国家錬金術師と俺の戦いでもある。
それを肝に念じておかなければ。
試験は五つほどあるらしい。その中の一つ、最も重要な戦闘試験で杖が必要とのこと。
王都、国王の理念は強さこそすべて。妃といえどもお飾りではいけない。
「国家錬金術師様の武器は、そんなに凄いんですかね?」
「どうだろうな。だが一度だけ師匠が言っていたことがある。彼らはこと武器や防具においてはスペシャリストだと」
「そうなんですか……レベッカさんがいうならよっぽどですね」
「師匠も国家錬金術師になりませんか、と言われたらしいけどな」
「さすがですね。でも、レベッカさんが誘われるとなると……」
「ああ、容易に想像がつく。かなり凄い集団だろう」
そして俺は覚えている。他人を褒めたりしない師匠から聞いた、その名前を。
『国家錬金術師はそんな凄いんですか』
『こと武器、防具においては右に出るものはいないだろう。まあ、私は別だが』
謙遜しないのはいつもだった。しかし――。
『だが、唯一私ですらも認めた国家錬金術師が王都にいる』
『師匠が? なんていう人なんですか?』
『二つ名は「冷徹」。一般的には氷の錬金術師と呼ばれている。その理由と名前は――』
「ベルクさん、レナセールさん、遅くなりました!」
そのとき、後ろから大きな声を上げたのは――リティアだった。
ドレスではなく、一般国民的な装いをしている。
なんと彼女は今日の勉強会に参加したいと自ら言ってきた。
自分のために作ってくださるのなら、力になりたいと。
もちろん彼女の特性に合わせるからありがたいのだが、変装までしているとは驚いた。