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第7話:ベルク様をとられたくないからです

 冒険者ギルドと商人ギルドは違う。

 主に買取、販売をしていて、隣には、壁をぶち抜いて作ったであろう解体所がある。


 俺みたいな商人からすれば安く素材が手に入る良いところだ。

 わざわざ冒険者ギルドに行かなくても、ここで依頼も頼める。


 何度か冒険者ギルドに行ったことはあるが、酒場が隣接しており、酔っ払いが多いのであまり好きじゃない。


 レナセ―ルは物珍しそうにキョロキョロしていた。


「商人ギルドは初めてか?」

「はい。こんなに大きいとは思ってもみませんでした」


 二階が吹き抜けになっていて、魔法が動力源になっている大きなファンがぐるぐるとまわっている。

 これがなければ解体所の血の匂いが循環されず、とても臭いとのことだ。


 それでも臭っている。


 俺が初めて来たときは、初めての臭いで顔を歪めた。

 だがレナセールは特に気にしていないらしい。


 血なまぐさい生活に慣れていたこともあるのかもしれないと、少しだけ考える。


「ベルクさん、祝日にめずらしいですね」


 現れたのは、商人で受付を担当しているミュウ・リニアさん。

 ピンとした犬耳が特徴的な獣人。


 それ以外の見た目は人間とほとんど変わらず、丁寧な物腰の女性だ。


「助手に手伝ってもらうことになったのでそのご挨拶にと」

「このたび、ベルク様のお手伝いをさせていただくことになりました。エルフのレナセールです。至らない事も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」

「あら、凄く丁寧で可愛い助手さんですね。ミュウです。よろしくお願いします」


 奴隷かそうでないかの見極め方は、魔力や魔法が使える人なら一目でわかる。

 契約術の匂いがするらしい。


 ミュウさんは冒険者としての資格も持ち合わせているのですぐわかっただろう。

 といってもよっぽど奴隷に酷い事をしていなければわざわざ尋ねたりはしてこない。


 ここで主に俺が行っていることは、ポーションの品質のチェックをしてもらった上での買取。


 毎週、1ケース、つまりひと瓶24本のC級ポーションを卸している。

 

 C級の中でも下級と中級、上級があるので細かくチェックが入る。

 俺のは上級で安定しているので、卸値が変わったことは未だない。


「今後はレナセールだけが来るときもあるかもしれません。ただしお金は月末で、俺が取りにきます」

「わかりました。レナちゃん、でいいかな?」

「はい。大丈夫です」

「文字は書ける?」


 その言葉にハッとした。

 つい忘れがちだが、この世界の学力は随分と低い。

 言葉は話せても文字が書けないなんて大勢いる。


 ポーションを卸す際、面倒な書類がいくつかあるのだ。

 すっかりその説明を忘れていた。


 だが――。


「大丈夫です。人間語もエルフ語も読み書きできます」

「そう、なら問題なさそうね。一応チェックしておきたいから、こっちに来てもらえるかしら? いいですか? ベルクさん」

「もちろんです。レナセール、確認してきてくれ」

「はい」


 レナセールがミュウさんから書類の説明を受けている所を眺めながら今後について考えていた。

 俺のスキルは、物作りがより良いものにできる才能とレシピを思い浮かべるものだ。

 

 後の一つは人には言えない。


 ポーションが安定してきた今、新しいものに取り掛かりたいと思っている。

 

 ただできれば早くフェニックスの尾も手に入れたい。

 口の堅い高ランク冒険者を雇えれば一番いいが、金が必要だ。


 俺が次に作ろうと考えているのは、状態異常薬だ


 冒険者が多いこのオストラバでは、消耗品が安定して売れる。


 今より少し材料費はかかるものの、その分、利益が大きくなる。


「終わりました。ベルク様」


 いつのまにかレナセールが前に立っていた。

 ミュウさんから一通り聞き終わったらしく、彼女は忙しくなったのか受付として働いている。


 ここでやることは終わりだ。次は行きつけの商店にいって、余った時間で飯でも食べるとしよう。

 お疲れ様という意味で、レナセールの頭に手をぽんっと乗せる。


「悪いなレナセール、文字が書けるかどうか事前に尋ねておくべきだった」

「いえ、私が先にお伝えしておくべきでした。申し訳ありません。それと……質問よろしいでしょうか?」


 何でも聞いていいとは伝えているがいつも不安げな顔をする。


「ああ」

「……失礼かもしれませんが、ミュウ様とはどんな間柄なんでしょうか?」

「……? ただの仕事相手だよ」

「そうですか。安心しました」

「どうした?」


 ホッとしたレナセールに尋ねる。


「ベルク様をとられたくないからです」


 どういう意味だろうか。

 嫉妬心? いや、そんな訳はないだろう。


 とはいえ詳しく尋ねる必要もない。


 外に出ようとした瞬間、レナセールがぎゅっと俺の手を握った。

 なんとなくだが、さっきよりも力が強かった気がする。


 そうか、寒いもんな。

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