第65話 ふたりの錬金術師
胃袋を満たした後は、チェコが紹介状を書いてくれた貴族屋敷に向かっていた。
既に魔法鳥で連絡を飛ばしてくれているらしいので、いわゆるアポは取れているみたいだ。
お相手は子爵様とのことなので、しっかりとせねば。
「ベルク様、右手と右足が同時に出ていますよ」
「……気を付けます」
レナセールはいつも背筋をピシッと伸ばしている。目上の人と話す時もしっかりしているし、物おじもしない。
俺も見習いたいものだ。
「そんな見つめないでください。は、恥ずかしいです」
そして頬を赤らめるこのギャップも最高である。
屋敷は中心から少し外れた、東門近くにあった。
驚いたのはその敷地面積だ。
国の中とは思えない大きな庭、噴水もある。
チェコのところよりば大きいんじゃないのか?
まずは使用人にお伝えするかと思っていたら、どうも見慣れたものが、壁に立てかけてあった。
「……これはまさか」
「どうしました、ベルク様? 私が声を出して呼びましょうか?」
「いや、その必要はないかもしれない」
おそるおそる、壁に備え付けられているボタンを押す。
するとそのとき、ポーンっと鐘が響いた。
「わ、な、何ですかこれ!?」
「これはチャイムだ。それも遠隔で飛ばしているのか? どうやら魔法の一種みたいだな。レシピは――なるほど、そういうことか」
「ええと、チャイムとは何ですか?」
「店などでドアを開けたときのベルがあるだろう。それを魔法を媒体に遠隔で飛ばしているはずだ。おそらく、使用人がやってくる」
「なるほど、凄いですね」
機械仕掛けの国ならではの発想かもしれない。レシピを見たが、素材さえあれば俺も作れそうだ。
帰ったら作っても良いな。なんだかパクリみたいで申し訳ないが。
紹介状をいただく際、どんな人なのか尋ねてみたが、チェコは教えてくれなかった。
――『きっと驚くと思います。それも楽しんできてください』
その言葉通り、入口から既に驚いているが。
錬金術と機械か、もしかしたら思っていたより文明レベルは遥かに高いのかもしれない。
「あ、来ましたよ。メイドさんですね」
大きな屋敷の扉が開き、こちらへ歩いてくる。
近づくと、その若さに驚いた。髪色はグリーン、目はオッドアイみたいだ。
メイド服はどちらかというと露出が多めで、太ももが見えている。
王都ではあまり見かけない、いわゆる異世界っぽいやつだ。
「お待たせいたしました。既にご連絡は頂いております。私の名はリーリです。ベルク・アルフォンさま、レナセールさまでお間違いないでしょうか?」
レナセールがサッと紹介状を手渡す。
それを確認したリーリが、俺たちを招き入れてくれる。
メイドの年齢の若さにレナセールも驚いていた。
王都ではあまりみないからだ。とはいえ、いない訳じゃない。
噴水はよく見るとゼンマイ仕掛けになっていた。
水が出るところから魔法のエフェクト、おそらくあれも錬金術か。
おもしろいぞ。久しぶりにワクワクしてきた。
扉を開けてもらって中に入る。そこではなんと、左右合わせて10人以上の執事とメイドが一斉に並んでおり、頭を下げていた。
そこに、リーリが加わると、階段の上から白髪の老人が現れ、降りて来る。
「やあ、ベルクさん遠路はるばるご苦労様。私の名前はゼニスだ。チェコさんから聞いているよ」
「初めまして、ベルク・アルフォンです」
「レナセールです」
「随分と若いんだね。まずは茶にしようか。――リーリ、用意してくれるか」
「はい、かしこまりました」
そのまま階段を上がって、一番奥の部屋、応接間に案内される。
部屋の中は立派なものだった。お高そうな絵画、壁には錬金術で作ったであろう時計が置いていた。
ほどなくして、紅茶と菓子が運ばれてくる。
「ご丁寧にありがとうございます。」
「とんでもございません」
紅茶を一杯いただくと驚いた。かなり美味しい。
この国のものらしく、是非お土産で買って帰ろう。
「それで、どうですかね。この国は」
ゼニスさんが、そうやって俺に声をかけてくれた。
ありがたいが、そろそろキチンとした挨拶をしておくか。
「では改めてご挨拶をしてもよろしいでしょうか?」
「ん、構わんよ? どうした?」
そして俺は、隣で立っていたリーリに視線を向けた。
立ち上がり、頭を下げる。
「このたびはお屋敷にお招きいただきありがとうございます。ご無礼があるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
するとそれにリーリが目を見開いていた。
ゼニスが口を開く。
「君は……いったい何をしてるんだ? ベルクさん」
「キチンとしたご挨拶をしただけですよ。リーリさんにね」
「な、何の事でしょうか……わ、私はただのメイドで――」
困惑する姿、レナセールに視線を向けるが、何も驚いてはいなかった。
なるほど、彼女もわかっていたか。
「あなたですよね。チェコが紹介してくれた錬金術師様は」
「……何の話ですか?」
「ご説明したほうが?」
「……はい」
「私とレナセールを招き入れたとき、あなたは丁寧に挨拶をしてくれました。一介のメイドは、自分の名を自ら語ることはありません。それに屋敷の扉を開けたとき、執事たちは頭を下げていました。客人ですが、私は錬金術とはいえただの平民ですから多少違和感がありました。おそらくですが、彼らはあなたに頭を下げていたのでしょう。そしてもう一つ」
リーリは、ちょっとだけ笑みを浮かべているように思えた。
俺は、続ける。
「あなたはリーリさんではないですよね。よく似ていますが、声色が違います。もしかしてですが、錬金術で風貌を変えた、ということですか?」
少しの沈黙の後、リーリさんがふふふと笑う。
「すみません、イタズラがすぎましたね。錬金術で大事なのは観察眼です。チェコさんから凄い人が来ると言われていたので、少し試してみたかったんです。彼女の言う通りみたいです」
「いえ、チェコから聞いていたんですよ。驚きますよ、と。なので、警戒していました。ズルみたいなもんですね」
「ふふふ、でももう一人に気づいたのは、レナセールさんだけみたいですね」
もう一人?
俺は、レナセールに顔を向ける。何か喋りたそうにしていたので許可をした。
「あなたはリーリさんではなく、初めに頭を下げていた執事さんたちの中にいた、もう一人の方ですよね。私は、しっかりと全員のお顔を見ましたので、見間違えることはありません。髪は色を変えただけでしょうか?」
もう一人だと? するとそこで、リーリが頭を動かすと色が赤色に変化する。
そして後ろの扉が空く。
「凄い。流石、チェコの言う通りだわ――」
そこに現れたのは、まったく同じ風貌だが、色が緑、つまりは最初の――リーリさんだった。
一級錬金術には二つ名が付くことが多い。
レベッカ師匠は不老、チェコは天錬。
「緑髪の私がリーリで」
「赤髪の私が、ラーラです」
そして風の噂で聞いたことがあった。天才と呼ばれた双子の錬金術がいると。
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