第64話 レナセール、それはやりすぎでは
スチームパンク風の街並は、異世界に慣れてきていた俺の童心をくすぐってくれた。
蒸気機関車のような乗り物、鉄道が動いている。馬車はかなり少ないみたいだ。
自転車のようなものを乗っている人もいる。王都から二日程度の国でここまで変わるとは。
師匠は昔旅をしていた話をたまにしてくれた。
聞けば勇者御一行と呼ばれているときもあったとか。
その話はおもしろく、今でも心に残っている。
「お待たせいたしました。こちらが、街で一番有名なタマゴライスです」
給仕が運んでくれた皿には、随分と見慣れたものがポンっと置かれていた。
黄色い玉子に包まれた、楕円型の美味しそうなもの。
めずらしいのか、レナセールが目を見開いている。
「凄い。美味しそうですね! こんなの初めてみます!」
「……そうだな」
こっちの世界では。
スプーンで切れ込みを入れると、中から赤いライスが出てきた。
なるほど、やっぱりそうか。
「美味しいですね、タマゴライス!」
「やっぱりオムライスは最高だな」
「え? オム?」
「ああ、すまない。元の世界で同じような料理があったんだ。玉子の種類が違うみたいだが、久しぶりに食べてもうまいな」
「そうなんですか? さすが、ベルク様! 何でも知っていますね!」
嬉しくて微笑んだが、ダメだダメだ。得意げに語ってしまった。
せっかくのオムライス、いやタマゴライスを楽しもう。
「もしかして、ベルク・アルフォンさんですか?」
するとそこで、隣の人に声を掛けられた。
長い赤髪、ハット帽子、豊満な胸。
上下の服は、ブラウンの長い袖、長いズボンをはいている。
王都とは違う、この国特有の装いだ。
それより、なぜ俺の名を?
「誰でしょうか?」
「ああ、ごめんなさい。私の名前はタミー。実は、王都であなたの剣術を見てたんんです。凄かった。本当にかっこうよかった」
「なるほど、ありがとうございます」
王都でも声を掛けられることが増えていたが、まさかこんなところでも。
さすが剣術大会だ。認知度が高い。
「この国へは何しに? ああ、敬語じゃなくていいですよ」
「なら遠慮なく。ただの観光だよ。色々と見て回ろうと思ってね。彼女は助手のレナセールだ」
「……こんにちは」
レナセールは眉をひそめていた。
初めての国、初めの出会い、初めての女性。……大丈夫だろうか。
「だったら案内しましょうか? 錬金術に詳しい機械屋さんとか、知ってるんで!」
「良いのか? それはありがたいな」
王都で優勝するとこうやって知り合いができるのか。
お会計は何と彼女、タミーが払ってくれた。
優勝者のベルクと知り合えただけでもラッキーだと。
レナセールはやはり浮かない顔をしていた。断った方が良かったのかと思ったが、一期一会の出会い、これも旅の醍醐味ではないだろうか。
店を出て、移動しているとき、なんとタミーが俺の腕を掴んだ。
「ほら、行きましょうベルクさん! ――いたっいっ!?」
「――あなた、何してるんですか」
すると次の瞬間、レナセールがなんとタミーの腕を掴んだ。それも骨が軋むほどの強さで。
タミーが苦痛で顔を歪ませる。
さすがにこれはやりすぎたと思っていたら、なんとレナセールはそのまま彼女を力強く引っ張り、地面に投げ捨てた。
俺は驚きのあまり目を見開く。
確かに俺が女性と絡むのは嫌がる。
でも、ここまで――
しかしそのとき、ハッとレナセールが手に持っているものに気づく。
なぜか俺の財布を、持っていたのだ。空間袋に入れておくと出すときに目立つので、分けていたものだ。
「ここから立ち去れば大事にはしません。罰する手続きも面倒ですから。でも次、視界に入ったら――殺しますよ」
レナセールは、おそろしいほどタミー睨みつけた。彼女は謝りながら必死で逃げていく。
まさか、そんな。
するとレナセールは、天使のように微笑みながら財布を手渡してきた。
「どうぞ。お気をつけくださいベルク様。名前を呼んでくる輩は、大体は怪しい人ですから」
……俺はバカだ。少しばかりいい気になって油断していた。
ここは慣れた王都じゃない。相手が名前を名乗ったとしても、それが本名だとなぜ言い切れる。
有名になるというのは、良い面も悪い面もある。それを常に考えていたというのに、頭から抜けていた。
「すまないレナセール、調子に乗ってしまって――」
「いいえ、ベルク様はそのままで良いのです。心優しいあなただからこそ、私ようなボロボロのエルフを助けてくださいました。その心は、いつまでももっていてほしいです。あなたの脅威は私が取り除きます。だから、お気になさらず」
レナセールは微笑みながら首を横に振る。
なんて優しい子なんだろうか。彼女といると本当に心が穏やかになる。
国を楽しむのも、出会いも観光を楽しむのもいい。だが、絶対油断はしないでおこう。
「ありがとうレナセール――」
「ただもしあの人が悪い人じゃなかったとしても、ベルク様の腕を掴んだりしたら、同じことをしてたかもしれませんけどね」
もちろん、愛する彼女のために。
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