第62話 戦いの後は
師匠から強制的に追放されたときは、この世の終わりだと思った。
戦闘訓練やこの世界の知識は叩きこまれていたが、それでも不安はぬぐえなかった。
だが気持ちとは裏腹に身体はよく動いた。1人で魔物と戦った時の事は、よく覚えている。
心臓の鼓動が身体中に響いていた。デカい魔狼が相手だった。
鋭い牙とかぎづめを回避し、敵の腹を掻っ捌いた。
返り血を浴びた俺は、興奮と勝利の喜びをかみしめた。
同時に感謝した。師匠と出会わなければ死んでいたし、生きる術を叩きこんでくれたことを。
そして今も感謝している。
師匠と、素晴らしい――彼女に。
「ベルク様、後ろは私に任せてください」
「ああ。だが、殺すなよ」
王都から出て七時間後、順調だった。
山の途中、妙な気配がしたので警戒していると、森から男たちが現れたのだ。
相手は六人、それぞれが武器を構えている。
「ハッ、後ろは任せてー、だってさ。かわいこちゃんよォ、可愛い声で言ってくれるじゃねえか」
「殺すなよ! たっぷり楽しみてぇえからな」
「男はいらねえだろ? つうか、殺してえ」
山賊や盗賊は、街から出てすぐ出会う事が多いと聞いていた。
近くだからと油断して護衛を付けていない事が多く、王都の隣国が経済の街ということもあって、良い物を持っていることが多いからだそうだ。
王都兵士は、基本的に国の周りしか常駐していない。
報告を受ければ出向いて確認してくれるが、その間に既にトンズラしている。
基本的にこの世界は誰も守ってくれない。自分や家族、大切な人を守るには、己で何とかするしかないのだ。
俺は日本刀を構えていた。深呼吸して、レナセールと同時に反対方向へ飛び出す。
「――なっ」
「遅いぞ」
相手が振りかぶる前、右腕を使い物にならない程度に斬りつける。
肉を切り裂き、骨に到達したのがわかると、勢いよく引く。
次の瞬間、血しぶきがぶわっと舞う。魔物とは少し違う。柔らかさも感じられる感触。
余韻に浸るまでもなく、右隣りの男に視線を向けた。
「このヤロォッ!」
問答無用で、俺の頭部を狙って振り下ろされたデカい斧。
この世界は魔力で満ちている。身体に力を籠めれば、身体が強化されて攻撃力や防御力が増す。
そしてそれは、武器にも少なからず付与される。
達人の域に達すれば、なまくらでも良く切れる剣となるらしい。
俺は魔力を凝らせば視える。――こいつは、まだまだだな。
「悪いがその斧、買い替えの時期だな」
頭部に日本刀を構える。斧が触れた瞬間、一気に押し上げた。
剣に魔力を付与している。斧を真っ二つに破壊して、そのままの勢いを殺さず、右手を突き出して敵の人中を掌打した。
鼻血は出やすい。師匠から教えてもらったのだが、人は自分の血を見ると、多くの者が戦意喪失するのだという。
力の差を感じ取り、そこで冷静になる。
――勝てないかもしれない。
そう思わせれば勝ちだ。
残りの一人は俺の動きを見たからか、ただ武器を持っているだけになった。
警戒しながら身体を傾けて、レナセールに視線を向ける。
彼女は短刀を使っていた。以前俺が作った物で、思っていたよりも彼女に適していた。
おそらく麻痺を与えたのだろう。
手がしびれて動けなくなったのか、だらんと腕を地面に垂らして男たちが膝をついている。
そしてその男の首、頸動脈に刃を触れさせた。
「ひ、ひゃっっあああ、や、や、やめてくれやめてくれやめてくれええええ」
「ベルク様、どうされますか? いつでも殺せます」
「金銭を頂く。命までは取らない。だが、次に俺たちを襲ってきたら、問答無用で殺す。見かけても殺す。お前ら、わかったか?」
俺の言葉に、男たちは情けなく首を上下に動かした。
◇
「ベルク様、兎肉が焼き上がりましたよ。ちょっと味薄いかもしれませんけど」
「ありがとう。いや、美味しいな」
「えへへ、良かったです。でも、どうして王都から食料を持ってこなかったのですか? 帰りはあれですけど、行きぐらいはそれでよかったのでは?」
「野営に慣れたかったんだ。とはいえ、付き合わせてすまないな」
「大丈夫です! たまにはこういうのもいいですよね」
夜、開けた場所で焚火を焚いていた。
背中は岩壁、前だけに集中すればいいので、警戒も楽だ。
食事をとりながら、今日の出来事を話していた。
「どうして殺さなかったのですか? 相手はまだ動けると思います。もしかしたら寝込みを襲われるかもしれません」
「これに関しては師匠からの受け入りだが、人と人がぶつかり合うことで一番恐ろしいの何だと思う?」
「……わかりません」
「――恨み、復讐だよ。全員殺したとしてもあいつらに仲間がいたら? 隣国で油断しているときに突然襲われる可能性だってある。だからこそできるだけ殺さない選択肢を取りたい。といっても、最低限の脅しは必要だ。金銭を奪うことで、割に合わない仕事だと思わせる。あいつらだって愉悦だけで殺しをしてるわけじゃない」
師匠はいつも言っていた。
本当におそろしいのは、魔物でも、魔族でも、大国でも、兵士でもない。
人――執念だと。
過去に色々あったらしいが、詳しくは教えてもらえなかった。
とはいえ、元の世界でも歴史が証明している。出来るだけ、気を付けていきたい。
するとそこで、レナセールが俺に跨った。
自然と唇を合わせる
「確かにそうかもしれませんね。もしベルク様に何かあれば、私はその相手を許しません。一生追いかけて、地獄の苦しみを与えると思います」
舌をペロリとしながら、何とも恐ろしい事を言い放つ。
今日彼女が魔法を使わなかったのは、魔法使いはこの世界でも稀有な存在で、できるだけ隠しておきたいからだ。
人に金銭的な価値がある世界。石橋をたたいて隣国へ渡る。これこそ、俺らしい。
今日は交代で眠る予定だ。追ってはこないだろうが、警戒は怠らない。
「――ベルク様、好きです。大好きです」
「お、おいこんなところで服を脱ぐなんて――」
「えへへ、大丈夫です。私今、魔力が凄く高まってますから、近くに誰か来たらすぐにわかります。――外って、案外興奮しますね」
結局、朝まで眠ることはなかった。
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