第61話 出発
「気を付けていってらっしゃい。楽しんできてね。サーチちゃんは私に任せて」
「にゃおんっ」
早朝、全ての準備が整った俺たちは、チェコの家を訪れていた。
サーチの留守をお願いするからだ。
予定としては10日だが、もしかしたらズレる可能性がある。
お土産として何か欲しいものはあるのかと尋ねたが、返ってきたのは「知見」という言葉だった。
実にチェコらしくて、思わず笑った。
すぐに出るつもりだったのだが、朝食にお呼ばれした。
スクランブルエッグにお高いパン、ソーセージ、スープ、何度もお代わりをした。
相変わらずチェコはいいやつだ。
屋敷を出て、出国手続きを行う。
俺とレナセールには住居がある。冒険者ならパパっと出ることが可能だが、そうもいかない。
手続きを終えるころには昼過ぎになっていた。
それでも、いつものようにしっかりと装備の確認をする。
空間袋にはすぐに取り出さないものを入れていた。何の変哲もない茶色の袋だが、中は広がっていて、欲しい物がすぐに出てくる。
魔法と組み合わせたもので、とても素晴らしい。
この中には寝具や簡易医療キット、余分な回復薬、状態薬、錬金術で使う道具を入れている。
俺は背中に剣を背負っていた。レナセールは、以前俺が使っていた短剣を腰に差している。
麻痺を塗っているが、彼女の魔法を組み合せば火剣にもなる。以前よりもグレードアップしているのだ。
といっても、魔法主体で戦うことになると思うが。
俺たちの腰の鞄にはレベッカの絆創膏と、小型化に成功した回復薬に状態薬。
それと浄水水筒。これを作るには結構な時間を費やした。
できれば永久型が良かったが、流石にそれは不可能だ。
とはいえ、1000回程度の飲み水を完全に綺麗にすることが可能。
極めつけは安全靴だ。俺とレナセールは先端に鉄を入れている。
蹴打で敵を退けることも、不意な攻撃からも守ってくれる。
重さもほとんどなく、魔法で加工した丈夫なものだ。
ほかに必要なものは既製品で購入した。普段狩場で使っているので新たに買うものは少なかったが。
それでも費用は結構嵩んだ。
王都のダンジョン素材は高く売れるらしいのでいくつか買い占めた。
経済の街なら売れるだろうと調べつくしたので、帰りには懐が潤っているといいが、やっぱり不安もある。
狩場でいつも外に出ているはずが、門を出ると何だか新鮮な気がした。
レナセールと顔を見合わせる。
お互いに地図は頭に入れていた。俺は能力の補助で記憶力がいい。
レナセールは天才で、一目見ただけで完璧だった。
馬車で出発することもできたが、初めは徒歩で行こうと決めた。
警戒心を高めたまま、気持ちをあげていきたいからだ。
「予め伝えていたポイントまで歩く。今日は野営で、おそらくだが水を浴びることもできない。我慢してくれ」
「大丈夫です! もしあれだったら私に言ってくださいね。綺麗にしますから」
「綺麗に? そんな魔法があるのか?」
「いいえ? ありませんよ?」
何の話かと思っていたら、レナセールが背伸びした。そして、俺の耳をペロリ。
それから、息を吹きかけるように呟いた。
「どんなところでもペロペロしますから」
エルフの舌は浄化作用がある。それを知ったのは、つい最近だ。
確かにそれも可能かもしれない。とはいえ、とはいえだ。
とりあえず「ありがとう」と伝えておく。
「夜のご奉仕も任せてくださいね」
それについては、ちょっとだけ嬉し気に「ありがとう」と伝えた。