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第59話 過去と未来。

「百年ほど前か。北の大地でお前(ストロイ)と出会ったのは」

「そうじゃのぅ。あの寒空の下で生き延びた人間はレベッカ、お主だけじゃったのう」

「そうはいっても-100度は流石の私でも堪えたがな」

「ふっ、どの口がいっておる。そんなもの気にせずに走り回っていたというのに」


 師匠とストロイが、過去に想いを馳せながら楽しく会話していた。


 ちなみに危うくベルク・サンドイッチとして名前が広まりそうだったが、なんとか収まってくれた。意識も、ぎりぎりOK。

 まあ、少し記憶は飛んだが。


 師匠は酒に弱いが回復も早いので、今は周りから止められて果実ジュースを飲んでいる。


 ストロイはアルコールに強いらしく、樽で二杯目だ。

 元日本人だからかもしれないが、俺は割り勘なのかそうでないのかヒヤヒヤしている。


 二人は何度か因縁じみた対決があったとのことだった。

 魔王が存命している時代、宮廷魔術師として名をはせていた師匠は、国の派遣によってたびたび魔王軍と戦っていた。

 その際、ストロイと何度も命がけの勝負をしたという。


「ベルクの剣を見てすぐにわかったぞ。師が、レベッカ・ガーデンだとな」

「そんなに似ていたのか? 俺の剣は」

「そっくりじゃ。いい腕だったのう」

「似て当然だな。ベルクは、私の一番弟子だ」


 確かに師匠から剣は教わったが、元々は生粋の魔法使い。流派というものでもないだろう。

 ただ、肉を切らせて骨を断つ、というのが師匠の絶対的な教えだ。

 レナセールにも危ない戦い方をしますねと言われたが、おそらくそのあたりが似ていたのかもしれない。


「それでストロイ、なぜ剣術大会に出場したんだ?」

「ただの暇つぶしじゃ。国王に呼ばれたからのぅ」

「国王に?」


 それについては、とチェコが話しの間に割って入る。


「ストロイさんは友好的だけど、まだまだ魔族と人間の確執はありますからねえ。太守藺生向けのセレモニーだったり、表向きに王都は仲良くですってアピールするんです。今後、無益な戦争が増えないように」


 この世界のことを俺はまだ知らない。それを知っているチェコが、分かりやすく説明してくれた。

 こう見えてストロイはかなり偉いのだろうか。国王から直々に呼ばれるなんて凄いな。


 そして暇つぶしに決勝まで余裕でいくのか。流石だ。


「我が勝てば少しは魔族についての理解も深まるかと思っての。人間の催しに参加することは、友好的な証でもあるしな」

「……もしかしてそれを俺が阻止したってことか?」

「ま、そうじゃのぅ」


 とんでもないことをしてないか? とはいえ、考えても仕方がない。

 ストロイは当分王都にいるらしい。宿は何と王城だそうだ。

 これがもし漫画やゲームなら俺も呼ばれるかもしれないが、そうはならないだろう。


 そしてレナセールの初めてのお友達とも挨拶をした。

 エリニカ・クーデリーだ。


「最後しか見れませんでしたが、ベルクさんとても恰好良かったです! 何というかこう、オペラみたいでした! 流れるような動き、しびれました!」


 なかなかに現代チックな明るさを持つ。オペラが趣味だという。

 セラスティ魔法学園ということで少し驚いたが、こうしてみるとただの女の子だな。


「ありがとう。話はレナセールに聞いたよ。仲良くしてくれたみたいだな」


 後に聞いたのだが、最後の試験はペアでの実践形式のテストだったという。

 二人は過去最高得点をたたき出し、見事に合格。

 また、エリニカがレナセールに話しかけたことで、周りから陰口も言われなくなったとのことだ。


 そう思うと、やはりまだまだ貴族社会というか、階級が根強い世界だ。

 この辺りはもっと良くなってほしいが、すぐには難しいだろう。

 

 話はどんどん盛り上がり、気づけばすぐ日付が変わる時間になった。

 王都ではアルコールは16歳から飲めるらしいが、エリニカは果実ジュースを飲みながら、レナセールと楽しくお話していた。


「ベルクさん、次は絶対勝つッスから!」

「そうだな。次は錬金術でどうだ?」

「望むところッス!」


 エリオットは相変わらず元気だった。若い子はこうであってほしい。まあ俺も、おじさんというわけでもないが。

 ちなみに割り勘ではなかった。気づけばストロイと師匠が払っていた。いわく、年長者に任せろと。


 ……ごちです!!!


 外に出ると酒のせいかほんのり寒さを感じた。

 ちなみに首筋の赤いのはバレなかったと思っていたが、最初からバレていた。

 とはいえ異世界は割とそう言うのを隠さない。

 エリニカは「オペラみたい!」と、喜んでいた。


「師匠、本当に帰るんですか?」

「そうだな。今日は一年分ぐらい会話をした。ゆっくり休むとするよ」


 残念だが仕方がない。そう思ってると、レナセールが師匠に駆け寄り抱きしめた。


「いつでも戻ってきてください。私とベルク様は、一緒に住みたいと思っていますから」

「……ああ」


 師匠は多くを語らない。しかし、今日は楽し気だった。

 それでもまだ外に出るのは嫌なのだろう。よっぽどのことがあったに違いない。

 

 でも今は、俺とレナセールとこうやって話せて楽しいと言ってくれている。

 手紙も交換している。今は、これでいい。


「ベルクさん、サーチは私が預かりますので、いつでもいってくださいね。10日ぐらいですよね?」

「その予定だ。少し前後するかもしれない。悪いなチェコ」

「いえいえ、また帰ってきたら色々と話しましょうね」

「ああ」


 みんなに別れを告げて、俺とレナセールは少しだけ湿った空気の中、夜道を歩く。

 レナセールはぎゅっと俺の腕を掴んでいた。


「楽しかった後って、なんだか寂しくなりますね」

「そうだな。でも、嬉しいよ。帰り道も一人じゃないからな」

「ふふふ、私もです。それに、楽しみですね。不安も少しありますが」


 大会が終わって無事に賞金と魔核が手に入った。

 そして、新たな情報も。


 西へ少し言った先に、経済の街と呼ばれるエコという国がある。

 そこでフェニックスの尾の素材の一つがオークションに出ると教えてもらったのだ。


 代理人を立ててもいいが、俺とレナセールはほとんど王都から出たことがない。

 錬金術師となり、彼女の身分が保証された今、隣国への入国手続きもしやすくなったたため、10日ほど使って旅に出ようと話がまとまった。


 ついでにその国でしか買えない素材をいくつか購入したい。

 また、チェコとエリオットのコネで、錬金術師の紹介もしてもらったので、挨拶もする予定だ。


「そうだな。でも、新婚旅行みたいな気分でもある。」

「新婚旅行ってなんですか?」

「俺がいた元の世界では、結婚した男女は、その後、少しだけ休暇をとって旅に出る。そこで、初めての思い出を共有するんだ」

「そうなんですか? えへへ……嬉しいです」


 師匠も誘ったのだが、私はもう十分に旅をしたとのことだった。お前たちは、二人で楽しんで来いと。

 魔王や人間との戦いの話は、不謹慎だが少しワクワクした。

 とはいえそれは過去の話だ。


 俺とレナセールの未来はこれから。

 それがどういう形になるのかはわからない。


 でもきっと、先には笑顔が溢れているだろう。


「もし道中で危険な相手がいたら、私がベルク様を守りますから」

「ありがとう。もちろん、俺もだ」

「はい! 魔物とか盗賊とか山賊とか、女性(・・)とか、全部やっつけますから!」


 最後だけは、なんか違うような?

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