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第48話 レナセールママ

「……スライムを!? そうか、そんな手が……凄い。凄まじい発想だ。だからレベッカの絆創膏はあれほどまでに性能が高いのか……」 


 頭に四重奏(カルテット)のたんこぶをつけたエリオットが、顎に手を置き、唇にホワイトソースをつけながら頷いていた。

 レナセールは少し睨んでいたが、エリオットがしっかりと頭を下げたことで落ち着いた。

 

 それからエリオットは、なぜか俺に対して根掘り葉掘りと錬金術師について尋ねてきた。

 やれポーションのタイミングやら、送風機やら、そしてレベッカの絆創膏やら。


 すると、チェコが横から耳打ちしてきた。


「すみません。ご迷惑を」

「いや、大丈夫だ。しかし、これは一体?」

「……実はベルクさんに一番会いたがってたんですよ。この会を主催したのも、エリオットなんですよね」

「彼が? どうしてまた?」

「……ファンなんですよ。恥ずかしがり屋なんでああいう態度しか取れないバカなんですけど、根は悪いやつじゃないんで、多めに見てもらえると嬉しいです」

「なるほど……」


 聞けば舞踏会で私が体調不良で休んだとき、彼が一番前に出てくれていたらしい。

 素晴らしい錬金術を作る為には神経を集中させなければならず、仕方がないと。


 なるほど、これが男のツンデレというやつだろうか?


「それでベルクさん、いつから錬金術を?」


 ちなみに、いつのまにか『さん』が付いていた。


「実際に始めたのは二年前とちょっとくらいか。ここ半年くらいでようやくという――」

「えええ!? 二年!?」

「ビビるよねえ、エリオット」


 するとチェコが少しだけため息を吐いた。

 レナセールが、笑顔でうんうんと頷く。


「そんな驚くことか?」

「ベルク様、錬金術師はとても類まれな才能を持ち、かつ頭脳があり、かつ根気のいる作業だと言われています。私はお隣で見ていましたが、集中しているベルク様を初めて見たときは、息を吞みました」

「……そうなのか?」


 昔から一つのものに没頭しすぎてしまう癖がある。

 実際、レベッカ師匠にもよく言われていた。


 お前の集中力に勝てるやつはいない、と。


 おそらくレナセールは奴隷の契約があったので、そういった話をしづらかったのだろう。

 だが今は忌憚ない意見を言ってくれる。


 エリオットはその後、とても多くの人を紹介してくれた。

 初めこそあれだったが、若いがゆえの尖りは嫌いじゃない。


 まあ、俺もそんなおじさんではないが。


 立食パーティは実に楽しい。

 同じ志を持つ人ばかり。そして一番驚いたのは――。


「レベッカの絆創膏って、もしかしてレベッカ・ガーデンさんのこと?」

「知ってるんですか?」

「もちろんよ。凄い発明をしながらも表舞台にはあまり姿を現さないし、国を壊滅させたドラゴンをも倒した人でしょ? 偉人よ偉人。なるほどねえ、良いお師匠様がいたのねえ」


 多くの人が、師匠のことを知っていた事だ。

 実に誇らしくなって、レナセールも笑顔だった。


 一通り挨拶も終えて少し落ち着いたところで、レナセールを誘って食事に手を付ける。

 普段は食べられないような高級サーモンやステーキ肉、小さく切っているので、とても食べやすい。


「美味しいですねえベルク様」

「ああ、今日は来てよかったな」

「はい。私、本当に幸せです。こんな幸せがあっていいのでしょうか」


 レナセールは、周りを見渡しながら少しだけ不安そうだった。

 すべてがうまくいきすぎていると、怖くなるときがある。


 それをわかっているからこそ、頭を撫でた。


「大丈夫だ。俺たちはずっと一緒だよ。たとえ、悲しい出来事があったとしてもな」


 ずっと幸せが続くわけがない。そんなことはわかっている。

 だから俺は言葉を濁さない。それを聞いたレナセールが、とびきりの笑顔で微笑む。


「はい。私もずっと一緒です!」


 奴隷の解呪をしても、彼女は何も変わらない。

 いつもと同じ――。


「でも、あんまり女性のお胸を見ないでくださいね」


 するとそのとき、レナセールがちょいちょいと背伸びしてから、耳打ちしてきた。

 異世界は美人が多い。

 ついつい見惚れてしまっていたのだ。


 彼女はまた、とびきりの笑顔を浮かべていた。


「はい。承知しました」



 お開きとなり、次々と帰っていく中、チェコとエリオットが何やら話し合っていた。

 レナセールと顔を見合わせから歩み寄る。


「怪我しないようにしなよ」

「大丈夫だ。今年も優勝を狙ってるからな」


 強い……?


「ああ、すいませんベルクさん。色々と楽しめましたか?」

「とても有意義だったよ。ありがとう。エリオットも」

「いや、全然大丈夫……いや、そのすいませんでした」


 頭を下げるエリオット。ふむ、根はやはりいいやつそうだ。

 レナセールもニコニコ笑顔だ。よしよし。


 何の話をしていたのか尋ねてみると、どうやらエリオットが王都の大会に出るという。


「どんな錬金術の大会だ?」

「ベルクさん、エリオットが出るのは剣術大会なんですよ」

「……剣術?」


 そういえば、エリオットが錬金術で優勝したときの品物リストをみたが、冒険者向けの武器や防具が多かった。

 知名度を上げた上で販売、なるほど、理にかなっている。


「そんな強くないのにねえ」

「俺は東の大会で連覇してるって!」


 チラシを見せてもらって、その場でハッと驚く。

 賞金が100金貨? 凄いな……。


「いっぱいですね、ベルク様」

「魔法はなしか。きっと名のある剣豪が出るんだろうな」


 トーナメントといえば、創作物で一番人気なイベントだ。

 魔法ありならレナセールが優勝してたかもな。


 ん……この副賞……って。


「エリオット、君は出るんだよな?」

「そうですけど、どうしたんですか?」

「悪いが、優勝はもらうよ」

「……え?」


 俺はフェニックスの尾をずっと探している。何があってもいいようにだ。

 そしてその素材には、S級の魔核が必要である。


 それが、ここに記載されていた。


 コツコツお金を貯めて買うこともできるが、それは狙われる危険性がある。


 だが剣術大会で優勝したらどうだ?


 圧倒的に強いとわかっている優勝者。


 そんな相手から奪おうとするだろうか?


 答えは否だ。


 そして俺は、前から考えていたことがある。


 いつか自分の作った刀で――無双してみたいと。


 男なら誰でも考えるはずだ。

 ちなみに技も考えている。


 試したことはないが、七連斬りの必殺技なのだ。

 前後左右にバンバンバン。どうやったらいいかわからないが、多分、強い。

 

 いつかいつかと考えていたが、その日がきた。


 もちろんそれだけじゃない。

 レベッカ師匠と出会ってから自主鍛錬はかかしていないし、いつまでもレナセールの後ろに隠れているような男になりたくない。


 優勝を目指し、賞金をもらって、魔核を頂く。


 

 ――俺はいずれ、世界一の大剣豪になる。



 ……一度、言ってみたかったんだよな、この台詞。


 レナセールに顔を向けると、とびきりの笑顔だった。


 ああ、俺を信頼してくれているのだ。


 ありがとう――。


「ダメです。危ないので」


 いつの間にか、お母さん化してないか?

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