表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/85

第45話 立ち上がってください。

「むっふー、それで私のところに来たんですね。どうぞどうぞ、色々見て行ってください」


 笑顔で屋敷を案内してくれたのは、友人であり好敵手であり、錬金術師のチェコ・アーリル。

 無事にレナセールの奴隷契約を解除したことを伝えに来たのだ。


 それと、一級推薦を師匠にして頂いたことも。

 ただ、推薦は多ければ多いほどいいとされている。


 チェコは快く書いてあげると言ってくれた。報告が後になって申し訳なかったが、そんなことは気にしないでと工房を案内してくれた。

 一度だけレナセールは入口まで来たといっていたが、中は初めてだという。


 王都でも大貴族しか住んでいないストリートの一角、大きな屋敷が、アーリル家である。


 使用人の数は、それこそけた違いだった。

 既に廊下で数十人の執事やメイドとすれ違っている。


 一見すればチェコは旅人のような性格をしているが、実際の所は非常に良家の出だ。

 なんだか申し訳なくなり、レナセールと何度も顔を見合わせた。


 だがそんな事は、工房に入った途端、頭から消えてしまった。


「凄いな……」

「ほええ……凄いですねベルク様」


 扉を開けた瞬間、開いた口がふさがらなくなった。

 部屋、というよりは研究所だ。


 とてつもなく広い。

 錬金術で使う器具がいくつも並べられており、いたるところに高級材料が積まれている。

 中心には、見たこともない魔法陣が地面に付与されていた。


 また、その上には、デカいガラスの置物に、青と赤が混じった液体が入っている。


 壁には本棚が並べられていて、まるで図書館だ。


 おそらくだが、部屋の壁を壊して、数部屋を繋げているのだろう。


「ふふふ、凄いですか? 適当にくつろいでもらっていいので、疲れたら休んでくださいね。一応、端から説明していきます?」

「ああ、お願いできるか?」

「もちろんですよ。レナセールちゃんは、真ん中の液体触っちゃダメだよ。魔力が高いから、もしかしたら反発し合うかも」

「は、はい! わかりました」


 チェコは錬金術だけでなく、師匠と同じく魔法使いの資格を持っている。

 三級から一級までの錬金術師の資格と違って、魔法は十級からなるが、彼女は一級だという。


 文武両道に長けている、というべきだろう。


 ただ魔法使いになるには、幼い頃からの正しい訓練が必要だ。

 才能があって気づけば使えた、なんて一握り中の一握り。


 ただし魔法家庭教師を雇う為の費用は高く、貴族でしか雇えない。よって、魔法使いのほとんどが貴族だ。


 チェコは才能もあったらしく、噂によると魔法大会での優勝経験もあるらしい。

 だがそのそれを生かすことはなく、今は錬金術師として常に研鑽を積んでいるとのこと。


「このビーカーは西の生まれで、魔法耐性があるからよっぽどのことじゃ壊れないんですよ。後はこのアイテム、面白いですよ」

「ほほう?」


 取り出したのは、小さな箱だった。

 前世と違って、この世界の連絡手段は乏しい。


 だがそのおかげで、国が違えば文化も発達も違う。

 

 錬金術もまったく違うのだ。

 王都では魔法との組み合わせが多いが、他国では魔法陣を使った術式の組み込みによる発動が多いと聞く。


 そしてこの箱には、みっちりとプログラムの暗号のようなものが書かれていた。

 特殊なインクらしく、ごしごしと拭いてもとれないものらしい。


 チェコが箱を開けると、中から異様な魔力が湧きだしてきた。

 何だか、不安になるような感じだ。


 俺には何が何だかわからなかったが、レナセールがすぐに気づく。


「これ、もしかして【魔寄せ】ですか?」

「ふふふ、流石レナセールちゃんだね。参考までに、どうしてわかったの?」

「魔力には独特の匂いがあります。それで何となく。感覚なので、説明はしづらいのですが」

「【魔寄せ】とは何だ……?」

「その名の通りですよ。狩場に設置すると、魔物が匂いを辿って来るんです。あえて集めて狩りを効率化させたり、逆に別の場所に引き寄せることで安全な道を確保する、と色々ですね」

「おもしろいな。虫よけスプレーの逆か。その発想はなかった」

「虫よけスプレー?」


 以前、エルミック家で使った物をチェコに説明すると、凄く嬉しそうだった。

 自分で創造できないものを聞くと嬉しくなる気持ちはわかる。


「そういえば、【レベッカの絆創膏】凄すぎません? どうやったらあんなの思いつくんです?」

「……しいていえば、経験かな?」

「ベルク様は凄いのです!」


 格好よく言ったが、ズルみたいなものだ。とはいえ、一応経験、一応な。


 それから話はどんどん弾んで、気づけば夜になった。

 執事の一人が現れて、何と夕食にお呼ばれしたのだ。


「いいのか?」

「もちろんですよ。うちの料理長のご飯は美味しいので、是非食べていってください。ただ、サーチちゃんは大丈夫です?」

「自動でご飯を出すようにしてるから問題ないだろう。一人も好きみたいで、よく屋根で日向ぼっこしてるよ」

「へえ、可愛いですね。後で自動のそれ、詳しく教えてください」

「チェコさん、ありがとうございます!」


 俺は以前、チェコの誘いを断った。

 それでもこうやって仲良くしてくれるのはありがたい。


 夕食は大きな広間だった。

 見たことものないご馳走が並び、使用人が多くてドキドキしたが、チェコがお喋りしてくれたので緊張感はなかった。


 夜は入浴をさせてもらった。

 西洋の銭湯を思わせる作りで、ライオンの口からお湯が断続的に流れている。


 おそらくこれも手作りだろう。

 ……凄いな。


 すると、入口から音がした。

 慌てて立ち上がると、現れたのは、レナセールと――チェコだった。

 二人とも一応タオルは巻いているが、この世界の布は薄く、ほとんど透けている。


「ベルク様、お背中をお流し致します!」

「あ、ああ……え、ええと」


 俺が困っていると、チェコがとぼけた顔で首を傾げる。


「どうしました? あ、もしかして恥ずかしいですか?」

「そ、それは当たり前だろう!?」


 師匠と違ったスタイルの良さに、思わず立ち上がれなくなった。

 レナセールはそれに気づいたらしく、少しだけじと目に。

 これは不可抗力だ。


「やっぱり布、邪魔だなあ」


 そう言うと、突然チェコは布をはぎ取った。

 見事なスタイルが露わとなり、これにはレナセールも驚いていた。

 

 いや、俺が一番驚いているが。


「……ベルク様!」

「え、ああ」

「見るなら、私のにしてください!」


 すると次は、レナセールが布をはぎ取った。

 白い肌が露わとなり、美乳が姿を現した。


「ほら、お背中をお流し致しますよ! 立ち上がってください!」


 ある意味では立ち上がっている。


 多分これは、引かれるので言わないが。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ