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第44話 絆創膏で元気を出そう

 レベッカ師匠が去ってから数週間が経過した。

 近況のやり取りはしているが、どこか心にぽっかり穴が開いた気持ちが否めない。


 だがそれは俺だけではなく、レナセールもだった。

 奴隷の契約を解除した嬉しさよりも、気づけば二人で「寂しいですね」と言い合っている。


 しかし俺たちにも生活がある。働かないと食べてはいけないし、レナセールの錬金術師としての試験の勉強も進めていかないといけない。

 さらに、S級ポーションの素材、フェニックスの尾を探したり、購入資金も溜めなきゃならない。


 やることはいっぱいだ。のんびりしている暇はない。


「……痛い」


 とはいえやはり頭から完全に消し去ることはできなかった。


 普段はしないミス。ポーションを作っている途中で、手を切ってしまう。

 それに気づいたレナセールが急いで駆けよってくれた。


「大丈夫ですか? 消毒しておきますね。それか、ポーションをお使いになられますか?」

「いや、この程度なら何もしなくても大丈夫だよ」

「いけませんよ。少し染みますけど、でしたらアルコールで我慢してくださいね」


 そういって、消毒をしてから、布を当ててくれる。

 そのとき、俺はハッと思いついた。


 いや、なぜ今まで考えなかったのだろう。


 錬金術師の理念は、大勢に喜んでもらうこと。

 だが最近は慣れたせいか大それたものを作ろうとばかり考えていた。


 王都の人口はほとんどが一般市民だ。

 もっと大衆向けに作るべきだろう。


 そして今――浮かんだ。


 といっても、これはオリジナルではないが。


「レナセール、絆創膏(・・・)を作るぞ。きっと、大勢に喜んでもらえるはずだ」

「バンソウコウですか? 変な名前ですね? でも、わかりました!」


 何も聞かずに頷いてくれる彼女が、いつも愛らしい。



 以前から気づいていたが、俺が頭で浮かぶのは、前世のレシピも可能だ。

 エアコンは、この現地でのレシピと合わせて作った。


 材料がないので出来ないのばかりだが、今回もそれと同じで、絆創膏に使えそうなレシピを書きだしていく。


「この布にポーションを垂らすんですか?」

「まずはいくつか実験していく。最初は、傷の治りの経過を調べる。よって、悪いがまた傷つけてもらえるか?」

「……わかりました。でも、私もやります!」


 以前と同じく、二人で皮膚にナイフで切れ込みを入れた。

 といっても、今回はすぐに治さない。


 ポーションを染み込ませた布を当て、それぞれの経過を見ていくことにした。

 エルフと人間では魔力の関係で治りが違う。


 何度か繰り返し、絆創膏に最適な濃度の数値を計算し、算出。


 同時並行で、次は粘着性のあるテープの開発だ。


 布を縛るだけでは伸縮性がないし、できるだけ防水に優れたものを開発する必要がある。


 そこで、色んな材料に使える天下のスライムの出番だ。


「凄いな。改めて調べてみたが、耐熱性、耐寒性、耐候性、耐薬品性がついてるぞ」

「戦うの弱いのに、不思議ですねえ?」


 といっても、昨今のスライムはもはや最強扱いされている。

 まあそれは、創作物の話だが。


 しかしこれは防具にも適応できそうだ。

 今のところは考えていないが、頭には入れておこう。


 王都にある使い勝手の良さそうな布を買い取り、布と住スライムを合わせて、伸縮性を微調整していく。


 これは想像よりも大変だった。

 如何に現代の絆創膏が技術の結晶なのかを理解できるほどに。


 だが何度も試行錯誤を繰り返すことで、俺の能力が上がっていく。

 こればかりはチートに感謝だ。


 そして着手から一か月ほど、ついに出来上がった。


 通常の絆創膏より少し大きいが、スライムを使った接着と王都で仕入れた綺麗で安価な布。

 そこにベルクのポーション(巷ではそう言われている)を垂らして作る。

 気化しないように作り上げるのが大変だった。


 小さな傷や多少の傷ならこれで治る。

 まさに老若男女問わず喜んでもらえるだろう。

 冒険者でもおそらく使えるはずだ。


「凄いです! ベルク様のバンソーコーとして、また噂になりますよ!」


 レナセールは大喜びだった。本人には言わないが、前よりも感情が強く出るようになった。

 それが、凄く嬉しい。


 だが――。


「悪いが名前はもう決まってるんだ。さて、商人ギルドへ行こう」


 レナセールは首を傾げていたが、まずはお試しギルドに。

 まずは冒険者に試してもららう。

 予想通り、一週間もすればクチコミですぐに広がった。


 それからは大量に下ろした。すぐに売れ行きが好調で、見たこともないと話題になった。

 ただガーゼ用の布の仕入れの限界があり、大量販売はまだ難しい。


 もっと人脈を増やして商売先を増やすしかないだろう。

 とはいえこれで新しい商品も開発できた。


 ポーションも利用できるので、万々歳だ。


 その夜、俺たちは師匠の大好物のポテトフライを食べていた。

 嬉しそうに平らげていた姿を、今だ鮮明に思い出せる。


「すぐに手紙で書きましょうね! 名前のことも!」

「そうだな。でも、怒られやしないか?」

「きっと喜んでくれます! 私が断言します!」

「そうか。ならいいな」


 商品名はなくてもいいのだが、基本的にはあったほうがいい。


 今絆創膏は、商人ギルドにこう書かれている。


【レベッカの絆創膏】


 師匠は、俺とレナセールの心を埋めてくれた。

 去ってしまったことは悲しいが、それ以上にも大切なものをたくさんもらった。


 塞げない傷はない。そんな意味も込めた。

 ちょっと詩人すぎるかもしれないが。


「ベルク様……今日は気持ちよくして?」

「その言葉、師匠みたいだな」

「えへへ、ちょっとだけ真似してみました」


 その夜、レナセールはいつもより女の子らしく、そして、可愛かった。

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