第41話 寛容なヤンデレ、凶悪なツンデレ
「ベルク様、どうですか?」
「……ああ、ありがとう。気持ちいいよ」
「私も……です。――レベッカさんは?」
「ふふふ、私も気持ちいいよ」
俺たちは、なぜかベッドで横たわっていた。
裸のレナセールと、裸のレベッカ師匠が白い肌を露わにしている。
なぜこうなっているのかというと、長旅で師匠が疲れていたからだ。
二人で暮らしていることもあって、ベッドに空きはない。
風呂に入って夜、一緒に寝ていたらいつのまにかこうなっていた。
もちろん初めはレナセールが怒るんじゃないかと不安があった。
しかし彼女は、ベルク様が喜ぶことは何でもしてあげたい、それにレベッカさんは私より先に出会っていたのだから、その権利はありますと。
そして師匠は――。
「ベルク、もっと気持ちよくして?」
相変わらず、女の子だった。
まあ……いいか。
◇
「レナセール、かなり動けるみたいだが、敵を倒した後に隙がある。武器の構えを解くのを、2秒遅らせろ」
「わかりました! レベッカさん」
「ベルク、お前はダメダメだ。錬金術の腕は認めるが、それじゃ脅威が起きたときに対処できない。レナセールが窮地に陥ったとき、指をくわえて見ることになるぞ」
「それは嫌なので……頑張ります」
王都を案内しようとしたのだが、なぜか近くの森に来ていた。
C級魔物がうようよしている魔獣の生息地だ。
レナセールは片手剣と魔法を駆使して戦っていた。
護衛として働いていたことも知っていたが、正直圧巻だ。
身体も随分と良くなったらしく、四大元素の魔法を使ってゴブリンやオークといった魔物を次々と倒していく。
対して俺は短剣に付与した麻痺を主に戦っていた。
かなりの優れものだ。一撃与えればそれだけで大きく有利になる。
ただ攻撃を防ぐのは別だ。
師匠の元で戦闘訓練はしていたが、随分と訛っていた。
他国から移民も増えてきている。いつ何が起こるのかわからない。
俺の優勝を知った師匠は、それを懸念して来てくれたらしい。
人里に降りるのを酷く嫌っていた師匠は記憶に新しい。なんて優しいのだろうか。
するとそのとき、森の奥から素早いデカい蜂が現れた。
ビービーと呼ばれる魔物で、B級の強い個体だ。
レナセールがすぐさま動くが、その前に影が過ぎ去った。
――師匠だ。
「――羽虫は嫌いなんだよ」
その言葉を発したときには、既にビービーは切り刻まれており、地面にぼたぼたと落ちていく。
これにはレナセールも目を見開いていた。
「レベッカさんは、どうしてそんなにお強いのですか?」
「努力と才能だな」
身もふたもない事を言うが、まさにその通りだろう。
ふふふとレナセールが笑う。
今まで俺は、レナセールが他人に対して完全に心を許しているのを見たことがなかった。
優勝打ち上げの際のチェコには気を許していたが、ここまで短時間では初めてだ。
なぜか師匠には全幅の信頼を置いているみたいだ。
……凄いな。口調は悪いところもあるが(絶対に言えない)、師匠はやっぱり良い人なのだろう。
「さて、今日はこのくらいでいいだろう。レナセール、色々言ったが相当強いな。正直、私が言う事はあまりない」
「いえいえ!? とんでもないです。ありがとうございました」
「ベルク、お前は――」
「はい。今日から基礎訓練頑張ります」
実は日課の基礎鍛錬もあったのだが、錬金術が楽しくなってからやっていなかった。
俺も人間だ。やりたくないことはある。
とはいえここまで圧倒的な実力を見せられるとやる気も出た。
いざというとき、レナセールの背中に隠れるような男になりたくないしな。
「さて、素材の回収といこうか」
すると師匠は、魔法を使って魔物を空中で”分解”し始めた。
普通の冒険者ならばナイフを使って分けていくのだが、その所作を魔法で行うことができる。
空中に浮いた何体もの魔物が引きちぎられると、予め置いてあった金属製のバケツの中に入っていく。
何度か見たことあるが、いつみても恐ろしい手際の良さ。
「凄いですね、ベルク様のお師匠さん」
「……だな。凄すぎて、王都に出たときはちょっとだけ驚いたよ。周りが、そんなに凄くなかったとな」
「ふふふ、確かにそう感じてしまいそうですね」
バケツは重たかった。
レナセールは力持ちなので、俺よりも沢山。
次はチェコが持っていた空間袋を作ってみるか。
”レシピ”も浮かんでいる。
そのとき、森の入口付近から声がした。
師匠が手を洗いにいくといって、小川に向かっていたところからだ。
レナセールと顔を見合わせて、バケツを置いて急いで走る。
「おいおい、美人な姉ちゃんこんな所でなにしてんだあ?」
「すげえおっぱいだ! でけえな」
「なあ、一発どうだ?」
するとそこにいたのは、何と以前、レナセールに腕を切られた冒険者だった。
そして絡んでいるのは、うちの師匠こと、レベッカ・ガーデン。
「悪いが、私は”好きな人”としか寝ないと決めてるんだ」
その言葉に、少しだけ心臓が揺れ動く。
いやそれより、止めないとマズい。
「じゃあ、俺がお前の好きな人になってやるよ。なあ」
すると冒険者の一人が、師匠の胸を触ろうとした――。
「――好みじゃない」
次の瞬間、男の指が何かで切断された。
血しぶきが舞って、残り二人の顔に血が付着する。
「ぎゃああああああああああああああああ」
……まったく。
次はポーション代、請求するからな。