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第38話 レベッカ・ガーデン

 異世界に転生、チートを授かって幸せ生活まっしぐら!


「グォオオォオオン」

「……え?」


 そんな浮ついた気持ちを一瞬で消し去ってくれたのは、巨大すぎるドラゴンだった。


 いや、定番ではある。

 能力を授かった後、俺、なんかやっちゃいました? とまずは力をお披露目するのだ。


 魔物を仲間にするのも良し、ぶっ倒すのもよし、恐れさせるのも良し。


「……レシピ」


 そのとき、俺の頭に浮かんできたのは、魔物を手懐けるきびだんごよのようなものだった。

 必要材料が羅列していく。


 おそらくこれが数年後や数十年後なら、ポイポイとドラゴンの口に投げ入れただろう。


 そこで試合終了。

 しかし今じゃない。


 今は、ただ頭の中にレシピが浮かぶだけの男だ。


 このままだと、異世界に転生した瞬間、即死した件になってしまう。

 ……語感は悪くないが、それだけは避けたい。


 大口をあけてドラゴンが俺を食べようとしてきたので、咄嗟に地面に落ちていた木の棒を掴んだ。


 あんぐりと涎が垂れてくるも、上顎に向かって棒を突きだし、思い切り突き刺す。

 ギラギラと鋭い牙が間近に迫っていた。


「――こんなところで死ねな――」


 そのとき、喉奥から赤い炎が光る。


 ――炎。


 直後、死を覚悟する。


 だが俺は諦めなかった。


 更に枝を深々を突き刺し、なんとか逃れようと抵抗した。


 だが牙が俺の右腕に深々と突き刺さる。

 その前に死んでしまう――。


「グォオオォオオォォオン」


 そのとき、ドラゴンが雄たけびをあげた。

 今しかないと必死に飛び出るも、あまりの激痛で倒れこむ。


 腕から見たこともないほど血が出ている。骨も出ているかもしれない。

 しかしアドレナリンのおかげか、不思議と痛みはない。


 いや、こんな流暢にしている場合じゃない。

 ドラゴンに殺されてしまう。必死に顔を向けると、なぜかドラゴンは倒れこんでいた。

 

 ……死んでいる?


 一体何が起きた――と思っていたら、背中から美女が現れた。

 黒いローブを身にまとった、ふともものスリットが綺麗な、魔法使いのような――。


 しかしよくみると手にしていたのは杖ではなく、禍々しい黒剣だった。

 白い頬に返り血が付着しており、どちらかというと武闘派のようだ。


 とはいえ助けられたことは間違いない。

 お礼を伝えようとすると、魔法使いならぬ黒剣使いはドラゴンの背から降り立ち、近づいてきた。

 間近で見るとより美しい。


 そして、俺の折れた右腕を――強く掴んだ。


「何だお前? ”こんなところで”何してる?」

「い、痛い痛い痛いです!?」

「なんだ、アンデット族じゃないのか」

「アンデ……いや普通の人ですよ!?」

「ふむ。ならなぜ普通のお前が、ドラゴンに立ち向かったんだ?」


 死にたくないからに決まっていると思うが、それを伝えるとなぜか微笑んだ。


「普通は死にたくなくても動けないし、身体は動かない。ドラゴンはそれほどの相手だ」

「そ、そう言われましても……」


 それより腕が痛い。どうしたら――。


「仕方ないな。私についてこい」

「……え?」


 そのまま腕にロープを巻き付けられた後、なぜかどこかに連れられて行く。

 一難去ってまた一難。いや、炎で消し炭にされなくてよかったが、腕がとにかく痛い。


 正直、痛すぎてもう感覚がない。


「何だお前、痛みに弱いのか?」

「いや、これ右腕が折れて――」

「そうか」


 聞かれたのに答えがあっさりすぎる。

 

 痛みに弱いというレベルでもないと思うが、とにかく怖かった。

 やがて辿り着いたのは、家だった。森の中に突如現れたのだ。


 ポツンと開けた場所にある、木で造られた二階建てだ。


 ここに住んでいるのだろうか。中まで案内(引っ張られ)ていく。


「そこに座れ」


 驚いたことに、中は随分と綺麗なリビングだった。

 木のテーブルと椅子、キッチン、冷蔵庫……か? 凄いな、そんなものまで。


 そして――。


「ぎゃあああああああああああああああああああああ」

「少し痛いが、我慢しろ」


 次の瞬間、女性は俺の右腕に水を酸をぶっかけた。

 あまりの痛みと熱で叫び、むせび泣いで地面に横たわる。

 じゅわじゅわと音が響き、叫びまわる。


「痛がりだな、お前は」


 一分間、十分、いや一時間だろうか。時間の感覚を忘れてしまっていたそのとき、突然、痛みが消えた。

 同時に右腕が動く。


「こ、これは一体……」

「竜の涎は付着しただけで数時間で死に至る。良かったなお前、私がいなければこの世から消えてたぞ」


 何とも恐ろしい事を言われて、全身の鳥肌が立つ。

 いや、それより彼女は俺を助けてくれたのだ。それも二度。


 ロープで引っ張ってきたのはよくわからないが、とにかくお礼を言わなければ。


「ありがとう、ほんとうに――」

「気にするな。私も溜まってたんだ。お前は顔も悪くないし、勇気もある。それに、声も好みだ。ほら、脱げ」


 するとさっきまでの美女が、なんと裸になっていた。


 まるで西洋のヴィーナス。いや、本当に美しい。


「名前は?」

「……ベルク・アルフォンです」


 これは、名付けられた名前だ。

 俺の、これからの大切な――。


「そうか。ベルク、悪くない名前だ。私の名前はレベッカ・ガーデン。今日からお前の――主人だ」


 そういってレベッカは、俺の身体に跨った。


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