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第1章 婚約破棄された公爵令嬢 5

前回のあらすじ:セバスチャンとともに花火の製作に取り掛かる。


ほとんど光は登場しません。


 最後の書類の内容を見て間違いがないことを確認する。それから私はペンをとってサインを書き、処理済みの積み上げられた書類の一番上にのせる。


 これで今日の仕事は終わり。私は大きく息を吐いた。

 

 「お疲れ様です、フィーアお嬢様。」

 

 「あら、セバスチャンじゃない?あなたは確かヒカル様について街の外に出たと聞いていたけれど。」

 

 音もなく私の部屋に居たのはウェスタン家の執事であるセバスチャンだった。セバスチャンはこの家で最も有能な執事で、私が子供のころから面倒を見てくれている。最近はお父様の命令でヒカル様の傍で監視と手伝いをするように言われていた。

 

 ヒカル様とはすでに一か月ほどちゃんと話せていない。セバスチャンが派遣されたということはウェスタン家と縁を切ったわけではないはず。ということはつまり、そういうこと(・・・・・・)なのだろう。

 

 私個人とヒカル様が疎遠になったのはあの日、私が過去のサボ第二王子殿下との出来事を伝えてからだ。やはりそんなもめごとの種となりそうな女とはあまり関わりあいたくないと思うのは当然のことだろう。

 

 「ええ、ヒカル様の件がひと段落いたしまして。旦那様への報告もかねて、一度こちらに戻ってきたというわけです。」

 

 ヒカル様は私に"火薬"の取り扱いに関する許可を求めてきた。それで"ハナビ"なるものを作っているらしいのだが、詳細は全然教えてもらえなかった。もしかしたらお父様やセバスチャンは知ってるのかもしれないが。

 

 それにしてもひと段落(・・・・)ということは、その"ハナビ"が完成したのだろうか。

 

 セバスチャンは優雅な仕草で紅茶を淹れて私の前においてくれる。セバスチャンが淹れてくれる紅茶は非常においしい。疲れた体に紅茶の良い香りが染み渡る。

 

 「そういえばお嬢様、今日はとても良い天気でしたね。」

 

 私は訝しげな目でセバスチャンを見る。セバスチャンはたとえ話題に窮していたとしても、いや窮することなどほとんどないのだが、安直に天気の話題をすることなんてない。そんなセバスチャンの普段と違う様子に、思わず変な視線を向けてしまった。

 

 それに今は陽も落ちていて、外に出るような時間ではない。それなのに天気の話題を出すなんてどういうわけだろうか。

 

 「雲一つない晴天。それに、月明かりも控えめ。これほどまで絶好な日はない。そういう風に()はおっしゃられていました。」

 

 セバスチャンは部屋に取り付けられた時計の方を見てから、私が紅茶を飲み終わっていることを確認して予想外の言葉を紡いだ。

 

 「お嬢様、外に出る準備を。旦那様の許可はいただいております。」

 

 「え?」

 

 セバスチャンの言葉に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。外出?こんな時間に?どうして?

 

 疑問を呈するもセバスチャンははぐらかすばかりできちんと答えてくれない。お父様の許可を得ているということは悪いことではないだろうと判断し、私は観念して外出の準備をする。

 

 「それで、どこへ行くのかしら?」

 

 「街の外に出る門までです。すぐそこですし、衛兵も常駐している場所なので心配ありません。もちろんですが、彼らにも許可は得ております。」

 

 本当に用意周到な執事だ。私はセバスチャンの持つ灯りを頼りに足元に気を付けながら夜道を歩く。

 

 席が足りなかったのだろうか。店の外にまで机やいすを出して、注文を取るお姉さんの姿。そして、酒を飲んでいるからか陽気に笑いながら話す屈強な男たちの姿が見える。

 

 小さい子供が家の前で遊んでいる。一緒に遊ぶ父親らしき男の姿とそれを静かに見守る母親の姿。

 

 あまり夜の街を出歩かない私にとっては新鮮な光景だが、同時に夜の闇が少し怖い。私はセバスチャンから離れないようしっかりと彼の背中を見てついていく。

 

 セバスチャンもそれを分かっているのだろう。いつもより歩調がゆっくりだし、彼の持つ灯りは私の足元をしっかりと照らしている。

 

 時間にしてはわずか数分ではあるのだが、私たちはようやく街の外に出るための門に到着した。門の前に立っている衛兵が私たちに敬礼する。

 

 「門からあまり遠くへ行かないようにお願いします。」

 

 「ええ、分かっております。」

 

 そんなやり取りの後、門の外に出る。そこでセバスチャンは立ち止まった。まるで自分の案内はここまでだとでも言わんような態度だ。

 

 「セバスチャン、いい加減教えてくれても良いんじゃないですか?こんな場所に何があるのですか?」

 

 「それは間もなく分かると思います。」

 

 暗闇に包まれた街の外をじっと見つめる。少し離れた場所にわずかに灯りが見える。そこに立っていた人が私たちに気づいたのか、合図をするように手を大きく上げた。

 

 ――あれはもしかして、ヒカル様?

 

 私はかすかに見えるその人の正体に気づき、ハッと息をのむ。

 

 「お嬢様、あちらの空から目を離さないでください。」

 

 セバスチャンに言われた通り、私は西の空に目を向ける。その直後、夜空に一輪の"花"が大きな音とともに咲いた。

 

 

 

 

 大きな音とともに夜空に咲く一輪の花。

 

 仕事の手が止まる。家族のだんらんが止まる。時が止まったかのように、街の人々は夜空に咲く花に目を奪われる。それは彼女も同様だ。この花を見て彼女は何を感じ、何を思っているのだろうか。

 

 確信する。きっと俺がこの世界に来た意味は、この瞬間のためだったのだと。そして、夜空に手を伸ばし宣言した。

 

 「異世界で、ドカンと一花咲かせましょう!」

 

 


第1章5話いかがだったでしょうか。旅に出て試作品の花火を打ち上げるパートはカットしました。タイトル回収回です。

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