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おまけ その後の世界

前回のあらすじ:光は元の世界に戻った。


おまけの後日談です。


 およそ二十年もの月日が経った。光のいた頃とは異なり、花火の製作所も大きな工場のようになった。そして、そこで花火を作る人数も増え、工場はにぎわっていた。

 

 「ジンスさん、次のウェスタン公爵家での花火についてなんですけど。なんで一発目があんな質素な花火なんですか?自分たちならもっと派手に華やかな花火を打ち上げることができると思うんです。」

 

 最近入ったばかりの新人がその工場の長となっているジンスに問いかける。その手にはウェスタン公爵家で打ち上げる花火の計画書が持たれていた。

 その計画書の最初のページ。そこには今の時代にそぐわないような質素な花火を最初に打ち上げると書いてあったことに、この新人は疑問を覚えたらしい。

 

 「ん?ああ、君はまだ知らないのか。……一つ聞こうか。君は何のために花火を打ち上げるんだい?」

 

 「なんで、ですか?自分は子供のころに見た花火がすごくきれいで。自分もそんなものを作りたいって思って。」

 

 ジンスの疑問に新人は答える。子供のころ見た美しい花火の姿を鮮明に思い出しながら。

 

 「君が昔見た花火に思い入れがあるように、花火には一つ一つ想いが込められているんだ。そして、ウェスタン夫人にとって最も思い入れがあるのがその花火なんだ。だから、計画に変更はない。」

 

 「思い入れ……ですか?」

 

 「そう、夫人が一番最初に見た花火。そして、この世界で一番最初に打ち上げられた花火がそれなんだ。」

 

 納得したようなしてないような微妙な表情を新人はする。だが、ジンスはこれ以上は何も言わなかった。ジンスは新人に自分で答えを見つけ出してほしかったのである。

 

 

 

 

 「お母様。今年の花火も楽しみですね。」

 

 「そうね、今年はどんな花火を上げてくれるのかしら。」

 

 すでに学院にも通い始め、最近は甘えることも少なくなった娘もこの日だけは違う。遠くにはまだ学院にも通い始めていない息子の姿も見えた。その息子もこの後の花火に期待を膨らませて、浮足立っているようになる。

 

 爆発音ともに花火が打ちあがった。最近の華やかな花火とは異なる、質素な花火。

 

 それから何度も爆発音とともに花火が打ちあがっていく。最初の花火とは違い、大きくて華やかな花火。子供たちはそちらに興奮を覚えて、キャッキャと騒ぎ出す。

 きっと最初の花火を何かの合図のようにしか思っていないのだろう。

 

 けれど、フィーアにとっては違う。その花火こそが最も楽しみにしていた花火である。その花火を見て、フィーアの頬に一筋の涙が流れる。

 

 周囲は暗く花火の明りしかないうえに、子供たちは花火に夢中になっているので、その涙には誰も気づかない。

 

 (光様。きっとあなたは元の世界で花火を打ち上げていることでしょう。)

 

 フィーアは視線を落とす。空を見上げ笑顔を輝かせている子供たち。そこにかつての自分の面影を見たような気がした。

 

 (私は今幸せです。光様、あなたが今も幸せに生きていることを願っています。)

 

 

 

 

 「本日は若くして祖父の跡を継ぎ、花火職人として多くの花火大会で花火を打ち上げている方にインタビューをしたいと思います。九条光さんです。」

 

 「こんにちは、九条光です。花火職人として、花火を作ったり打ち上げたりしています。」

 

 とあるテレビ番組。そこでインタビューを受けることになった光は着なれない服を着て少し窮屈そうに答えていた。

 

 当たり障りない質問が続き、終わりも近づいたかという頃。

 

 「では、次の質問です。先日の花火大会でも花火を打ち上げられたと思うんですが、その演出についての質問です。九条さんの上げる花火は演出が良いことで有名ですが、先日の花火大会の最初に打ち上げられた花火だけは理解できないという声が多い件についてどうお考えですか?」

 

 先日、とある花火大会で光は花火を打ち上げた。その一発目の花火は光にとって思い入れのあるあの花火を打ち上げたのである。

 光にとって思い入れがあっても、他の人にとってはただの出来があまり良くない花火。そういう声が多いのも無理はないだろう。

 

 「あの花火を上げたのは単なる私のエゴです。この時期になると、思い出してしまって。」

 

 「エゴ……というのはどういうことでしょうか?」

 

 「あの花火は私が初めて打ち上げた花火なんです。その花火はとある人のために一から作った花火でして。」

 

 「とある人、というのは?」

 

 インタビュアーのぐいぐい来る質問に、光は頬をかく。それはどう話したらよいのか悩んでいるようにも見えた。

 

 「もう会うことのない人です。その人は……そうですね、私にとってかけがえのないことを教えてくれた人です。」

 

 インタビュアーはきっとその人(・・・)のことをすでに亡くなった人と勘違いしたことだろう。だが、うまく説明ができない以上勘違いしておいてもらうに越したことはない。

 

 「かけがえのないこと?」

 

 「"想い"の大切さです。花火の出来の良さだけでなく、そこに込められた"想い"も花火は届けることができるんだって。」

 

 「なるほど。では先日の花火大会ではどのような"想い"を込めましたか?」

 

 その質問に、光は即答する。それは光がどの花火にも"想い"を込めているからだ。

 

 「たとえ辛く悲しいことがあっても、その気持ちすら吹き飛ばしてしまうように。そして、すでに幸せな人たちにとっては、その幸せが長く続きますように。そんな想いを込めました。」

 

 光は話さなかった。自らのエゴで打ち上げた最初の花火だけは別の"想い"が込められていたことを。

 

 昔、偶然召喚された異世界を懐かしみ。

 

 そこで出会い、最も一緒にいた女性フィーアを偲び。

 

 そして、異世界の楽しかった日々を思い出すように。

 

 「この世界で私はまだドカンと一花咲かせています。」という"想い"が異世界まで届きますように。

 

 

 

おまけいかがだったでしょうか。おまけ・閑章を含めて全50話。これにて『異世界でドカンと一花咲かせましょう』は完結となります。ここまで読んでいただいた皆様には感謝しかありません。感想や評価などはいつまでもお待ちしております。読んでいただき、本当にありがとうございました。

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