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第1章 婚約破棄された公爵令嬢 4

前回のあらすじ:ウェスタン公爵家の執事であるセバスチャンさんに光の過去を話した。


本当はもっと書きたいことがあった。


 俺はうつむいて、自分とじいちゃんの過去話を終える。この話を他人にするのに抵抗はないけれど、どうにも気恥ずかしく感じてしまう。俺が話している間、セバスチャンさんは直立不動で黙って俺の話を聞いていた。俺はセバスチャンさんがどんな表情でこの話を聞いたのだろうかと疑問に思い、ようやく顔を上げる。

 

 そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしたセバスチャンさんが立っていた。

 

 「ちょっ、え!?」

 

 俺は驚きの声を上げる。セバスチャンさんはかなり厳格そうな人だったため、俺の話でこんな反応をされるとは思っていなかったからだ。

 

 「おっと、これは失礼。」

 

 セバスチャンさんは懐からハンカチを取り出して、涙を静かにぬぐう。さりげなく鼻もかんでいる。汚れたハンカチは俺に見えないようにどこかへしまい、改めて俺の方に向き直った。

 

 「私はあなたを、フィーアお嬢様によこしまな思いをもって近づいた輩と同じだと思っていました。ですが、実際は全く違いました。あなたは己の信念をしっかりと持って、その"ハナビ"を作ろうとしている。私はいたく感動いたしました。」

 

 「あ、ありがとうございます。」

 

 「ですが。」

 

 セバスチャンさんは急に真面目なトーンへ戻る。俺の近くに歩み寄って、作成途中の花火を指さす。

 

 「この世界で"ハナビ"を作る理由にはまだ足りません。ただ職人を目指すのであれば、元の世界に戻ってからでも良いでしょうに。なぜ、あなたはフィーアお嬢様に頼んでまで、今"ハナビ"を作ろうと思いついたのでしょうか?」

 

 確かに、先ほどのじいちゃんとの過去は"花火職人を志す"理由にはなっても、"この世界で花火を作る"理由には足りないのかもしれない。

 

 「理由……ですか。そうですね。一つは、まだ元の世界に帰るめどが立っていないからです。」

 

 どうやら俺が元の世界に戻るためには()の協力が必要不可欠。その協力がいつ得られるのか分からない以上、こちらの世界での日々をただ無為に過ごすというのはあまりにももったいない。

 

 「それと、二つ目はフィーアさんです。彼女に降りかかった災難については聞きました。それで思ったのですが、彼女はまだその過去(・・)を乗り越えられていないんじゃないかと。」


 例えばサボ第二王子。フィーアさんはおそらく、いまだに彼のことを想っている。自分のことを捨てた相手だというのに、それでも想い続けているのは彼女がきっとそういう性格の人だからなのだろう。

 

 「俺も両親を失った悲しみから前を向くことを忘れて、いつまでも立ち止まっていたんです。その頃の俺の姿と彼女の今の姿が何となくかぶっちゃって。」

 

 だから、フィーアさんが過去(・・)を乗り越えられるように、花火を贈りたいと思ったんだ。今の俺ではじいちゃんの作る花火ほどきれいで大きな花火を作ることはできないだろうけど、俺が作る初めての花火を彼女に贈ろう。

 

 「……ヒカル様の思いはよく分かりました。」

 

 セバスチャンさんが椅子に座った俺に向かって膝をつく。それはまるで従者が主に行う行為のようだ。

 

 「私、セバスチャン。不肖の身ながら、全力でヒカル様に協力させていただきたいと思います。何なりとお申し付けください。」

 

 驚いた俺は反応が遅れる。すると、セバスチャンさんが顔を上げる。

 

 「私もフィーアお嬢様のことで心を痛めておりました。ヒカル様がお嬢様のためにハナビを贈るというのであれば私も協力は惜しみません。それに、もとより旦那様からそのように言われておりますので。」

 

 旦那様……というと、ベンさんが?なるほど、俺に協力するように言われていたけど、俺のことを全く知らない状態で協力はしたくないということだったのか。でも、セバスチャンさんのお眼鏡にかなったようで良かった。

 

 「これからしばらくですけど、よろしくお願いします。」

 

 俺は右手を差し出す。セバスチャンさんはその手をしっかりと握った。これから俺とセバスチャンさんの花火作成が開始したのだ。

 

 

 

 

 そんな簡単に作れるわけもなく。地道な作業が開始した。花火の作り方をまとめると大体四つの工程に分けられる。

 

 1.配合……硝酸カリウム、硫黄、炭などを混ぜ合わせて火薬を作る。この段階で本来なら材料(金属)の種類や量を調整して色鮮やかな花火を作れるようになるのだが、今回はそこまで余裕がないので簡単な火薬しか使わない。

 2.星掛け……配合した火薬をまとめて飴玉のようなものを作る。これを"星"という。最初はこの小さい"星"を少しずつ大きくしていく作業。同時に、花火を飛ばすための"割薬"も作っていく。

 3.玉込め……星掛けで作った星などを紙製のボウルに丁寧に詰めていく。

 4.玉貼り……星などを詰めた玉の表面に紙を貼っていく。紙を貼って花火球の強度を挙げることにより、上空で爆発した時に圧力がかかって綺麗な丸い花火を上げられるようになる。

 

 大体一つの花火球を作るのに、大きさに依るが大体1か月から2か月かかる。その中でも多くの工程で必要になる乾燥(・・)が面倒だ。

 

 星を作る際にも日干しして乾燥させる必要があるし、最後の玉貼りでも乾燥が必要だ。乾燥させている間は何もできないし、そもそも天気が悪ければ作業を進めることもできなくなる。……と思っていたのだが、それは予想外な方法で解決されることになった。

 

 「なるほど、これを乾燥させる必要があるのですか。でしたら、魔法を使えばよろしいのでは?」

 

 この世界には、元の世界とは違い魔法(・・)が存在する。完全に忘れていたのだが、よくよく考えれば、俺がこの召喚されたのも魔法によるものだった。そして、そんな便利な魔法があるのかと聞いてみたところ、本当に都合がいいことにあるとのこと。

 

 それによって大幅に必要な時間が短縮されることになった。

 

 ――ということで、2週間ほどかけてようやく試作品が完成した。

 

 試作品といってもほぼ完成品だ。ほとんど同じものをもう一つ作っていて、テストでそれを無事打ち上げることができたら完成だ。失敗したら再び作り直しになるのだが。

 

 ちなみに、花火の詳細についてはフィーアさんには説明していない。最初見た感動が薄れてしまうような気がしたからだ。フィーアさんとしては問いただしたかったようだが、セバスチャンさんの協力もあって渋々納得してもらった。

 

 なので、この試作品を打ち上げるのにもできればフィーアさんに見つからないような場所で行いたい。

 

 「ふむ、でしたら街の外に行けるように手配しましょう。数日馬車で離れた場所なら音もほとんど届かないでしょう。街の外は危険ですから護衛も手配しなくてはなりませんね。それもこちらでやっておきましょう。」

 

 セバスチャンさんは本当に素晴らしい執事だ。これほどの人が仕えているとはウェスタン家のすごさを再認識させられる。

 

 そして俺は数日の旅に出ることになった。


第1章4話いかがだったでしょうか。花火の製作過程についてはもっと書きたかったのですが、あまりに冗長すぎると判断しかなり省略しました。興味を持った方がいたら、YouTube等で"花火 作り方"と検索したらわかりやすく説明してくれてるので見てみることをお勧めします。

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