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最終章 神に届け、建国祭! 6

前回のあらすじ:冒険者協会にてディーテ、アレスと、学園にてシュウと話した。


最終章6話です。


追記(2/20):投稿ミスで別作品の最新話をこちらに投稿してしまいました。現在は削除済みです。混乱された方は申し訳ありませんでした。


 「シュウ君の舞、すごかったですね。ああいう芸術はあまり分からないんですけど、感動しました。」

 

 「一年前とは大違いですからね。きっとあの時のシュウ様でしたら、緊張してどこかでミスをしていたかもしれません。」

 

 シュウ君のステージが終わった後、俺とフィーアさんは屋敷への帰途についていた。今日あったことを頭の中で振り返る。

 

 冒険者協会にて会ったディーテさんにアレスさん。そして、学園で会ったシュウ君。

 

 誰もかれもが、俺の花火を見て前に進むことができたと言ってくれた。そして、感謝された。もちろん俺は感謝されたくて彼らのための花火を作ったわけではない。けれど、俺の作った花火がその人の心に残るものになった。そう考えると、とても嬉しい気持ちになる。

 

 そんなことを考えていると、ウェスタン家の屋敷に着く。いつも通りセバスチャンさんが迎えてくれる。

 

 「お帰りなさいませ、お嬢様。お客様(・・・)は先ほど到着なされましたよ。」

 

 「間に合ったのですね!」

 

 フィーアさんの表情がぱっと明るくなった。これはまたしても置いてけぼりにされている気分だ。だが、フィーアさんが俺に黙っていたということは、流れを考えると俺に関係ある人なのだろうか。

 

 俺とフィーアさんはそのまま客間に向かった。そのお客様がどうやら客間で待機しているらしい。

 客間の扉を開ける。そこには車椅子に乗った(・・・・・・・)女性とその傍に立つメイドさんがいた。

 

 それが誰かなんて、俺は一目でわかった。だが、俺が反応するより早くフィーアさんが前に出て挨拶する。

 

 「久しぶり、ヘレン。ようこそ、ウェスタン家へ。」

 

 「そうね、久しぶり。ヒカルも。」

 

 ノーザン家の令嬢のヘレンさん。そしてヘレンさんに仕えているメイドのアニーさん。この二人のために花火を打ち上げたのはどれくらい前だっただろうか。だいたい七か月から八か月くらい前だっただろうか。

 

 ヘレンさんは目が見えない。そんなヘレンさんのことを想って目の見えないアニーさんでも楽しめるような花火を打ち上げてほしいという依頼を受けた。けれど、ヘレンさんはアニーさんの言葉を通じて、世界を"見ていた"のだ。だから、色鮮やかな、目で見て楽しむような花火を打ち上げた。

 

 確かヘレンさんは目が見えなくなってからはずっとノーザン家の領地に引きこもっていたはず。それなのに、ここまで来ているというのはやはり。

 

 「招待ありがとうね。ぎりぎり建国祭に間に合ってよかったわ。」

 

 「ううん、こっちこそ来てくれて嬉しいわ。積もる話もあるし、セバスチャン。お茶を用意してもらえるかしら。」

 

 「すでに用意しております。」

 

 やはりフィーアさんが呼んだらしい。俺もこの二人との出会いは印象的で、もう一度会いたいと思っていたので非常にうれしい。

 

 俺とフィーアさんも椅子に座り、ヘレンさんとお茶を飲みながら話を始める。話すのはあれからのこと。主に話すのはこちらがメインではあったのだが、それをヘレンさんはとても楽しそうに聞いてくれた。

 

 「確か建国祭の最後に盛大な花火を打ち上げるって聞いたわ。楽しみね。」

 

 「……二人にはまだ言っていなかったことがあります。」

 

 フィーアさんの声色が変わる。いつ手紙を送ったのか知らないが、この二人にはまだ言っていないことがある。それは、俺が元の世界に帰るということ。

 フィーアさんの真剣な表情に気づいた二人も、居住まいをただす。そして、俺が元の世界に帰ることについての話を始めた。二人はじっとフィーアさんの話を聞いていた。

 

 「そっか。ヒカルは元の世界に帰ってしまうのね。その前に話すことができて本当に良かった。……ヒカル。」

 

 俺の方を向いて呼びかける。先ほどまで話をしていたので、大体の俺の位置は音の方向からわかっているのだろう。

 

 「あなたのおかげで、私はアニーがいてくれることの幸せを改めて確認することができた。目の見えない私の、目になってくれる私の大切な人のこと。だから、あなたに最大限の感謝を。ありがとう。」

 

 「私からもお礼を言わせてください。お嬢様の想いにヒカル様は気づかせてくれました。これからもお嬢様の目となる決意を与えてくれました。」

 

 「あら?ヒカルの花火が無かったら私の目を止めていたということ?」

 

 「いえ、そういうわけでは……。」

 

 ヘレンさんの意地悪な言葉にアニーさんがうろたえる。二人の仲の良さは相変わらずのようだ。こんな仲の良い二人のために花火を作ることができたのを何だか誇りに思ったのだった。

 

 

 

 

 「そろそろ来る頃かと思っていたよ。次は僕の番ってことだね。」

 

 「次なんて……。別にそんなつもりじゃなかったよ。」

 

 夜。俺は最後の確認のため、花火を製作する部屋を訪れていた。フィーアさんたちには言ってはいたが、ジンスには言っていなかったし、確認するだけなのでそう時間もとらないつもりだった。

 

 「今まで花火を打ち上げた人に会ってるんじゃなかったの?もちろん、全員ってわけにはいかないだろうから、招待できた人や印象に残ってた人を選んでると思ってたよ。そうなると、そろそろ僕の番かなって思って待ってたんだ。」

 

 花火を打ち上げる前に俺は花火を毎回確認するようにしている。だから、ジンスとしてはこの時間に俺がやってくることは予測できる。だからこそ、ジンスはここで待っていたのだろう。

 

 確かに、ジンスの件も印象的だった。ジンスについては俺が花火を打ち上げたわけではない。きっとこの異世界で俺以外の人間が初めて打ち上げた花火。それは俺に初心を思い出させてくれるきっかけとなった。

 

 ジンスの顔つきが真剣なものに変わった。

 

 「僕はここで宣言するよ。ヒカルが元の世界に帰った後も、僕はこの世界で花火を打ち続ける。ヒカルが残してくれたものを色褪せさせたりなんかしない。」

 

 ジンスはゆっくりと俺に近づいてきた。そして、まっすぐとこぶしを俺の方に伸ばした。

 

 「本当はヒカルからもっといろいろ学びたかった。もしかしたらヒカルの世界とは異なった進化を見せるかもしれない。けれど、その初めの偉大な一歩を踏み出させてくれたヒカルのことは絶対忘れないから。」

 

 俺がいなくなった後、花火という文化が衰退してしまう、そんな不安を感じているとジンスは思っていたのかもしれない。

 けれど、俺はそんな不安を微塵も覚えたことはない。

 

 「そんなこと言わなくても、俺は不安なんて感じていなかったよ。ジンスならきっと俺がいなくなった後花火を打ち上げてくれるって信じていたから。でも、ジンスがそういう風に言ってくれるなら。」

 

 ジンスが突き出したこぶしに、俺もこぶしを突き合わせた。

 

 「俺がいなくなった後、任せたよ、ジンス。」

 

 俺の言葉にジンスは笑顔になる。その後は花火の最終確認を行って屋敷へと帰ったのだった。

 

 そして、始まる。俺の異世界最後の日。建国祭最終日が。


最終章6話いかがだったでしょうか。終わりが近づいてきました。残り2話か3話くらいで完結の予定です。


次回更新は2/22(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。


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