最終章 神に届け、建国祭! 3
前回のあらすじ:神との交信がどうやら成功したらしい。
最終章3話です。
パン、パン、パンとリズムよく花火が爆発する音が町に響いた。打ちあがる花火を見上げ、予定通り花火を打ち上げることができたことに俺はひとまずほっとした。
「夜と比べて華やかさに欠けるけど、昼の花火も良いもんだね。」
「そっか、ジンスは昼の花火は初めてなのか。"号砲"っていう花火の種類で、音を楽しむものなんだ。何かを始める合図とかに主に使われるんだ。」
昼に花火を打ち上げることは少ないので、ジンスは号砲を知らなかったようだ。いや、正確には一緒に作っていたので知ってはいたのだろうが、どんな花火になるのかまでは想像できていなかったようだ。
花火の音を聞いて、住民たちは色めき立つ。だが、このようになっているのは花火のためだけではない。ついに建国祭が始まったのだ。
「この後はフィーアちゃんとデートするんでしょ?」
ジンスの言葉に片づけを始めていた俺の手は思わず止まった。ゆっくりとジンスの方を振り向く。
「ジンス?俺は別に建国祭を一緒に見て回るだけだよ。」
「いや、どう考えてもデートでしかないでしょ?あ、もしかしてそういう経験がないの?」
よくよく考えなくても、確かにデートだ。ちなみに、ジンスの言う通り俺にそういう経験はない。だが、それを肯定するのもどうかと思ったので、俺は返答せずに無言を貫いた。何だかジンスから受ける視線が生暖かいものに変わった気がするが、気のせいなはず。
ジンスは無言を貫いている俺の肩をポンとたたいた。
「まあ、ヒカルは建国祭も初めてなわけだし。フィーアちゃんがきっといろいろ案内してくれるよ。」
確かに俺は建国祭で具体的に何があるのか全く知らない。少しでも建国祭について調べてみるべきだったかもしれない。
というか、いろいろ言ってきてはいるが、ジンスだって王国出身ではないわけだから建国祭は初めてだろうに。それに、ジンスだって以前に聞いた生き方を考えるにジンスだって女性経験は少ないのではないのだろうか。
だが、それを口にするほど野暮ではない。逆に俺も生暖かい視線をジンスに向けてみる。その視線に気づいたジンスはため息をついた。
「何を考えているか大体分かるけど……。ま、いっか。」
手早く俺は片づけを行って、ウェスタン家の屋敷に帰ることにした。
「ただいま戻りました。無事花火を上げ終わりましたよ。」
「はい、ここまで音が聞こえてきました。お疲れさまです。」
王城のすぐそばで打ち上げたのだが、この屋敷まで音が聞こえてきていたようだ。フィーアさんはこの部屋で手紙でも書いていたのだろうか、ペンを置いて椅子から立ち上がる。
「すぐに外出の準備をします。少し待ってもらっても良いですか?」
俺は了承し、屋敷の扉の前で待つこと数分、外出用の服に着替えたフィーアさんが現れた。隣にはセバスチャンさんが立っている。
セバスチャンさんも一緒に行くのだろうか。疑問に思ったが、冷静に考えれば、公爵令嬢を一人で外出させるわけがないか。
「セバスチャン。では、例の件お願いしますね。」
「かしこまりました。お嬢様もお気を付けください。」
と思ったのだが、この会話を聞くにセバスチャンさんはついてくるわけではないらしい。フィーアさんから何かを受け取ったセバスチャンさんは俺たちより先に屋敷を後にした。
「では、さっそく向かいましょうか。」
すでに町の方からは賑やかな声が聞こえ始めている。その音に導かれるように俺とフィーアさんは並んで歩き始めた。
「ヒカル様、もう昼はお食べになられましたか?」
「いいえ、花火を打ち上げた後は片付けてすぐに屋敷の方に帰ったので。」
「でしたらこのあたりの屋台で何か食べるとしましょうか。」
周囲を見渡してみる。屋台、人、人、人、屋台、人。屋台も数多くあれど、どこもかしこも多くの人が並んで行列ができている。
「人……多いですね。」
「お祭り……ですからね。」
少しでも空いている屋台を探して少し歩いてみる。すると、一つだけぽっかりと人の並んでいない屋台が見つかった。俺とフィーアさんはそこに近づいてみる。
「すみません、何を売ってるんですか?」
「タコ焼きだよ。こっちじゃなじみが薄いらしくて、全然売れやしねえ。タコだってわかった瞬間悲鳴を上げて逃げる奴もいやがる。」
「タコ?」
そういってクーラーボックスのようなものを開ける。そこにはまだ生きているようにうねうねと動くタコの姿が。
フィーアさんが小さく悲鳴を上げて、俺の腕につかまる。しかし、俺の視線はタコに向けられたままだった。
そういえばこの世界に召喚されてから海産物を食べた記憶はない。川魚は食べたことあるが、この国は海に面していないのだろうか?
「フィーアさん、この国って海に面していないんですか?」
「ええ、我が国は完全に内陸国です。私も海は見たことありません。」
だとしたらタコを見たことないのも、タコを見て悲鳴を上げるのも理解できる。元の世界でも、日本以外にタコを食べる国は多くない。特にヨーロッパの方では"悪魔の魚"とか呼ばれていたような気がする。
けれど、俺にそういった抵抗はない。お腹も空いているし、タコを食べるのはそれこそ一年以上ぶりだ。
「おじさん、タコ焼きください。」
「お、兄ちゃんはあれだな、怖いもの見たさにチャレンジしていくタイプだな。」
「本当に、あれを食べるんですか……?」
フィーアさんが不安そうな顔をする。タコを食べるという事実がいまだに信じられないようだ。
「大丈夫ですよ。ちょっと食感がグニッとしてて変な感じではありますけど。俺は結構好きですね。」
「なんだ、兄ちゃんタコを食べたことあったのか。」
愛想笑いで返しておく。いちいち"異世界出身"であることを言うのも面倒だ。おじさんはすぐに調理を初めて、パックに入れて俺に渡してくれる。
俺は問題ないが、この様子のフィーアさんに無理に食べさせるわけにはいかない。別の屋台も探した方が良いだろう。
しかし、フィーアさんは俺の手に持つタコ焼きをじっと見つめている。俺が
「食べてみます?」
「……はい。」
一つ食べてみたフィーアさんの感想は「あ、意外においしい。」だった。
最終章3話いかがだったでしょうか。お祭りと言えば屋台ですよね。屋台の食べ物と言ったら皆様は何を想像しますか。自分は焼きそば派です。
次回更新は2/10(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。