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第6章 王子と公爵令嬢の結婚式 3

前回のあらすじ:グレン第一王子は光に、ミース公爵令嬢はフィーアに覚悟を問うた。


第6章3話です。


 「下見ですか?」

 

 「はい。グレン第一王子たちの結婚式の会場である大聖堂。俺は行ったことないんで、実際にどんな場所かを見ておきたいんですよね。」

 

 グレン第一王子たちの依頼を受けた翌日、俺はさっそく花火の製作に取り掛かろうとした。しかし、現在どのような花火を打ち上げるべきかというイメージもないし、そういったインスピレーションを得るために下見をしておこうと思ったのだ。

 ちなみに、今までも花火を打ち上げる前に現場の下見をすることは何度もあった。実際に花火を打ち上げるのが難しい地形などもあったりするため、下見はとても重要なのだ。

 

 ということで、フィーアさんにその旨を伝えに来たというわけだ。別に報告しなくてもよいくらいの些細なことではあるが、念のために伝えておいた方が良いだろう。

 

 フィーアさんは何かを考える様子を見せる。

 

 あれ?そこまで重要なことではないし、迷わず許可をもらえると思っていたのだけれど。

 

 「その下見、私も付いていきます。」

 

 その言葉に俺は少しドキッとした。それは昨日、グレン第一王子に言われた言葉を思い出してしまったからだ。

 

 グレン第一王子に問われた"別れの覚悟"。はっきりとその覚悟を持っていない俺はフィーアさんにどうそれを伝えればよいのか悩んでいたのだ。

 花火のことを考えてそれを忘れようとしていたのだが、フィーアさんの言葉でそれを思い出してしまった。

 

 「そっか、じゃあ二人で行ってきなよ。僕はちょっと用事ができたからさ。」

 

 「え?」

 

 一緒に下見に行く予定だったジンスがそんなことを言い始める。事情を聴こうとするより先に、ジンスはさっさとセバスチャンさんを連れて部屋の外に出て行ってしまった。

 

 さすがにフィーアさんと二人、それも護衛なしはいけないだろうと思った俺はどうすべきか悩む。

 

 「……おそらく大丈夫でしょう。さ、行きますよ。」

 

 おもむろに立ち上がったフィーアさんに手を引かれ、なし崩し的にフィーアさんと二人で大聖堂の下見をすることになった。

 

 

 

 

 大きな川のほとり、大聖堂にてグレン第一王子とミース公爵令嬢は結婚式を挙げるとのこと。実際に来てみると、確かにそのような重要な結婚式を挙げるには最適なロケーションのようだ。

 

 景色もきれいだし、大聖堂の中も広く豪華。

 

 もしここで打ち上げるとしたら、どんな花火が良いだろうか。俺はそのことを考えながら、川のほとりを歩く。

 

 「――。これが結婚式の予定です。実際に花火を打ち上げるのは最後に新郎新婦が出てくるときです。大聖堂から出てくる新郎新婦を祝福しつつ、できる限り新郎新婦からも見えるように盛大に花火を打ち上げてほしいそうです。」

 

 「新郎新婦から見えるように、ということはあっちの方角か……。ちょうど川の向こう岸から打ち上げれば、要望は満たせそうですね。後はどんな花火を上げるか、ですね。」

 

 隣で説明をしてくれていたフィーアさんの言葉に返答する。地形的には花火を打ち上げるのにも最高の立地。しかし、どんな花火を打ち上げたものか。

 

 不意にフィーアさんが立ち止まった。つられて俺も止まる。どうしたのだろうかとフィーアさんの方を振り返った。

 

 「ヒカル様、単刀直入に聞きます。あなたは元の世界に帰れるとしたら、すぐにでも帰りたいと思っていますか?」

 

 「……。」

 

 唐突なフィーアさんの質問に俺は答えを窮してしまった。それは単純に質問のせいだけではない。フィーアさんは胸の前で手を握って、まるで泣きそうな表情をしていたからであった。

 

 俺はゆっくりと一回深呼吸をする。そして、悩みながら口を開いた。

 

 「正直、帰りたいとは思っています。けれど、この世界に残りたいという気持ちも今はあるんです。この世界での出会いを、縁をすべて捨てるには深く関わりすぎました。それは決して悪いことではないんですけど。」

 

 「そう、ですか。」

 

 今の言葉は本心だ。グレン第一王子に言われて改めて考えてみたが、やはり俺はこの世界での縁を躊躇なく捨てれるほど非情ではない。

 

 だからと言って、元の世界での心残りだってたくさんある。もちろん、一番大きいのはじいちゃんの存在だ。何も言わずにこちらに来てしまっているので、じいちゃんを安心させてあげたいし、じいちゃんの下で花火についてもっと学びたい。

 

 「申し訳ありません。変な質問をしてしまいましたね。」

 

 「いえ、俺もグレン第一王子に似たようなことを言われたので、そのことについて改めて考えさせられていたところだったんです。」

 

 「私もミース様に言われたんです。中途半端な別れだけはするなって。」

 

 中途半端な別れ。それは確かに両者にとって良くないだろう。俺もそろそろ覚悟を決めなくてはいけないのかもしれない。

 

 だが、いつ訪れるかも分からない別れの覚悟を決めるのは正直心の負担が大きい。せめて、神との交信の目途が立てばよいのだけれど。

 

 そんな俺の考えを読み切ったのか、それとも同じことをすでに考えていたからなのか。フィーアさんは俺にとある情報を与えてくれた。

 

 「実は神と交信できる可能性の高い日というものがあります。それはこの国の"建国祭"。年に一回の盛大な祭りですが、そこでは例年神に豊穣の祈りを神にささげる過程で交信できる可能性が高いのです。」

 

 "建国祭"。その話は今まで聞いたことがなかった。しかし、年に一回というのが少し気になる。確か、俺がこの世界にやってきてからあと二月程度で一年になるはず。だったら前の"建国祭"というのは。

 

 「そう。あなたが召喚されたのは"建国祭"が終了してすぐです。もし"建国祭"の最中であればすぐにでも神にお願いすることが可能だったのですけど。」

 

 俺が覚悟を決めるまでの時間というのは意外と短いのかもしれない。そして、それはフィーアさんにとっても同じなのかもしれない。

 

 

 

 

 「それで、こんなところで盗み聞きとは趣味が悪いですね。」

 

 光とフィーアの二人が話をしている場所から少し離れたところの物陰。ジンスとセバスチャンが会話を盗み聞きしていた。二人は光とフィーアに気づかれないように、気配を消している。

 

 「爺さんも気づいてただろう?あの二人が思い悩んでいることくらい。うだうだ悩むならいっそのこと二人でちゃんと話し合った方が良いと思ったんだ。まあ、聞いた限りでは"建国祭"まで先延ばしって感じかな。」

 

 光とフィーアが二人だけで外出するというのは結構な危険が存在する。陰で護衛するという名目でジンスはセバスチャンを誘ったのだ。

 

 「ジンス、あなたはどう思っているのですか?」

 

 セバスチャンはジンスに問う。質問の内容は明らか。割と真剣な質問ではあったのだが、それでもジンスは飄々とした態度を崩さない。

 

 「もちろん、別れることになったらとても悲しいよ。けれど、人間生きていれば新たな出会いもあれば、別れだってある。それをどう乗り越えるかの方が重要だってのが僕の意見かな。」

 

 「なるほど。……若造と思っていたが、思ったより大人だったのですね。」

 

 「それどういう意味?」

 

 ジンスは不機嫌そうにそう返した。その様子を見てセバスチャンはやっぱりまだまだ若造だなと思いなおすのであった。

 

第6章3話いかがだったでしょうか。物語もクライマックスへ向かっています。


次回更新は1/20(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。


追記(1/20):諸事情で執筆が間に合いませんので1/20(金)の更新はお休みします。代わりに翌日1/21(土)に次話を更新します。更新が遅れてしまい、まことに申し訳ありません。

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