第6章 王子と公爵令嬢の結婚式 1
前回のあらすじ:ウェスタン家で餅を食べた。
お久しぶりです。第6章1話です。
重要なお知らせ:本作品『異世界でドカンと一花咲かせましょう』は現在ジャンルを"ハイファンタジー"にて投稿しておりますが、1/18(水)からジャンルを"ヒューマンドラマ"に変更しようと思います。今までの検索方法では表示されなくなる可能性がありますので、ご注意ください。
「よし、片づけに入ろうか。」
「了解。今日も良い花火が打ち上げられたね。やっぱり火薬の配合を変えたのが良かったのかな?」
ジンスと話しながら花火を打ち上げるためのセットを片付けていく。しかし、ジンスの言葉に俺はあいまいにうなずくだけに留めた。
というのも、ここ最近の花火製作が少し行き詰っているからだと感じていたからだ。別に花火を作れなくなったとかそういうわけではない。作る花火には一つたりとも手を抜いたことはないし、より美しい花火を作るための努力は怠っていない。
それなのに、そう感じてしまう理由は花火の種類の問題だ。最初のうちは作る花火すべてが初めて作る物ばかりで毎回新鮮な気持ちだったのだが、最近は少し形を変えたり色を変えたりするばかり。
(けど、他にどんな花火があったかパッと思い出せないし、思い出せたとしても仕組みをよく知らないから作れないんだよな……。)
他にも作ることはできるが、打ち上げの技術が足りないためにできない花火なんかもあったりはする。
簡潔に言えばマンネリに陥ってしまっているのである。それでも花火を作り続けているのは、依頼者の想いに応えようと努力し続けているからである。
手早く片づけを終えて、ウェスタン家の屋敷へ戻る。そして、フィーアさんの部屋まで報告をしに行こうとしたが、その前にセバスチャンさんに止められてしまった。
「申し訳ありません、ヒカル様。お嬢様は現在大事なお客様がいらっしゃっているため対応されております。少々お待ちになっていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、そうなんですね。分かりました。」
こういうことは珍しくもない。フィーアさんは公爵家の令嬢なのだから、来客だって多い。俺が来た当初は婚約破棄のいざこざがあったため、こういった来客は少ないようだったが最近は花火のこともあり来客が増えているようだ。
どこかで時間をつぶした方が良いだろう。俺はいったん屋敷の外に出ようとしたが、セバスチャンさんがそれを止めた。
「もしかしたらヒカル様にも関係がある話かもしれません。こちらでお待ちを。」
そういって連れていかれたのはフィーアさんの隣の部屋。その部屋におかれていたソファーに座ると後ろからジンスが肩に手を置いてきた。
そもそもついてきているのに気づいていなかった俺はビクンと体が跳ねるくらいに驚いてしまった。
「ヒカルに関係あるってことは仕事の依頼かな。ヒカルは気づいた?厩にすごい豪華な馬車が止めてあったんだ。あれは王族クラスだね。」
全く気付いていなかった。仮に王族だとしてやってきているのは誰だろうか。俺たちの疑問に答えてくれたのはセバスチャンさんだった。
「その通りです。別に秘密にすることではないので言っておきますと、今いらっしゃってるのはこの国の第一王子であるグレン第一王子になります。」
「第一王子?」
確かフィーアさんと婚約破棄したのは第三王子だった気がする。第一王子ということはその兄ということだろうか。正直、話に聞いた記憶すらない。
「あれ?この国の第一王子って他国へ留学してるんじゃなかったっけ?帰ってきたんだ。」
「その通りです。見識を広げるために他国へ留学されていたのですが、先日帰国致しました。……ここからは私の予測ですが、もしかしたらこのタイミングでの帰国は結婚式を挙げるためかもしれません。」
「なるほど、それで結婚式にヒカルの花火を打ち上げてほしいって依頼だね。」
第一王子ということは将来国王になる可能性が高いということ。そんな方の結婚式にあげる花火を作るなんてとても光栄なことだ。もしそうなのだとしたら、今まで以上に全力で花火を作らなくてはならないだろう。
時は少しさかのぼる。ヒカルたちがウェスタン家の屋敷に戻ってくる少し前、大事な来客であるグレン第一王子とその婚約者であるミース=イースタンがフィーアの下に訪れていた。
フィーアはきれいに掃除された豪華な応接室に二人を案内する。セバスチャンが最高級の茶葉を使って淹れた紅茶を二人の前に置く。二人の背後には護衛の棋士が二人、直立不動で立っていた。
セバスチャンは何かあったら自分を呼ぶようにとメイドに伝え、部屋を後にした。最も頼りになるセバスチャンがいなくなったことに不安感を少し感じながらも、フィーアは二人に向き合った。
グレン第一王子はキリっとしたまじめな顔つきで、対照的にミース公爵令嬢はのほほんとした笑顔で話を始めた。
「久しぶりね~、フィーアちゃん。あっ、この紅茶とてもおいしいわ~。」
「お久しぶりですミース様。それに、グレン様もお久しぶりです。」
「ああ、僕がいない間にいろいろあったらしいな。」
グレン第一王子が指すいろいろに心当たりがありすぎるフィーアは苦笑いをする。弟のサボ第三王子と婚約破棄をしたことだろうか、それとも異世界から召喚されたヒカルとともに花火を作っていることだろうか。
「いろいろ話をしたいところだが、先に仕事の話をしようか。知っていると思うが、僕とミースは正式に結婚をすることになった。結婚式を挙げるにあたって、最近貴族の間でも話題になっている花火を上げてもらいたいと考えている。できることなら盛大に祝うようなものをな。」
「時間と場所をうかがっても?」
どうやら時間は一か月後、場所は大きな川のほとりの大聖堂とのこと。前後にいくつか花火を打ち上げる予定はあるが、完全に被っていたりはしない。仮に被っていたとしても、王族からの依頼が断れるわけないので、別の依頼を断る手間がないだけ運が良いのだろう。
「日程的には問題ないと思います。一応、花火の製作者にも聞いては見ますが、前向きな答えが出せるかと。」
「異世界から召喚されたという少年のことだな。ウェスタン家も面白い人材を確保したものだ。」
「……。」
グレン第一王子の言い方に少しフィーアはむっとした顔をして、しばし沈黙してしまった。それはきっとヒカルに対する物言いに遠慮が感じられなかったからだろう。
同じことを思ったのだろう、隣に座っていたミースが軽くグレン第一王子の頭をはたいた。
「そういうことは言わないの。フィーアちゃん、前よりずっと良い表情になってるじゃない。きっと今充実してるのよ。」
「確かに。あの愚弟が婚約破棄を言いつけたと聞いたときには不安だったが、すでに立ち直っているようだな。」
「それも、噂の彼のおかげなのかしらね~。」
フィーアを置き去りにして二人は話し始める。まだフィーアが婚約破棄を言い渡される前、王妃教育を受けていた時にこの二人には非常にお世話になっていたのだ。特にフィーアにとってミースは姉のような存在であったといっても過言ではない。
それは逆に言えば、ミースたちはフィーアのことをよく理解しているということなのだ。フィーアがサボ第三王子に抱いていた恋心も、それを糧に王妃教育をこなし完璧であろうとしていたことも。
「お二人も忙しいでしょう。花火のことで何か希望があれば私に。それでは……。」
「あらあら。せっかく久しぶりに話せるのですからもう少しお話しましょうよ。時間はまだたっぷりあるもの、ね?」
話がそれていることに気づいたフィーアが切り上げようとするも、ミースは即座にそれを止める。そして、グレン第一王子の方に視線を向けた。
「そうだな。もし時間があるならゆっくり話すのも良いだろう。……と、その前に僕は手を洗わせてもらおうかな。」
そういってグレン第一王子が立ち上がり、素早く部屋を出て行ってしまう。それを確認したミースはフィーアの方に向き直った。
「じゃあ、女同士の話をしましょうか?」
第6章1話いかがだったでしょうか。これからは以前までと同じように水曜と金曜に更新していきたいと思います。
次回の更新は1/13(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。
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