第4章 目の見えない深窓令嬢 2
前回のあらすじ:フィーアさんの下に友人から手紙が届いたようだ。
第4章2話です。
俺とフィーアさん、セバスチャンさんは数人の護衛を連れて馬車に乗って北へと向かっていた。馬車に揺られながら俺は思い起こしていた、数日前のことを。
「ヒカル様。私とともに先日話した友人のところに一緒に行ってくれませんか?」
「え?」
その言葉は正直完全に予想外だった。フィーアさんが一人でその友人のところに向かうものだと思っていたからだ。
そして、俺はフィーアさんがいない間にどうするべきかについての話をするために来たのだが。
「異世界から来た客人であるあなた、そして私は一応異世界に来たあなたを手伝うという立場にあります。だいぶこちらの世界に慣れてきているかもしれませんが、それでもあなたを置いて一人だけ離れるというのは良くないのです。」
言ってることは理解できる。だが、それに関しては大丈夫だと思っていた。一時的にであれば別の人に任せるという選択肢があるからだ。もちろん、フィーアさんが一番良いのは間違いない。
「そこで私は考えました。だったらヒカル様も一緒に行けば良いのではないかと。それに、ヒカル様、こちらに来てからろくに休んでいませんよね?そろそろまとまった休みを取るべきだと思うんです。」
そういえば、こちらに来てから確かに休みというものをとっていないかもしれない。最初のうちは急に異世界に来てわけがわからないままだったし、花火を作り始めてからはほとんど四六時中花火のことばかり考えていた気がする。
花火を作るのは好きだからやっているのであって、そこまで疲労しているという感じではないのだが、確かに休みを取るというのはありな気がしてきた。
「急に休みと言われても困るかとも思いまして。それなら一緒に友人のいる町まで観光もかねて行くというのはいかがでしょうか?……それに、私も一緒に行きたいですし。」
そんな風に言われてしまったら断れるはずもない。俺は承諾して、フィーアさんと今後の予定についての打ち合わせをした。
意外にも馬車はかなり快適だった。揺れも少ないのに結構なスピードで走っている。馬車に並走するように護衛の冒険者が馬に乗って周囲を警戒している。
フィーアさんは窓の外の流れる景色を眺めている。その横顔はとても楽しそうだ。きっとこれから久しぶりに友人と会えることを楽しみにしているのだろう。
俺がフィーアさんの方を見ていることに気づいたのだろう。フィーアさんはこちらに視線を向けて、にっこりとほほ笑んだ。その笑顔に一瞬見とれてしまうが、何だか照れ臭くなって俺も外の景色を見ることにした。
道中、幸いにもいくつか町が点在していたので、野宿することにはならなかった。数日の行進を経て、とうとう俺たちは目的地までたどり着く。
「見えてきました。あそこがノーザン公爵家の治めている町、ノーザンシティです。」
ノーザンシティは元の世界でいうところの北欧みたいな感じだろうか。行ったことないから本当かどうか分からないが。
町の入り口にてセバスチャンさんのような執事が迎えに来てくれて、最初に俺たちはノーザン公爵家に訪問することになった。
「ようこそノーザン公爵家へ。お嬢様が部屋でお待ちです。」
「ありがとうございます。」
執事さんに続いて俺とフィーアさんはとある部屋に案内される。部屋の扉の先にはメイドさんとソファーに座っていた女性が一人。
「遠方よりよく来ていただきました。私はノーザン公爵家のヘレンです。……久しぶりね、フィーア。」
「久しぶり、ヘレン!」
フィーアさんが珍しく大きな声を出した。それからは少し世間話が始まった。
俺はその様子から目が離せなかった。二人の会話は弾んでいるのだが、気になる点があったからだ。
フィーアさんの友人であるヘレンさんは目を覆うようにアイマスクを着用していた。完全に目は覆われているので見えていないのだろう、話をしているが視線はあっていない。
「そうだ、フィーア。噂の異世界からの客人もいらっしゃっているのでしょう。挨拶をしたいから紹介してくれない?」
「もちろん。こちらにいるのが異世界からの客人のヒカル様よ。噂では聞いているでしょうけど、今王都で話題の花火の製作者。」
フィーアさんはちらりと俺の方を見た。その視線からは「自己紹介をしてください」という無言の圧が感じられた。
「ええと、初めまして。九条光と申します。しばらくお世話になります。」
俺の声に反応したのか、ヘレンさんは俺の方に顔を向けた。しかし、やはりというか微妙に顔の向きがずれているような気がする。
「あなたがヒカルなのね。見ての通りだけど、私は目が見えないの。いろいろ不便をかけるかもしれないけど、よろしくね。」
やっぱり目が見えないのか。俺は割と重要な情報をフィーアさんから聞かされていなかったことに対して、フィーアさんに少しだけ非難の目を向ける。
フィーアさんはそれに対して「あれ、言ってませんでしたっけ?」というような少しとぼけたような表情を見せた。
「もし何かあったら遠慮せず家の使用人たちに言ってちょうだい。私に用があるときは……。」
ヘレンさんの言葉に後ろで立っていたメイドさんが一歩前に出てきれいな礼をした。
「メイドのアニーと申します。いつでも何なりとご用命ください。」
「アニーは私が生まれるからノーザン家に仕えていてくれてるの。この家のことなら何でも知ってるから、困ったときは彼女に言ってくれても大丈夫よ。よろしくね、アニー。」
「お任せください、お嬢様。」
ヘレンさんに褒められてアニーさんは少し顔が赤くなっているように見える。けれど、声色は全く変わっておらず、ヘレンさんはアニーさんのそんな様子すら多分知らないのだろう。
「疲れているでしょうし、まずは部屋に案内しましょう。そのあとはお風呂に食事ね。フィーアもノーザン領まで来るのは初めてよね。北の名産を存分に振る舞わせてもらうわ。」
そういって俺たちは客人用の豪華な部屋に案内された。当然だが、一人一部屋あてがわれてフィーアさんやセバスチャンさんとは別室だ。
大した荷物は持ってきていないので、俺はボフンっと柔らかいベッドに腰を掛けた。長旅の後だからだろうか、疲れがどっと出てきて瞼がだんだんと重くなり、そのまま横になってしまった。
第4章2話いかがだったでしょうか。アイマスクというと何だかイメージが違ってくる気がするんですが、ほかに言葉が思いつきません。アニメキャラがよくつけているバンダナみたいなあれのつもりで書いています。
次回更新は11/18(金)になります。読んでいただけたら嬉しいです。