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第1章 婚約破棄された公爵令嬢 1

前回のあらすじ:何の力も与えられず異世界に召喚された九条光は、異世界を案内してくれるというフィーア=ウェスタンという女の子と出会う。


タイトルがネタバレ。



 フィーアさんに連れられて、城を出て町を歩く。今は西の大通りを案内してもらっている。


 「この町では西端から東端に向かって大通りが伸びています。生活用品であればそこでほとんど取りそろえることが出来るでしょう。」


 しばらく歩いてようやく町の端が見えてくる。どうやら町は大きな城壁によって囲まれているらしい。その手前にひと際大きな屋敷が見える。


 「あれが我がウェスタン公爵家の屋敷になります。何か困りごとがあればあそこに行ってもらえば私たちが対応します。」


 聞くところによると、この国には四つの公爵家が存在するらしい。西のウェスタン家・東のイースタン家・北のノーザン家・南のサウザン家。それぞれが国の各方角を治めているとのこと。そして、案内してくれているフィーアさんは言うまでもなく、この国の東側に巨大な領地を持つイースタン家の令嬢だ。


 「歴史的には五つの国に分かれていたのですが、それをまとめ上げたのが現在の王家になります。王家や一つの公爵などが力を持ちすぎぬよう、それぞれの公爵家が順番に王家に娘を嫁がせるのですが……。」


 なるほど。完全に中央集権にするわけではなく、上手いこと権力を分散させようとしてるのか。しかしどうしてだろうか、このことを話すフィーアさんの歯切れが随分と悪いように感じる。


 「いえ、これはあなたには関係のないことでしたね。」


 話しはそこで遮られる。城壁が根元まではっきり見える位置まで来た。町の外に出るための門があり、多くの兵士が出入りする人たちを見張っている様子が見えた。

 

 「間違っても一人で町の外には出ないようにしてください。外は危険な獣に盗賊などがおりますから。」


 ほんの少し町の外に興味があったが、その一言ですぐに諦める。昨日のパスカルさんの調査で、俺はこの世界では運動能力としては子供クラスと言われているんだ。一人で外に出ると間違いなく野垂れ死んでしまうだろう。


 それにしても大きい城壁だ。ここまでの城壁が必要になるなんて、外は俺が想像しているより危険なのかもしれない。


 俺は城壁を見上げる。城壁の上でも数人の兵士が巡回しているのが見える。そんな風にボーっとしていると、城壁の上にある物(・・・)が見えた。


 「あれって……、もしかして大砲!?」


 「ええ、巨大な獣や、異常なほどの群れで町を襲ってきた場合にしか使われませんが、莫大な威力を誇ります。そちらの世界にもあるんですね。」


 あんなものが必要になるって、どんな獣がこの世界に入るんだ?いや、そんなことより。


 大砲があるということはすなわち。


 「この世界には、火薬(・・)が存在するのか……?」


 火薬。それは人類の叡智の結晶の一つ。基本的には爆発物の材料として古来より使われている。


 「はい、近くの山で硝石が大量にとれますので。この国では比較的大量に火薬を作ることが出来るんです。」


 硝石とは確か、火薬の材料となる硝酸カリウムが天然に出来たものだったはず。いや、そんなことより重要なのは。


 「"花火"は!?この世界に"花火"はないんですか!?」


 「"ハナビ"ですか?何でしょうか、それは?」


 この世界にない言葉の場合はうまく翻訳されないと国王様が言っていた。うまく伝わらないということはこの世界に"花火"は存在しないということだろう。


 俺は花火が大好きだ。というのも、両親を幼いころに亡くした後引き取ってくれたじいちゃんは花火職人なのだ。じいちゃんは不愛想で不器用な人間だが、職人気質であり俺にいろいろな花火を見せてくれた。

 じいちゃんの打ち上げる花火に感動した俺は、将来花火職人になりたいと思っている。そのためにいろいろ勉強をしていたりするのだが、法律の問題で実際に花火を作ったりしたことはない。


 異世界の花火。それを見てみたいがために聞いてみたが、どうやらこの世界では火薬は銃火器の材料としてしか使われていないそうだ。


 俺がショックを受けて打ちひしがれているところに、フィーアさんから声がかけられる。


 「お疲れですか?時間もちょうどいいですし、昼食をとることにいたしましょう。」


 どうやら彼女は完璧な計画を立てていたらしい。ちょうどお昼時で、お腹も空いてきた頃合いだ。前を歩くフィーアさんの後ろに続いて、俺はウェスタン公爵家の屋敷へと足を踏み入れた。




 

 出された食事はどれも非常においしい。おいしいのだが……。


 俺はちらりと視線を上げる。妙に長いテーブルの先、そこにはフィーアさんの父親にしてウェスタン公爵家当主であるベン=ウェスタンが俺の方をじっと見つめていた。その視線を常に感じているから、妙に食べづらい。俺はすがるようにフィーアさんを見る。

 気付いているのか気付いていないのか分からないが、フィーアさんは俺の視線を無視して涼しい顔で昼食を食べすすめる。


 昼食を食べ終わる。しかし、その視線が俺から外れることはない。沈黙が流れる。非常に気まずい。


 そんな空気の中、口を開いたのはベンさんだった。


 「フィーア、少し席を外してもらえるか?」

 「分かりましたお父様。」


 何だと!?俺は再びすがるような視線をフィーアさんに送るが、それはすべて彼女には届かずさっさと彼女は部屋を出て行ってしまった。


 「さて、異世界の客人。光君といったか?少し話をしようじゃないか。」


 胃がキリキリと痛い。一体これから何を聞かれるのだろうか。やっぱり俺の世界のことを根掘り葉掘り聞くのだろうか。俺はそこら辺にいる普通の高校生だ。「なぜ?」「どうして?」などと聞かれても答えられない自信があるぞ。


 「なに、別に取って食おうというわけではない。楽にしてほしい。……フィーアのこと、どう思った?」


 これは想定外だ。異世界のことではなく、自分の娘のことを聞いてくるとは。いや、娘のことだからこそ返答を誤ってはならない。失礼な真似をしてしまえばその場で俺の命はなくなるかもしれない。


 「えっと、今日お会いした感じですと、とても真面目というか……。案内という仕事でも全力だったっていうか……。」


 あー!駄目だ、良い言葉が出てこない。こんな時に適した言葉など、俺の脳内辞書には載っていないんだ。

 恐る恐るベンさんの顔の様子をうかがう。目を細めてじっとこちらを見つめている。この表情はどういう意味だ?正解だったのか?俺が混乱していると、一つ息を吐いてベンさんが口を開いた。


 「"真面目"、"全力"。どちらもあの子のことをよく表している言葉だと親ながらに思う。」


 よし!これは正解ルートをひいたっぽいぞ!


 「だが、そのためにあの子は……。」


 急にベンさんの顔が暗くなり、俺は慌てる。良い流れだと思ったのだが、もしかしたら地雷を踏みぬいてしまったのかもしれない。

 その後に続く言葉は口にしてくれず、もやもやとした気持ちのまま王城へ帰ることとなった。





 昨日泊まった部屋にフィーアさんの先導で案内される。部屋に向かうための途中の廊下、何人かの使用人や偉そうな貴族とすれ違う。

 そろそろ部屋に着く。そんなタイミングでフィーアさんは後ろにいる俺に歩きながら話しかける。


 「もし王城にて何か問題があれば遠慮なく申し付けください。何か必要なものがあれば、我が公爵家が用意します。ないとは思いますが、不自由があれば我が公爵家の屋敷の一室を用意することもできますので。」


 本当に至れり尽くせりだ。異世界に来て右も左も分からない俺にとっては非常に助かる。

 間もなく部屋に着く。その瞬間。


 「もしかしてフィーアか?まだこの町に残っていたのか?」


 話しかけてきたのは、いかにも高貴な身分といった感じの服装をした少し年上の男性。そして、その男性の背中からひょっこりと顔を出す俺やフィーアさんと同じくらいの年の女の子の姿だった。


第1章1話いかがだったでしょうか。花火の始まりというのは諸説ありますが、今の形に近い花火は14世紀ごろのイタリアで始まったと言われているそうです。


お知らせ(8/12追記):家庭の事情で急遽、お盆休みの間に帰省することになりました。つきましては次回更新が少し遅れてしまいます。楽しみにしている方にはまことに申し訳ありません。

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