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第3章 隣国の気弱な少年王子 1

前回のあらすじ:ディーテさんとアレスさんは線香花火を楽しみながら今後の冒険者協会について話したようだ。


第3章1話です。


 「――ということで、冒険者協会の方はうまく回り始めたみたいです。その成果が表れるのは当分先でしょうが、きっと良くなっていくと思います。」

 

 ウェスタン家の屋敷のフィーアさんの執務室で先日のことについて振り返っていた。ディーテさんは単なる受付ではなくて、"冒険者育成計画"の主任になりさらに忙しくなったようだ。また、アレスさんは無茶な間隔で依頼を受けることを止めて、空いた時間にはディーテさんのその計画に協力し始めたとのこと。

 

 しかし、フィーアさんの言う通りこれで万事解決というわけではない。ディーテさんの育成計画の成果が出始めるのはきっと年単位で必要になる。それまでの間は、応援に来てくれたという冒険者にしわ寄せがいってしまうことになるだろう。

 

 それでも俺はそこまで心配していない。ディーテさんは「また忙しくなりますね」とは言っていたが、その口元は緩んでいたし、アレスさんもまんざらではなさそうな感じだった。あの様子ならきっと大丈夫なはずだ。

 

 「それにしても、あの"線香花火"でしたっけ?以前の花火と違って派手さはありませんが、何というか趣がありますね。今度私もやりたいです。」

 

 「良いですよ。作っておきますね。そこまで手間もかかりませんし。」

 

 今回の件は俺にとっても良い経験になった。正直、あの線香花火の出来には個人的には満足いっていない。俺が昔見た線香花火とは月とすっぽんの差がある。本当なら、人に渡すようなものではないのかもしれない。

 

 けれど、ディーテさんに気づかされた。本当に大事なのはその花火に込められた想い(・・)なのだと。

 

 俺は完璧な線香花火を作ることばかりを考えていて、その考えがおろそかになっていた。もし俺が完璧な線香花火を作れていたとしても、きっとディーテさんが想い(・・)を込めて作った線香花火には劣っていたかもしれない。

 

 フィーアさんのために花火を作った時はしっかりと意識していたのに、すぐにそれを忘れてしまっているようでは、まだまだ精進が足りていない。これからも初心を忘れないようにしておかなければ。

 

 「――になります。これで良いですか?」

 

 やばい、考え事をしていて話を聞いてなかった。目の前にいるのに話を聞いていないなんてちょっと失礼すぎただろうか。何か反応しないと。

 

 「え、えーと。良いと思います。」

 

 「良かったです。断られてたらどうしようかと思ってました。」

 

 なに!?俺が断る可能性があるような内容だったの?

 

 「もしかしたらかなりの重荷を背負わせてしまうかもしれませんから。悩むことなく快諾してくれるとは、それが覚悟の表れなのですね。」

 

 そういわれるとめっちゃ不安になるんだけど!やっぱりもう一度聞かせてもらっても良いですか!?

 

 俺は謝り倒してフィーアさんに内容を聞きなおすことにした。

 

 「つまり、俺はこれからは依頼を受けて花火を作る。その依頼はフィーアさんを通じて行われるってことで良いですか?」

 

 「はい。ただ、覚えておいてもらいたいのは、これが王にも認められた"事業"だということです。今まではあくまで個人の範疇でしたが、これからはそれ相応のふるまいが求められることになります。」

 

 「今までと同じ感じじゃ駄目なんですか?」

 

 確かに王にも認められた事業として花火を作っていくのは結構な重荷だ。だったら今までのように、自由にやっていくというのはどうなのだろうか?

 

 「残念ながら今まで通りやるには花火の影響力を示しすぎてしまったんです。線香花火はともかく打ち上げ花火についてはあまりに人目に付きすぎますから。それに、今回の冒険者協会の変革についてもあなたの協力があってのことという風に話が回っていますので。貴族たちの間でも話題になっているんですよ。」

 

 そんなことになっていたのか。確かに花火を打ち上げるとなるといろいろな手続きが必要になるだろうし、王に認められていたらその辺りも容易になりそうだ。一高校生に過ぎない俺には少し重荷ではあるのだが、俺の「花火職人になる」という夢にぐっと近づけそうな気がする。

 

 「それにこの"事業"のおかげで私は領地に帰らなくて良くなりましたから。」

 

 「ちょっと待ってください。それどういうことですか?」

 

 その話は初めて聞いた。フィーアさん領地に帰る予定だったのか?……いや、待てよ。

 

 そこで思い至る。確かフィーアさんはサボ第二王子との婚約破棄の影響を受けて領地に帰るとかそういえば言っていた気がする。もしかして、その話いまだに有効だったのだろうか。

 

 「想像している通りです。本来なら私はすでに領地に帰っているはずでした。ただ、ヒカル様がこちらにやってきていろいろ慌ただしくなったため、うやむやになっていたんです。再びサボ第二王子が私を領地に帰そうとして来たんですが、今回の"事業"の担当になったことでまだこっちにいられるようになりました。」

 

 そうなんだとしたらますますこの"事業"に俺は力を入れなくてはいけない。そうすることでフィーアさんの力になれるのだったら。今まで俺を助けてくれたフィーアさんの力に俺もなりたい。

 

 「これからもよろしくお願いします、ヒカル様。」

 

 「ええ、こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 「しかし、"事業"とはいっても依頼がそんなに来るとは思えないんですけど。」

 

 「そんなことありませんよ。多くの貴族たちが金の力に物を言わせて依頼してきています。まあ、そういう依頼は断っています。一応、これでも公爵家の人間なので。」

 

 なるほど。変な依頼についてはフィーアさんが事前に止めてくれているのか。こういう時に"公爵家"という肩書はとても協力な武器になるんだな。

 

 「ありがとうございます。依頼を受ける基準については、その人の悩みや困り具合を基準にしてほしいんですけど。」

 

 何も俺はやみくもに花火を作りたいわけではない。人に寄り添った花火を作りたいのだ。だから、何か悩みだったり困っている人の依頼を優先したい。

 

 「分かってます。私もあなたに救われた人間ですから。それで、一つ気になる依頼があって、その依頼者がもうすぐ来る手はずになっているんですけど。」

 

 そう言えば完全に忘れていたのだが、「会ってほしい人がいる」と言われたので来たんだった。来て早々ディーテさん達の話になったので忘れてしまっていた。

 フィーアさんの基準で依頼を受けても良いという依頼者。一体どんな人なのだろうか?

 

 その時、扉がコンコンとノックされる。フィーアさんの「どうぞ。」という声とともに入ってきたのはセバスチャンさん。

 

 「お嬢様。お客様がお見えになりました。お通ししてもよろしいでしょうか?」

 

 「ええ。この部屋まで来てもらって。」

 

 セバスチャンさんはその客人を呼びに行く。わずか数分の後、セバスチャンさんが連れてきた客人は一人の少年だった。

 


第3章1話いかがだったでしょうか。この少年は一体……(タイトルがネタバレ)。


次回更新は10/26(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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