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第2章 老練の凄腕冒険者と帰りを待つ受付 3

前回のあらすじ:冒険者協会の受付のディーテさんと出会う。


第2章3話です。


 「何とかしないととは思ってるんだけどね。協会の上は凄腕冒険者を引退させたくない。本人も引退したくない。私一人が引退してほしいと思ってたとしても、結局何もできないのよ。できる限り、依頼の受注間隔を広げたりして休みの期間を設けさせることくらいが限界。」

 

 おそらくディーテさんはアレスさんのためにいろいろ働きかけたのだろう。それでも変わっていないのは、上が特に問題視していないということか。あまり冒険者事情を知らない俺でも、アレスさん一人に頼り切りの状況は良くないと思うのだけれど。

 

 「うーん!久しぶりに愚痴を聞いてもらえて何だかすっきりしたわ!」

 

 ディーテさんはそういって立ち上がり大きく伸びをする。腕の怪我は随分と良くなったようだ。俺の方に軽く手を振ってから背を向ける。

 

 「それじゃあ、私は戻るわ。またね。」

 

 「はい、頑張ってください。」

 

 俺は笑顔で見送るも、その胸中は複雑だった。この世界の人間関係も薄い俺にとっては、一つ一つの出会いを大切にしていきたいと思っている。ディーテさんの力になりたいとは思うものの、俺にできることは少ない。

 

 とりあえず俺にできるのは……。

 

 

 

 

 「なるほど。それで、私のところに相談に来たというわけですね。」

 

 当然ながら、俺が相談できる人も限られている。せっかくウェスタン家の屋敷に来ているので、そのままフィーアさんに相談してみることにしたのだ。

 フィーアさん、ひいてはウェスタン家は公爵家。つまり、この街においてはかなり権力を持っている側だ。さすがに権力を用いて無理矢理というわけにはいかないだろうが、何か解決策があればと思ったのだ。

 

 「それにしても、難しい問題ですね。冒険者協会というのはいくつもの国に存在する、国境を越えた組織ですから、国として干渉するのが難しいんです。できることと言えば、他の街にいる高ランク冒険者に相応の報酬を払って来てもらうことですが……。」

 

 当然、高ランク冒険者を街に呼ぼうと思えば、その報酬は非常に高い。しかも、根本的な問題を解決するためには、呼んだ高ランク冒険者に街にとどまってもらう必要がある。

 

 フィーアさんはうつむき何かを考える仕草を見せる。しばらく何かを考えた後、口を開いた。

 

 「とりあえず私の方でも動いてみましょう。けれど、もう一つ問題があるのをお忘れでしょうか?」

 

 「問題?」

 

 俺はフィーアさんが言う"問題"が分からなくて、首をかしげる。そんな俺の様子にフィーアさんは少し呆れた顔をする。

 

 「アレスさん自身が引退を考えていないことです。仮に別の街から冒険者を呼べたとしても、彼が辞める意思を見せなければ、高難易度の依頼を受け続けることでしょう。ただボロボロになる頻度が変わるだけです。」

 

 なるほど。ディーテさんから聞いた感じでは、すでにアレスさんは高ランクの依頼をボロボロになりながらなんとかこなしているという様子だった。本人に引退を考えてもらわないと、これからも危ない目に遭い続けるということだ。しかしそうは言っても、いきなり引退してもらうわけにもいかない。

 

 ……どうしたら良いだろうか。さっぱり分からない。

 

 「ヒカル様、あなたにやっていただきたい仕事があります。これは、あなたにしかできない仕事です。内容は――。」

 

 フィーアさんから告げられた内容は確かに俺にしかできない仕事だ。しかし、それはとても難しい問題であり、俺はその問題の答えを出すのに何日も頭を悩ませることになった。

 

 

 

 

 「うーーーん。」

 

 俺は花火づくりのためにウェスタン公爵家から借りている倉庫にて、頭を抱えてフィーアさんから突き付けられた問題について悩んでいた。

 

 「随分と悩んでおられるようですね。」

 

 「セバスチャンさん。」

 

 急に背後から声をかけられる。セバスチャンさんだ。最初の時のようにずっと俺についているわけではないが、今でも様子を見にしばしばやって来る。

 そういえば、先日のやり取りでセバスチャンさんはディーテさんやアレスさんと知り合いのように見えた。フィーアさんの問題の解答を見出すためにも少し話を聞いてみることにしよう。

 

 「セバスチャンさんはディーテさんやアレスさんとお知り合いなのですか?」

 

 「ええ、ウェスタン家から冒険者に依頼を出すこともありますので、ディーテ様とはその時に。アレスは……。」

 

 セバスチャンさんは珍しく言いよどむ。その顔はどう言ったものかと悩んでいるように見えた。

 

 「そうですね、彼がまだ冒険者になりたての頃に少し。おかげで彼には随分と嫌われてしまったようです。」

 

 それはちょっと意外だった。セバスチャンさんは誰とでもそつがないコミュニケーションをとりそうなものなのだが、どうやらアレスさんとはいざこざがあったようだ。セバスチャンさんはあまり話したくないように見えたので、俺もそれ以上は聞かなかった。

 

 「少し気分転換に出られてはどうでしょう?最近は街に出られていろいろ見て回られてるようですので、別の場所に行ってみるとか。」

 

 俺は街の西側、つまりウェスタン家の屋敷に近い部分をメインに見て回っていた。一人でも歩ける範囲と言えばその辺りに限られるからだ。しかし、セバスチャンさんと一緒であれば、もっといろいろな場所に行くこともできるだろう。

 

 俺はセバスチャンさんの提案を受け入れて、街の南側へ向かうことにした。

 

 「知りませんでした。街の南側って結構緑が多い感じなんですね。」

 

 街の南側。その大通りを歩いていると、視界には必ず緑が目に入るくらいには木が植わっている。ただの街路樹ではあるのだが、街の西側では見られなかった光景だ。

 

 「南側は林業が盛んでして、それを売りにするために街中にも木を植えているんです。最近では木を用いた建築に力を入れ始めていると聞きます。」

 

 木造建築。日本人の俺には割となじみ深い言葉ではあるが、どちらかというと欧州風のこの世界において木造建築はとても珍しい。

 

 「もうすぐ見えてきますが、南のサウザン家の屋敷。非常に珍しい形で、観光のために見に来る客もいるほどだとか。」

 

 確かに立派な木造建築の屋敷が見えてきた。一つの街の中でも全く異なる建築様式が現れるなんて、何だか面白いな。

 

 「観光に見に来る人向けに開放されている部分もあるようなので、見に行きますか?」

 

 異世界の木造建築というのも興味あるが、今はそれよりも花火の材料を……。

 

 そう思った瞬間、頭に電流が走ったような感覚を覚えた。

 

 俺は顔を上げて目の前の木造建築をじっと見つめてから、ゆっくりと歩み寄り目に入った柱に触ってみる。間違いない。ぱっと見でいろいろな木が使われているが、この木造建築には()が使われている。

 

 だとしたら、"あれ"を作ることができるかもしれない。

 

第2章3話いかがだったでしょうか。この時点で光が何の花火を作ろうとしているか分かった人はかなり花火について詳しいです、間違いありません。


次回更新は10/12(水)になります。読んでいただけたら嬉しいです。

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