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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
4章 邂逅の悪魔と幻の竜
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79話 顕現する竜

「来たかーーティマルスを滅ぼさんとする竜……!」


 目の前に姿を現した竜を見て師匠は言う。


「ちょっと待て、更に後ろから誰か来るぞ! あれは騎士……ここに来て新手か!」


 指揮長の声を聞いて振り向くと、鎧を着た三人の騎士が炎の馬に乗ってこちらに向かってくる。今回は分裂していた。


「違います。彼らは僕達の仲間です!」

「という事は、巫女が呼んだ騎士か」

「はい! 守護騎士が二人、もう一人も普通の騎士と比べても頭ひとつ抜けています」

「そうか。信じるぞ? それなら……」


 指揮長はそう言いながら僕から目を離す。何かを考え始めたようだ。


「レノン……!」

「ゼクシム! レノンくんもーー無事? 怪我をしている人はいない?」

「大丈夫です。今のところ全員自分で治療出来ています」


 僕はさっと見渡してから答えた。


「これはどうなっているんだ? 状況を説明しろ」


 ラドも馬から降りて師匠に話しかける。


「あの四つ脚竜が敵で、他は全員味方だ」

「ーー飛竜もいるぞ? どうなっているんだ?」

「そこにいる指揮長が協力してもらえるように上手く説得してくれたみたいです。ですが……」

「ーー拒否でも無視でもなく、通じていない。飛竜もあんなの知らんと言っている。つまり、あれは飛竜の仲間ですらない」


 指揮長は険しい顔をしながら言った。


「あの竜ーーもしかして、お婆さん……ヘイリースが言っていたように、本当に竜神様なのですか……?」

(神様なんているわけないわ。別の何かよ)

(でも……)


 飛竜の仲間でもなく、神でもないとすると、これは何なのか。こんなのをメイジステンから連れてくるなど、あり得ないと思うがーー


「知らん。とにかく殺るぞ」

「指揮長……良いのですか? もしかしたら竜神様ーー」

「竜神様かもしれない? ああ結構だ。オマエ達が気にする必要なんかないーー」

「こっちには生活かかっているんだよ! 恩恵もないのに裁きだけ下す神なんか流石のオレでも願い下げだ! 現れるのが千年遅いってんだよ……いたなら古代大戦の時にオレ達の森を護りやがれってんだ!」


 指揮長は高々に啖呵を切ってみせた。


「た、確かにそうですね……」

「グオオオオアアアアアアア!!」

「セレーナ!」

「はい! 壁に隠れてーー」


 幻の竜も翼を思いっきり開いて咆哮を返す。すると一気に強風が巻き起こり、僕達に襲いかかる。それをセレーナが人数分出した光の壁に隠れてやり過ごした。


「無事か?」

「大丈夫です!」


 他の全員も頷く。見る限り誰も欠けてはいないようだ。


「ーーあの婆さんを食い終わったか。まあ十分考える時間は稼げた」

「では、討伐するぞ? 良いんだな?」


 ラドは剣を抜き、彼を見る。


「お前は前線に立てるか? まともに当たったら死ぬぞ」

「ラドには当たらないさ。俺より速い」

「ふむ、それは頼りになるな。オレが指揮を執るーー導師とゼクシムとお前は前線に立て。倒そうと思わなくても良いから諦めるな。生き延びる事を最優先しろ。飛竜は指示した時だけ攻撃。あと治癒が出来るやつがいたら……」

「治癒は私が担います」

「任せる。専念しろ。待機だ」


 その言葉にセレーナが頷く。


「魔物と人間両方と会話出来るのは指揮長だけーー妥当か」

「ラド、行くぞ!」


 師匠の言葉に頷くと、指示された彼らは走って向かっていく。竜の目に止まり、迎い撃つように炎を吐いた。


「さて、少し逃げとくかーー」


 指揮長は巨大化して右と左それぞれの足で僕達の脇腹を掴むと、飛び上がって、流れてくる炎をやり過ごした。


「おお!? ありがとうございます! すごいですね!」

「本当はあまりやりたくないがな。目をつけられると敵わない」

「それで、僕は何をするべきですか?」

「わ、私だって戦えます!」


 竜の背後に回ると、彼は僕達を降ろし、元の大きさに戻って僕の肩に止まる。竜に目線を戻すと師匠が風の剣を喉元に突き刺した。


「やったーー」


 僕達が横切った間、目を逸らさせたため、相手に気付かれる事はなかったものの、効いている様子はなかった。


「効いていない……?」


 驚くフラウを余所目に、指揮長は口を開く。


「少年は一先ず保留だな。お前は何が出来る?」

「前線で戦えます! えっと、あと雷の魔法も使えます!」

「前線はこれ以上は不要だ。どうせあの黒鱗に傷は付けられない。山でも戦ったが、導師でも無理だった。丁度今見たように、逆鱗も見当たらない」

「そんな……」

(ねぇ、逆鱗って何?)


 顔が曇ったフラウを見て、サキが聞く。


(竜の喉の下には一枚だけ逆になっている鱗があるらしくて、それを逆鱗って言うんだ。竜共通の弱点で、飛竜でも他の竜でもあるはずなんだけど……)

(弱点がないって事!? ズルいわね……)

「雷の魔法が使えるならそれを使え。やつの翼を突き破る。逃がさないためにも、それは必須事項だ」

「分かりました……!」


 フラウはそう言ってすぐに剣を空に掲げ、魔法を使う準備を始めた。すると丁度竜は巨体でも悠々と飛び上がり、舞いながら高度を上げていく。


「あっ……! ズレてーー」

「前線は追うなよーー今だ行け!」


 指揮長がそう言うと、飛竜が地面を蹴る。そして空にいる竜目がけて一直線に突進した。


「グ……ガアアアアアア……!」


 竜は驚嘆の声を上げながら地面に向かって落下し、飛竜が追撃として尻尾を頭に叩きつけた。


「娘、以降は軌道から逸れても意識は逸らすな。きっと彼らが引き摺り戻すはずだ。あいつらはお前のために奮闘していると思え」

「ご、ごめんなさい! 次こそは……!」


 フラウは驚いて咄嗟に謝ると、


「戦士なら口だけでなく結果で示すのだ。何を言おうと、出来ないなら変えるし、出来るならやらせるからな」

「は、はい……!」


 彼女は返事をすると、もう一度剣を空に掲げた。


「さて、オレはお前らを運んで逃げ回る。少年は娘が放つ落雷をよく見ろ。それで真似出来そうか教えろ」

「わかりました。やってみます」

「パロにはセレーナの補助を頼んだ。周りの動きとオレの活躍を見ておけば、いざという時にオレの代わりが出来るしな」


 いざという時ーーそうはなってほしくない。これで終わらせたい……のだが、前衛がどんなに攻撃しても、やはり鱗には傷一つ付いていない。起き上がろうとする竜に、


「ブオオオオオオオ!」


 導師が全力で勢いをつけて突進し、その角をぶつける。


「ギャアアアア……!」


 竜は体勢を崩し、再び翼を地面に付けた。そこに上空で魔法陣が作られーー


「離れろ! 撃つぞ!」

「いきますーー貫いて!」

「グアアアアアア!?」

(やった! 当たったわ!)


 強烈な光と共に、雷が放たれた。その轟音から、相当な威力だった事が窺える。破れはしないが、翼には焦げ跡が残っていた。


「破れなかった……」

「けど、効いている!」

「よし、良いぞ! その調子だ!」


 指揮長も声を上げる。鱗がないところなら攻撃は通るという事だ。


(レノン、出来そう?)

(うん、出来るはずだ……!)


 僕もフラウの真似をして、杖を空に掲げてみる。ここから魔法陣に力を送って集めるような感じだ。


「俺達もだ!」


 そう言って師匠とラドが二人とも剣を突き刺し、片方は剣から竜巻を起こし、もう片方はそれに炎を纏わせる。


「グギガアアアアアアアア!!」


 悲鳴を上げて急に起き上がり、その勢いで翼に乗っていた二人も吹き飛ばされた。


「ゼクシム! 任せて!」


 セレーナは二人が落下する瞬間に雲のように大きな白い綿を作り出し、それが衝撃を緩めた。その後に迫りくる炎も彼女の盾が遮った。


「いきます!」


 僕は宣言すると、魔法陣が上空に作られる。


「空破の雷!」

(当ったれえええい!)


 しかし竜も魔法陣に気づき、飛び上がろうとする。しかし、踏ん張った瞬間ーー


「ンギャアアアアアアア!?」


 今度は急に地面が緩くなり、そのせいで前脚が沈み、前屈みに倒れ込んだ。

 そして彼女の魔力を注いだ雷が、先程の炎の竜巻を食らわせた方の竜の翼に命中しーー


「グウアアアアアア!!」

「破った!」


 そしてようやく悲鳴に相応しく、その翼を貫いた。


「やったね! レノンくん!」

「すごい! もう私と同じような……!」


 二人はそう言ってくれた。僕も手を挙げて応える。


「ありがとうございます!」

(ふふーん、こそこそ練習した甲斐があったわね)

(上手くいって良かったーー)

(最初出なかったもんね)


 二人とも使っていたのが格好良くて練習していたが、恥ずかしくて見せられなかっただけだ。でも本当に練習しておいて良かった。


「よ、よーしもう一度ーー」

「待て」


 僕が魔法を使おうと杖を掲げると、指揮長が言った。竜の方を見てみたが、滅茶苦茶に暴れ回っているが、こっちに向かって来る様子はなさそうだった。


「使うのを待てという事ですか?」


 あくまで準備を進めながら尋ねたが、


「そうだーー大した魔法だ。だが後何回撃てる?」


 言われたので雷を頭に描くのを止める。


(同じくらいとなると……二回出来るかどうかね)

「同じものなら一回は確実に、二回目は足りなくなるかもしれません」

「そんなものだろうな。まあこの際は良い。上出来だ。次は少し魔法を弄ってみろ」

「どのようにですか?」

「魔法陣から連続で雷を撃ち続けろ。貫くか、魔力がなくなるまでやれ」

(ーー出来そうなの?)

「やってみないとわからないですが……」


 彼女への返答も兼ねて指揮長に言った。


「出来るさ。噂の魔女の魔力が流れているお前ならな。安心しろ。最悪全部外しても娘が、更に導師もいるさ」

「そこまでしてやるべき事なんですねーーわかりました。やってみます!」

「最初に照準を合わせてからは目を瞑って集中してもらって構わない。後は完全にこっちで合わせる」

「はい! お願いします!」


 そして竜を見る。翼の穴を更に拡げられ、飛べなくなっているものの、むしろ踏み潰そうと脚を使うようになり、活発に動いている。


(ちょっと待った方が良いわね)

(うんーー)

「もう一度雷を撃つ! 止められそうか?」

「正直すぐは厳しい。暴れ過ぎている!」


 そう言って後ろに跳んで上から来る脚を躱し、自らを吹き飛ばして噛みつこうとする頭から逃れる。その後セレーナの雲にもたれかかり、またすぐ竜に向かっていく。


「それなら背後から飛竜をぶつける! 準備は出来ているーー退がれ!」


 前線の三人が竜から離れると、空から飛竜が勢いをつけて急降下して来た。それは離れた後も導師の魔法を受けていた竜に、逆側から衝突した。


「ギャアアアアアアアアアア!」


 竜は転倒し、飛竜はそれにのしかかるような形で押さえ込んだ。


「少年、魔法の準備を。撃つ前に飛竜は離すから安心しろ」

「はい!」


 杖を掲げ、魔法陣を空に描く。目を瞑って雷を頭に描く。


「落とします!」


 僕が言って目を開いた瞬間、その言葉を聞いたように飛竜が相手の頭を蹴って地面へと叩きつけ、彼自身はその反動で飛び上がり、軌道から逸れた。


「空絶の雷!」

(私達の……全力をー!)

「ギャアアアアアアアアアア!!」


 魔法陣から放たれた雷の槍が三度竜の翼に突き刺さった。


「くそっ……これで限界か……!」


 その後は槍は続かなかった。掲げていた腕を下ろす。いきなり新しい魔法は加減が分からないーー言い訳をしても仕方がない。とにかく『空絶の雷』は、飛竜の翼を貫く事は失敗したのだ。


(そんな……!)

「元々良くなかった魔力の変換効率が更に著しく下がったせいだな。威力の割に一発の雷を再現するのにより多くの魔力を消費してしまった。つまりは魔力切れだ。魔力さえあれば続けられたな」


 指揮長はあくまで冷静に淡々と述べた。


「すみません……」

「それより腕! セレーナ! レノンの腕が!」

「血が出ているんだゾ!?」


 言われてから自分の腕を見ると、確かに服に血が滲んでいた。


「大丈夫だよ。これくらいならーー」

「大丈夫じゃないよ! 普通はこんなにはならないよ! 私もなった事ないもん!」

「ーー今治すからね!」


 セレーナの治癒魔法が施され、僕の腕の傷が治る。


「ありがとうございます!」

「無茶しないでね!」


 僕は大きく頷いて答えた。


「なるほど、導師の言う通り、身の丈に合っていない魔力行使をするとこうなるらしいな。だがこれは……想定外だったな……」


 指揮長は表情を曇らせ、考え込む。


「翼を破れそうにないですか?」

(そんな事ないでしょ。フラウちゃんも導師もいるって言っていたもん)

「翼自体は問題ない。他の雷で……そもそもゼクシムの風の剣で突き破れるはずだ。だが、そこまでだ」

「そこまでとは……?」

「まずは翼を破るーー作戦変更だ! ゼクシム! お前が翼を狙え! ラドはやつの意識をもっと引きつけろ! セレーナはラドとの連携をより意識するように!」

「了解したーーラド、上手くやれよ?」

「何故だろうな。そういう前線の雑務は、望まずとも出来てしまうんだよな!」


 ラドが竜の頭の付近に何本も炎の槍を降らせる。


「首を振ってもらって結構。勿論刺さる事なんて期待していないーー」


 その後、下がった首の元に立ち、剣を喉元に突きつけると、爆発させた。


「勿論傷なんてつかない。だが……」


 今度は地面に刺さった槍を投げつけ、当たる瞬間に槍の元に飛び、剣を突きつけて爆発させる。


かぶとに覆われててもな、衝撃自体は結構来るんだよ!」

「ギョア!?」


 その後もすぐに地上に戻り、また投げては頭のすぐ近くに飛び、爆発させる。


「首が逸れる角度まで計算して撃っているのか……相変わらず器用なやつだな」


 師匠は竜の横へ回り、眺めながら呟く。


「てめえ! 見物してないで仕事しろ!」

「俺まで見えているのか。大したやつだ」


 彼は悪態を吐きながらも既に風が纏われている右手から剣を作り出し、それを前に突き出す。それを回転させ、勢いを増し、出力を足し、風の刃を内包する竜巻となった。


「さて、やるか。目指すはその翼ーー」


 彼は左手で竜の翼を、その中でも雷の跡がついた部分を指差す。その後、彼は助走をつけて跳び上がる。そして竜の翼まで距離を詰めていきーー


「この一撃で……貫けええええええええ!!」

「アアアアアアアア!!」


 その右手を突き出した。その後、突き出したまま下に、落下する自分の重さも乗せて右手の竜巻を押し込んでいった。その雄叫びと悲鳴が重なった時、竜の身体は堪えきれずに足を地から離した。


「うおおおおおおおおおおあああ!!」


 そしてその巨体が倒れ込む轟きに、彼の竜巻が着陸する衝撃が重なった時ーー分厚い画用紙のような翼に、風穴を空けてみせた。


「アアアアアアアアアアアア!!」


 竜はその痛みに叫び散らし、咆哮だけでは物足りず、火炎を撒き散らす。だがそれはいくら吐こうとも森に点く事はなく、誰にも届く事はなかった。


「グルウアアア……グガアアアアアア!」


 竜は怒り狂うも、痛みからか上手く力が入らないようで、起き上がらずに大地を踏み鳴らす。


「そんな……これだけ攻撃しても生きているなんて……」

「……翼を破るだけでは倒せない。竜にとって翼は爪と同じようなもの。我々の爪が二枚剥がれたとしても、血さえ止まればその場で死に至らないのと同じだ」

「ーーならば次の手は?」

「……最初にはあった。あると思っていた……だが、今はない」


 師匠は背を向けたまま尋ね、指揮長は彼の方を向いてそう答えた。

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