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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
4章 邂逅の悪魔と幻の竜
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75話 旋風の悪魔

「……来てしまったか」


 輝の森へ足を踏み入れようとした時、数匹の輝石獣の姿が見えた。そして、青ローブを着た細身で長身の男ーーゼクシムは、それだけ言葉を綴った。


「森の入り口までわざわざ迎えてくれるとは恐れ入るな」

「私が魔力察知を使える事は周知だろう。勘が良い程度であったあの頃とは違い、今は来る者がお前達だと察知出来るのだから」


「ゼクシム、何があったか話せ。もう一度俺達と共にーー」


 ラドは目の前の男に声をかけるが、彼は手を伸ばして静止させた。


「残念だ。なるべくして騎士となった、それに相応しい志を持っているはずのお前が、そんな言葉を悪魔に語りかけるようになるとは。騎士団も終わりだな」

「騎士となっても俺はラドだ。悪魔になろうともお前はゼクシム。ヴァーンか何だか知らないが、共に生き、共に旅をした仲間である事は変わらない。仲間の助けになるためなら、俺は騎士をーー」

「そこまでだ。私は助けてほしいなどと言った覚えはない」


 彼は表情を変えぬまま言った。


「でも、あなたは為そうとした事を、未だ成し遂げていないわ」

「……わざわざ調べたのか。どこで聞いた?」

「最後の種明かしの時になったら話すわ。今はまだそれを言わない」

「因みにそこの少年とその中の魔女は、その件について答えを知らない」


 ラドは僕を指して話す。


「どういうつもりだ? 一人除け者にして、何を考えているか全く分からん」

(本当よ。何がなんでも協力って言った瞬間これだもん。こんなの酷いわ)


 サキもご立腹だ。仕方ないものだと理解はしているが、僕もよく分かっていないため、納得はしていなかった。


「知らない方がお前が喜ぶと思ったからそうさせてもらった」

「確かに知らなくても良い事だが……何を考えている?」


 怪訝そうな顔をして僕とラドを見る。するとラドは、普段の仏頂面からは想像がつかないくらいに広角を上げた。


「決闘だ。今から俺、セレーナ、フラウ、レノン、パロでお前を倒す。そっちは好きなようにしろ。そしてお前が負けたら、お前に何があったか、全てを話せ」

「私はお休みです。見守ってあげますよ」


 巫女は余裕を持ったようにそう言った。しかし若干悔しいのか、その笑顔は若干引きつっていた。


「私もここまでバカにされると流石に笑えない。決闘と言えば私が乗ると思ったか? しかも大人数でだと? お前が学んだ騎士道とは何だったのだ」

「ああ、乗るさ。断れば、俺達が知っている全てをこの少年、つまり魔女に伝えよう。それは困るのではないか?」

「……なるほど、そのためか。非道だな」

「ああ、そうだとも。手段など選んでいる場合ではない」


 師匠はラドを睨みつけた。


「ーーでは、私が勝ったら?」

「レノンごとお前に渡そう。そうすれば何も知らなくて済む。お前の望み通りだ」

「……なるほど。だが今の私はここの族長代理でもある。こんな場所で戦って、森が荒らされる事は望ましくない」

「問題はないさ。セレーナーー」

「ええ、遮害の結界の準備を始めますーー」

「さてさて、巻き込まれたくない者は離れた方が良いですよ! 全力で退避です!」


 そう言うと巫女は後ろに下がる。地上に巨大な白い魔法陣が描かれる。


「全員離れろ! 今すぐ出来る限り遠くだ!」

「キュッ……!?」

「キュー!」


 その身振りに反応して、輝石獣達はなおも肥大化し続ける巨大な魔法陣の外に出ようと必死に走り始めた。


「お前だけ残り、全員下げるのか? 外からでは輝石獣の光は届かないぞ?」

「結果として我が師匠と弟子を側に置けるのであれば、悪くない。だがこれは私個人の判断であり、彼らは関係ない。メイジスを糾弾する立場でもあるとは言え、無理に巻き込むのはおかしいだろう。それなら、パローー」

「結界の強化を頼むんだゾ? 分かっているゾ」

「流石だ。毎度すまないな」

「頼もうと思えば巫女様も居るのにだゾ。まあ、完了だゾ」


 パロは伝心で伝え終わった事を合図した。


「展開します!」


 そのかけ声と共に、巨大な透明な壁が半円状に展開され、天を覆った。


「師匠、勝負です!」


 ラド、フラウ、セレーナは抜刀、僕は杖を構える。


「覚悟しろよ? ゼクシム!」

「行きます……!」

「いきますーー火炎弾!」

「ここでは思う存分爆撃するゾ!」


 声を出したラドとフラウが、ゼクシムに向かって走り出す。迎え撃とうとする彼に余裕を与えない為、僕は炎の弾を、パロは頭上を通り過ぎるように飛んで僕のと似て非なる赤い球体を落とした。


「問題ないな」


 避ける事なくいとも簡単にそれらを防ぐと、パロの分の球体が爆発する。爆発した破片が爆発を繰り返して煙を上げる。


「なお問題ない」


 軽く風を巻き起こして一瞬で煙を払うと、その中にいた炎の騎士の姿が露わになる。


「くっ……」

「奇襲失敗だな」


 そのまま斬りかかるが、大事ないという風に躱された。その後、鎧の少女も動いた先に立ち塞がるように移動し、一撃を与えようとするが、


「これは……!」


 ローブの男に剣が近づいた瞬間に、剣の軌跡が不自然に逸れてしまった。


「お嬢様……! それが風です! やつは風を纏って攻撃をズラしています……!」

「やりづらい……!」


 バチバチと音を鳴らしながら電撃を飛ばすと、すぐ後にそれにも負けない速度で彼に接近して刺突しようとする。ラドも合わせるように左手から炎の槍を放つ。その全ては男目掛けて迫るが、


「分かっているさ。まずはーー」


 まず男は風の刃を飛ばし、槍を真っ二つにした。その後、横に跳ねて電撃を置いていく。そしてそれについてきたフラウをーー


「ふん!」


 風を束ね、放たずそれを掴む。そして振るうような仕草で操り、そのまま彼女の剣にぶつけた。


「それが……あなたの剣!」

「これも聞いているのかーー勉強家だな。可愛らしい」

「バカに……しないで!」


 両手で振るわれた一振りを片手で弾き、もう片方の手で突風を起こしてラドを止め、挟み撃ちを防いだ。


「すまない。だが強く輝いているから何れ綺麗に……ぐっ!?」


 無言無挙動で視界の外から放たれた雷の線は、動こうとした瞬間に枝分かれし、風の鎧を貫いた。


「……もらった!」

「ぐふあぁ!?」


 そしてフラウが遂に男に一太刀を浴びせる事に成功した。


「ーー解き放つ。この身に纏う風を!」


 喜んだのも束の間、怯まず彼が地面に手を着け言い放つと同時に、彼を中心とした筒状の大きな風の壁ーー竜巻が出現し、地鳴りを起こしながら拡がっていく。


「一度私の元へ!」


 セレーナのかけ声に従い、僕達は彼女の元へ集結し、剣族が持っていた城壁よりも大きな光の壁でその巨大な竜巻をやり過ごした。


「弁明もさせてくれないのか……慈悲が感じられないな。セレーナなのに」

「傷が……」

(もう治っている……!)


 彼の声からは変わらず余裕があり、与えたはずの傷は既に癒えていた。


「勘違いさせるような言葉を使うからです! どうせ、魔法しか見ていない癖に!」

「ああ、確かに『あの時の私』は魔法しか見ていなかった……」

「じゃあ、まさか今は……!」


 セレーナが信じられないと顔に書いてあるのが読めるくらい衝撃を受けた顔をして、フラウは半歩引く。


「ああそうさ。今の私は……! 『剣の振り方』まで見れるようになった! 教えてもらったからな!」


 そう言い放った瞬間、


「だろうな。誰に教わったかまでは知らんが」


 頭上に現れた何本もの槍が次々と放たれ、師匠を襲う。


「これは……!?」


 気づいた瞬間から勿論避ける。しかしその槍は、地面に突き刺さる。空ばかり見ていた彼にーー


「思う存分ーー」

「これもか……!」


 刺さった槍の元に赤い炎の尾を引きながら高速で移動して槍で突き刺そうとする。それを彼の風の剣で捌き切るも、


「評価しろ!」

「速い!?」


 他の槍の元へ次々と移動し、再び弾かれる前に二、三度炎の槍を突き刺した。


「ぐぅ……」


 もう一度手を地に着けようとするが、


「させませんーー突風刃!」

(あいつに負けないくらいの強さで!)


 大きく仰ぐように杖を振り、強い風を下ろそうとする手に目がけてのみ放つ。


「そんなもので……!」


 後ろを向いた時、白い鎧が一つ。


「もう逃げられない。今度こそ終わり……!」


 振りかざす重い一撃を、周りを見渡しながら指で風の刃をその場で作り出して防ぎ、それを数度繰り返した。


「焚き木は十分集まった。これで終いだーー」


 下を向けば、足元には赤い魔法陣、また何本もの槍が地面に、そして彼にも刺さっていた。


「巻き込まれても……!?」


 彼が振り向いた時には、フラウは既に彼の元には居なかった。飛べないはずの彼女が宙に舞い上がっており、代わりにそこから手の形の雷が放たれていた。


「あの風か! クソッ……!」


 せめてもの策として電撃の前に小型の竜巻をぶつけるもーー


「今度こそ……届かせてみせる! 闇夜あくま最奥きもちまで、この猛火こえを!!」


 輝いた赤い魔法陣から放たれた巨大な炎が、男の身体を燃やす。


「レノンくん! もう一度風を!」

「はい! 突風刃!」

「オレも手伝うんだゾ!」


 彼女の言葉に従って、僕達はもう一度風を放つ。煽られた炎はまだ大きく、大きくなってーー


「燃やし尽くしてくれ! 絶望も、遠慮も、不安も! 本当の気持ち以外全部!」


 その炎は、どれだけ動いてもと広げた結界の頂点にさえ到達した。


「……滅茶苦茶強い火に、滅茶苦茶強い風を送れば、きっと夜の果てにも届いて昼に出来る…………」


 男はそんな中で乾いた笑い声を小さく上げる。


「ただの焚き木の癖に、どうしようもない世迷事おもいでだーー」


 炎が消えると、男は大の字に倒れ込んだ。


「待ったセレーナ、最後まで治癒魔法はなしだーーおい、どうだ?」


 ラドが少し雑に胸ぐらを掴んで起き上がらせる。


「お前より、俺達の方が強い。全員でぶつかれば頼りにならないわけはない。お前が出来ない事でも、どんな問題だって解決出来るはずだ」

「……前情報ありで、五対一で勝ち誇るのはズルいだろ……」


 咳をしながら、彼は今更そんな事を言い出した。


「いやそれはお前がそうしたんだろ……」

「久し振りにあれを……確か、こうだったか……」


 彼はそう呟きながら、光を放ち続ける結界の白い魔法陣から光の線を伸ばし、自分の腕に繋げた。


「師匠……何を……?」

(待って、もしかしてそれってーー)

「魔力、共有……!」


 そう言った瞬間、彼の周りから全てを吹き飛ばす風が巻き起こった。

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