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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
4章 邂逅の悪魔と幻の竜
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61話 ご隠居の隠れ家

「おや、団体さんだったのかい」


 家の前で光を放つ球体を飛ばしているお婆さんに話しかけると、のんびりとした口調でそう答えた。


「忙しそうなところ申し訳ないのですが、僕達道に迷ってしまって……一晩だけで良いので泊めてもらう事って出来ますかね?」


 そうするとお婆さんは球を放つ手を止めた。


「良いともさ。お前さん達が来るのを待っていたんだからね」

「俺達が来るのを……?」


 不思議そうな顔をしてザックが尋ねる。


「さっきまで光の球体を飛ばしていただろう? あれはお前さん達みたいな迷子に来てもらうためなのさ。さっき音が聞こえてね。今度は光が見えたから、また迷子が出たと思ってね」

(つまり私達を助けるためにやってくれていたのね。良い人だわ!)

(そうだね。今日は泊めてもらおう)

「なんでそんな事をしているのですか? 何だか怪しいのですが……」


 僕がそう言おうと思ったところで先輩が口を挟む。


「何でってね。私はもう歳だから、何もする事もないからね。ここなら食べ物も困らない。この森だけに絞るとちょっと種類は少ないけど飢える事はない。ただね、暮らしていたら時々子どもが迷い込むみたいだからその相手をしていて、いつのまにかそうするのが癖になっちまったのさ」

「ご隠居という事ですか……」

「なあに、怖いなら止めれば良いさ。あたしゃ子ども達の面倒も見なきゃいけないからね。入る人だけ入っておくれ」

「お子さんがいらっしゃるのですか?」


 僕がそう聞くと、お婆さんは声を出して笑った。


「息子娘はあたしがここに来る前にそれなりに育てて大人になって出ていったよ。今面倒を見ているのは、ここで迷子になって、自分の家に帰ろうとしない子達さ。つまりは身寄りのない子だねぇ」

「そうなんですか。今日だけですが、まだ出来る事はありますか? お手伝いさせてください」

「ああ、それなら俺も手伝いますよ。こいつも手伝いますーー入れますか?」


 バロンを触りながら彼はそう言った。


「手伝ってくれるのかい? 助かるねぇ。と言ってももう夜……そうだ、一人だけ中々寝ない子がいてね。手を焼いているんだよねぇ」


 そう言いながらも口元の綻びを隠せないのは、本気で嫌っているわけではなくて、しっかり面倒を見ているんだという事が伺えた。


「村では僕より下の子もいて少しは面倒見ていたので、何か役に立てる事はあるはずです」

「バロンもガキ好きだもんな。じゃあ泊まる家賃代わりに働きますか」

「ちょ、ちょっと待ってください。私はまだ……」

「お嬢さんは来ないのかい? ここで休んどかないと明日からきついぞ? 音の森に着く明日からが本番なんだからさ」


 ザックは先輩にそう言った。


「おや、音の森に行きたいのかい?」


 お婆さんは反応して問いかける。


「はい。やる事が終わった後、少し時間があったらお話ししますね。僕もお婆さんの話が聞きたいですし」

「そうだねぇ。じゃあ残った仕事をやるとするかいね。ほら、お上がりな」


 そう言って家の扉を開けて僕らを迎え入れてくれた。


(良かったわね)

(さっき戦ったばかりだからね。いつ狙われるかわからないから)

「僕は行きますけど……先輩はどうするんですか?」


 僕が聞くと、彼女は少し弱った顔をして、


「行くわよ。仕方ない。あなた達と野宿はしたくなかったし丁度良いし! じゃあさっさとやって寝るわよ」


 そう言って家の中に入っていった。


「思うのは勝手だけど言わないでくれよなぁ」


 ザックは溜め息を吐きながらそう言ってその後入っていった。

 家の中は外見通り木でできていて、毛皮の絨毯が敷いてある。どうやらこれがティマルスの家として普通の在り方らしい。そして中々に広い部屋には、本やら人形やらが若干散らかっており、机に目をやると、皿から落ちたスプーンとその周辺に赤い液体が少量零れているままの状態だった。


「そこの扉は開けないでおくれ。さっき寝かしつけたばっかりなんだよ」

「ーーはい。わかりました。誰もいないですし、今日はもうその子も寝たって事ですかね。まず僕はお皿洗ってきますね」

「さっきまで起きていたんだけどねぇーーまあ、よろしく頼むよ」

「レノン、濡らした布巾くれ」

「はい」


 僕は台所に持っていくために重ねていた食器を一旦持っていき置くと、布巾を片手で握って流水を唱えて湿らせてバロンに渡した。


「お前はやる事ないなーなんて」


 頭を触ってバロンから雑巾を受け取った。渋い顔をすると、身震いをした後、辺りをうろつき始めた。それを聞いた先輩が辺りを見回していた。


「すみません。結構量が多いので手伝ってもらえませんか?」


 僕が声をかけると、


「仕方ないわね。手伝ってあげるわ。私は水を扱うのが得意だからあなたより多く終わらせられるし」

「お願いします。頼りになりますね」


 そして先輩が僕の横で作業を手伝ってくれる事になった。そうして僕達が後片付けを進めていると、


「ウォー……」

「ん、何か見つけたか?」


 バロンが小さな声で鳴いて、ザックが様子を見に行っているのが見えた。僕も様子を見ようと近づいてみると、机の下から男の子が引っ張り出された。


「バレちゃった……オオカミはズルだよねー」


 ローブを咥えられて引っ張られているメイジスの男の子が言った。


「やっぱり……そんなところに隠れていたのかい? 手伝いもしないで夜まで起きているなんてーーもしかして、悪い子なのかな?」


 そう言ってその少年の元に近づいていく。


「う、ううん。僕は違うよ。夜でもずっと鳴き続けて煩いオウムと違って、ちゃんと静かにしていたもん」

「そんな事言って困らせると竜神様が来ちゃうよ。良いのかい?」

「嫌だ! 竜神様は怖いもん!」

「じゃあもう寝なさい。次もどこかに隠れていたりしたら、本当に来ちゃうからね?」

「来ないでー! でも寝たくない! 眠くないんだもん!」

「まったく……」


 お婆さんは見れば疲れたと分かる顔をして椅子に座った。しかし少年は気付かない様子だった。


「仕方ねーな。少年、名前は何と言う?」

「僕? 僕はイリューゲ!」

「イリューゲ、こいつに乗ってみたいと思わないか?」


 バロンを摩りながらザックは言う。


「良いの!? 竜神様怒らないかな?」

「ちょっとくらいなら気づかないって。竜神様も今は他の悪いやつらを退治するのに忙しいからな。ほら、出るぞ!」

「そうだよね! わかった!」


 イリューゲは走って外に出て、バロンも後について行った。


「こんな時間に外に出すなんて大丈夫かねぇ……?」

「大丈夫ですよ。ちょっと家の前の庭を走るだけですし、バロンが見守ってますから。元気が有り余っているなら、身体を動かした方がよく眠れますって」

「でも竜神様を信じてくれなくなったら……」

「竜神様、ですかーー」


 少し複雑そうな顔をしてザックは言った。飛竜が攻めてきている今、連想するのは当然といえば当然だ。


「昔のティマルスではそう言われていたんだろう? 今では子ども騙しかもしれないって思うかもしれないけどねぇ、悪い事をすると誰かが見ているっていうのは教え込まないといけないとあたしゃ思うんだよねぇ」

「そうですね。似たような事は僕もよく言われましたよーーこの絵はお婆さんが書いたのですか?」


 僕は床に落ちていた鋭い爪と広げた翼が特徴的で、強そうな竜の絵が書いてある本を拾うと、それを見せながら言う。


「ああ、そうだよ。絵は若い頃によく描いていたからねぇ。中々目がギョロッとしていて怖くかけているおかげでね、ここの子ども達にも怖い怖いと効き目は十分なのさ」

「確かに怖いーー子どもを怖がらせる絵にこんな事を言うのは少し細かすぎるかもしれませんが、この竜、脚が四本ありますね」


 横から絵を覗いてきたザックがそんな事を言う。


「竜神様は四本ではないのですか?」

「竜神様は勿論見た事ないけどな。飛竜は竜神様の子孫だと言われている。だから飛竜の手は翼だからそうはなっていないと思うんだ」

「なるほど……僕も知りませんでした。勉強になりますね」

「メイジステンに生息する竜には、四肢に翼がある種類もいますが、ティマルスの飛竜は鳥のように前足が翼ですね。ですが……無粋ですよ。あくまで絵ですし」


 ここに来てから警戒しているのかあまり喋らなかった先輩が、ボソッと言った。


「すみません。貶すつもりはなくってですね、ただ俺は、あまり馴染みがないと思いますし、機会があれば逃さずティマルスに生きる生物の事を知ってほしくて……」

「ザックさんはティマルスの事を知ってほしいって言って色々な事を教えてくれるんです。だから悪気があるわけじゃないので」

「あたしの絵が間違っていたならそれはあたしが悪いから気になさんなって。ただ、ただの飛竜じゃない怪物となったらもっと怖く見えてくるじゃないか。だからこれはこれで使わせてもらうよ」


 そう言ってお婆さんは笑っていた。


「それは勿論。そうしてください。こんな迫力のある絵はそうそう見ないですからーー魔法を使っていますし、メイジスの方でしょうが、昔はどんな事をしていたんですか?」

「あたしの話かい? しても良いけどもう時間がねぇ……」


 お婆さんが欠伸をすると、僕もつられて欠伸をする。疲れが溜まっているのは否定できないし、何より明日がある。先輩を見てみると、隠そうとしているが、目を強く瞑って開いたりと眠そうにしていた。


「僕も眠いので今日はこれくらいにして寝かせてもらっても良いですか?」

「ああ……残念だがそうだな。バロンとイリューゲを呼んできます。もう十分動いたでしょうし」

「そうかい。じゃあ連れ戻したらそこの部屋に寝かしつけといておくれ。後、寝る部屋なら奥のを使って良いよ。綺麗な部屋は一つしかないけど、そこは上手くやっておくれ。私はもう寝かせてもらうよ」


 それだけ言うとお婆さんは欠伸をしながら歩いていった。


「俺達はイリューゲを寝かしつけた後に適当に寝とくからお嬢さんはそこの部屋使って良いぞ」

「ありがとうございます」

「じゃあ先輩、おやすみなさい。また明日頑張りましょうね」

「朝起こしにきてくれても良いぞ」


 先輩はそれに対して何も言わずに扉を閉めた。


「あの嬢さん大丈夫か?」


 ザックは息を吹いた後、僕にそう問いかける。


「先輩はちょっと厳しいですが、しっかりしている人ですし大丈夫ですよ。実力もさっき見た通りあれだけありますし」

「いや、しっかりしているのはわかるが……少々気を張り過ぎな気がするんだけどな」

「仕方ないと思いますよ。先輩の家はすごい名家ですから」

「お前にはそういうのないのか? 同じ従騎士なんだろ?」

「ないわけじゃないんですけど……なんでですかね?」


 もうラティーはない。かと言ってリシューを名乗れる訳ではない。となればただの一般人だ。


「まあ、お前には言っとくけど、あんまり成果を求め過ぎて無理するなよ。死んじゃ意味ないからな?」

「そうですよね。僕もそう思います」

(無理した結果ここにいるのよ?)


 そうだったと返す言葉もなく、項垂れるように頷いた。


「よし、じゃあ迎えに行くか。さて、どれだけ遊ばれているかな」


 僕達が外に出て彼らを見つけたときには、元気な少年の姿はなく、座るバロンにもたれかかっていた。夜だし、ほんの少し動いただけですぐに眠気が来たのだろう。


「この森にこの歳のメイジスか……苦労してんな」

「身寄りもないって言っていましたね」

「元気なのがせめてもの救いだな。お婆さんの愛情を受けて、ティマルスが好きなメイジスに育ってくれると良いがーー」


 そこでバロンが欠伸をした。その欠伸がザックにも移りーー


「よし、じゃあ帰るか。ずっと走らせて悪かった。ありがとな」


 そう声をかけると、バロンは軽く頷いた。僕達も眠っているイリューゲを抱えて家の中に入った。そして他の子ども達の間にそっと降ろし、奥の部屋に行った。今日は色々な事があって疲れていたので、すぐに眠りに就いた。



 ◆



「そういや昨日、音の森に行きたいって言っていたねぇ」

「はい。そう言えば、道って分かったりしませんか?」

「俺もいつも通る道から外れた事はないから分からなくなってですね……」


 朝になり、旅立とうとする僕達がお婆さんに道を聞いてみた。


「時々ここから出て森の外に必要な物を揃えに行くからね。知っているには知っているけど、少し遠いからねぇ……」

「行き方を教えてくれるだけでも助かるのですが……」


 そんな僕達の顔を見たお婆さんは、


「ちょっと待ってなさいよ」


 そう言うと家の中まで歩いていった。しばらくすると家から出てきた。


「ほれ、こいつを連れて行きな」


 そう言って渡されたのはカラスだった。首を傾けて僕の方を見ている。


「これは……」

「使い魔ですね。カラスの使い魔は飛べますし、便利だと聞きます」

「使い魔という事はーー創造魔法! お婆さんは凄い人なんですね!」

(三頭獣じゃないんだし。この程度は出来るもんじゃない?)

(使い魔を作る魔法って言うのは、普通並みの努力では使えないんだよ。サキだったらぽんぽん作れるのかもしれないけど)


 作れるのなら僕だって作っているさ。


(どうかしらね、私ならきっと出来ると思うけどーー鳥も可愛いし、身体が戻ったら何羽か作ってみようかしら)


 サキについて言わずもがな。だがこの人も、只者ではないようだ。


「このカラスはあまり戦えないからね。単純に道案内だけをさせてくれ。そして着いたら勝手に帰るからあまり気にしなくて良いからね」

「こんなに丁寧にしてくれてありがとうございます!」


 お礼を言うと他の二人も頭を下げた。


「良いんだよ。何でこんなところに騎士が来たのか分からないけど、頑張るんだよ」

「はい! 頑張ります!」


 そう言って僕はお婆さんに別れを告げた。


「よろしくね」


 僕がそう言うと、


「カー」


 とだけ鳴いて僕の肩に止まった。そして翼を前に伸ばした。


「これで道を示してくれているのか?」


 お婆さんはゆっくり一度頷いた。


「よし! 行きましょう!」


 夜を乗り越え、気持ちを切り替えて僕達は再び森の中へ入っていった。

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