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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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53話 大伯との帰り道

「うわぁ、ほんっとうにすっごいですね!」


 僕は思わず声を上げてしまう。


「……何度目だ田舎者」

「遠くから見て、近くで見て、中を見て、座ってみて、今出発してなので五回です!」


 指で数えているのを見せながら僕は答える。


「……一々答えなくて良い。そろそろ静かになったらどうだ?」


 辟易とした表情でラドが呆れたように言う。とは言っても驚かずにはいられないのだ。

 馬が四頭もいて、とても細かく煌びやかな装飾が施されていて、僕達全員が悠々と乗れるくらい広くて、埋もれてしまうくらいふかふかで、全然揺れないで音もしないのだから。


「良いじゃない。ラドだって初めてこの馬車に乗ったときは、本当に感動したってあれほど言っていたんだし」

「俺が言ったのは降りた後だ。大伯の前で騒いだりなどしていない」

「あっ……すみませんでした……」


 僕はハッとしてそう言うと、大伯の顔を見る。彼女は何も言葉を発さず、ただ僕の様子を見ていた。


「え、えーっと……そうだ! 助けてくださってありがとうございます。ですが、どうしてここに来てくださったのですか?」


 このままでは気まずい、何か話そうと思って僕は話しかけてみる。


「それはね、私がどうしてもみんなと一緒に戦いたいからお願いをしたらーー」

「見てみたくなったのです」


 フラウの言葉を遮って大伯はそう言った。


「何をですか?」

「この子をあそこまで変えたあなたをです。今のところはそれらしいところは何もわかりませんがーー」

「そ、それは買いかぶり過ぎですよ! 変わったのは彼女自身が成長したからでーー」

「決闘を申し込んで私を領主の座から引きずり下ろそうとし、その戦いの中でこの剣の力を覚醒させる。城に居た頃では想像もつきませんでした」


 大伯は目を瞑って思い出すように言った。


「えっ!?」

(フラウちゃんが!?)

「なんと……!」

「決闘だと!?」


 決闘をしたという二人以外の僕達は目を見開いてフラウの方を見る。彼女はそんな僕達を見回した後、顔を隠すように頷き、


「私が行くにはそうするしかないと思ったから……」


 小さい声でそう呟いた。


「でもありがとう。お陰で助かったよ。それに、僕も少し期待したーーもしあの炎の竜を見てくれて、来てくれたらって」

「そうですね。もしあのままなら、私達は今こうしてここにいる事はないでしょう」

「じゃあ……良かったぁ……」


 少女は目に涙を溜めていっぱいいっぱいにそれだけ言った。そして僕達それぞれを、本当に存在しているのかを確かめるように順に見ていった。その後、縋るようにセレーナの手を取った。彼女はそんな少女を包むように支えていた。


「……そもそも私が敵を見誤ったことに原因があるでしょう。あの鎖……憑魔が関わっていると気がつかなかったとは言え、優秀な騎士を失いかねない采配でした」


 その様子を見た大伯が自分を責めるように言った。


(みんな助かったんだからもうそれで良いじゃないんの?)


 サキはそう言うが、それで終わらないのが領主の立場であり、彼女の視点なのだろう。


「憑魔について何か知っているのですか?」

「過去の資料で見ただけですが、知ってはいました。しかし私の認知の中では、現代で戦った記録はありません」

「お話を聞かせてもらっても良いですか?」


 僕の言葉に大伯は一度大きく息を吐いた。


「憑魔……魂を鎖で縛りつけられた存在。肉体の破壊は意味をなさず、不死身と称された存在。しかし、古代大戦の決戦兵器として研究されていたものの、実戦がないまま破棄された計画だけの存在のはず……」

「古代大戦? それは現代とはあまりにも離れていますね」

(私が戦ったときの黒死の悪魔は、憑魔としては認識されていないという事なのかしらね)

「それで、その憑魔を研究していたのは誰か分かっているのですか?」


 ラドが話に入ってくる。ずっと聞いていたようだ。


「それが今回の疑問の一つと繋がります。その研究の中心人物が、帝国の前身ーーメイジステン王国ルムン辺境伯、アゲート・ルムンです」

「ルムン……!」

「アゲート……!」


 僕とラドはそのキーワードにそれぞれ反応する。


「帝書には名前こそ書き記されていませんが、歴史学者の間では通説とされています」

「そのようなことにも詳しいのですね」

「教養がないと領主は務まらない。そんなこともわからないのか?」

「ラディウス、今日のあなたは……いえ、アムドガルドに来てからでしょうか。とにかくここ最近のあなたは気が立っているように感じますよ。私以外の者にはいつもこのように振舞っているのですか?」

「いえ! そのようなことは……申し訳ございません。以後気をつけるように心がけます」

(やーい怒られてやーんの)


 サキがバカにしたように言う。彼女は騎士を好んでいない趣旨の発言を度々するが、その度にこの声が聞こえなくて良かったと思う。


「普段はそうでないと知っているのですが……何かあれば後で私に話しなさいーーさて、今度は私から聞かせてもらいましょうか。あなたの中にいるとされる魔女との関係と、あなたがアゲートと呼んだ鎧の人物についてをです」

「えっ、僕とサキとの関係ですか?」

(憑依同盟!)

(そう言っても伝わらないからね)

(でもそれ以外だと長くなるし……長くなると色々話さなきゃいけなくなるし……)


 確かに彼女の言う通りなのだ。急にそう言われても困る。僕から話せと言われても、何を話しても良いのか曖昧だ。それに話せる程僕は彼女のとんでも魔法について詳しくない。


(話しても良い?)

(もう隠せないと思うわ)

(ごめん……)


 僕はサキに申し訳ないと思って目を逸らす。そして逸らして気付いた。さっきまで会話から離脱していたフラウとセレーナまで僕の方を向いていたのだ。


「ええ。魔女の噂は当時私の耳にも届いていました。そしてあなたの、あの火炎竜ーー見事でした。瘴気に蝕まれていつつあれ程の規模の火炎竜は、そんな簡単に放つことのできるものではありません。魔女が関わっていると言われれば頷いてしまえる、そう思ったのです」

「ありがとうございます。その……始めに申しておかなければならないのですが、恥ずかしながら僕自身も今起きている状態を完全には理解できていません。それなので彼女の言葉を僕の理解の範囲で話すことになりますが、それでも構わないですか?」

「知らない事は仕方ありません。それで結構ですよ」

「ありがとうございますーー簡潔に言いますと、僕の身体に彼女の魂が存在しているという状態なのだそうです。一つの身体に僕と彼女の二つの魂が共存しているという風に考えてもらって良いとの事です」


 僕は自分達の今の状態を話す。サキも言ったように大伯相手に隠すのは無理だ。それに、下手して不審がられたら身の危険に直結すると、これまでの大伯との関わりで察したのだ。


「そのような話は聞いたことないのですが……つまりそれは魔女の魂を、魂の鎖のようなもので繋ぎ止めているという事ですか?」


 大伯は確認するかのように僕に聞いてくる。


(魂の鎖なんだよね?)

(ええ、そうね。そう呼ばれているものを使ったわ。私ーー私達は憑魔ではないけどね)

「どうやら魂の鎖で繋ぎ止めているそうです」


 その僕の様子を見て、


「ーーやはりその場で両者声にせずとも会話ができるみたいですね」


 と言った。


「はい。今はそうなりました」

「それなら魔女に直接聞くつもりで質問しましょう」

(うえー、難しいこと聞いてきそうで嫌……)


 大伯には聞かせられないような口調のサキを他所に、大伯は口を開いた。


「今回の憑魔を生み出したのはあなたではないですか?」

「ええ!? さすがにそれは無関係ですよ!」


 放たれた言葉に驚き、咄嗟に否定する。


「ですが魂の鎖を扱える人物を一番に疑うべきなのは道理でしょう」

「それは……確かにそうですが……」

「違うと言うのであれば、それで私を納得させてみてください」

(そんなこと言われても、私は知らないし……というか私、殺されているし……)


 そこら辺から何とか話しだしていくしかないか。


「黒死の悪魔は昔にも出没した事があります。その際彼女は戦闘を行っています。そして、命を失っています」

「そう……だったんだ……確かに、聞かなくなっていたけど……」


 セレーナはそう言って悲しそうに目を瞑った。


「魔女による奉仕活動が話題になり、そこから一般人の奉仕活動が流行り、騎士見習いの前身になったのは事実でしょう。飽きたのかと思っていましたが、そんな仕事まで受けていたのですね」


 そして少し息を吐いて僕のことを見る。


(仕事じゃないもん。私がやりたいと思ったからやっただけだし)


 仕事である事を否定するってそれはそれでどうなのかと思ったが、話の流れを切らないために聞き流す。


「そのせいで彼女は身体を失っています。魂だけとなり、それを僕の身体に繋ぎ止めている状態です」

「わかりました。黒死の悪魔、憑魔について知っている事はそれだけですか?」

(どう?)

(うーん、わかんない。私達のこと嫌いなことくらいかしら)


 確かに魔女とシーザーの娘にはやたら反応していた。嫌いと言えば、怨恨の憑魔と言っていたか。


「そうですね……付け加えるなら、彼女と、シーザー卿……じゃなくて辺境伯に対して強い恨みの感情を持っているように感じました。自身のことを、怨恨の感情を魔力に変換する怨恨の憑魔だと言っていましたし」

「ではそれくらいですかね。それでは話を戻してアゲートのことについて話してもらいましょうか」

「あっ、そうでしたね」


 さっきその話をしていて、逸れてサキの話になったのだった。


「アゲートについては先程も話しましたが、古代大戦時代のルムンという都市を任された辺境伯の名。魔物の地、そしてアムドガルドとの国境を守護することで、当時の王、ルシヴ一世を支えて古代大戦を勝利に導き、後に反旗を翻し封印された地の領主です。何故あの鎧男を見てアゲートと呼んだのですか?」

(あれはアゲートだもん。そう呼ばれているって言っていたからそう呼んだだけ。私は古代のことなんか詳しくないわ)

(誰に言われたの?)

(アゲート本人よ)

(あれと会話できるの?)

(私のときはしてくれたけど……今はそうじゃないみたいよね)


 彼女との会話で何も得られなかった。これを正直に言うしかないのかと思うと胸が絞られるように苦しくなった。


「ええと……どうやら、本人がそう言っていたようです……」

「あれと会話などできないだろう。何度我々の言葉を無視したと思っているんだ」


 やっぱりそう思うよなぁ。


「僕もそう思ったのですが、どうやらそうとしか言いようがないみたいでして……古代のことも詳しくないみたいですし」

「……では会ったことがあるみたいですが、アゲートについて知っている事は何かありますか?」

(強い。うるさい。戦闘狂。それくらいかしら?)

「強い、うるさい、戦闘狂……僕達が今回のイメージで感じた程度みたいです」

「これ以上は情報も出そうにないですねーー」

「あ、あの! お母様!」


 フラウが手を挙げて言った。


「何でしょうか?」

「ルムンの怪物って、知っていますか?」

「ええ、知っていますよ。あなたが新聞に載ったあの件ですね」

「うっ……」

「あれは解剖の結果既存の生物ではなかった。というよりはーー既存の魔物を無理矢理繋ぎ合わせて作られたものだったらしいですが……」

「あれにも、鎖が見えた。もし魂の鎖だとしたら、あれも憑魔と関係あるかも……!」

「魔物の死骸を繋ぎ合わせて、鎖で繋いで魂を宿したとしたら……ルムンの憑魔計画、そして合成魔獣計画とも関わりがある可能性があるかもしれない……ということですか」

「だからね! ルムンとアゲートが関係あるかもしれなくてーーだからレノンも、魔女さんも、憑魔にも関係ないと思うの!」


 フラウはハッキリとそう言い切った。


「それだけで確証が取れるわけではないのですが……」


 そう言って周りの顔を見渡す。僕を含めてどんな顔をしていたのだろうか。大伯は溜め息を吐いた。


「……わかりました。まだ判断するには情報が少な過ぎますし、今回はこれで良しとしましょう。レノン、あなたはどんな魔法が使えますか?」

「えっ?」


 唐突な質問に、僕は頭が切り替わらず、抜けた声を出してしまう。


「返答が遅いですよ」

「あっ、そのすみません! 使える魔法は火、風、治癒と簡単な魔法なら他の属性も使えますけど……」

「セレーナ、あなたの評価は?」

「はい。その通りだと私からも見えました。火の魔法はあそこまでのものを、治癒魔法も行く途中に見せてもらいましたが、実戦でも効力のある程度には使用できます。剣は扱えませんが、戦闘経験はあり、実戦慣れをしている印象でした。このまま荒削りな魔法を磨いて剣を使えるように教えれば、リオナの騎士と比べても遜色ない実力に仕上がると思います」


 彼女程の人が僕のことを評価してくれる。そう思うと嬉しかった。

 それを聞いた大伯は少し口角を上げた。


「そうですか。ではセレーナ、あなたに預けます」

「その……それはどういうことですか?」

「従騎士にしなさいと言ったのです」

「セレーナさんの従騎士……? えっ? えええ!? それって、もしかしてーー」

「あなたをリューナ騎士団に迎え入れるということです」

「レ、レノンがセレーナのに!?」


 淡々と言う大伯に、嬉しさよりも何故急にそんなことにと慌てる方が先に来る。フラウの動揺の仕方からも、如何にぶっ飛んだ話だったかが伺える。そんな僕にセレーナも続く。


「しかし試験が……! 試験を通していないですよ。それに陛下にも許可を取って式も行わないといけないですし……」

「試験についてはあなたがそこまで言うなら心配は無用だと思いますが、まさか私に対して虚偽の報告をしたとでも言うのですか?」


 大伯は本当に淡々と話しているだけだが、言葉を発する度に恐ろしさを感じる。


「いえ! そんなことはありませんが……」

「今は可能な限り有力な人材を集めておきたいのです。それに、あの方なら後で言っておけば問題はありません。それに、そのことについてはあなたが心配する必要もないことですよ」

「しかし! 実力があるからと言って、急にそのように入団させると周りの騎士からも批判が……!」

「それをどうにかするのがあなたの仕事です。しかし、何故今更そんなにムキになるのですか? 彼を従騎士にして困ることでもあるのですか?」


 僕は二人のやり取りに口を挟むことができなかった。セレーナがそう思ってしまうのも無理はない。僕にしてくれたあの話は、それだけ今も彼女の心に爪跡を残しているのだろうから。


「いえ……そんなことはないです。彼はきっとリューナに貢献してくれると思います」

「そうですかーーそろそろですね」


 景色が止まり、馬が歩みを止めたことを確認した。


「一人の騎士を抱え込む程度私には負担にもなりません。しかしもし大成しないと判断すればそれまでです。常にそれを意識して励みなさい」

「は、はい! ありがとうございます!」

「フラウは私と共に、この後レノン以外は一人ずつ私の元に来るように。私はまだこの地でやらなければならないことがありますから、この後のことについて指示を出します」

「えっ、私もレノンと話し……」


 フラウが言い終える前に扉が開かれる。そこには騎士が整列していた。先に大伯とフラウの二人が降りると、一糸乱れぬ動作で全員が礼をする。


「皆ご苦労様です。無事騎士ラディウス、セレーナの二名を生還させることに成功しました」


 ラドとセレーナが馬車から降りると騎士の間で喜びの声が上がり、大きな拍手が起こる。それを静止させると、再び静かになった。


「そこの少年を客人として扱い、二人の騎士と同様部屋を与えなさい。事情は追って話します」

「はっ! さあ、こちらへーー」


 そう言うと二人は騎士に連れられて歩いて行った。


「任務お疲れ様です。またこうして言葉を交わせることを光栄に思います。お疲れになっていると思われますのでまずは体を休めてください。肩をお貸し致しましょうか?」


 見た目麗しい騎士がセレーナに話しかける。ラドも他の騎士に問われたのだろう。手で断る合図を出していた。


「私は大丈夫です。それより彼をお願いします」

「えっ……はい、かしこまりました。部屋はこちらになります」


 少し残念そうな顔を騎士がしていたが、僕を嫌っているわけではないみたいで、肩を貸してくれた後、僕達に道を示してくれた。そしてそのまま部屋まで案内してくれた。

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