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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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51話 コイントス

「…………そんなデタラメな作り話を我にしたところで、今のこの状況は変わらんぞ?」

「だったら最後まで聞き流してくれて構わないよ。どうせお前はセレーナさんが作り出した浄化地帯には怖くて手が出せないんだ。だって、出てきてもラドさんにやられるのが目に見えているからね」


 憑魔はそれに対して答えず、無言を貫いた。守護騎士の二人も頭の上に疑問符が残ったままであろうが、とりあえず聞いてくれるらしい。


「じゃあ続けるよ。と言ってももう終わりだ。彼女との勝負は一瞬。いや……勝負にもならなかったね。だってお前は、彼女の魔法のほんの一撃でやられてしまったんだもん。まあ、死んだふりだったみたいだけどね」

「クッ……ククク……とんでもない作り話でも、さも今聞いたかのように話せば真実にも聞こえてくるな。上等だ。では聞かせてもらおうか。その我を一撃で倒したという魔法の名をな!」

(名前だってさ。ちょっと今教えてくれないか?)


 僕はその場でサキに聞く。


(えっ? 魔法の名前……? そんなの付けないし、いつも意識してないから……えーっと……私くらいの大きさの八つのまん丸な炎が、相手のところにクルクルーって囲んで出てきて、それが全部、バーン! ってなるやつなんだけど……)

「ふむふむ、なるほどなるほどーーえっ!? ハハッ……それは、すごいなぁ……」


 演出としてわざとらしく相槌をうってやろうと思ったが、その魔法があまりにも容赦が無さすぎて素で驚いてしまった。人と同じ大きさの炎の球体を、複数作り出して爆発させる……そんなのを人に撃ったらどうなるかーー僕はこれ以上想像するのをやめた。


「まるで誰かから聞いているようなーー」

「……この我を前にしてまだふざけ続けるというのか?」


 やはり敵味方問わず僕を不審に思い、言葉を投げかけられる。


「ふざけてなんかいないとも。しっかり聞いていたんだよ。魔女ーーサキ本人からね」

「その名を……! いや、笑止! そんなことができるわけがない! 魔女は殺した! この我の手で確実に……!」

「だけど僕はしっかりと彼女から聞いたのさ。だからお前の質問にも答えられるよーー彼女は型にはまった魔法を使用しない。だから彼女が使う魔法は、他人の真似をして使わない限り、名前なんてない」

「ぬぅ……」


 どうやら憑魔もそのことを知っていたらしく、声を漏らす。


「その魔法の内容は、彼女ほどの大きさの炎の球体を八つ作り出してお前を囲み、爆破させるというものだ」

「なっ……何を使った!? あの男に聞いたのか!? 過去を見る魔法か!? それとも我の思考を読み取る魔法か!」


 その声の雰囲気から、また言い当てられたことに焦りが出てきたことを感じる。


「そのどれでもない。僕の魂とサキの魂は繋がっている。だから会話ができるのさ」

「憑魔……? いや、それとは異なる。そんなデタラメなことが……!」

「憑魔だってデタラメだ。お前がそうなのに、なんで僕がデタラメな状態じゃないと思ったんだ?」

「くっ……! 勝手に調子に乗りおって……!」


 冷静さを失わせるまであと一歩というところだ。僕はその理性を砕くために口を開いた。


「彼女は身体が引き裂かれて失われようとも、その魂は死んでいないーー彼女を殺せたと思い上がり、勝手に調子に乗っていたのはお前の方だ!」

「ぬううううぅ……! であれば! であれば! 今度こそ魂まで汝ごと消し去ってくれるわあああああ!!」


 怨恨の憑魔がそう叫ぶと、僕の元に突っ込んで来た。


 ーーーーそう。これは僕の全て。今までの戦いで得てきた経験。

 偉大な天才魔女と憑依同盟を結び、僕の魂の部屋に共存していること。彼女と戦ったことがあるのであれば、それを脅威と感じないわけがない。

 そして今、怨恨の憑魔をおびき寄せた状況は、あの憎き帝の影、ルクレシウスにやられた均衡を崩す方法。一番やられて辛い経験なら、それだけ有効な方法のはずだ。

 そしてーー


(いくよ! サキ!)

(しっかり集めたわよ。お願いね、レノン!)


 僕が整えたこの舞台に、彼女の魔力を解き放つ。その魔力に僕の理想、そして僕に期待してくれている人達の理想を上乗せする。


「お前はまた、サキの魔法にやられるんだ! 火炎竜!」


 使用する魔力の大きさが、身体が認める分を大きく超えている。全身に激痛を感じながらも僕が使える限りで最も強い魔法、火炎竜を放つ。不必要なほどにとにかく広大な玉座の間を、炎で埋め尽くすほどに巨大な竜が姿を現した。


「なっ!? この大きさは……!」


 黒煙から飛び出して僕、そしてサキを斬り裂こうとする怨恨の憑魔は、それを見て思わず声を漏らした。しかし浮いているからだろう。憑魔は空中であるにもかかわらず咄嗟に軌道を変え、避けようとする。


「まだまだ速く! 突風刃!」


 そこで僕は杖で大きく弧を描き、近づくものを吹き飛ばす風を生み出す。その風は、先に放っていた炎の竜を加速させる。


「くそっ! だがあああ!」


 竜は前に伸ばしていない鎌を持っている方の腕を鎌ごと燃やし尽くし、その後も蝕まれながらも、その魔力の巨大さ故に消えずに飛んで行った。魔法では鎖は切れないのか、鎖を繋いでいる骨の方が消滅するも、鎖はそのままであり続けた。


(クソッ……もし全身に当たっていれば!)

(そんな! 上手くいったと思ったのに!)

「人であればあれで仕留められたかもしれないが、我はその常識からも外れる存在である!」


 そう言った後、鎌が無いことを確認すると、僕に殴りかかってくる。


「レノンくん!」


 セレーナは咄嗟に盾を作り、憑魔の攻撃を妨害する。


「そこにも死に損ないがいたか。我は今度こそ魔女を完全に殺さなければならないのだ! 騎士は首を落としてじっとしていろ!」

「うぅ……!」


 鞭のように速くセレーナの首めがけて振るわれる腕を剣で受け止めるも、これまでの疲労からか大きく仰け反る。


「……来た! 皆さん伏せてください!」

「何故だ? な、なんだこれはーー」


 僕がそう言った直後、頭上を物凄い熱と風が通り抜けた。僕達は伏せることで燃やされずとも、その風の勢いに身体が耐えきれず引きずられ、結界の端にぶつかって止まる。


「うぐぐぐぐぐぐううう! これで燃やし切れると思うなよおおおお!!」


 一人伏せても地に着かなかった怨恨の憑魔がその炎をもろに受ける。そして強い風に引っ張られながら、結界の外まで飛ばされた。


「セレーナさん! 今です! 瘴気結界を払ってください!」

「ーーえっ!? はい!」


 よくわからないと言った様子だが、セレーナは浄化を強める。

 すると結界は一瞬で消え去った。


「やった……! 出られないのは僕達だけで、あいつ自身は結界の外に出られたんです。だから結界の外に出てまた戻ってくることでセレーナさんを撹乱される攻撃ができたんです」

「ーー確かに、そうかもしれません」

「そしてあいつは常に結界の中で魔力を供給し続けないと、セレーナさんと拮抗できる程の魔力を保てなかった。だから撹乱攻撃を繰り返した後、ラドさんの追撃を許すほどに浄化地帯が広がっていた。やつを結界の外に出す。これがあの結界の弱点です!」

「何故だ……何故火炎竜が戻ってきた! あれは放つ炎を竜に見立てた魔法。動かせても曲げる程度、撃ち終わった後に操る事などできないはず……!」


 身に纏うローブは完全に消え去り、身体の所々が燃え尽きて穴が空いてボロボロになりつつも、まだ身体が鎖に繋がれていた。


「火炎竜は翼がないから空を自由に飛べない。それなら胴体を風で伸ばして翼を作れば、飛べるようになると思ったんだ。お前は見た目に騙された。あれの目的は風の方だったんだ」

(どんなもんよ! まあ私は至高の魔法を操る天才魔女だから! まあこれですら全盛期には及ばないんだし!)


 すぐ調子に乗るけど、サキのおかげで勝てたのはその通りだからそのままにーーいや、ここは参考にしよう。


「そもそもどうやってその魔力を得た? お前は魔女の何なのだ?」


 ラドが僕に問いかける。


「後で自分でもわかる限りお話しします。ただ、まだ終わっていないです」


 僕は風に逆らって身体に集まる灰を見ながら言った。それは唸り声を上げながら振動し、再び人の姿を構成し始めた。


(憑魔……あれだけの魔法を受けてもまだ立ち上がるなんて…………)


 僕も同意だ。『死なず、再生する』。それは言葉として理解していても、これをぶつければ或いはーーなんて思ってしまう。憑魔は人とは異なるということをとことんまで感じさせられる。

 しかし流石にそれは計算の内だ。僕はあいつを撃退させるための手を打ちにいく。


「もう結界は攻略した。望むなら何度でも使うと良いさ。その度に魔女の魔法をぶつけてやる。あのときの恐怖を思い出させてやる。僕は彼女の魔法を使っている。だからその内憑魔さえ撃ち抜く魔法が見つかるから、そのときまでだけどね」


 全身が痛みに耐え、今すぐ倒れこみたいという気持ちを抑え込み、できるだけ余裕がありそうにそう言ってみせた。

 あれは人ではないが、感情がないわけではない。故に人の中でもメイジスのみを恨み、手の込んだ策を打ってきた。

 それならば、記憶に焼き付いているであろうあの魔女の魔法を再現されて怖かったはずだ。実際にできるできないじゃない。あれを何度でも繰り返されると信じこませろ。憑魔は一度フラウとの戦いで逃げているんだ。だから今回も或いはーー


「ヴヴヴォアアアアアアアアアアアア!!」


 人の叫び声とは雰囲気が違う。まるで獣の雄叫びのようなものを上げ、再生しかけの身体のまま地を踏みしめ、骨が軋む足音を立てながら僕の元に走ってくる。


「さっさとくたばれ!」

「くっ……止まりなさい!」


 二人の守護騎士の炎と雷に当たりながらも起き上がり、肩が撃ち抜かれようが、頭が取れようが止まらずに僕に向かってくる。


「アアアアアアアアアアアァ!!」

「ハハッ……お前、足があったのか。そうやって見ると、思ったより全然小さいな……」


 僕はローブで隠されていた足と、子どもくらいの大きさしかない骨の身体を見て呟く。浮いているために細長く足がないとは思っていたが、まさか足があった上でそれだけの背丈しかなかったとは。


(そんなこと言っている場合じゃない! 早く避けて! 何とかしないと!)


 そう言われたってどうしようもないのだ。さっきのは尻尾を巻かせるための嘘。本当は今強化する魔力すらないし、火炎竜の反動の激痛に疲労で立っているのも精一杯。大地を蹴って回避するなどできるわけもない。


「第一のコインは裏だったね……」


 本当はこれで決めたかった。だって僕が決着をつけることができるのは、このコインしかなかったのだから。


(それなら後二枚は!?)

「この火の竜を見たフラウに託すんだ……フラウ、ごめんよ……僕じゃダメだった。あとは任せたよ……」


 いつ来るかなんてわからない。だけど彼女ならこの憑魔を放って置くなんてあり得ない。

 どうかあの炎の竜を見ていておくれ。そしてここに来ておくれ。最期まで他人に頼りきりで情けない僕はともかく、今ならあの二人は助けられるからーー


「アアァ……ヴヴヴアアァァァ!!」


 既に理性のない憑魔は、それだけを言いながら僕に向かって歩いてくる。武器などない。手がない腕を僕の心臓めがけて突き刺すつもりだろうか。


「くっ……!」

「レノンくん逃げて!」


 僕の目の前に透明な盾が作られるも、セレーナもほとんど魔力が残っていないという様子だ。あれだけ長く魔法を使い続けた後のこれだ。無理して作っているのだろう。

 盾にぶつける音がする。ただひたすら盾に腕を打ちつけている様子が見える。


「ヴヴヴアアアアアァァァ!!」


 叫び声と同時に放たれる一撃に力が入る。強化の魔法が更にかかったのだろう。盾が鳴らす音も変わってきた。


「レノンくん! 逃げてよおおお!」

(お願い! 何でも良いから誰か助けて!)

「セレーナさん……僕はもうーー」

「アアァァ…………!?」


 ーーそんな祈りが届いたかのように憑魔は足を止めた。その後、手があれば届いたであろうという距離まで腕を伸ばしたが、それが僕に触れることはなかった。

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