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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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50話 魔女の死因

(ふざけないでよ。嘘だよね?)

(信頼されていたかったから言わな……ううん、言えなかっただけ。本当の事よ)

(今はそんな事言ってふざけている場合じゃないんだよ……!)

(……今そんな余裕がないのはわかっているつもりよ。だから正直に言ったんじゃない)

「そんな……」


 信じられない事を言った。サキがあの憑魔に負けていた事を認めた。


「そんな、はずが……」


 そのとき、僕の中で音を立てて糸が切れたのがわかった。切れてはいけない糸が、一縷の希望であり、僕に自信を与えてくれていた蜘蛛の糸が、切り落とされてしまった。


「だって……」


 だって、不十分な状態ながらもその力の片鱗を使って僕の故郷、ラティーの村で奇跡を起こしたあの彼女がだぞ。色々あるけど、魔法の面では僕の憧れの人だ。


「はずなのに……」


 そんな彼女が十全な状態で戦っても勝てなかった相手。それがこの怨恨の憑魔だというのか。

 彼女と力を合わせれば、悪魔とだって戦えると思っていた。でも彼女の力でも足りないんだってさ。

 諦めちゃいけないのはわかっているよ。

 ーーでもさ……ハハッ、そんなの勝ち目があるわけないじゃないか。


「クフフフフフッ! 魔法の才能だけなら他の追随を許さず、天から授けられた才などという嘘臭い大袈裟な喩え話を、大真面目に信じざるを得ないほどのあの魔女を! 奇跡を起こす力を持ちながらっ! それを持て余しっ! 自らの幸福と満足のみを追求した最強の愚か者の神話に! この我が終焉を告げたのだ!」

「話は聞いたことがあるわ。一度も会うことはなかったけど、現れる度に願いを叶える奇跡を起こす旅人。騎士見習いの元となったと言われるあのーー」

「話に踊らされるな。有名になりたいがために魔法の習熟が不十分な過疎地を狙って大袈裟に魔法を使ったただの曲芸師だ」


 今まで頼りにしていた二人の発言すらも無知、或いはただの強がりに聞こえてしまう。


「レノンくん……?  大丈夫!?」


 急に動悸が止まらなくなった。黒の煙を見た。その中にサキを殺した敵がいる。それが僕達を殺そうとしている。そう考えただけで立っていられなくなる。天と地が回転して混ざり出して、目も開けていられなくなる。

 セレーナが僕に駆け寄る。


「くそっ……覚悟が足りない素人め!」


 そう言ってラドは僕達の前で剣を構えはするも、動き出せない。


「クフッ、クハハハハハ! あれの噂を知っている者であれば、そうなってもおかしくない! それ程圧倒的な存在であったのだから。それが、惨めにも首を落とされ、身体を抉られたのだ。我のこの鎌で!」

「止めろ! 止めろ! それ以上言うなああああ!」

「レノンくん! 落ち着いて!」


 そんなの落ち着いていられるわけないだろう。だって、だってあのサキがーー


(そうよ。いつまでも喚いてないで、いい加減落ち着きなさい)


 静かにサキは言った。


「なんで!? なんで君はそんなに落ち着いていられるんだ! 怖くないのかよ!」

(怖かったわよ。昔殺された相手に挑みに行くって言い出すんだもの。あなたを殺させてしまうかもしれない。私が情けない事を気付かせてしまうかもしれないってね)

「じ、じゃあなんで……」

(あなたが行くと言ったから。みんな逃げないで戦うって言っているのに、私だけ逃げ続けるのは良くないって思ったから。そう思いつつも、あなたが傷つく度に、厳しい言葉に悩む度に、諦めてくれないかって心の隅で期待してしまったから、言えなかったけど……)

「サキ……」


 なんて言えば良いかわからない。今の僕には、呼ぶことしかできなかった。


(ところでねーーお話には続きがあるのよ。私が死んだ後の話がね。擬似伝心で聞けたら教えてあげるわ。言い訳みたいで、もっと情けなくて本当は嫌だけど……聞ける?)

(うん……でも死んだ後なのになんで続きがわかるのさ)


 僕はサキに言われるがままに頭の中で言葉を思い浮かべてサキと会話をする。


(落ち着いてきたわねーーそれはね、前に言っていなかったかしら? 私が知っている黒死の悪魔は人の姿をしていたって。私が殺されたときには、この憑魔はまあまあ美しい女性の姿をしていたからよ)

(えっ……?)

(それなのに再会してみたら、なんと醜いし、見るからに憑魔! とにかく骨だけとか人外じゃない! この姿になりざるを得ない状況にこいつはさせられているのよ)

(それってつまり?)

(私の弟子かしら? とにかく誰かが、中途半端かもしれないけど、やつの前の身体は完全におさらばさせているのよ)

(サキでも勝てなかったのに?)

(うん……あー、あのね、レノン。これ、すっごい恥ずかしくて本当は言いたくないんだけど、言うね)

(うん……?)


 何だろうと首をかしげる。何を言うのか想像もつかない。


(私、こいつのこと、一撃で討伐したかと思って、確認しに行ったら、憑魔だから元々死んでいるけど、死んだふりで不意打ちされて斬られたの)

(そ、そうなの? 全力を出して手を尽くしても勝てなかったんじゃなくて?)

(そもそも私ですらその有様だったら他のメイジスがこいつのこと追い込めるわけないし)

(なんで戦う前にそう言っておいてくれないんだよ!)

(レノンってさ、いくつまでおねしょしてた? 今でもする?)

(何をいきなり! 今までしてこなかっただろ! するわけないって!)

(ふふっーーそうよね。知っているわ)


 このような状況なのに僕の声を聞いた彼女は、何故か笑っていた。


(天才魔女ですごい魔法をいっぱい使えるようになったのに、自動障壁とか自動再生をかけ忘れて、立派な特製ローブに魔力を込めないで斬られて死んだってダサ過ぎない?)

(……ダサいね。とってもダサい。でもそれどころの騒ぎじゃないよね)


 だがなんか彼女らしい。本当に取り返しのつかない目にあっているから笑えはしないが。


(…………だからできるだけ言いたくなかったの。ごめんなさい)

(……それで? それはわかったけどーー)

(だーかーら! あの時私はやられてしまったけど、私の魔法はあいつに負けてないの。だからあなたが私の魔法を使いなさい。そしたら絶対に負けないわ)

(絶対って言われてもーー何か策はあるの?)

(策? 策というか……あのときの私は気を抜いてしまったけど、今の私は最後まで真剣よ。あなたも真剣にどうにかしようと考えて策を練れば、勝てないことなんてないわ)

(何じゃそりゃ)


 相変わらず彼女の話はあまり理屈が通っていないような気がする。でも、話を最後まで聞いた今、さっきほどの絶望感はない。サキがいなくても誰かはこの未知の存在、憑魔を倒せたんだ。それなら、天才魔女と力を合わせる僕が負けるわけにはいかない。


「ふふっ……」


 確信、威勢、余裕。全部を取り戻した僕は思わず笑みがこぼれる。なんだ。僕とこいつは同じなんだ。ただ、立場が違うだけのことだ。それならば、とても簡単なことじゃないか。


「レノンくん……?」

「何がおかしい? 魔女をも殺した我を小馬鹿にできるとでも言うのか」

(ねぇ、サキ。今の話って嘘じゃないよね? もう見栄は張ってないよね?)


 僕は憑魔を無視してサキに問いかける。


(嘘をつくならもうちょっとマシな内容にするわよ。本当に情けなくて恥ずかしいし……)

(確かにそうだよね)

(何その生意気なーー何か思いついたの?)

(三枚のコインを黒煙に投げるとする。その内何枚が裏になると思う?)

(……真面目に聞いているの?)

(うん。正直に、率直に答えてよ)

(よくわからないけど……投げてみないとわからないし、黒煙の中だから見えないわ。こんな答えでごめんなさい)


 サキは申し訳なさそうに言った。


(いいや、十分だよ。ありがとう。投げる前から全部裏だってわかるなら、怖くてちょっと無理だけどさ。わからないならやってみる価値があるよね。この賭けには、僕達の全てを賭けるからさ)

(何か思いついたのね? どんなとは今更聞かないわ。私にできることはある?)


 彼女はそう聞いてくれた。彼女は僕のことを信頼してくれている。


(あと二回だけ魔法を使うんだ。それまでに可能な限り魔力を溜めてほしい。次で八割、その次で残り全部を使い切る)

(わかったわ。ベッドは質に入れて良いの?)

(家ごと頼むよ。残るのは僕とサキだけで良い)

(それくらいじゃないと勝てないわね。鎖を全部外して、できるだけ溜めて、あなたに流すわ)

(ありがとう。信じてくれて)


 彼女の魔力を借りられるなら負けるはずがない。後はそれを通すために、如何に僕がお膳立てをすることができるかだ。いいや、彼女の魔法を、僕の言葉で更に価値を高めよう。


「何を黙っている。何か言ってみたらどうだ」


 無視し続けてそれなりに時間が経ったのだろうか。怨恨の憑魔は苛立ちを露わにする。


「無視して悪かったよ。そうだなーー折角だから教えてくれないかな?」

「……何をだ?」

「お前がどうやって魔女を倒したのかをさ。まさかせこく不意打ちなんて、してないよね?」

「……どうせ汝はもう死ぬのだ。それを知らせる理由などない」


 憑魔は低く掠れた声で呟くように言った。


「隠すのかい? あれだけ自慢気に語っていたお前の最大の手柄なのに」

「そうやって我を煽り、怒らせようというのだろう。しかしその手にはーー」

「だったら僕が説明しても良いかい?」

「は?」

「えっ……?」

「何を言っているのだ……?」


 敵味方問わず疑問の言葉を投げかけられる。


「君があの日、死んだふりをして彼女を近づかせ、どうしようもなく不注意な彼女を不意打ちで殺した話をさ」

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