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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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48話 悪魔との戦い

「仕事だから仕方なく関わってやってるって察してくれよ……会議以外で剣族の男なんか見たくないだろ普通。奴隷にしないで居させてやってるんだからさぁ……その出来の良い頭使ってそれくらい察してさぁ、視界に入らない気遣いしてくれないかね?」


 これは別に構わない。騎士ーーメイジスというのは生まれた瞬間からこういう屑ばかりなのかもしれないのだから。


「あーあー、学者のクーリィ様は良いよなぁ。メイジスに気に入られてよ。スールもヤンドも、ミーネまで……みんな連れてかれて帰ってこないのに、お前は何度行っても帰ってこれるんだもんなぁ。くそっ、お前だけが良い思いしてさぁ」

「止めてよお兄ちゃん。クーリィさんのお陰でこの村はまだ残ってるんだよ。クーリィさんが来なくなったらこの村は……」


 メイジスから放たれるどの言葉よりも、この言葉が辛かった。昔は、子どもの頃はこの村が俺の居場所だったのに。子どもの頃はこんなこと言うやつじゃなかったのに。五人で家の手伝いを抜け出して、遊んで、笑って、怒られて、次はどう出し抜こうかって考えて、目を輝かせていたのにーー


「これが成功者、剣族は俺みたいになれば幸せを掴める、か……」


 正気かよ。こんなのが成功で、最高で、頂点なのかよ。見せる夢がこれってーー


「ほんっと、夢がない世界だよな」



 ◆



 部屋の隅にまで届くほどの大きな音が響く。ラドが黒死の悪魔の鎌による一撃を受け止めてみせたのだ。彼の身体と剣は光を帯びており、セレーナによる強化の魔法の支援を受けていることが窺えた。


「……守護騎士ともなれば、この吸魔の大鎌の模造品の一撃でとはいかぬか」


 黒死の悪魔はそう呟き、その後も何度か鎌を振り回す。しかしそれさえもラドは、全て捌き切ってみせた。


「ーーやはり見慣れず、聞き慣れないな。前の戦いのときも思ったが……その鎌、俺が知っている金属ではないようだな」

「当然である。我は秩序を破壊する存在。故に常識を超越する存在である。如何に貴様が騎士の上位に君臨すれども秩序の内側の存在であることに変わりはない」

「そうか。ではその鎌は魔法で作られたーー」

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ。今度はこいつをお見舞いしてやる!」


 ラドの言葉、思考を遮るようにクーリィが魔本から魔力を放出させる。それは黒い光を放つ球体を象り、そこから何本も黒い雷を走らせた。


「私が守る!」


 空かさずセレーナが魔法を唱える。すると一瞬で僕達の前にそれぞれ一つずつ透明な盾が現れ、雷を防ぐ。盾は頑丈で、一安心と思ったのも束の間、黒死の悪魔がその雷の間を縫って僕に襲いかかってきた。


(レノン! 来るわよ!)

「わかってるって!」


 僕は強化の魔法に割く魔力を増やしておき、待ち構える。案の定相手は盾を回り込んで鎌を振り下ろさんとする。


「風刃!」


 悪魔の腕目がけて大きな弧を描く風の刃を放つ。それは鎌を持っている方の腕を切断し、僕に向かう相手の武器を失わせた。


「小賢しい真似を!」


 悪魔は黒のローブに身をくるめ、そのまま僕に突っ込む。僕はそれが目の前に来たことを確認すると、杖を振り下ろした。セレーナの強化の魔法も加わった一撃は、その身体を地に落とした後に粉砕した。


「貴様……よくも我の腕を!」

「レノンくん! 距離を取って!」


 セレーナの声を聞いて僕は後ろに飛ぶ。切断された鎌を持った腕がそのまま浮かび上がり、僕に斬りかかる。それはセレーナの魔法と思われる光の壁が遮った。既に雷は止まっており、僕は襲われることもなかった。


「魔本を閉じてまで避けるとは、やはりその本を攻撃されたら困るというわけか」

「くっ……」


 ラドが剣を魔本に向けながらクーリィに言う。どうやら魔法が消えたのはそのためらしい。


「魔本と黒死の魔法も同時に全力で使えないみたいですね。リシューでは苦しめられましたが、アムドガルドではあのとき火炎竜を消す一度だけ、最低限しか黒死の魔法を使っていません」


 僕も言葉を紡ぎ、彼らを追い詰める。


「その魔本から出る魔法は相当な威力がある。それにアムドガルド中に配ったいくつもある魔本もお前から供給されているのだろう。噂に聞く黒死の結界魔法も、魔力消費は尋常でないと推察できる。同時使用は無理があったというわけだ。仮に使用できたとしても、セレーナにかき消されて終わりだっただろうがな」

「クーリィさん、もう止めましょう。もし私達に勝っていたとしても、遅かれ早かれこうなることは見えていました。幸い犠牲者も少ないです。今のうちにーー」

「まだ犠牲者が少ないだと……? ふざけるな! 犠牲者は千年を超える歴史の中で生きていた剣族全員だ! これ以上増やすわけにはいかないんだよーー次の世代の子ども達に、こんな夢のない世界を見せられっかよ!!」


 その言葉に合わせるかのように本が強く赤い光を放つ。


「帝書百六十八頁七行目引用……」


 その呟きに合わせて魔本が開いたかと思ったら、今度は頁が勝手にめくられる。


「させるか……!」


 ラドがその様子から何かを察知し、剣を地に刺す。すると地鳴りと共に炎の大蛇が地面から姿を現し、本を持つクーリィに襲いかかる。彼は後ろに跳躍しそれを躱すも、部屋の隅に追いやられる。


「逃しはしない。これで終わりだ!」

「逃げやしないさ。この一撃をメイジスの終わりの始まりの合図とするーー」


 ラドの言葉に対して答えるように言った。


「纏命……輝射!」


 クーリィの身体の前方に、身体に対して巨大な光の弓が現れる。


「バカな……!? それは古代の禁術。現代を生きる者に使えるはずがーー」

「ラド! そんなこと言っている場合じゃない! 今は!」


 セレーナが強化の魔法をラドと剣にかけ、そこから伸びる炎の大蛇を巨大化させる。


「僕達もだ!」

(ええ、絶対負けないように!)


 僕もセレーナと同じように炎の大蛇を強化させる。


「いざ射らん!」


 そう宣言すると、その弓は手で引かれることはなく、胸の辺りが一度光ると、そこからとてつもなく強い光が束ねられ、一本の線となって放たれた。


「ぐううううう! なんてものを……使いやがる……!」


 僕ら全員の力が一体となった大蛇も、その一撃に前進を止める。巨大な魔法に対して大蛇が唸るように轟音を立てていたが、やがてそのからだが削られ始める。


「これでも……ダメなの!?」

「セレーナ! もうこいつはダメだ! お前らだけでも盾で守れ!」


 セレーナの呟きに対し、ラドが叫ぶ。


「そんなーー」


 そう言っている間にからだは削られ続け、遂に大蛇は貫かれる。その光はラドに迫り、同じように貫かれると思った瞬間ーー


「なっ……何故こんなことをした……?」


 クーリィが苦しそうに胸を押さえながら尋ねた。その光は大蛇が貫かれて消えるとほぼ同時に輝きを失い、塵と化していた。

 尋ねられた相手はなんと黒死の悪魔で、魔本は半分に引き裂かれていた。


「今の魔法は生命力そのものを魔力に変えて放つ禁術。我がその本を斬り捨てねば、汝は死んでいたぞ?」

「チッ……バカだな……そのつもりで撃ったんだ。剣族は頭良いやつが多いからな。俺じゃなくても、お前を扱えるやつはすぐ見つかるさ」


 クーリィはそう答えた後、笑顔でそう言ってみせた。


「貴様が何を言おうと、我は汝の死を認めぬ。自ら望む死は逃避である。我は汝が理想から逃避することを認めぬ」

「またそれか。お膳立てまでしてやって、本当は魔力なんて溢れている癖に、黒死の魔法を使えと言っても聞かねぇしよ……本当にわがままな悪魔だな」

「黒死の魔法は剣族が横にいる場では使用せぬ。我は帝国の秩序たるメイジスのみを恨む者。他の者を手にかけることはあらず」


 それを聞くと、クーリィはため息をついた。


「結局は俺が邪魔ってことかよ……まあ、あんたの言う通りあれほどの魔力のぶつけ合いでもあれを呼び出すことは叶わなかった。それができないなら、もう俺が戦ってもしょうがないかーーで、俺はどうすれば良い?」

「その窓だ。行け」


 黒死の悪魔は白く細い指で大きな窓を指した。


「でもよ、それじゃあ敵前逃亡だ。逃げるなと言っているのに逃げても良いのかよ?」

「………………行け」


 煽るようにそう言うと、再びそれだけ繰り返した。


「悪かったって。そう怒るなよって」


 黒死の悪魔の頭を軽く叩いてそう言った。そして僕達に背を向け、走り出そうとしたときに後ろを向いたまま、


「ヴィロになってやれなくて、ごめんな……」


 黒死の悪魔に向けて小さくそう呟いた。


「そういうわけで、俺は理想を果たすために、黒死のに殿を任せてこの地を後にすることになったから。折角だからこれをーーんじゃあ、じゃあな!」

「あっ……ちょっ……!」


 僕達が動こうとしたら黒死の悪魔が行く手を阻み、クーリィは置き土産とばかりに裂かれた魔本を投げ、そこから強い光を発生させた。


「うっ……!?」


 僕達は思わず目を瞑り、無意識的に使えるのであろうセレーナの盾が目の前に展開される。光が収まると、灰となって崩れていく魔本だけが残っており、クーリィの姿は消えていた。


「あんなの一人で十分だ。誰があんな壊れた楔石になれなどと言ったか」

(ヴィロを知っている……? あのときの生き残りということ?)


 言われた方も小さく呟いた。その言い様は確かにヴィロを知っているかのような口ぶりだった。


「もう良いな? 俺達からすれば悪魔であるお前を討伐することが目的だ。貴様が逃げないとなれば好都合だ」

「……時間稼ぎと思うなよ。我は汝らを殺す。常識の外の魔法でな」


 黒死の悪魔の黒のローブの端が溶け出して煙に変わる。それがドーム状に拡がり始め、辺りを覆い尽くそうとする。


「来ましたね、黒死結界。しかしそうはさせません。私がいる限り、不浄をもたらすものは全て無害なものに変えてみせます!」


 セレーナは待っていたと言うように黒く染まり始めた空間を元の色に戻し始める。


「……さすが守護騎士、リューナ騎士の医長の座を欲しいがままにするだけはある。浄化の速度も並ではない」

「そう余裕を持って言っていられるのも今のうちです。毒、病、呪いの類はかけるより消す方が単純で簡単なのが常です。根比べなら負けません……!」


 そして瘴気の根源となる黒煙を完全に浄化したと思われたそのときーー

 再び結界が辺りを覆い尽くした。


「往生際が悪いな。その結界を張り続けようとどうせすぐ剥がされ、いずれ貴様の魔力は尽きる。セレーナには敵わないと言うのにーー」

「クフフフフ……」


 ラドのその言葉を聞いて諦めて襲ってくるかと思ったが、変わらずに結界を展開し続け、不敵に笑い声をこぼし始めた。


「何がおかしい」

「これのどこがおかしくないものか。常識に囚われたメイジス共のなんと哀れなことか。これが今度は絶望の色に染まっていくのだから憐れである」

「……どういうことだよ?」


 あまりの不気味さに耐えきれず、僕は黒死の悪魔に問いかける。


「わからぬか? 無理もない。であれば聞いて絶望しろーー」


 そう言った後、悪魔は再び口を開いた。


「此度の戦いで我が瘴気結界が尽きることはない。何故なら我の魔力はこの地にて無限なのだからな」


 黒死の悪魔は余裕を持った声色で言った。

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