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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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47話 クーリィ

「ようこそ異国のお客様。わざわざこんなところまでご苦労だったな。歓迎してやるよ」


 学士帽の男は、僕達を見ると床から立ち上がってそう言った。光る本ーー魔本を片手に持って開きながら、別の本を三冊床に並べて読んでいた。どう見ても歓迎している態度には見えなかった。


「クーリィさん……! 何故あなたがこんなところに!?」


 セレーナは驚いて声を上げる。


(クーリィってあのーー)

(確か……帰ってこなかったっていう悪魔学者よね? 生きていたのね)


 僕達は覚えている情報をまとめるが、圧倒的に足りない。それに、セレーナは見ただけでわかるようで、どうやら彼と面識があるらしい。


「セレーナさんは会ったことあるのですか?」

「ええ。以前悪魔討伐のときに話を聞きに行ったことがあってね。彼は悪魔学者。悪魔学者というのはーー」

「学者本人を差し置いて、素人に語らせることもないだろう」


 学者は手を前に出してセレーナが話すのを静止させた。


「悪魔学者が研究対象にするのは悪魔ーーつまり非人道的事件を起こした犯罪者の心理や行動の傾向から、次の行動の予測、悪魔を出さない方法を研究している人のこと。んで俺、クーリィは、その悪魔だけじゃなく、学者全般の中でも最も優れている一人なんて言われ、騎士に頼まれて同行して調査までしている。まあ、悪魔討伐に関わったことのある騎士であるならば、名を知らぬ者はいないとまで言わしめている存在さ」


 クーリィは雄弁に語った。自慢が混ざっていたが、自慢気に語れる程実績のある人物なのだろう。


「だが今はそれだけではない。今度からそれにもう一つ補足を加えてくれーー現在ではアムドガルド王国の国王、剣王クーリィ・アムドガルドとなった、ってな」

「お前が、剣王……!」

(そんな姿をしているのに……!)


 剣王のイメージとはかけ離れてはいるその男に、僕達は驚きを隠せない。


「帽子は重いんだが、おかげで一発でクーリィってわかっただろ? まあ良いか。そうだ。リオナの娘はどうした?」


 そう言うと帽子を外して近くに捨てるように投げる。


「お嬢様ならこちらで無事保護しましたよ。それよりラドはどこへやったのですか?」

「ラディウスは捕らえて置いてある。折角本当に捕まえたのだ。使わせてもらわねば困る」

「じゃあ、生きている……!」


 僕はそう言った後、セレーナと顔を見合わせる。彼女は頷くと、またクーリィの方へ向き直る。


「ーー本当に、ということは、あの噂を流したのはあなたなんですね」


 セレーナは次の問いを彼に投げかける。噂とはフラウがアムドガルド王国に捕まったという嘘の噂のことだろう。


「リオナの娘はここまで来てもらっちゃ困るからな。逃亡中の者が自分を捕まえたという情報を聞いたとき、そこには行きたがらないだろう? まあ、そっちで保護されたならハッタリは使えないが、もうここに来ないだろうし、それで良いか」

「相手を見てその状況を把握し、今後の予測の中で来る可能性を潰すという対策を練るーー悪魔学者のあなたらしい考え方なんでしょうね。目的は見当もつきませんが……」

「黒死の悪魔が恐れているからですよね?」


 僕はセレーナの代わりに答える。黒死の悪魔は一度フラウから逃げている。魔本を持っていることからも、黒死の悪魔と組んでいるのは間違いないはずだ。


「なるほど、お前がレノン、フラウの横にいたってガキか。俺とあいつについて、それぞれがそれぞれを知っているってわけだ。それならば戦う前にお前達の考えを聞かせてもらおうか。下手をして俺を殺しても構わないが、その場合かの騎士の命はないと思え」

「今は剣を抜くのは止めましょう。ラドの救出が先ですから」

「わかりました」


 セレーナの言葉に頷いて答える。そしてクーリィの方を向き、


「ーーその本が悪魔が作ったものってわかっているんですよね?」


 僕は彼に問いかけた。


「わかるも何も、俺が作らせたんだぞ?」


 彼はそれを聞いてもなお恐れることなく平然としており、さも当たり前かのような口調で言った。


(悪魔と……手を組むなんて……)

「なんで悪魔なんかに……何人も殺したやつなんかに手を貸すんですか!? 悪魔を捕まえる研究って、一番悪魔の敵のはずじゃないですか!」

「学者は帝国にも大きな役割を果たす存在で、剣族でも奴隷にはなりません。それなので剣族では憧れの存在のはずです。剣族の成功者の象徴とも言えるあなたが、何故こんなことをするんですか?」

「成功者の象徴、ねぇ……まあ、良いか」


 僕達はクーリィを糾弾し、彼は小さく捨てるように呟く。その後、僕達が言い終わり、静かになるのを待ってから彼は口を開いた。


「俺だけじゃなく、俺達が前に進むためさ」

「でもそれはあなたが思っているだけのことです。本当は戦いたくないと思っている人もいるのに、メイジスと共に生きることを望んでいる人もいるのに、それを捨てています」


 僕がそう言うと、クーリィは少し眉を歪めた。


「否定はしないさ。だが……アムドガルドには悪いものが漂っているのもまた事実だと認めてもらおう。それはこの地に悪魔が現れるずっと前から確かに存在する。この地に足を踏み入れれば嫌でも肌で感じるもの。今までは目に見えないから無視されてきたがな」

「悪いものーーそれは、恨みの感情ですよね」


 僕はクーリィの言葉の穴埋めをするように答えた。それを聞いた彼は、意外だという風に僕を見た。


「黒死の悪魔と組むことで、その恨みの感情を、復讐として形にしたということですか」

「ーーその通りだ。お前らは、よくわかっているな」

「僕は剣族の方と触れ合ってきたので。メイジスだから嫌われても当然と思いながらも、ここに来るまで声を聞いてきました。セレーナさんも、誰に対してもそう接してくれると思います」

「皆がそうであれば、このようにはならなかった。だが現実は違う。剣族である俺も、あいつと会うまで見て見ぬ振りをしていたのに……」


 クーリィは目を瞑り、拳を握りしめる。


「復讐として恨みを形にして示し、残りを出し切る。恨みの感情はお前達だけにとって悪いものという意味じゃあない。俺達にとっても悪いものだ。来たるときが来たときに、判断を狂わせる」

「このままだと両者に大きな犠牲と悲しみを生んでしまいます。剣族のことを何もかも諦めろとは言いません。やり方を変えましょう」

「多少の犠牲は仕方ないと答えよう。この世に完全は存在せず、全ての人が望む結果にはならない。それは帝国でメイジスが幸せになる反面、剣族が虐げられるように、アムドガルドでも生き抜ける者がいる反面、死ぬ者も出てしまう。それでも虐げられることがない自分達の国を求め、手を伸ばす者がこれだけいるのだ」

「あなたは騎士の戦力を知らない! 今は北部の騎士が来た影響で、援軍が断たれているだけです。しかしラディウスを救出するために、北部から制圧部隊が編成されています。私達はラドを救い出すために先に来ているだけで、今止めて悪魔と手を切れば、多くの剣族が命を失う未来を変えられます!」


 セレーナも騎士の立場からクーリィに説得する。


「お前はあいつのことを全くわかっていない。戦力もそうだが、人を多く殺して悪魔と言われたからといって、理由にまで考えを巡らせないのは、あまりにもお粗末だ。秩序の破壊者である悪魔を悪としてただ殺すという考えは、秩序メイジスの内側でしか通用しないと知れ!」

「あなた達のやり方は……! 復讐は新たな恨みを生み、新たな復讐を生みます。今の帝国の虐げる形は良くありません。ですが、どうにかして僕達で共存の道を探しませんか!」

「くどい! そもそもメイジスがそうしてこなかったからこうなっているのだ! メイジスが現在までやってきたことを棚に上げて夢物語を語るな! お前らだけで今すぐ、メイジスと剣族が全員救われる方法があると言うのか!」


 クーリィのその言葉の後、僕達は言葉を紡がない。そのような方法は見つけていない。返す言葉を持ち合わせていなかった。


「これは復讐だ……! 帝国から俺達の国を取り戻す。そのためなら悪魔であろうと手を組むーーかの十五年前の魔王、ヴィロみたいにな! さぁ、メイジスよ……千年を超える剣族の恨みを受けて死ね!」


 魔本が光り始めると、身体の強化ではなく、黒い炎からなる巨大な蛇が床、天井、壁からそれぞれ一匹ずつ現れる。ラドを人質とされている手前、僕達は動くことができない。相手の魔法も上級魔法に並ぶものであれば、耐えるにしても時間の問題だ。

 そう思った矢先ーーいや、槍先と言うべきであろうか。三本の炎の槍が蛇の口を突き刺してかき消し、その槍が床に刺さる。


「この槍は……!」


 思わず声を出すと、それに応えるかのように男が姿を現した。


「守護騎士ラド、遅れながらも到着した。これより加勢する」

「なっ……あいつから逃げてきたというのか!?」

「俺は移動に長けた騎士だ。さっさと殺しておけば良かったものを、魔法を騎士の戦いの技としてどれも同じなどと考えるからこうなる」


 その姿は鎧ではなく、奴隷が着るような服。槍を持っていない方の手に持つ剣は、この前助けてもらったときのとは違って大分質素なもので、どうやらここに来る途中で手にした物だと感じた。余裕ありそうに言っているが、肩から胸にかけて血で赤く滲んでおり、切りつけられた跡があった。


「ラド……! すぐその傷を癒します!」


 そうセレーナが言うと傷はすぐに塞がった。


「思ったより早く来たな。待ったが。あいつが使う黒煙、お前の魔法なら払えるだろ? だからそれまで捕まったことにしていた」

「そんな余裕ありそうに言うなら捕まらないで。というかまず勝手に出ていかないでよ……」

「グゥ……殺さずにしておけば図に乗りおって……!」


 遅れて黒死の悪魔が姿を現す。ラドの見張りをしていたが、逃げられたのだろう。


「……まあ良いさ。丁度良い機会だ。俺がヴィロになり得るか、この場で試してみようじゃないか」

「ーー仕方ありません。私も騎士です。あなた達を見逃すわけにはいきません。降伏せずに抵抗するのであれば、相応の措置を取りますよ」

「僕だって曲げられません。メイジスと剣族の親和と共存を掲げ続けます。それがどんな夢物語だとしても……それを最初からできないと否定してこのやり方を続けるなら、あなたも、黒死の悪魔もここで止めさせてもらいます」


 僕達がそう宣言して武器を構える。


「憎い……憎いぞメイジス! 汝ら全員に、今度こそ死を与えてやる!」


 黒死の悪魔は大きな鎌を構え直すと、ラドに向かって斬りかかった。

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