43話 拠点帰り
「ラクレーが占領され、アムドガルド子爵が処刑されました」
それがクフリーに帰って最初に聞いた報告だった。北部の領主の娘が捕まったという知らせに対して、大伯が北部の騎士を大軍で派遣した。そしてその大規模捜索の拠点として占領され、クフリーはアムドガルド地方で初めて北部の色に染まった都市となった。
しかしその報告は、ラクレーが占領されたとのことなので、リューナが占領したわけではない。つまりーー
「アムドガルド王国なる組織の仕業……ですか?」
医長は単刀直入に聞く。
「はい。あのお嬢様を人質にしたと嘘の情報が流された組織です。勿論帝国に認められていないため、王国などではありませんが……」
「急に首都ラクレーに攻め込んできて、陥落させたというわけですね。私達がいる間キレウは無事でしたし」
「表立った動きも取らずにいきなり首都に侵攻など……剣族にそんなことが可能なのか?」
腕を組んで話を聞いていたラディウスが顔をしかめながらそう言う。
「やはり、黒死の悪魔と連携を取っているんだと思います。あの本が黒死の悪魔がいなくとも持続できるものであるならば、そしていくつも作り出せるのであれば、準備しておいて奇襲という形を取ることも可能かと思われます」
僕はそう主張する。現場を見た者の意見として述べる。
「悪魔と連携を取るなどバカげている。それに魔力の問題としてそんなことは不可能なはずだ。あれほど強力な結界魔法を複数同時展開するということだぞ?」
守護騎士の二人は、黒死の悪魔だけとなってから参戦したため、魔本を見ていない。僕達と話し合いをした末に、あの本は、大量の魔力を込めた分離型結界魔法の可能性があるとなったのだ。だがラディウスの方は、まだ信用していないようだ。
(やろうと思えばできるって言っているのに! 自分がヘッポコのせいでできないからって、勝手に不可能にしないでほしいわ!)
(でもサキ……どうやったらできるのかが具体的に説明できないんじゃ意味ないんだよ)
できると主張しているのはサキだけで、方法もわからない。それに自身の存在はアメリアーーつまり大伯に繋がる可能性があるから二人には明かせないときた。これじゃあ説得するのも無理があるというものだ。
「それに、何故お前まで来ているんだ? 騎士でもないくせに……」
ラディウスは僕の方を指して言う。
「レノンは私の友達だって言っているでしょ。私の友達が野垂れ死んでも良いって言うの?」
フラウはキッと騎士を睨んで言う。
「お嬢様……そんな品のないお言葉を…………それに私は、この報告の場にいることを言ったのであって、外に放り出せと言っているわけでは……」
彼はそう言われてタジタジだ。
「全然進まなくてごめんなさいね。ここに来るまでに色々あったんです」
「そうみたいですね……お嬢様もたくましくなられていますし」
医長と報告している騎士もそう話している。きっとラディウス達にも前はこんな感じではなかったのだろう。
「レノンさん。現場からの報告にありがとうございました。参考にしますね。そして、お嬢様もあなたも着いたばかりで疲れていると思うのでーーラド、二人を部屋に案内してもらって良い?」
「ちょっと待て。今後の予定について話すんだろ? 俺もいないとダメだろ」
ラディウスは医長に向けてそう言うが、
「大丈夫よ。それにお嬢様をエスコートするのも騎士として重要な務め。もし襲撃されたときに対応できる実力者じゃなきゃ」
「ここはリューナが取ったと言っただろ……」
「ほら、いつまで経っても進まないから、行ってーー」
「……了解したーーさあお嬢様、行きましょう。ゆっくりとお休みください」
「……わかった」
少し不満がありそうにそう言って二人は歩き出す。僕は勝手について来いということなのだろう。僕も二人についていった。
「ラディウスさんはこの後どうされるのですか?」
僕は部屋に着いても明日リューナに向けて出発するまではやることがない。それなので横にいる騎士に聞いてみる。
「もう一度セレーナのところへ行く。今後の予定について話しておきたいからなーー長いだろ。ラドで構わない。それで通している」
「わかりました。ではラドさんで」
「で、何故そんなことを聞く?」
「いえ、僕がやることないので、もし良ければ魔法を教えてもらおうかと、思ったんですけど……」
そう言いながら、ラドが使っている魔法の属性を思い出して、先ほどの戦いでの剣族の悲痛な叫び声を連想してしまった。いや、きっと守護騎士なら他の属性も上手に使えるはずだ。
「なら残念だったな。騎士は忙しい」
「で、ですよね……」
そう断られてしまった。折角守護騎士から教えてもらえるチャンスだと思ったのに。残念なはずだが、少しホッとするような何か複雑な気持ちになった。
「じゃあレノン、私とやろう」
フラウが僕に声をかけてくれる。そうしようかなと思ったが、
「お嬢様、ご冗談でもお止めください」
「なんで? 私がやりたいと思っているのに?」
「勝手なことをなさらないでくださいと言っているのです。もし勝手にそのようなことをしたならば、大伯に報告しなければなりません」
「……わかった」
フラウは食い下がる。大伯を説得しに行くのだから、今はその手の言葉には弱いのだ。
「全然気にしなくても大丈夫ですよ。一人でやりますから」
(サキもいるからね)
(そうよそうよ。私がいるから寂しくないわ)
僕はそう言ってサキにも伝える。あんまり寂しさは関係ないとは思うが、彼女もたまには参考になることを言うし。
「他人に迷惑かけないのであれば好きすれば良いが……騎士が近くにいるのに、恥ずかしくないのか?」
「僕の方が下手だから時間を見つけてより練習するんですよ。事実なので、下手だと言われても仕方ないですし」
僕がそう言うと彼は僕の目を見て、目が合うとすぐに逸らし、
「チッ……そうか。笑われてろ」
とだけ言って去っていった。
(そんなこと言っても仕方ないでしょうに。だって、この私の前で魔法を使わなきゃいけないんだから)
(確かにそういえばそうだよね)
何だか妙に納得したところで、フラウの方を見る。
「じゃあ僕は行ってくるから」
「わかった……今度は一緒にやろうね! あと、気をつけてね!」
「うん、わかった」
僕はフラウに手を振ってその場を後にして練習に向かった。サキの魔力を合わせるのも大分慣れてきたと思う。
(ねぇ、レノン)
練習している最中にサキが話しかけてくる。
(何? 何か思いついた?)
風刃と唱え、風の刃を放つ。ただ一発放つだけでなく、杖で弧を描いた後にそれが消えずに残って分身し、右、正面、左と順番に放たれる。
(何って、さっきから風ばっかりじゃない。火は練習しないの?)
(今日は風魔法の日にしたんだよ)
(だーかーらー! 今回は火が有効だからその練習をしなさいって言っているの!)
その発言はあまりにも酷いものだと思った。
(なんでそんなことが言えるんだよ……サキは心が痛まないのか!)
(そうね。痛まないこともないけど、やらなきゃこっちがやられるもの)
(だからってトラウマを利用するなんて!)
(じゃあ新たなトラウマを植え付けるだけね)
(うっ……)
確かにその通りかもしれない。だけど魔法を使ったときの、あの剣族達の恐れ逃げ惑う光景を見るのはもう二度とーー
(剣族が怖いならここから逃げなさい。何があっても見て見ぬふりをしなさい。私も悪魔なんかと戦うのはリスクだと思っていたし、好都合だわ)
(そんなこと……できるわけが!)
(メイジスが負ければ、アムドガルドは剣族の国になる。そしたらハクちゃんも外に出れるわ。ギンなんてそこら辺に捨てておけば良いのよ)
サキの言葉が僕に突き刺さる。それは僕の中に溶けていくが、何かが馴染むのを拒んでいる。
(サキは……サキは、それで良いの?)
(なんで?)
(君の身体は戻る。僕が戻してみせるから。でもその後、君はハクさんに会えないんだよ? それでも良いの?)
(それは嫌よ。当たり前じゃない)
サキは悩むことなくさらっと答える。
(だったらーー)
(あなたはどうなの? この身体を動かすのはあなたなんだから、あなたがどうしたいかで語りなさい)
(僕だってまた、ハクさんに会いたいよ。立派になったら会いに行くって約束したんだ)
(それなら、やっぱりメイジスと剣族は協力できるようじゃなきゃダメね)
(ーーうん)
僕はそう言いながら頷く。
(そのために戦うの。彼らだって辛い経験を利用されて、言葉で操られているのよ。本当は戦わないで虐げられず、平和に暮らしたい。なのに、それしか選択肢がないと信じ込ませられて戦わされているーー)
(でも、そうじゃない選択肢はあまりに難し過ぎる気がするよ)
他の選択肢ーー上の人がひとりでに支配を辞めるくらいしか思い浮かばない。そして、それはあり得ないに等しいと思った。
(難しいからって諦めるつもりはないんでしょ?)
(うん。そうでありたいと思っている)
(諦めなければ、きっと何か方法があるはずよ。それを教えてあげましょう)
(……でも、それを言いながら火の魔法を操るのか)
(この戦いを終わらせた後に、私達が彼らのために動いてあげることが大事なのよ)
(そっか、そうだよねーーそして、サキは強いんだね)
(……私は大切な仲間を守るためなら、どんな困難にも理不尽にも負けないわ。それに、私は色々な魔法を使えたし、あなたほど広くまで見れないから)
サキの言葉を聞いて、今のままの自分では成し遂げることはできないと感じた。
それと、大切な仲間と言っていた中に自分が入っているのかなと思うと、そのために励ましてくれたのかと思うと嬉しかった。
(ありがとう。火の魔法、使う覚悟が決まったよ)
(それじゃあ、色々試してみましょう)
僕達はその後、火の魔法の練習をした。これを剣族に撃つことが今後あることを意識しながら撃つ。迷いを消すことにつながる練習にできたと思った。
◆
「あっ、レノンくん! おはようございます!」
もう朝かと思って起き上がると、そこに居たのは見慣れた姿ではなく、大人の女性だった。
「あっ、医長! おはようございます。もうそんな時間になってしまいましたか?」
(騒がしい人ね。朝起こして回るのが趣味な人間なのかしら)
そんな人居るはずないだろと思いつつも欠伸をする。
「ラド知らない? ラドがいないの!」
落ち着きがないセレーナは、どうやら相当焦っているようで、寝ぼけている僕に詰め寄ると、そう言った。
「えええええええ!? ななな、なんでですか?」
「それがわからないから探しているんだけど……! レノンは昨日のいつ最後に会った?」
「部屋を案内されたときです。その後医長のところに行くって言ってました」
「それは来たの。でもそれから夕食は自分で簡単に取るって言ってから……やっぱりその時間に出たのね」
「と、とにかく僕も探します!」
フラウも起きてきて、事情を話したが、僕と同じ状況だった。結局昼を告げる鐘が鳴るまでクフリー中を探したが、見つけることはできなかった。部屋に戻って話し合う。
「見つからなかったですね……もうクフリーにはいないんでしょうか?」
「そうですね……ラドは移動に優れた魔法を数々持っています。炎の馬に乗ったりもできるので、目的地があるならとっくに……」
さっきはとても動揺していて喋り方が崩れていたらしい。元に戻っていた。
「ラドが行きそうな場所……やっぱり、ラクレーかな……?」
フラウが首を傾げて目を瞑り、考えた結果そう言った。
クフリーに着いたときにラクレーが占領されたと言っていた。そこに向かうということは、一人で黒死の悪魔やアムドガルド王国を倒しに行ったのだろうか。
「それって危険過ぎませんか!? 騎士が集まっている都市一つを陥落させることができる相手に一人でってことですよね!?」
「たとえ守護騎士であろうとも、相手は未知数です。それにしてもなんで……朝になったらリューナに戻るって話をしていたはずですが……」
医長はそう言って考える。
「私が早く倒すべきだって言ったせいかな……? 本当はラドもずっとそう思ってくれていて……」
フラウも手で頭を押さえてうなだれる。自分のせいだと思っているのだろう。
「考えていても仕方ないですよ。向かってしまったのなら、追いかけるしかないです。僕が行ってきます」
「私も行く! 今はもう戻るとかそう言っている場合じゃないよね?」
「ですがお嬢様を危険な目に遭わせるわけには…………」
医長は辛そうだが、まだ決めかねているようだった。
「なんで悩むの? セレーナとラドは騎士になる前の昔からの知り合いで仲良いんでしょ? 部下でも身分が高い人ばかりで気を遣わないといけないけど、ラドにはそういうのいらないから色々話せるって言ってたじゃん!」
「それは……そうですが…………」
するとフラウは、医長に掴みかかった。
「大切な仲間が死んじゃうかもしれないんだよ!? それで良いの? そんなときに何もしないで、それで自分を納得させられるの?」
「何もしないで……仲間が……」
「そうだよ。私なら、そんなの許せない! 自分も死ぬってわかっていてもその場にいて、最後まで一緒に戦いたいって思うよ!」
医長は目を瞑ってじっと考える。そして、目を開いた。
「…………はい。そうですね。私も行きます。ラドと一緒に帰るためにーー」
「命令に背いてまで、どこに行こうと言うのですか、セレーナ医長?」
「そ、その声は……!」
医長はハッとして振り向く。
「お、お母様!? お母様が何故ここに!」
「お、お母様ってーー」
(リューナ大伯、アメリア・リオナ=ダグラス……!)
そう、そこにいたのは僕達が会いに向かっていた人。フラウの母であった。
「何故? 娘に早く会いたいと願わぬ母がどこにいますか。私にはそれを実現する力があったというだけの話です」
大伯は威厳を感じさせる落ち着いた口調でそう言った。
(ーーようやく出たわね親バカ領主。噂には聞いていたけどその通りじゃない)
「領主がそんな軽々しく領地を離れるなんてバカみたい! 護衛もたくさん付けているんでしょ? 迷惑かけていることに気づかないの!?」
サキの暴言は聞こえないからともかく、続けてフラウまで口に出して言った。
「よく喋るようになりましたねフラウ。ですが残念です。回るのは舌だけで、頭はまだみたいです」
その口調はあくまで落ち着いた雰囲気を保っている。全く動じていないようだった。
「なっ……!」
「一番迷惑をかけているのは、あなただと理解しなさい! 何人もの騎士が今回の騒動で動いたと思っているのですか!」
「私は一人で出ていっただけだもん! お母様が勝手に騎士の人を動かしただけじゃない!」
その言葉を聞いて大伯は、目を瞑り、ため息を吐いた。
「ここまで自身の影響力の大きさ、次期領主の自覚がないとは、これも教育者たる私の失態ですね。そうであればより急がねばなりません。今すぐフラウを連れ戻しなさい!」
その指示の後、数人の騎士が部屋に入ってきて、フラウを取り押さえる。
フラウの気持ちに賛成したいが、大伯の言っていることは正しい。大伯が娘のことを大切に思っているのはわかる。どうすれば良いかわからなかった。医長も同じようで、俯いたまま口を開かない。
「ラドが一人で行ってしまったの! 助けに行かないと危険なの!」
「騎士一人一人の面倒まで見ていられません。あなたを次期領主に相応しい立派な騎士にすることで手一杯です」
「今ここで見捨てたら絶対後悔する! 領主というのは部下をそんなに簡単に、駒みたいに捨てても良い存在なの!?」
「私は一人でどこかに行くよう指示を出した覚えはありません。彼が勝手に命令に背いた結果なのですよ」
大伯はそう言うも、続けて言葉を紡ぐ。
「しかし……まあラディウスがフラウを見つけたとは聞いていますし、リオナの優秀な騎士を失ったとなれば喜ぶのはかの宰相だけ。仕方ありませんねーー今回だけは情けをかけてあげましょう」
「じゃあ……!」
フラウはパッと表情を明るくする。僕も続く言葉に期待する。
「そこのお前、確か名をレノンと言いましたね?」
「はい!? そうですが何故僕の名前を?」
大伯にもなる人が僕なんかを知っていることに驚き、思わず聞いてしまう。
「本件に関わることは如何に小さな事であろうと報告させています。お前はフラウと行動を共にしてきたとか」
「はい。リシューで受けた依頼で出会ってからは共に行動をさせていただいております」
「ふむ、会ってみるまではそんな虫その場で処刑してしまおうと思っていましたがーー」
穏やかじゃない言葉の後に、
「そんな事は……何があってもさせない!」
フラウが騎士を振り切って僕の前に立った。
「はぁ……この有様です。ですので仕方ありません。レノン、お前もラディウスの捜索作戦に加えさせてあげましょう。セレーナに仕えなさい」
「本当で……恐悦至極です」
僕は寛大な処置にお礼を言う。
「そうですか。もしアムドガルドで起きている問題を突き止め、ラドを連れて帰ることに繋がる活躍を見せた暁には、お前の処刑は考え直してあげましょう」
「寛大な処置にこれ以上述べる感謝の言葉が見当たりません。必ずや期待に応えてみせます」
「期待しています。ではフラウ、帰る準備をしますよ」
「お母様、どういう事? 私もこれから……」
フラウの声が一転して暗くなり、沈んだものとなる。
「フラウと共に行動していたなら目的は同じ、であればその男に向かわせればあなたの為そうとしていることもこなしてくれるでしょう。わざわざフラウが危険な目に遭う必要はありません」
「そんなのおかしい! かつてない何かが起きているのに、私だけが安全なところにいるなんて!」
「領主とはそういうものなのです。他の誰よりも安全な場所で、他の誰よりも学び、他の誰よりも優れた存在にならなければならないのです。一時の情で無意味な時間を過ごせば、その時得ることができた知識を捨てるも同然。それはその知識で救うことができた民を捨てることと同義と知りなさい」
大伯はフラウを指さし、まくし立てるように言った。フラウはそれに対して口を開くも、何も言えないという様子だ。
「それともフラウ、あなたはリューナが傾いたときに立て直せなくなるかもしれませんがいってきますと、ここまで来てくれた騎士全員の前で言えるのですか!」
その言葉には、領地と、そこに暮らす民を背負う誇りと責任感を併せ持った力強さが宿っていた。
「そ、そこまでは……」
「であれば来なさい。万が一でも私に刃向かうような事があれば、万事こなして帰ってきた少年の首を目の前で刎ねてやりましょう。良いですね?」
「そ、そんな理不尽な……」
「了承せずとも反対はさせません。騒がせましたね。今から私がアムドガルド制圧部隊を構築します。いつでも出れるように、各自戻って為すべきことを為しなさいーーそれと、セレーナ」
「はい!」
「昼食を取った後に私の部屋に来なさい。今後の予定を話し合います」
「はっ!」
「以上です。では行きますよ」
はっ、と騎士が声を揃えて言う。それを聞いた大伯は、直々にフラウの腕を掴み、連れ去っていった。それに続いて騎士が部屋から出ていった。
「申し訳ございません。大伯が来ることを察した行動が取れなかった私の不覚です」
医長は僕に頭を下げて謝罪する。
「いえ! 完全に僕がフラウについてきてしまった事が原因ですから。それがこれを引き起こしたのであれば、進んで引き受けます。それよりフラウと医長、ラドさんに迷惑をかけてしまって……」
(というかあの行動を予測しろって方が理不尽よね)
サキの言う通りだ。普通リューナで待っていると思うだろう。それより僕が依頼を受けてしまったせいで、守護騎士二人に想定外の苦労をさせてしまっていることが申し訳なかった。
「もう前を向いているのですね。それなら、私もその姿勢を見習わなければいけません。絶対にラドを救って、この事件を終わらせましょう!」
医長はそう言って手を伸ばす。
「はい!」
僕も手を伸ばし、握手をした。そして、ラドを生還させるため、扉を開けた。