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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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40話 約束の日

 僕達はキレウにいる。この街は栄えているのだろう。街を少し見て回るだけで騎士の姿をよく見かける。僕はそんな騎士の一人が決めた場所に立っている。もう少し細かく現状の説明をすれば、騎士テイオンと話してから七日目の昼だ。更に詳しく言えば、大衆酒場の裏だ。

 結局キレウに来てからも情報収集はしてみたものの、新しい情報による進展はなかった。得た知らせは良いものではなく、またしても黒死の悪魔がメイジスを殺したというものだった。今度は道端で二人発見されており、辻斬りと思われるものらしい。


「結局老旦那の話以降、この瞬間まで近づけると思える情報はなかったね」

「うん……」


 フラウは僕の言葉に残念そうに答える。


(そう残念がることもないわ。老旦那から聞けた話が有意義過ぎただけだもん。それに、今日情報交換できるからね)

「でも仕方ないね。テイオンさんからの情報に期待しよう」

「うん」


 僕は二人に向けてそう言った。


「あっ、レノンくん達ーー先に来てくれていたんだね。ありがたいよ。ここで待っているところを他の人に見られても良くないしね」


 そう言ってテイオンはやってきた。前回のような鎧をつけた騎士という見た目ではなく、ローブを着ていた。


「そうですよね。そういうことなら早速、約束の情報交換をしましょう」

「うん。じゃあまずそっちからお願いしても良い?」


 彼は僕に言った。


「まずは黒死の悪魔の動向です。前の話のときに聞いていた収容所以降、収容所、そして辻斬りが一度ずつありました。これに対して付け加えることはありますか?」

「死者が合計で二桁を超えてしまった。そして、辻斬りと収容所で殺害方法に違いがあることがわかったよ。辻斬りでは黒死の毒と首を斬られた痕跡だった。でも収容所では、撲殺なんだ。首斬りも、毒を使用した痕跡もなかった」

(撲殺……? 黒死の悪魔ってそんな戦い方しないわよ?)

「僕達が戦ったときには、武器などで殴るようなことはしませんでした。毒煙の結界か、鎌での攻撃です」

「そうだったと思います」


 あの場にいた僕達が、戦いを思い出してその経験を話す。


「やっぱり……撲殺のときにはみんな鎧がボコボコになっているんだ。兜がへこんで、叩き割られていたりとかね」

「もしかすると……犯人が別人の可能性はありますね」

「それなら浮上した話があるよ。アムドガルド王国っていう名前の剣族で構成された組織があるらしいんだ」

「それって領主の娘を捕らえたってやつですか?」

「そうそう。でも噂だけで、そんな証拠も、組織の尻尾すらも掴めなかったんだ」


 テイオンは残念そうに言った。


「そうですか。僕達は実際に見ていないですが、見たという人に話を聞けました」

「えっ!? 誰? どこで聞いたんだい?」

「それは独自ルートとだけに留めさせてください。個人から聞いた話で裏打ちは取れていませんし」

「そこは残念だけどーー仕方ないね。それで内容は?」

「話の内容の大筋はテイオンさんが聞いた通りです。しかし、構成員と思われる剣族の人から、メイジスを見つけたら殺すようにと多くの人の前で言ったのを直接聞いたらしいです。つまり、人質云々は置いておいて、アムドガルド王国という組織は実在すると思われます」

「そっかーーこっちでも調査に力を入れるように提案してみるよ」

「お願いします。でも仮に彼らが騎士を襲撃したとして……剣族で鎧を貫く方法は予想できますか?」

「ううん、やっぱり無理なはずだ。見当もつかないよ」


 首を振り、その後一度止めて考えたが、やはり首を振りながらそう答えた。


「それなら、これも独自ルートでの話で、裏打ちは取れていないものですが、黒死の悪魔からメイジスを殺せる武器を作らないかと聞かれたという人もいました」

「ええ!? そ、それで……! それは剣? どんな武器だって?」

「断ったから教えてもらっていないそうです。もし作ると言っていたら、別の場所に移動させられていたと言っていました」

「そっか……でも可能性としては、そんな武器をどこかで作らせて、黒死の悪魔が剣族に渡して、収容所を襲わせているというのもあり得るというわけか」

「はい。テイオンさんの話を聞いていて、僕もそう思いました」

「じゃあこれからは黒死の悪魔とアムドガルド王国という組織の両方を調べる必要があるね」

「そうですね。貴重な情報を提供してくれてありがとうございました。次回も七日後に同じ場所で、今回はこれで解散で良いですか?」

「あっ、ちょっと待って! 騎士の配分に変更があったから、それだけは伝えておくね」

「そうなんですか? お願いします」


 テイオンが僕のことを引き止める。


「奴隷の主人がお金を出してくれるところに騎士を集中して配備させて、襲撃者を撃退することを決めたんだ。だから子爵が出資するラクレーと、クトーの鉱山、フーリの大農園の収容所の三つに配備する騎士が増えるよ」

「他の収容所はどうなるんですか? 中の人を移動させるとかで対応するんですかね?」


 僕はそんなことを言いながらも何だか嫌な予感がしていた。


「それはちょっとリスクとコストが……だから他の収容所の騎士の契約は打ち切りで、その三つのどれかと再契約をすることになるね」

(……そこにいる人はどうなるのよ?)


 サキが静かに言った。そんなことはわかっていたが、聞かざるを得なかった。


「じゃあ、じゃあ! 中にいる人はどうしろって言うんですか!? 自分達じゃ出ることもできないですし、死んでしまうじゃないですか!」

「……メイジスにこれだけの被害が出ているんだ。これ以上被害を出さないためにしないと」

「剣族だったらどうなっても良いって言うんですか! そのまま放置されると何倍もの剣族が亡くなってしまうんですよ!」


 僕は目の前にいる騎士に力説する。


「ああ、大きな声を出さないでーーそれに、君が捕まっているわけじゃないし、君の奴隷がいるわけでもない。なんで君はそんなに怒っているの?」


 不思議そうにテイオンは聞く。煽っているわけでもないように見える。彼は本当にわかっていないのだ。彼だけでなく、この世界の常識を許せない。怒らずにはいられない。


(レノン……)

「わかっている……わかっている……!」


 僕は自分に言い聞かせるように呟いた。


「……僕がその人達を助けても良いですか?」

「騎士はいなくなるけど、その奴隷を持っている人はいるんだよ? 盗難になるよ」


 テイオンは諭すように答える。


「僕がもしそれをやったら騎士は捕まえに来ますか? 可能な限り人材を集中させている中で、そんな小悪党に構っている余裕はありますか?」

「それは増援が来るまではできないけど……なんでそんなに頑張ろうと思っているんだい? 彼らはずっと昔からメイジスのことを恨んでいるし、助けてやっても君は賞賛されない。法律にはそんなに自信はないけど、奴隷への待遇で違反行動はないはずだよ。全部主人の自己責任だし。だけど他の人の奴隷を奪い取ったらそれは犯罪なんだ。そこの境界線を理解しないとーー」


 テイオンは困り顔をする。こうなるとは予測していなかったといった様子だ。様々な方向から説得しようとしているようだった。


「理解していますーーそして、それでも僕はやりますよ。剣族だって一人分の命です。メイジスより軽んじられて良いわけがない」

「それには……そんな人には協力できないかな……」

「それで良いです。報酬もいらないです。有意義な情報を聞かせてもらいました。ありがとうございました」

「レノン! 待ってーー」


 僕は一方的にそう言いつけると、一度も振り向くことなくその場から立ち去った。フラウも後から慌てた様子で走ってついてきてくれているのが足音でわかった。

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