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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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39話 村の事情

「こっちが負けたのにすまねぇなぁ……」


 申し訳なさそうに老旦那は言った。


「いいえ、気にしないでください。泊めてもらうのですから、これくらいはーー」

「怪我させたのは私達ですし……」

(頑張ってレノン。結構多くの人を治療したし、もう少しのはずよ)


 今僕達は、村の怪我をした人に治療して回っているところだ。僕が治癒魔法をかけ、フラウは怪我人や必要な物を運んでくれたりしてくれている。サキも、応援してくれている。勿論フラウも応援してくれない訳ではないのだが。

 あんな戦いを見せたので仕方ないのだが、やはり村の人には恐れられてしまった。近寄るだけで逃げられてしまって困ったが、最初に治療した老旦那が僕と一緒に回って説得してくれたおかげでスムーズに進めることができた。


「もういねぇか! 知り合いが怪我しているってやつも声上げろおぉ!」


 老旦那は大声を張り上げる。それに対して返事はない。


「いねぇようだな。世話になった。じゃあ今度こそ家で休んでくれ」


 そう言って歩きだす。本人は普通に歩いているつもりだろうが、歩幅が全然違う。僕達は小走りでついていく。


「はい。では一日よろしくお願いします。一緒に来てくれたおかげで助かりました。老旦那さんって村の人から凄い信頼されているんですね。村長ーー村の指導者みたいな立場なんですね」

「俺はあくまで老旦那だ。この村にも村長はいる。いや、いた」

「いた……ですか?」


 村長がいるならば、この異様な事態に顔を出さないわけがないだろう。てっきり老旦那が村長だと思っていたのだがーー


「あんまり外でするのは良くねぇな。中に入ってくれ」

「そうですか? では、おじゃまします」

「ーーおじゃまします」


 僕は促されて老旦那の家に入る。外から見たら大きな家だったが、それはただ剣族が暮らす家だからみたいだ。中は村相応といった質素な部屋だった。


「適当に座ってくれ」


 そう言って老旦那が胡座をかいたため、僕達もその場に座った。


「それで村長がいたというのは……?」

「その通りにこの村にも村長はいた。若くて頼りになる、そして年長者を敬うできた男だった」

「では今はどこにーー」

「捕まった」

「何かしてしまったんですか?」

「何もしてねぇよ。ただ、若い男だったから、捕えられただけだ」

「そんな!?」

「それってーー」


 僕達は村長に何が起きたかを察した。罪もなく捕まって奴隷商人の元へ運ばれたのだ。剣族奴隷がいる。その現実は認識していたが、大きな戦いもない今の時代に捕虜などない。それなら直接捕まえるのが最も手っ取り早い方法なのだ。


「メイジスが集団で襲ってきてな……正に狩りをするようにだ。メイジスと一対一なら多少不利程度だが、向こうが数人いるとこっちは何人居ても何をしても敵わない。ただなすがままやられるだけだ」

「メイジスの魔法は強化だけでなく、遠距離から、そして治癒までと幅広いことを行えてしまいますからね。チームだと、役割を分担できてより強力に立ち回れると思います」


 村長の話をするその姿が辛そうで、これ以上させるのは酷だと感じ、話を変えてみる。


「ーーでも一対一だと老旦那さんは強かったです。実戦経験があるんですか?」

「俺も若ぇ頃に捕まったが、運良く都市の方を警護をする兵士にさせられた。騎士がメイジステンから派遣されると言っても、そんなに数は多くねぇ。ある程度は剣族で埋める必要があるんだろうな」

「そうなんですね……聞いてしまってごめんなさい」


 逃れられない剣族の運命に、合わせる顔がなく俯く。


「……構わねぇ。そういう約束だ。今日の間なら何でも聞け。知りうる限りは何でも答える」

(きっと、実際にアムドガルドに住んでいる剣族から聞ける機会なんて滅多にないわ。色々聞いておきましょう)

(ーーそうだね)

「ありがとうございます」


 サキの言葉に賛同し、老旦那に感謝する。


「その剣はそのときのものですか? かなりの業物に見えますが」


 僕は決闘の時に使われた大剣を指して聞く。


「違ぇよ。兵士が持つのはもっと質素な金属の棒だ。しかも持ち帰ることなんてできねぇ。この剣は俺が作った」

「ということは、今は鍛冶屋なんですね」

「親父が鍛冶屋でな。俺がこの歳だ。もういないがーー元々俺は若くから鍛冶屋になるつもりで修行していた。戻ってやることと言ったらこれしか思い浮かばなくてな。奥の部屋が工房になっている。そしてあれはデカ過ぎて買い手がつかない売れ残りの剣だ」

「確かにメイジスには大き過ぎますよね」

「剣族になら両手剣として使っていけるだろうが……剣族に売る機会もないからな」

「でも、あれを片手で振り回してましたよね?」


 僕が聞くと、フラウも頷いていた。


「俺は兵士時代、剣族の間でも巨人と恐れられた男だ。俺よりデカイ剣族は今まで見たことねぇからな。まあ、他に作っているのはメイジスが扱える剣だから安心しろ」


 そのとき剣族の女性が入ってきた。


「老旦那、三人分のお食事ができたので持ってきました!」

「おう、いつも悪ぃな」


 そして料理を並べだした。パンや腸詰めといった保存食だけでなく、毎日は食べていなさそうな厚切りにした肉も出てきた。


「そんなに気を遣わなくても……」

「い、いえ! どうかこれでお納めを! 老旦那のことは取って食わないでやってください!」

「い、いや! そんなことしませんって!」


 僕とその女の人は、お互いに手を振りあって否定をした。


「出てきちまったものにケチをつけてもしょうがねぇだろ。感謝してやってくれ」

「そうですねーーありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 僕とフラウはそう言うと、その人はそそくさと去っていった。恐れているのもあるし、もしかしたら自分達の方から襲いかかったのを気にしているのかもしれない。


「それにしても、村の人からも大切にされているんですね」

「居た方が良いと思ってくれているんだろう。俺だって自分がこの村を守っている自覚があるからな。扱う者の気持ちに沿った剣を作れているから、俺とこの村は何とかやってこれている。それでも捕まるやつは出てきちまうが、周りの村の被害はもっと酷いと、いつも村に来たスカした騎士に聞かされている」


 つまりはこの強さでも最後まで出てこなかったというのは、戦うときに他の人に止められていたからなのだろう。それだけ村の維持にはこの人の作る武器が必要だったのだ。


「そういえば、村の人は、メイジスを狩ると言ってました。嫌いなのはわかっていますが、余りにも危険なので、止めさせてください」

「それはよ……止めるべきだと言ったんだがな。この前怪しい剣族が来て、変な話をしちまったからだ」

「僕、アムドガルドで起きていることを調べているんです。話してくれませんか?」

(新情報ーー新しい手がかりかもしれないわね)


 僕もそう思う。老旦那の話を待つ。


「メイジスを追い払って、アムドガルド王国を復活させようとか言っている輩だ。実績としてアムドガルドにいた北部の領主の娘を捕らえて弱みを握っているとか言ってやがる。剣族の国は願うところだが、だからメイジスを見かけたら殺せなど、農民程度には無理がある話だっていうのに。クソッ! この村を巻き込みやがって……!」

「領主の娘を捕らえているという話は……あまり現実味がないと思います。領主ーー貴族の子どもは戦闘訓練もしっかり受けていますし……」


 フラウが老旦那の方を見て言った。さっき怒鳴られて怖かったのが残っていたようでずっと様子を伺っているという感じだったが、ようやく話せるようになったのだろう。


「オメェもそう思うか。俺も剣族とメイジスはやはり戦闘の勝手が違うと今回胸に刻んだーーにしても最近妙だ。それだけでなく、人に似た変なのに話しかけられるし、振り向いてその姿をときは、遂に老化で目が狂ったかと思った」

(ねぇ! もしかして!)


 その話はもしかしてと僕達は思った。フラウも思ったらしい。


「それって黒死の悪魔ーーあの、浮いていて、足が見えなくて、黒いローブを着ていませんでしたか!?」

「そ、そして顔や手が骨で……!」

「随分具体的だな。顔は仮面で隠し、手袋をしていたが、足やら服装やらはその通りだ」


 それなら黒死の悪魔で確定だろう。黒いローブで足なし、浮いている人型など他にいないはずだ。


「そ、それでどんな話をしたんですか!?」

「メイジスを殺せる新しい武器を作って世界を変えないかと言われた。メイジスを気にせずに作れる場所に連れて行くとも言われた。俺はこの村のために武器を作っているから何を言われても断ったが……」

「新しい武器? それについては聞きましたか?」

「いや、場所に行かなければ教えないと言われた」

「酷いことされませんでしたか?」

「しつこく誘われただけだ。だがこう怪しいことが続くと、またアムドガルドに異変が起きている気がしてならないな。まるで……十五年前のあのときのようにな」

「十五年前、ですか?」


 僕は首をかしげる。何かあったかなと考えてみたが、丁度生まれた年だった。


「そうか、知らねぇのか。メイジスは大人も小せぇから見た目で年がわからねぇ。オメェまだそんな歳なのか」


 ついに見た目で歳がわからないと僕までも言われてしまった。サキやハクの仲間入りだ。


「丁度十五歳なんです。彼女も。僕が物心ついたときにはその話をする人はいなかったと思います」


 僕は思った通りにそう言うが、フラウは反応が違った。


「十五年前……『ヴィロの大禍』ですか……?」

「なんだ。知ってんじゃねぇか」


 そう言われて驚いてフラウを見る。


「無知ですみません……僕、村から出たので……」

(あら、教養の差が出ちゃったわね)

(くそ……それなら教えてくれよ)


 サキにバカにされて悔しいが、彼女に聞くのが一番手っ取り早いので、恥を忍んでお願いする。


(えっ? うー……そうね。うん、一般的に言うとーー)


 サキがそんなことを言っている間にフラウが僕の顔を見て察したようで、


「ーーその、ヴィロの大禍っていうのはね。十五年前に起きた事件で、えっと確かーー第二皇女誘拐事件から始まって、帝国中が混乱したときに、他の悪魔が各地で連鎖的に……連鎖的に……そう! 暴動を起こした事件……だったはず!」


 一生懸命に説明してくれた。フラウが詳細に言えば言うほど僕は惨めになった。


「すごい……! なんでそんなに詳しく知っているの?」

「お母様が大事なことだから覚えなさいって。知らないと歳上の人に馬鹿にされるからって。だから暗記したの」

「うん……」


 そして実際にその状況になったわけだ。まあ見栄を張って話についていけなくなるよりは全然マシだと思うことにする。


「因みにヴィロっていうのは、その皇女を誘拐したやつの名前だ。とんでもなく強力な魔法を使いこなし、魔王とも呼ばれ、世界中の誰にも恐れられた。二人とも実際の状況は知らねぇだろうが、アムドガルドでも悪魔が暴れて混沌となった。メイジステンから逃亡したヴィロ本人が潜伏していたとも言われている」

「それで最後は捕まったんですか?」

「事件の大本のヴィロは、複数の悪魔を従えたと言われたが、あのシーザーに討たれた。従っていた悪魔以外の、各地で暴れていた悪魔は、それぞれが好き勝手にやっていただけだ。秩序が戻るとそっちにも手が回り、鎮圧された」

「そのときと同じようってかなりまずくないですか!? なんとかしないと……」


 僕の発言に対して老旦那は難しい顔をして、首を振った。


「世界中で、アムドガルドでも多くの犠牲が出たが、得をした者もいた。俺もその一人だ」

「ど、どういうことですか……?」

「俺はその混乱に乗じて奴隷を辞められた。剣族に理不尽を与える仕事から逃げ、村に帰って家族や友人に会えた。そのおかげでここに居られると言っても過言ではない」

「あっ……」

「だからオメェは聞いたら怒るかもしれねぇが、もし再び似たようなことを起こせるとしたら、アムドガルドでは望む者は多いだろう」

「そう考えると、そうかもしれませんね……」


 僕はメイジスだ。だけど剣族の味方でもありたいと思う。だけどそれは、メイジスの敵になるというわけではない。


「それはそれで辛いだろうがな。多くの犠牲が出る。当時も逃げられた奴隷は全員ではなく、更に理不尽な決めつけで殺された奴隷なかまもいた。前はなっちまったから動くしかなかったが、運の良いやつや賢いやつだけが生きることを許される世界になる。俺は再び望むかというと、答えは出せねぇ……」

「ごめんなさい。僕は剣族と仲良くしたいと思っています。でも……」


 剣族のためにメイジスは殺せない。逆も同じだ。


「剣族とメイジスに限らねぇ。守りたいものを決めろ。俺はこの村を守ると決めた。そのためならメイジスとも、剣族とも、化け物とも戦うとな」

「わかりました。今すぐは決めることはできませんが、自分に問い続けて、自分で答えを出そうと思います」

「私もです」

「そうか。まだ聞きたいことはあるか?」

「これで聞きたいことは聞けました」

「そうかーーなら食べないとな。暗い話で食えなかったかもしれないが」


 聞くことと考えることに集中し過ぎて、食べるのを忘れていた。誰も料理に手をつけていなかったのだ。


「はい! それじゃあ、いただきます!」

「いただきます」


 僕達はそう言って食べ始める。


「お前ら騎士なんだろ? 何か面白い話はないのか?」

「具体的には騎士見習いと言います」

「どっちでも構わん。何でも良いから面白い話だ。明るく笑えるようなやつだ」

「そうですねーーあっ、それなら、ルセウでとても個性が強い商人さんと行動を共にする機会があったんですよ。大したことないことでもお願いしようとするとお金を要求する人でーー」


 それからは楽しい話をすることができたと思う。今日の話はアムドガルドの聞き込みで一番充実したもので、大きく進んだと感じた。

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