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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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37話 クフリーでの聞き込み調査

「よし! 情報収集頑張ろう……!」


 ここはアムドガルドの入り口の街クフリー。アムドガルド商人は……前より少なく、人の往が多く、来などない。


 ーー当たり前だ。


 ここまで来るのにどれだけ苦労したと思っているんだ。太陽が仕事をしている間はただひたすら歩き続けた。瞬間ではなく持続するタイプの強化の魔法を使う練習と言えば聞こえは良いが、下手か超下手かは身体でわかる。フラウを見て自分が上手いなどとは言えない。

 しかも女の子二人に一定時間毎に大丈夫かと聞かれるのだ。フラウより実力が下なのは当たり前だが、一緒に居ればおとなしめで優しい少女だ。やっぱり情けなく思い、結構無理をしてみたが、身体の節々が痛み、二日目からは逆に気を遣わせる羽目になってしまった。

 それにどちらの夜も歩みを止めてからの記憶がない。生きているということは飲み食いはしていたのだろう。だが朝には、あんなに話しかけたのに返事がなかった。なんてサキが拗ねていたことは覚えている。

 内容は最低だが結果は悪くないーーなんと今は三日目の朝なのである。つまり予定より早く着いたので、僕がいたから遅くなったなんてことにはならず、メンツは保たれたはずだ。


「本当に身体は大丈夫?」


 フラウは心配そうに聞いてくる。ローブを着て軽装な彼女も見慣れてきた。


「うん……まあ、大丈夫だよ。ちょっとは痛むけど、前にもこういうのはあったから慣れているし」

(魔力の過剰使用の後遺症に慣れないでほしいんだけど?)

(ごめん。わかっているよ……)


 サキにはお見通しだ。


「でももうこれで急がなくても大丈夫そうなんだよね?」

「うん。依頼を受けてから七日目の午後までにキレウに居れば良いからね。今日が三日目だからーー三、四、五、六、七の午前と四日半もある」


 指を折って数えながら僕はフラウに説明する。時間を言い訳に歩いたが、ただ時間に追われて急いていた訳ではないのは、僕とサキだけの秘密だ。


「クフリーからキレウは遠くないんだよね?」

「うん、一日じゃ着かないだろうけど、近いのは確実だよ」

「良かったーーレノンが辛そうなの、もう見たくないから」


 フラウは胸に手を当てて安心したというような表情をする。やっぱり結果だけ良くてもダメだな。


「聞き込みは僕の領分だ。ここから挽回するぞー!」


 そう言って僕は歩き出す。勢いに任せて腕を振ってみたらとても痛かったが、それに負けてもいられない。アムドガルドであるここクフリーからが本番だ。早速聞き込み開始だ。


「あの、お話伺ってもよろしいですか?」


 僕は暇そうに頬杖をついている商人の男に話しかける。その姿はガタイの良さもあってまるで岩のようだった。

 フラウは僕の背中に隠れて目を逸らそうとする。がしかし、僕は臆さない。何故なら恐らくこれがアムドガルドスタンダードだからだ。


「なんだ? ガキが二人でこんなところに……今のアムドガルドにデートスポットなんてないぞ?」

「いえ、そのような話をしに来たわけじゃありません。僕は騎士見習いでレノンと言います」


 商人は音を立てて立ち上がると、口を開いて、固まる。ギンよりも全然背丈は大きいが、態度の方はまるで違った。


「騎士……? 勲章! ほ、本物!? す、すみませんでした! すっかり客足が遠のいていたもんで、寝ぼけてましてーー」


 慌てて大声を上げると、


「見目麗しい騎士様。勇ましき援軍であろうと推測致します。どのようなものをお求めでしょうか?」


 仕切り直して騎士用と思われる接客に切り替えた。


(騎士見習いってアムドガルドには本当に広まっていないみたいね。完全に騎士と勘違いしているわ)


 どうやらサキの言う通りのようだ。更に援軍と言っているので、今回の黒死の悪魔についても詳しく知ってそうだ。


「正確には騎士ではないのですが……似たようなものだと思ってもらえれば理解しやすいと思います。僕達はまだクフリーに着いたばかりで、現状について把握しきれていないんです。何か黒死の悪魔について情報を提供してもらえませんか?」

「噂でも良いですかい? 事実かどうかはちょっとわかりませんけど……」

「構いません。話してもらえませんか?」


 そう言うと商人は顎に手を当てて思い出そうとする。


「あれですね。前に収容所が襲撃されたって話がありましたが、昨日また起きましたね」

「奴隷商が使う収容所がですか?」

「今度は鉱山奴隷の収容所だそうです。どこって言ったかな……とにかく状況は前と同じで騎士だけが……何考えてるかは見当もつきませんね」

「そうですか……」

「騎士様はこの後アムドガルドの内部に進んでいくのですよね?」

「はい。黒死の悪魔は止めないといけないので」

「でしたらお気をつけください。北部の領主の娘の……ほら、あの家出したっていうなんとかっていうのが、剣族の野蛮な組織に捕まったとも噂が流れていますし」

「「えっ!?」」


 二人とも揃って驚きの声を上げ、顔を見合わせる。明らかにフラウだが、彼女はここにいるのだ。


(でもそれって……)

(フラウのことだよね?)

(家出って普通そんなにしないわよね?)


 サキもそう言うし、僕もそう思う。それなのでこの噂は嘘だろう。しかし何故そんな噂が流れるのだろうか。フラウは強いし、どう考えても剣族に捕まることなんてあり得ない。


「でも、メイジスが剣族に捕まるってあり得ますかね? 剣族の力が強いのはわかりますが、魔法に対抗できるとは思いませんが……」

「さすがにメイジスといっても少女みたいですし、剣族の大男相手には敵わないんじゃないですかね? 娘さんなら武術は習わないでしょうし」

「魔法の才能には男女差はないので、女だから戦わないとかは関係ないような気がしますが……仮に多少の筋力差がっても強化の魔法で簡単に覆せると思いますし」


 僕は目だけ動かしてフラウを一瞬だけ見て戻す。


「あら? えっ……そ、そうなのですか? 剣族では、力仕事は男と相場が決まっていますので知りませんでした! とにかく北部の者の話なので、南部の騎士様がそうなるわけないですけどね! ワハハハハハ!」

(まあ、合わせとけば良いんじゃないかしら)


 商人は笑って誤魔化す。額に汗が見える。どうやらメイジスと剣族では勝手が違うため、文化も違うらしい。これ以上指摘して肝を冷やさせるのもかわいそうだし、そう言ってくれているので合わせることにした。


「でも何かあったのかもしれませんね。教えてくださってありがとうございました。僕達も気をつけますーーそのお礼と言ってはあれですが、買い物していきますね。日持ちの良い食べ物はないですか?」

「そうですか! ありがとうございます。それならですねーー」


 そうして僕達は昼の鐘が鳴るまで店を巡って話を聞き、情報と移動時用の食べ物を集めた。


「大分聞いて回ったから、そろそろ昼にしようか」

「うん、わかった」


 大方情報は集まったと思った僕達は今、足を休めながら昼食を取っている。昼食は、今手に持っている奇妙な魔物の腸詰めなるものを挟んだパンだ。

 今食べてしまっているが、これも保存食らしい。魔法で肉を冷やして保存できない故の策の一つらしいが、獲って焼いて味をつけるだけではなく、製造方法は複雑らしい。


「美味しい……! 全然イメージと違うよ」

(アムドガルドの料理も良いわね)


 保存するためだけでなく、美味しくするために凝っているのだろう。肉だけでなく香辛料の味もしっかり効いていて美味しい。魔法がなくとも新しい方法を見つけ出して進化していくとは、さすがは剣族だ。


「レノンは食べるの初めてなの? 料理できるから食べたことあると思ってた」

「簡単なことしかできないからね。あと、村にない食材は使いようがないし。フラウは食べたことあるの?」

「家にいたときに食べたことがある。お母様が用意させたって」

(さすがリューナ、そしてリオナ)


 サキは、僕も思ったことを口にした。リューナは商人が集まって栄える大都市。商人は商品を集める人なので、世界中から集められ、全てのものが手に入るとまで言われているのだ。


「でも同じ食べ物でも、今食べているものとは全然違うんだろうなぁ」

「レノンも家に着いたら振る舞ってもらうようにお願いしてみるね」

(そう上手くいくかしら?)

「とにかくリューナに行くのが楽しみになってきたよ」


 僕は二人に向けてそう言って話を締めようとするがーー


「ここで今後の予定を決めないと!」


 思い出して口にする。リューナに行くのは楽しみだが、今大事なのはこっちだ。


「うん、そうだよね。私が言うね。わかったことは、黒死の悪魔と思われる人がまた事件を起こしたけど捕まらずに手がかりすらないこと。そして、私の……嘘の噂が広まっていること?」


 フラウが内容を大まかにまとめて言ってくれる。聞き込みのときのことを気にしているのか、積極的だ。


「黒死の悪魔は、必ずメイジスを殺しにやってくると言っても、今の段階では待ち伏せよりもアムドガルド内を探す方に力を入れた方が良いかもね。わからなすぎる」

(探すって……あんなに危険なやつなのに、自分から会いに行くの? 今のように情報を集めるだけでも役に立つはずよ)

(そうだけど……やけに慎重だね。何かあるの?)

(慎重って……だって悪魔よ? 強いのよ? この前のルクレシウスは騙されて急に戦わされたけど、事前に強いのと戦うとわかるなら慎重にもなるじゃない。なり過ぎて丁度良いくらいよ)


 頭では一理あるとしているものの、心では納得いかない。そう思っていると、


「うーん……アムドガルドの騎士も追っているし、無理に探すよりも連携を取った方が良いかも」


 フラウまでそう言いだした。


「フラウもそう思うの?」

「も……? あっ、サキさんのことだよね」

「うん」

「私達だけで戦っているわけじゃない、と思うから。この剣が役に立つかもしれないけど、私達が騎士の邪魔になっちゃいけないと思って……」

「それはそうかもしれないけど……」

(フラウちゃんの言う通りね。しっかり意見を言えるようになっているわ。反対多数でキレウでの情報交換までは情報集めに集中することに決定! それよりも、もう一つの方が私達が強く関わっている気がするわね)


 先ほどサキに言ったことを今度は言われてしまった。それなら仕方ないと切り替えるしかないようだ。


「フラウと思われる人物が捕まったってことか……」

「それは……なんでそんなことになっているんだろう…………」


 フラウは自分を見て、うーんと考える仕草をする。


「理由もなく嘘をつくなんて、リオナ家に喧嘩を売るだけで良いことなんてないよね。もしかして本当にフラウみたいな人がいて捕まっているとか?」

「そんなことないと思うけど……でも、リューナの騎士は強いし……」

「こっちは南部の騎士は協力してくれなさそうだよね。じゃあ僕達はこっちをやるべきってことかな?」

「うん。キレウでも黒死の悪魔の件と一緒に」

(まず本当にいるのかって話だけど、場所を変えて聞き込みをするのは悪くないと思うわ)

「よしじゃあ昼も食べ終わったし、まだ昼の鐘が鳴ったばかり。今からキレウに向かおう!」


 今後どうするかが決まった僕達は、騎士テイオンとの約束の場所、キレウに向かって歩くことにした。

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