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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
3章 復讐の地にて
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36話 メイジスを狩る亡霊

「黒死の、悪魔が……!」

(またここで、その名が……)


 テイオンのその言葉を聞いて、僕達は反応せずにはいられない。

 リシューで行われた任命式での出来事ーー黒煙の中、リシュー伯とその護衛の騎士が殺された。僕もフラウがいなければ殺されていたであろう。


「そうなんだ。今度はアムドガルド地方の各地で騎士が殺されている。その数は既に片手では数え切れないほどになっている」

「そんなにも……」

「それなのに、黒死の悪魔は痕跡を残すのみで、姿を見た者は君達以降いない」

「僕達以降……何でそんなことまで知っているんですか?」

(確かにこの人、やけに私達のことに詳しいわね)


 謎であったが、その答えはすぐわかった。


「逆タロに載っていたからだよ」

「あー、なるほど」

(またネタにしたのねあいつうううう!)


 かの商人を思い出す。そうだ。あの人、新聞を書いて売っているんだった。書かれるようなことをすれば知られるのも当然だ。名声が広まりやすくなるのはこうして依頼が増えるため、騎士見習いとしては良いことだが、動向がわかるのは少し恥ずかしい気もした。


「南部の人……と言ってもアムドガルド地方はメイジステン地方より北だけど……何て言ったら良いかーー」

(北なのに南? つまりどういうこと?)


 聞いている僕もこんがらがってきた。難しい話だと思ったのでサキに心の中で会話して確認してみる。


(北部ーーつまり女帝派は、メイジステン地方の北部の領主を集めて対抗しているだけ。だからアムドガルド地方は、北部と呼ばれている場所より位置が北にあったとしても、元々帝国を統治していたセルゲイ派、つまり南部の統治ってことよ)

(おお、ありがとう。まるでサキが頭良いみたいだーー)

(それってあたかも……)

「つまりアムドガルド地方は南部が統治しているってことで良いですか?」


 これ以上聞くと怖い気がしたので、目の前の人に話を戻す。


「そうそう。君も逆タロ読んでいるのかな? とにかく理解が早くて助かるよーーそれで、私はそのアムドガルド子爵に仕える騎士なんだ。北部の人間が出す情報を読むのはあんまり良くないとは言われているけど、実は黙って購読しているんだ」

「それを聞くと、やはり同じメイジスでも、確かに対立は存在しているんですね」

「ああ……だけど今はそれどころじゃないと思うんだ。黒死の悪魔は南部北部関係なく騎士を襲っている。それにクーリィっていう有名な悪魔学者も調査から帰ってこないし……彼の予測を恐れて暗殺されたのかもって逆タロにも書かれていたよ。だから君達を騎士見習いだと知っていながらも、協力を仰ぎたいんだ」

「なるほど。そういうことだったんですねーーどうしようか?」


 そう言いながら僕はフラウを見て聞く。その状況は悪いし、関係者として力になりたいけど、今はフラウもいるし、共にやると決めたことがある。僕だけでも行くなんてことは言えない。


「危険なのはわかっているけど……悪魔は許せないし、放って置けないし、私が力になれるなら、その、行くべきだと思う」


 フラウはそう言った後に自分の剣に触れる。確かにあの黒煙の中、フラウの魔法だけが消えずに届いたのだ。加われば解決に向けて前進するに違いない。


(気持ちはわかるけど、私は反対よ)


 行くと言おうとしたところでサキが言葉を刺して止める。


(何で?)

(だって良いことがないもの。フラウは女帝派の人よ。アムドガルドで問題が起きて困るのはセルゲイ派。放って置けば援軍は来るし、敵軍を削ぐことができるわ)


 言っていることは正しい。だけどその発言をサキがするなんて思わなかった。


(サキがそんなこと言うなんて……! 『できるやつがやれば良い』じゃなかったのか! 今日や明日、また命が失われるかもしれないんだぞ!)

(だから気持ちはわかるってさっき言ったでしょ! あなたが黒死の悪魔を倒すことができるとでも思っているの? この前のあれを経験しておいてよくそんなことが言えるわね。あなたにできるのは精々リューナまでフラウちゃんを送り届ける程度。身の程を知りなさい)

「レノン、大丈夫?」


 フラウが心配そうに僕を見て言った。声に出さないとはいっても、あんなことを言われて平然とはしていられない。


(サキが嫌なのはわかったよ。でも僕の考えを含めたら賛成の方が多いから、今回はそうするからね)

(うう……なんであのときやってくれなかったの……? あのバカ弟子は…………)


 一方的にそう言い切って僕はテイオンに向き直る。サキは何かブツブツぼやいており、納得していないようだが仕方ない。


「すみません、ちょっとどうしようか悩んでました」

「ああ、それはそうかも知れないし構わないけど……結論は出たのかい?」

「受けさせてもらいます。あの場を経験した者として、放って置けません」


 僕はハッキリとそう言った。


「ああ、良かった。報酬は子爵からもらったら君にも分けるよ。じゃあまずはお互いに情報収集をしよう」

「やはりよくわかってはいないのですか?」

「現状はそうだね。何人かが辻斬りと思われる状態で発見されて、この前は剣族の収容所が襲われたくらいしかわかっていないんだ」

「収容所……ですか?」


 僕は気になったので聞き返す。


「ああ、わかりづらいよね。剣族の収容所っていうのは、様々な用途があってアムドガルド各地にたくさんあるんだーー」


 そう言うとテイオンは説明しようとうーんと唸って考えてから口を開く。


「一つ目は牢獄。罪人を捕らえておく場所だね。二つ目は奴隷の住居。個人の召使いじゃなくて、鉱山とか大農園で仕事をする大人数の奴隷用のだね。三つ目は奴隷商人の商品置場。商人が連れてきた奴隷を売るまで置く場所だね。今回襲われたのは三つ目の用途の収容所だ」

「それってもしかして、騎士だけではなく剣族にもたくさんの被害が出たってことですか? それじゃあ被害者は二桁にもーー」

「奴隷の行方はよくわかっていないけど、死体があったのは看守ーーつまり見張りの騎士三人だけみたいだ。奴隷は逃げたのかも殺されたのかもわからないみたいだ」


 つまり商品である剣族は、また新しいのを捕まえてくれば良い。だから安否なんて関係ないということか。

 平然とそんなことを言える認識そのものにやるせない怒りが込み上げてくる。


(……今更怒ってもしょうがない。これが常識。今は……今は……!)


 そういうサキは、自分に言い聞かせているみたいだった。その言葉を聞いて冷静になる。僕が怒って変わるならとっくに変わっている。まずは自分の行いから変えていくと決めたじゃないか。ここで剣族を助ける機会を失ってはいけないんだ。


「だ、大丈夫かい? ごめん。奴隷とか話に出てくるだけでもダメな人だった?」

「いえ……大丈夫です。無視して語れない問題なのでーーそれなら、次も収容所が襲撃される可能性が高くないですか?」

「うーん。と言っても、収容所はたくさんあるからね。まだ今の段階では絞れないから」


 言われてみればその通りか。これでは次にどこを、誰を襲撃するかなんて見当もつかない。


「確かに今の情報だけでは対策は立てづらいですね……」

「だから、今は城の守備を固めるばかりでまだ具体的な作戦は出ていないんだ。黒死の悪魔を見たことのある君達の視点でも情報収集をしてみてくれないかな? 私は騎士として、組織規模で集めた情報を共有して集めてみるよ」

「わかりました。僕達で考えて集めてみます」

「じゃあ次の情報交換は、七日後にキレウで良いかな? キレウっていうのはアムドガルドの街なんだけどーー」

「その都市の行き方も、黒死の悪魔の話を聞くついでに聞いて辿り着いてみせます」

「さすが新聞に載るような人だ。君達に頼めて本当に良かった。一緒に頑張って、絶対に黒死の悪魔を止めよう」

「はい。では今はこれで、約束の日に会いましょう」


 そう言って僕達は握手を交わし、その後軽く手を振り別れ、それぞれ別の道を歩き出す。


「レノン、これで良かったの?」


 フラウが僕に聞いてくる。


「うん? どうして?」

「いや、ちょっと顔が怖かったから。本当は良いと思ってないんじゃないかって思って……」

「ううん、僕は大丈夫だよ。剣族奴隷の話がやるせないのと、あとちょっとサキと揉めたんだ。先に優先すべきことがあるんじゃないかって。でも、フラウが行くって言ったのに、帰る方を優先したら連れ戻そうとする騎士と変わらないと思ったから」

「ありがとう、レノン」


 ここらで何日か活動していたおかげで宿屋はもう取ってある。そして空はまだ赤く、暗くなるまでにはもう少し時間がありそうだ。


「よし。じゃあここら辺から黒死の悪魔について聞いて回ろうか」

「苦手だけど……だからこそ頑張ってみる」

「僕も一緒にいるし、酒場には行かないから大丈夫だよ」


 そうして僕達は、ルセウの街中で黒死の悪魔について何か知っていることはないかと街の人に聞いて回った。


「黒死の悪魔について知っていることはありませんか?」

「その……ど、どんな小さいことでも構わないのですが……」


 道行く人何人かに声をかけてみる。


「アムドガルドの方に行ったんだって聞いたぞ。ルセウを通り過ぎてくれて良かったよ」

「まだ討伐されてないみたいだな」

「そんなことよりもお嬢さん、君となら話したいことがまだまだたくさんあるんだ。そこの酒場で飲みに行かないかい?」


 大体こんな感じで既に聞いたことがある情報しか手に入らなかった。フラウが一生懸命聞く姿に心を打たれた人が多かったのか、無視もあまりされず、怒鳴られたりすることはなかった。結局新たにわかったことと言えば、ルセウでは辻斬りの被害がなかったらしいということ程度だろうか。


「ここじゃああまり知られていないみたいだね。やっぱりアムドガルドで直接聞いた方が良いか……」

「でも何でアムドガルドに行ったのかな?」

「あー、うーん。何でだろう?」


 フラウがそう言うと、僕も答えられず何故か考える。これは確かに疑問だ。騎士を狙って襲う黒死の悪魔が、わざわざ騎士の数が少ないと思われるアムドガルド地方に行くのは不自然な気がする。


「何か理由があるのか……はたまた殺せれば誰でも良くって、剣族の一般人をーーいや、わからないな。襲われているのが本当に騎士だけなのかも含めてクフリーの街に行って聞いてみようか」


 そうして僕達はアムドガルドの入り口のクフリーへ向かうために車を探す。しかし街を歩いても中々見つからない。詳しく言えば、車は置いてあっても人はいない。今日は営業していないところが多いみたいだ。


「今アムドガルドに行きたがる人はいないと思うし……」


 フラウにそう言われて気づく。確かに今危険なアムドガルドに行く理由など余程の人でない限りない。


「行きたがる人がいないから乗せる人もいない、か……」

「うん、逆は多いかもしれないけど……」


 逆ーークフリーからルセウに行く人か。確かに危険で行きたくない場所なら、既に居る場合は離れたくなるはずだ。


「考えているより直接行った方が早い気がしてきたな。けど前行ったときは一夜野宿して半日くらいだったからなぁ……」


 それは長距離を走り慣れている剣族で、道を迷わない前提での話だ。戦闘の瞬間や短時間では強化の魔法をかけて剣族の筋力を圧倒できるメイジスだが、長時間となると魔力の消費が厳しい。


「多分、三日あれば着くと思う」

「えっ」

「前に行ったときはそうだったから」

「でも、前に行ったときは俥夫さんいたよね?」

「…………ううん」


 僕の質問にフラウは首を横に振った。そう。彼女はクフリーのときの依頼のあの現場に着くまでに徒歩で行ったと言ったのだ。


「鎧は? 剣とか荷物は?」

「着けたままだけど……?」


 それはつまり強化の魔法を常時発動させながらということだ。


「ま、魔力は尽きないの?」

「なくなりそうになるまで使って、休んで、また進んで、暗くなったら寝れば大丈夫」


 それはその状態で進む前提なら当たり前の答えのように聞こえる。しかし三日で着くとなると、かなり長時間強化の魔法が保つことができることになる。


「これが数年単位の訓練の成果か……」


 剣を手に入れても杖なしじゃ魔法が使えないのは知っていた。だが仮に鎧を手に入れてもすぐに着て強いなんてできなさそうな気がしてきた。


「でも僕の方がな……」

「じゃあ、レノンが疲れたら、私がレノンを運ぶ! そ、そしたらきっと問題なく進むよね?」

「いや……それはちょっと……」


 フラウが自分から提案してくれるのは嬉しいことではある。そして彼女の方が強いなんてわかってはいるが、背負ってもらうなんて、本当の意味での『お荷物』だ。そこまでおんぶに抱っこだと、さすがに情けなさが勝る。


(なら私の魔力を使えば良いじゃない。あなたの使い方が下手でも、あなただけの魔力よりはマシよ)

「えっ!? でもさっきは……」


 サキの急な提案に驚きを隠せない。


(さっきは人生の先輩として行かない方が良いって教えてあげただけよ。別に意地悪したわけじゃないわ)

(ほ、本当に良いの?)

(ええ、繋がりが強くなって、より一層一緒に戦えるようになったのだもの。やれることはやらなくちゃ)

(ーーありがとう。恩に着るよ)


 上手く言葉にはできないが、その口調、雰囲気からサキの精神的な変化を感じ、感謝を伝える。


「ど、どうだって?」


 フラウは既に僕がサキと話していることがわかっていたらしく、そう聞いてくる。だが僕はフラウに魔力のことは話していない。必要最低限を超える情報を与えないというサキとの約束を破らないようにと考えながら口を開く。


「できるだけ自分で頑張れってさ。僕もそうしたい。長距離移動は今後もあるし、そのときのための練習にもなるし、やってみれば案外粘れるかもしれないって」

「練習……レノンがそう言うのなら、わかった」


 フラウは心配そうに、というか少し残念そうにそう言った。その方が効率的で早く着くと思われたのだろう。ほらやっぱり……なんて言われないためにも頑張らなくては。


「よーし! 行くぞー!」


 気合いを入れて、街の門の外に向かってーー


「食べ物、大丈夫かな? 三日買えないし……」


 無言で綺麗に回転して準備をする僕であった。

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