33話 サキの旧友(後編)
食事処のテーブルがある部屋から、ハクを運ぶギンを思い出すように部屋を出る。すぐにハクの部屋に辿り着けると思ったが、進む先にあったのは階段だった。上か下か悩んだが、下へ降りる。
「ここってどこら辺なんだろう?」
(わからない……上と下の階段がある家とか……この家、広過ぎない?)
「広過ぎない? って……てっきり知ってるもんだと思ったんだけどなぁ……」
(……ごめんね。知っていれば良かったんだけど……)
会いたいと言った本人が家の構造、当人の部屋を知らないと思うだろうか。サキ曰く、ハクはずっとこの家に滞在していたわけではなく、ここは別れてしまった後に隠れ住んだと思われる場所らしい。
「責めているわけじゃないんだ。一緒に探そう」
(うん、ありがとう)
その後、探索もとい徘徊して奥の部屋へ奥の部屋へと進んでいると、何故かフラウの鎧が扉の側に置いてある部屋の前に辿り着いた。
「なんでこんなところに……? それにしても…………これは酷いな」
とても頑丈に見え、実際に頑丈なはずのその鎧は大きくへこんでいて傷だらけだった。中には穴が空いている部位もあり、洞窟での激戦、そして僕が鎖でフラウを巻き込んだときの痕跡を残しており、このままでは使い物にならないといった様子だった。
「服を直すのとは勝手が違うよね。鎧って魔法で直せるの?」
(さあ……? 私は着た事ないし、見当もつかないけど、フラウちゃん自身がその場で直してない事を考えると、ここまでやられると厳しいのかも……?)
どこかで誰か直してくれないかと思いつつ鎧に触ろうとするとーー
「止まりなさい。動いたら殺すーー」
冷めていて静かな女の人の声が聞こえる。この声はハクの声だ。
「目を瞑って手を挙げて。その他疑わしい事は一切しないで」
その発言のおっかなさに震えるも、できるだけ動かないようにする。
「あなたは確か、勝手に連れてきたリオナの家じゃない方の……」
「……レノンです」
その場で動かずに答える。
「……まあ良いわ。なんで私の部屋の前にいるの? 何が目当て?」
(えーっと、えーっと……)
どうすれば良いんだよとサキに聞きたいが、どうやら彼女も焦っていてダメみたいだ。
さっき部屋で聞いた『普段は優しいから大丈夫! あれは全部ギンが悪かっただけだから!』とは何だったのか。今にも殺されそうだ。
「ハクさんがその……」
「……私が目当てだと言うの?」
「そ、そうなんですけど何というか……」
「嫌よ。帰って」
何とか言葉を繋げようとするも、向こうからバッサリと切り捨てられた。
「は、話をさせてください!」
「話すことなんてないわ。その鎧を持ってさっさと部屋に戻りなさい。何度言っても、部屋の前に置いても、直す気はないから」
鎧……ここにあるフラウの鎧のことだろうが、ハクが持ってきて置いたわけではないらしい。フラウは僕より先に目が覚めたみたいだし、そのときに直す直さないといったやり取りをしたのかもしれない。でも、今はその話をしにきたわけじゃない。
「えっ? そ、そうじゃないです! さっき様子がおかしかったので、大丈夫かなっていうか、その、心配で……」
それを聞いたハクは一瞬黙った。
「ふーん、剣族を奴隷としてこき使う人がいる中、心配するメイジスがいるなんてね。でも勘違いしないことね。あなたが剣族と仲良くしたいと思っても、剣族はあなたのことを今すぐ死んでほしいと思うくらい憎んでいるわ」
「……勝手にここまで来てすみません。悪い事するつもりはなかったんです。なので、もう動いても良いですか……?」
「とっくに口が動いてるじゃない。ギンが連れてきて今も放置しているくらいだから一応害はないんだろうけど……でも私はあなたを信用できないから近づかないで」
「そうでした……すみません」
僕はそう言って振り向く。すると目に映ったのは、先程までとは違う姿をしたハクだった。
白いモコモコした毛に全身を覆われた服、フードには顔が描いており、ヒツジをモチーフにしたものだとわかった。そして、望遠鏡のような筒を持っていた。
(これは……すごくかわいい!!)
サキの発言に賛同しざるを得ない。フードのモコモコと真っ直ぐな白くて長い髪とマッチしている。そして、それまでと変わらない少し不機嫌そうな眠そうな薄い青の瞳がギャップを生み出しており、より可愛らしく見えた。
「どうしたの? ずっと固まったままだけど、動いて良いわよ?」
先程までと変わらず素っ気ない口調でハクはそう言う。
「いえ、それが……」
「これ? これは私の武器よ。そうね……簡単に言えば私でも扱える杖みたいなものかしらーー」
手に持っているそれを持って見せながら言った。
「それも気になりますが! それよりその服装の方です!」
「…………ああ、この寝巻きね」
少し声のトーンを下げ、面倒そうに、更に素っ気なく、吐き捨てるように言った。
「寝巻き……ですか?」
「とりあえずは部屋の中に入りなさい。座る場所くらいはあるわ」
「はい。ではーーおじゃまします」
そう言って部屋に入る。軽く手で促されて椅子に座り、ハクはベッドに座った。
「ここ、夜は冷えるから厚着にする必要があるのよ。あなた達メイジスは魔法で温度調整ができるから必要ないんですってね。あと水浴びなんかしなくても身体を清潔にできるとか。魔法って本当に便利ね。羨ましいわ」
「でもその服、とても似合ってますよ。素敵です」
「……これ、見ればわかると思うけど子供用寝巻きなんだけど、あなた、ちゃんづけにしたり、私のことをバカにしているの?」
「えっ……? ハクさんってでも背は僕と同じくらいですし……剣族は…………」
とりあえず怖かったので敬語を使ってしまっていたが、剣族はメイジスより大柄なので、女性のハクでも僕より一回りは身体が大きいはず。それなのに僕とほぼ同じだ。つまり彼女は僕より年下だと思ったがーー
(でもハクちゃん、生まれたのは私と同じくらいよ。前に見たときより背も伸びてるもん。でも、お肌も髪も顔もかわいいまま。そう思ってしまうのも、仕方がないことだわ)
サキが会っていたという時点でそうだと気づくべきだった。僕にも落ち度はあった。あったが、サキを見ていると同年代かそれより下と話していると錯覚してしまう。
それにしてもこの二人は外見で年齢当てるの難し過ぎる。
あとサキ。仕方がないと思うなら、そういうフォローは先に入れてほしかったよ……
「失礼ね。貧相な見てくれなことは自覚してるわよ。だから子供用でも着れるだけ。というかこれ、ここが寒いからギンに寝巻き買ってくるように言ったら、ギンがこれを買ってきただけだから」
「ギ、ギンさんが勝手に……」
「ええ、素晴らしい職人につてがあるとか言い出して、面倒だし機能さえ果たせれば良いと思って放置したらこの有様よ。大人になったらどうするんだと思ったけど、まだ着れるとか言い出して魔法で調整しだしたりして、結局このままよ。はぁ……本当に魔法って便利よね」
「その……メイジスの一人として謝ります。魔法で迷惑をかけてすみませんでした」
僕が謝ると、そうなるとは思っていなかったのか少し困ったような顔をした。
「……まあ、ただの八つ当たりよ。元から人に見せるような見てくれでもないし。こんなのに結構予算を使ったのは許せないけど、買ってしまったのならその分長く使うべきなのは分かりきっていることだし」
本人が選んでいないのにあらゆる品物の中からこれを選ぶとはーー絶対わざと狙ってやったのだろうと思った。
「そんな、僕は素敵だと思いますよ。背が高い人には似合いませんし、ハクさんにはハクさんの魅力があると思います。その名前も、偶然かも知れませんが、白い髪と合っていると思いますし、卑下することはないと思います」
「偶然じゃないわ。本名だし、この名前は『白』から取っている。帝国語の中でもアムドガルド語の部分から取った……俗に言うキラキラネームね。親の頭のネジは外れていると思うけど、今は嫌いじゃないわ」
どの地域の人も人名は古代メイジステン語からーー当時の集落毎にそれぞれいくつかの種類の言語があるがそのいずれかからーー取るという伝統がある。そのため昔の言葉の辞書を引かないと名前の由来はよくわからないものがほとんどだが、こうして聞いただけで由来がはっきりとわかる名前も新しく良いものだと思った。
「そうなんですね。でも、それならそんな言い方しないで好きって言ったら良いと思います」
「……これは話すときの癖なのよ。気にしないでちょうだい。今も思うけど、あなたは素直過ぎるわ。だからギンみたいな変なやつに引っかかるのよ」
「ギンさんもすごい言われようですね……」
「あれは良いのよ。どうしようもないやつだから。私が頑張って新聞を書いても折って飛ばしたりしてろくに売ってこないし、今度はあれ売りたくて材料持ってきたから次帰るときまでに作ってくれだとか……」
ギンが使ってたあの文字の書いてある紙、新聞だったのか。命がかかっていたので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、戦闘中たくさんばら撒いてたし、もし毎回これなら文句も言いたくなるかもしれないと思った。
「なるほど……それで今度は鎧を直してくれって言われて呆れてたんですね……」
「ええ。家の生活用品を直したり、今の仕事だけで精一杯なの。勿論メイジスが嫌いだからってのもあるんだけど」
「新聞、家具、防具ってーーハクさんって何でもできるんですね!」
ハクさんは驚いたように僕の顔を見ていた。
「どうかしましたか?」
「ーーいいえ、なんでもないわ。私は決まった人としか会ってない。だからそういうのはもうできて当たり前としか思われないから。そんな風に言われたのも久しぶりで、昔を少し思い出しただけ」
「アムドガルドにいたときですか?」
「間違ってはいないけど、小さい頃は旅をしていたから。そのときには私と同じくらいだけど、心は私とは真逆で素直なメイジスの子がいたわ。魔法が使えて優しくて、笑顔がとっても可愛い子。その子が私の事をハクちゃんって呼んでくれていたわ」
(もしかして私の事かな? でもそこまでじゃなくって……あ、でも! ハクちゃんが嘘つきなわけじゃないよ? 違うんだけど、その……恥ずかしいね)
褒められたら誇るタイプだと思ったが、反応が初々しくて意外だった。いつも自分の魔法を誇っているが、容姿には無頓着なのかもしれない。サキが顔を真っ赤にして言ってると思うと面白かった。
「ちょっと、何そのニマニマした顔。本当よ? 私なんかとでも友達になってくれる優しい子だし、あなたも会ったらきっとそう思うわ」
「そう思います。そしてーー思い入れのある大事な呼び方だったんですね。軽々しく口にしてしまってすみませんでした」
「まあ、それはギンの入れ知恵でしょ。あいつも昔からわざと真似してそう呼んでいたのよ」
(嫌がる事をするの大好きだもんね。私の事もいつもからかってバカにしてきたもの)
正確にはサキのせいなのだが、キッパリと断定するところから見て、やはりギンの下らない悪意と自業自得の塊なのではないだろうか。これまででもそう感じることはあったが、そのような事を星の数ほどこなしてきたのだろう。
その結果勝ち取ったのが、あのサキやハクからの絶対的な不信感ということだ。最初は不思議に思っていたが、凄く納得した。
「それも今は変なのだけを残してみんないなくなってしまった。私にとっては、あのときが一番幸せな時間だったーー」
(ハクちゃん……)
そう言ったハクの顔は寂しそうに憂いを帯びていた。そんな事もあったけど、きっと楽しかったのだろう。
目を閉じて気持ちを切り替えたのか、こっちに再び目線を合わせた。
「……過去の話ばかりしても仕方ないわ。これからの話をしましょう。先人としてお節介かもしれないけど、あなたに忠告しておくわ」
「はい」
「振り返れば過去は良いものになるわ。だから今を大事にしなさい。良い過去になる今が、未来もずっと続くように。良かった過去に戻るのは不可能なんだから」
「とにかく今を大事にするべきだ……って事ですよね?」
「そう。まだあなたには共感できないかもしれないけどーーさっきは私に言ってくれたけど、そういうところはあなたの方が子どもっぽいわね」
「今それをハクさんに言われたら返す言葉もないですよ……」
今の話を聞いた僕には、ハクに子供っぽいと言われるのはなんだか癪じゃなかった。最初は見間違えてしまったが、それだけ今、彼女は大人に見えた。
「いつか見返しに来れる日が来ると良いわねーーそう言えば、あなたは騎士見習いだったわね?」
「はい。そうです」
「それなら騎士にはならずに、騎士見習いとして暮らしていった方が良いわ」
「えっ?」
聞いた瞬間はその言葉に衝撃を受けた。だが、すぐに帝の影が思い浮かび、それが帝国の関係者であると言われた事を思い出す。
「でも、それは、僕の夢なのでーー」
「あなたは今回の件で懲りてないの? ルクレシウス……帝国もあそこまでの人材を割いてきたのは初めてだけど、騎士はそれと同等以上かもしれない魔物や悪魔とも戦わせられるわ」
「それなら、僕はもっと強くなります」
その言葉を聞いた彼女はとても怪訝そうな顔をした。
「あなた、強くなってどうするの?」
そう彼女は言った。その後、立ち上がって続ける。
「そもそもルクレシウスに勝てて嬉しかったの? 復讐を果たしたつもり?」
「それは依頼で衝突してしまったからで、更に、僕は勝ってなんかーー」
僕は勝ってなんかいない……と言おうと思ったが、今話すべきなのはそういうことではない。
ハクは僕のその場で繕おうとした言葉を無視して、責め立てるように話し続ける。
「帝国の層は厚いわ。一人殺したくらいじゃ何も変わらない。そんなんじゃやつらは反省しない。世界は変わらないのよ」
「僕が強くなりたいのは、魔物や悪魔、たとえ帝国からでさえも守りたい人達を守れるようになりたいからです」
「考えてみなさい。あなたは私達とは違う……善良なメイジスなのよ。普通に生きていれば世界から嫌われることも、虐められることもない。ただ今のように騎士見習いとして、自分がやりたいと思える仕事を選んでいれば良いの」
(言ってることは正しいかも……だけどレノンは……)
そうか。彼女の言葉にこれまでにない熱が入った理由がわかった。彼女は今自分が置かれた状況での気持ちを僕に伝えているのだ。
剣族の彼女にとって復讐したい相手とは、自身をこんなところに追いやり、それを是とするメイジスだろう。そして、メイジスの僕を目の前にして、その武器で殺せるかもしれない状況だ。だけどそんなことをしても意味がないと頭ではとっくにわかっているから手にかけない。
それどころか、同じ立場になりかねない僕に、そうはならないでほしいと言っているのだ。
「それならーー僕が、ハクさんが嫌われず、虐められることなく普通に生きられる世界にしてみせます」
僕がそう言うと、ハクは驚いたような顔をして僕のことを見て、そんな自分に気づいたのか目を逸らして俯きーー
「メイジスのくせに……」
小さくそう呟いた。
「僕、ティマルスとの境界を越えてしまった事があって、そのとき会った並獣族の人と話したんです。それからはどの民族も平等に生きられるような世界になったら良いと本気で思っていますし、本気で目指しています」
「…………騎士はきっとあなたの思っているものとは違うわ。あなたは余計な事に巻き込まれる。そのときあなたは目に見えるもの、見えないものの両方、大切なものを失ってしまうわ。それは、一度失うと取り戻せないのよ」
その数々の言葉は僕のために言ってくれた適切な助言だと感じた。だけど、きっとそれに従っていたら僕のやりたい事は、大それた夢は叶わないと思った。
「ありがとうございます。その言葉は忘れません。それでも僕はーー騎士を目指したいと思います。自分が正しいと思う事を行う事ができる騎士を、です」
「ーーーーそう。それならもう知らないわ。別に私がするわけじゃないし」
そっぽを向きながらそう言って、
「あくまで私が知る範囲の人間にはいなかったというだけだから、あなたならできるのかもね」
そのままそう付け加えた。
「シーザー卿みたいに立派な騎士になって、またハクさんに会いに行きます」
ハクは少し顔を歪めると再び落ち着かせるように目を閉じ、深呼吸をした。
「……ギンが何か言ったんでしょ?」
「はい。お話は聞きました」
「どんな事を吹き込まれているかを考えるだけでゾッとするから口にしなくて良いわ。あと、ここは大きくても一応隠れ家なんだから何度も来られても困るわ」
「そうでしたね……」
折角会って話せた、仲良くなれたと思えたのに。そしてハクは、ときどき帰ってくるギンがいないときはずっと一人だと思うと辛い気持ちになった。
「でももしーー何かの間違いで再びあなたと会ってしまったときには、あなたがそんな騎士になれているかを見定めてあげる」
「ーーはい! よろしくお願いします!」
「ふぅ……それにしても、少し話し過ぎたわね。いつも変なのの相手してばっかりだから、まともな人と話せたのが楽しかったのかしら」
「変なの変なのってさすがにギンさんが可哀想なのであんまり言わないであげてください……」
「まあ、そうね。じゃあ私はやらないといけないことがあるから、もう戻って寝なさい」
「あの、階段に戻るにはどう進めば良いですかね? 迷いながらここまできたので……」
「どれだけの部屋を覗いてきたのかは知らないけど、ここから真っ直ぐ進んでいればいずれ階段が見えるわ。私は広さの次に効率的に動けるからここを自室にしたんだし。それを登れば二階よ。そこからはわかる?」
「はい。なんとか……多分大丈夫だと思います。いきなり来たのに色々話してくれてありがとうございました」
「ええ。こちらこそありがとう。でも、寄り道をしてはダメよ? この家、お化けが出るから」
ハクはわざとらしく、子供を怖がらせるように言った。
「お化けって……そこまで子供じゃないですって!」
「あらそう、助かるわ。じゃあ、手を繋いで行く必要もないのね」
「当たり前です! って、えっ?」
「ほら、帰るんでしょ? 早くしないとお化けじゃなくとも、ギンに会うかもしれないわ。面倒でしょ?」
「それはそうかもしれませんが……あの! できれば、その最後にーー」
ぶらつく僕の手を、ハクは自分から取って握った。
「自分の理想を追い続けなさい。誰かに止められても、止まらないくらい強くなりなさい」
僕が驚いていると、肩を掴まれて身体の向きを半回転されられ、
「ほら、これでもう良いんでしょーー」
そう言って背中を押された。
もう本当に帰れということなのだろう。その声色は寂しそうに聞こえたが、それは僕がそう思っていたからかもしれない。僕が振り向いたときには少しだけ微笑んでいた。
「はい」
僕はそう答えるだけにして、部屋を後にした。
ーー彼女の手は、意志の強さを感じる温かい手だった。
その後は言いつけを守って寄り道をせずに自分の部屋に戻り、ふかふかの豪華なベッドと毛布に包まれた。
(レノン、ありがとう。ハクちゃん、怖かったよね? 無理させてごめんね……)
「途中からは話せたから大丈夫。良い人だってわかったし、色々な話も聞かせてもらったから。何より無事で良かったよ」
(うん! 本当に良かった! 私にはいつもあの優しい、ううん、もっと優しいハクちゃんだったんだよ)
「行く前だったら信じられなかったけど、今だったら信じられるよ」
(ふふふ、良かった。ねぇレノン、もう眠い?)
「結構眠いけど……何かあるなら言ってよ」
(ハクちゃんに会ってくれたご褒美に新しい魔法を教えてあげる。口に出さないでどんな魔法だと思うか私にビビッと伝えてみて。十秒でね)
なんだろうと一瞬考えてしまったが、すぐわかった。だって自分で答えを言っている。口に出さずともサキと話す事ができる魔法だ。僕はサキにそう伝えてみる。
(時間切れでーす。まあいきなり言っても難しいわよね。正解は、口に出さずとも私とお話できる魔法、その名も擬似伝心でしたー! ね? 凄いでしょ?)
サキは自慢気にそう言った。内容はとても凄いのに上手くいってないのが如何にもサキらしい。
「伝えたよ。サキが聞いてくれなかっただけだ」
(えっ!? そうなの!?)
(うん。頭の中で思い浮かべてはみたよ)
(そう……うーん、やっぱり簡単にはできないのね……でも、これは必要だから練習しましょう! しりとり……リゾット!)
「それ、今からするの?」
とても便利だし、口に出す癖の対策になるから嬉しい。だけどもう眠いんだけどーー
(しりとり中は声出し禁止! 全部こっちでやるの。『ト』よ)
どうやらやる事は決まっているらしい。嫌だと言ったら機嫌を損ねてしまうだろう。こういうときは本人から止めると言い出させるのが一番だ。
『とり』とだけ伝えてみる。
(とり、ね。ちゃんと伝わったわ。り……リューナ!)
今度は伝わったらしい。内容が短いと伝わるらしい。
(なまり)
(上手、上手! り……また、り…………?)
サキが止めると言うまでしりとりでその練習を続けた。リューナ〜やリューナの〜はしりとりのルール上ありなのだろうか。それでも彼女はリューナ商人と言うなどして自爆していたが、とにかく練習にはなった。




