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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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32話 サキの旧友(中編)

(それがあなたの選択なのね。そう言うのなら私はあなたと共にやっていくわ)


 ギンの警告に対する僕の決断に、サキはそう言ってくれた。


「じゃあこのまま話をしよう。イヴォル辺境伯はね、元皇女殿下ーー現アンナ陛下と一緒にいるんだ」

(アンナ陛下……また出たわね……)

「それってもしかして……!」


 フラウは机に両手をついて立ち上がり、これまでにない程険しい目をして言う。ギンはその様子に恐怖を感じたのか、慌てて付け足す。


「あーあーやましいことじゃないぞ? うん…………多分ね。仮に事実だとしてもそうだとは言えない。私の首が落ちかねないからね。うーんと、どう説明しようか……」


 あのギンが目を閉じて口を閉じて静かに考え事をする。少し経ってまとまったのか、話し始めた。


「依頼の報酬だ。嘘はあってはならない。推測が間違った場合は嘘と区別がつかない。よって調べた中でもより正確な部分だけをお話ししよう。良いかな?」

「お願いします」

「私の調べによると、この帝国を統治する組織が二つに割れているようだ。一つは北部の女帝派、もう一つは南部のセルゲイ派と呼ばれている」

「騎士見習いになる前に説明で少しだけ聞きました。女帝……これがアンナ陛下、宰相派の宰相は、セルゲイ閣下の事ですよね?」


 詳しいことまでは知らないが、宰相のセルゲイ閣下は陛下を補佐する偉い人と聞いた。


「そうだね。女帝というのは女性の皇帝という意味で、先帝ルシヴ二十七世の第一皇女のアンナ様を指す用語みたいだ。宰相と言えばここ最近はセルゲイしかいないね。でも実は今の役職は南部側からすれば摂政だったり、既に帝国にはアンナ陛下がいるから摂政の存在を認めたくない北部側からすると宰相だったりするけど、基本的に宰相派で通っているね。伊達に先帝、いやその前の皇帝のときからずっと宰相を務めてきただけのことはあるよ」

(セルゲイが宰相でも摂政でもどうでも良いけど……でもあのアンナ様が皇帝に!? あり得ないわよ!)

「私も現状しか知りえませんが、男子がいる以上なり得ないと思うのですが……」


 僕には難しい話になってきたが、サキとフラウの反応からそれが異例なことだとわかった。


「なんでそんなことになったのですか?」

「北部ーー即ち女帝派のアンナ陛下が、正統な血を継ぐ者が皇帝として国を動かすべきだと主張して、既存のセルゲイによる傀儡からの脱却を企てた。その結果南部の宰相派と北部の女帝派に分かれたのは事実だけど……そこからは推測の域だから私からは言えないよ。何故メイジステン一族の中で、アンナ陛下だけが異を唱えたのか。何故弟のレック殿下やその周りは、黙ったままで反抗もせず、いつまで経っても親政しないのか…………私も当事者を引っ捕まえて是非伺いたいね」

「南部は、メイジステン一族とその親族が中心だとお母様が言っていました。普通に考えると、今の宰相派の状況は、メイジステン一族、親族にも良くないはずですよね?」

「その通りだね。私も知りたいよ。その点君達は有利で羨ましいーー」

「有利……とは?」


 質問をするフラウを見たギンはフラウを指差す。


「君自身だよ。間違いなく北部最有力の名家であるリオナ=ダグラス家が関わっているだろうからね。これは断言できるよ。その証拠として、ようやく最初の話に繋がるけど、女帝派の騎士団ーー女帝騎士団の団長はイヴォル領主シーザー・ダグラス辺境伯だ。彼はイヴォルでアンナ陛下を匿っていている」

「イヴォルに行けば、お父さんに会える……!」

「ここで一つ注意喚起を。お城があるイヴォル領の首都である都市イヴォルは、発展しているとはいえ、昔から魔物の巣窟だった地域に隣接している危険地域だ。高く売れる素材が手に入るから、やり手の狩人ーー今は皆騎士見習いになったのかな? とにかく腕っ節に自信のある者とか、私みたいな一部の商人は喜んで行くんだけどね。とにかく普通の都市とは違うから、それなりの覚悟を持って行った方が良い」

「わかりました。丁寧に話をして下さってありがとうございました!」

「お話を聞かせていただいて、本当にーーありがとうございました!」


 僕達はギンにお礼を言う。フラウの声がいつもより元気で、本当に喜んでいるのだと感じた。


「いや、これは依頼の報酬だからね。これを含めて今回の依頼は完了さ。レノン君も目覚めたし、明日の朝にはここを出ると良い。家に連れ込んでこちら側からこんな事を言うのは心苦しいけど、食料事情は厳しく、やはりハクはメイジスといると心落ち着かないみたいだからね」

(ハクちゃん……)


 僕もそこは心配だ。普段の彼女を知っているサキからすると、更に心配なんだろう。一日というのは、空は見えなかったが、帰る僕達を配慮してのことなのだろう。


「……わかりました。今日一日泊めてくれるだけでも僕達にとっては嬉しいです」

「そう言ってもらえると私も助かるよ。さて、部屋に案内するけど、その前に……」

「何でしょう?」

(また変な事言い出さなければ良いけど……)


 ギンの言葉に僕は聞き返す。サキがそう言ったが、僕も同じように不安だった。


「まだ時間があるからね。今度は君達の話を私に聞かせてくれないかな?」

「僕達の話……ですか?」

「……ルムンの怪物」


 何か話す事などあっただろうか、そう考えようとした僕の方を向いたフラウが、小さく呟く様に言った。


「おお、フラウちゃん大正解! 大ニュースの記事を書きたいから、聞いても良いかな?」

「どんな事を話せば良いのですか?」

「怪物はどのような姿をしていたのかとかーー」

「なるほど」

「英雄達は如何にして怪物を倒したのかとかーー」

「ふむふむ」

「そんな英雄達はどういった生い立ちの人間なのかーー」

「ダメです」

「そんな英雄達はどういった生い立ちの人間なのかーー」

「二回言ってもダメです」

「かの勇者一行はここに着くまでにどんな経験をしてきたのかーー」

「言い回しを変えてもダメです」

「…………ダメか」


 ギンも先ほどのフラウのように小さい声でボソッとそう呟いた。それ以降は諦めたらしく、真面目に質問をしてその答えを聞き、メモを取っていた。

 それが終わった後、ギンは僕達をそれぞれ部屋に案内してくれた。


「ーー良いよね?」


 僕は小さい声でもう一度確認する。


(ええ、どうせ知られてしまっているでしょうし)

「あの、ギンさん。一つ良いですか?」


 僕が寝る部屋の前にまで案内して、去ろうとするギンを呼び止める。散々話し疲れたが、二人きりになるタイミングは今しかない。


「おや、何か気になることでもあったかな?」

「その……サキのことなんですが……」


 サキもギンは既に気づいていると言っていた。彼女の事を聞いておきたいと思った。


「ああ、知っているとも。私は誰よりもこの帝国の事を知っていると自負している。ジャンルは限らず、勿論魔女として名を轟かせた彼女の事も。聞いたかもしれないけど、共に旅をした事もあるよ」

「面識があるとは聞いています」

「ーー昔は私の言うことを素直に頷いて聞く良い子だったのに。いつからか何を言っても反抗的になってしまってね……」

(最初に出会ったときから胡散臭いと思ってたわよ。何でも知っているせいか最初から馴れ馴れしいのよ本当に……! しかもちょっと私が世間の常識とズレているからって当たり前のことを聞いてくるし。私が答えたら大袈裟に驚くし。すぐわかる嘘をついて馬鹿にしたりーーあーもう思い出しただけで頭にくるわ!)

「あはは……」


 二人の話す内容を聞いても苦笑いしか出なかった。


「あの、それならサキを戻す方法について、何かわかる事はありませんか?」

「戻したいのかい? あれだけの力を持っているのにーーそれとも、だからこそ恐れているのかい?」


 ギンは不思議そうな顔をした。


「恐れてはいません。ですが今の状況はかわいそうです。それに僕のせいでもあるので……助けになれるならなりたいです」

(レノン……)

「かわいそう、か。なるほどなるほど……でも今君に具体的に言う事はないよ」


 ギンさんは手をひらひら動かしながら言った。


「ギンさんでもわからないんですか?」

「知識というのは荷物と同じように重さがあるみたいでね。貯め込めば貯め込む程足が鈍くなるんだ。風が吹くままに動く方が君には合っていると思うよ」

「そうなんですか? あまりよくわからないのですが……」

「先人の言葉というのはよくわからないものさ。でも気が向いたから一つだけ忠告をしようーー風が吹くままに原っぱを散歩するのは気持ちが良いけど、嵐が来る前には誰かの家に泊めてもらった方が良いよ」

「えっと…………すみません。やっぱりわかりませんーーですが、忠告ありがとうございます」

「ところでこの家はどうだい? 部屋はいくらでも空いてるから、もし住むなら安くするよ」


 僕がお礼を言うと、さっきまでの調子に戻ったようでそんな事を言ってきた。


「やっぱりお金は取るつもりなんですね……しかもさっきハクさんがって話をしたばかりじゃないですか」

「彼女についてはちょちょいっとすれば丸め込めるよ。で、どうだい?」

(……最低ね。ハクちゃん……やっぱり心配だわ)

「いや……大丈夫です。行く場所もありますから。それと、すぐそういう風に言うから他の人からの風当たりが強くなるんですよ。話している人と優しく接して笑顔にしないとダメですよ。だってギンさんは商人なんですから」

「あらら、これは言われてしまったね。じゃあ私はハクに優しく接するために様子を見てくるから、ゆっくり休んでおくれ」


 ギンはそれを見てニッコリと笑うと、今度は呼び止める間も無く部屋を後にした。部屋の窓を開けると既に空は赤くなっていた。


「うーん、やっぱわからないや。というか難しい事ばかりでわからない事だらけだー!」


 ベッドの感触を手で押して確かめてから飛び込む。柔らかく全身を包み込んでとても心地良い。目覚めてから話をしただけだったが、とても疲れが溜まっていた。


(ギンの言葉なんてわかるもんじゃないわーーもしかしたら、わからないからあえてあんな難しい言い方をして誤魔化しているだけかもしれないし)

「ギンさんは考えてもわからないから今は良いや……そう言えばーーさっきフラウと聞いた話でアンナ陛下のときに反応してたけど、詳しいの?」


 先程の話でわからない部分を聞いてみる。


(詳しいって? 陛下なんだからアンナって人が一番偉いって事でしょ?)

「それはそうだけど、なんか知ってそうな、会ったことがありそうな感じだったから……」

「もし会った事あるって言ったら驚く?」

「うん、それはすごく」

「ふふふ、なら驚きなさい。と言っても、親しくとまでは話した事ないけどね」

「ーーーーやっぱり君はとんでもない人だよ……」


驚かないわけがないだろう。

 それにしても、サキは本当に知れば知るほど謎な人物だ。ギンとも知り合いだし。陛下とも知り合いだなんてーー

 やっぱりいつまでも僕の中にいるなんてダメだ。身体を取り戻してあげないと、会いたい人にも会えないし、伝えたいことも伝えられない。


(でも私は身分とか興味ないし。偉い人同士の争いがあるなら、偉い人に任せておけば良いんじゃない? って感じだったし、今もそれは変わらないわ。雲の上は見えるようになってから見れば良いんだし、まずは明日を見ていきましょう)

「うん。まずはフラウをお父さんに会わせてあげたい。そしたら次は、今度こそ君のためにーー」


 今はそう言って一緒に居てくれているけど、本当は早く自由に色々な人に会いに行きたいと思っているのかなーーなんて思った。


(聞いてたの? だから今は明日を見なさいって)

「あ、そうだよね。ごめん」

(さて、やることはもうないわね? レノン、もう寝る?)


 まだ身体を清めてもいないし、寝る準備もしていない。このまま寝てしまうと思ったのかサキが聞いてくる。


「うーん、さっきまで寝てたからな……まだあんまり眠くないや。なんで?」

(えっと……いえ、やっぱり何でもないわ)


 サキは何かを言おうとして止めた。それだけで判断してはいけないが、今の状況で言うと、何か言おうとした事を隠したのだろう。


「今更隠さないでよ。僕はサキの助けにもなりたいから」

(……うん、でも……図々しくない……?)

「大丈夫だよ。いつものサキのように」


 すると、サキは言いづらそうに口ごもりながら言った。


(えっと、ここを出る前にね? その……もう一度ハクちゃんに会って、本当に大丈夫なのか確認したいって言ったら、ダメ……かな?)

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