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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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28話 洞窟の奥にて待つもの

 休憩がてらに話してくれた地点からここまでの道は中々の長さだった。何回か魔物と戦ってきたが、ナミマだけには会わないようにと祈っていた。しかし、一回だけ会ってしまい、倒した後にあれをもう一度飲んだ。


「止まってもらっても良いかい? 確かここら辺だ。そろそろいつ出てきても対処できるようにしておいた方が良い」

「わかりました。遂にか……」

(それにしてもやけに慎重ね……そんなに危険なやつなのかしら?)


 そのとき、奥の暗闇から岩がこちらに向かって飛んできた。


(魔法!?)

「来たか! 障壁!」

「ーー準備」


 土と岩の盾を作り、それを防ぐ。ぶつかる瞬間ギンが更に強化してくれた。ぶつかった衝撃でその岩は音を立てて砕けた。


「ありがとうございます」

「念には念をね。ちょっと危ない気がしたから」

「こっちも……!」


 フラウが電撃を飛ばすが、バチッとぶつかる音がしただけだった。


「照明費節約の術ーー私を捕まえたいのなら、隠れてないで出てきたらどうだい? そこで待っている事も目的も私は知っているよ。隠れていたら、いつまでも話がつかないじゃないか」


 ギンの声と光が洞窟内に浸透する。未だに姿が見えないと思ったが、ギンの声に応えるように彼の灯に並ぶように灯を飛ばし、その後、足音が聞こえてきた。


「失礼した。此度は子どもの引率をしているとは気づかなかった故、不意打ちなどという汚い手段を使ってしまった。久しいな、違法滞在人よ。命からがら逃げ出した後、戻ってくるとは、同情を誘って許しを乞うつもりか?」


 どんな姿の怪物が出てくるかと思ったら、現れたのは人間だった。しかもそれは、フードを被り、黒いローブを着ており、剣を携帯しているという風貌であった。ラティで見た男達と同じ服装だった。


「お前らーーラティーを滅茶苦茶にしたやつらの仲間か? お前らは何者なんだ!」


 僕は男に問いかける。あの姿を見ただけで怒りが込み上げてくる。


「ラティーの生き残りか? その答えを得るためにこんなところまで遠路はるばるやってきたというのか」


 男は淡々とした口調でそう言った。


(やっぱりラティーのやつの仲間なのね)

「……結果的にそうなっただけだ。だけどお前達は罪無き村人を虐殺した悪だ」

「ーーあのときラティーでは異変が起きた。それを言うなら私の同胞も命を落としてしまった。陛下の命令に忠実な者達が何人も、私が目をかけていた教え子も……」

「まるでラティーが陛下の命令で燃やされたみたいな事を言うな!」


 そのときギンが急に手を二回叩く。


「はいはい、ストップ。私は喧嘩をしに来たわけじゃないんだ。だから間に入って交渉させてもらうよ」

「交渉だと?」

「そうだとも。だって私は商人だからね」

「その必要はありません。やつは悪。次に何かしでかす前にここで仕留めるのが一番です」


 向こうも訳がわからないと言った調子だし、僕もそこだけは同意見だ。


「気持ちはわかる。でも彼は強敵だ。相手にしない選択肢があるならそれに越した事はないんだよ。今は依頼人との約束という事で静かにしててくれないかい?」

(……レノン、私達は依頼で来たのよ。ギンは後で懲らしめるとして、ここは待つだけ待ちましょう)

「…………わかりました」


 あくまで依頼で来た。あくまで依頼で来たのだ。だから依頼人の言う事を聞くべきなんだ。母さんも復讐のために動くなと言っていた。まだ今動いては依頼人の護衛の範疇を超えてしまう。

 僕は拳を握りしめ、歯を食いしばって怒りを内側に抑えた。


「意味はないと思うが……私は話をするのは好きだ。貴様が勝手に逃げない限り、危害は加えるのは止めるとしよう」

「ーーでも、もしかしたら話の途中で後ろから来るかもしれない。いつ来ても対処できるように細心の注意を払うと良いね」


 ギンは小さな声で僕とフラウにそう言った。


「さて、私は命乞いをしに来たわけじゃないよ。むしろ逆だ。どうやってここを見つけ出したのかは知らないけど、見なかった事にしてくれるならここから帰してあげようと思っている。どうだい? 『帝の影』のルクレシウス」

「ほぉ……名で呼ばれるのは久しいな」


 ルクレシウスと呼ばれた男はそうとだけ呟いた。


「帝の影……? あいつの事、知っているのですか……?」

「知っているとも。だって私は商人だからねーー帝とは皇帝、ここで言う皇帝はセルゲイの事だ。未だに摂政であるあの男が実権を握って、皇帝のように振る舞っているからね。そしてそれの影、つまり裏で活動する者達の事だ。皇帝の目となり耳となり、任命した領主が言う事を聞いているかを監視する。言わば皇帝の代行者さ」

「でも! なんでそんな人達が村を焼いたのですか!?」


 今この場では帝の影という組織の者が不法滞在を目ざとく見つけて追い出そうとしているという状況なのだろう。しかし、今の説明ではラティーが焼かれた事の理由の説明にはならない。


「私も詳しい事は知らないよ。でも帝の影は皇帝の意志の代行者。持つのは目と耳だけではない。頭以外ーー口は出すし、勿論、手もね」

「流石は女帝の庇護の下帝国に有害なる文字をばら撒く男。よく知っているな。そして貴様の住処を探すのにとても苦労した。そんな貴様に一つ聞いても良いだろうか?」

「内容によるね。あと、無料では基本答えないよ」

「何、金ならくれてやろうーー」


 ルクレシウスは金貨を一枚投げ、ギンはそれを受け取った。


「質問とは言ったものの単なる興味だ。答えなくとも良いが、聞こう。何故私の名を知っている? 私は一応表に出ない人間のつもりだが……」


「偽物でもないし、変な呪いもない。それを誠意と見て答えようーーそれは君が、『世界で一番有名な帝の影』だからだよ。その活躍の数々、嫌でも耳に入るとも」

「ーーーーハハッ! その名声、影たる私にとって何たる不名誉! その二つ名、気に入った。是非次の宴で使わせてもらおう。遊びのない閣下もきっと笑ってくださるに違いない」

「きっと大受けさ! じゃあ今回は私の案に乗って解散って事で良いかい?」

「商人よ、私は活躍の面で不名誉を得るつもりはないぞ? これは貴様を閣下の下へ連れて行って始めて言える冗談だ。しかし、私の名声を知りつつその脅すような口ぶり、まさか商人の分際で私を倒す自信があると言うのか?」

「私だけだったらどうだろうね? でもね、そのために私は助っ人を連れて来たんだよ。強力な助っ人をね。この鎧の子が誰だかわかるかい?」


 ギンはフラウを指して言う。


「知らぬ。だが、騎士ではない。騎士は貴様に加担しない。正義は我ら帝国にある」

「帝、国……」


 フラウは小さな声で呟く。


「うーん、確かに騎士じゃない。騎士見習いだよ。でもね、この子はフラウと言ってね、かのリオナ=ダグラス家の娘なんだよ」


 ギンはフラウを指してそう宣言する。


「な、何を勝手に……!」

「何が正義だ! お前らがやった事、わかって言ってるのか!」

(レノン、気持ちはわかるけど、今は落ち着いて)


 僕は怒り、フラウは慌てる。落ち着いてなどいられるものか。どの口が正義などと言っているんだ。


「……なんだと? リオナ=ダグラス家は完全に向こう側についたというわけか。そして我々の不利益となる行為ならなんでもするということか」

「そこまでは断言できないかな。ただ、助力を得たというだけの話だし。仲悪くしたくないなら退いてくれないかな?」

「その発言は断れば戦うーーつまり宣戦布告とも見て取れるが?」

「せ、宣戦布告ってーー」

「ああ、そうさ。そして、もし戦うにしてもそれをセルゲイに伝えるのも君達の仕事だろう? 君達が死んだら伝えられない。だから私の願いを聞き入れても聞き入れなくても一旦この場はお預けじゃないかな?」

「相手が最強の守護騎士の家系の者であっても私は臆する事はない。ここで貴様を捕らえ、他を殺し、それをお伝えすれば良いだけのことだ」


 フラウが話に割って入ろうとするが、話はそのまま進む。どうやらフラウも話の内容の理解が追いついていないらしい。正直僕も理解してはいないが、それより大事なことがあった。


「うーん……ダメだったか……私としてはこの場をやり過ごすためにフラウちゃんに来てもらったのに、戦わなきゃダメみたいだ」


 ギンはやれやれとした仕草をしながら僕達の方を見てそう言った。


「……帝の影、最後に聞かせろ。お前らは一つの誤りなくセルゲイの命令でラティーを焼いたのか?」

「そうだとも。私は参加しなかったがな。作戦は失敗した。メイジスを一人潰し、あるものを回収するだけのはずが、邪魔が入った」

「それは杖か?」

「何故そう断定するのか」

「お前の仲間が言っていたからだ」

「帝の影の姿を見てなお生きているーーなるほど。如何にも、我らが求めているは杖だ」

「そのために村を一つ焼き、虐殺する事を間違っているとは思わないのか!?」

「我らは影。陛下ーー今は閣下が動けばそれに合わせて動くのは道理。疑念など不要。情など不要。閣下は帝国の未来のために正しく必要な事をなさっている。それ故、我らは命を受ければ、それを遂行するのみ」


 男はさも当たり前というように、それまでと変わらず淡々とした口調でそう言った。ラティーの村人を殺したのは正しかったと、そして必要だったのだと、そう言った。


「正しかった……? 必要だった……? ふざけるな……! もういい。貴様……殺してやる!」

(レノン! 落ち着いて! 戦い方というものがーー)

「うるさい! 火炎弾!」


 一つ大きな炎の玉を作り、ルクレシウスに放つ。それを簡単に避ける。


「我ら帝の影は、騎士のように目立たずとも帝国を支える者。それに刃向かうとは帝国に刃向かうと同義。しかしーー実力はともかく我らと敵対する良い人材を見つけてきたものだ」

「ふざける、なあああ!」

「杖なしで魔法を使えぬ未熟者がわざわざ前に出るとは、笑止ーーむっ……」


 僕はその間に飛びかかり、杖で殴りかかる。男が迎え撃とうと剣を抜き、剣を横にして抑える。杖に刃が食い込むが、両者が止まる。その後両者同時に手を前に出して魔法の準備をするが、急に男が下がる。その直後に僕の目の前に電撃が走る。


「させない……! レノンは、私が守る!」

「なるほど、リオナ=ダグラス家の娘の立派な点は装備だけではないということか。だが、依頼人を放置しても良いのか? ーー今だ。目標を捕らえろ!」

「しまった!」

「あっ……!」

(忘れてた! でも、ギンならーー)


 男がそう言った後にフラウは目の前の男に一太刀浴びせようとしたが、透明な壁のようなものに阻まれ動きが止まる。そしてその後、後ろから二人の男が姿を現し、ギンに向かって飛びかかる。


「本当だよ。依頼人を無視する護衛とか、信じられないよねーー交通費節約の術!」


 ギンは紙をばら撒くとある物は鳥に、ある物は重ねて盾にする。男達はそれを本来の紙同然に真っ二つにする。その後、ギンは振り下ろされる剣をその場で躱し、後ろに下がる。


「そんなもので防げると思うな!」

「ええ、案外行けると思ったんだけどなあ。仕方ない、これで!」


 ギンは手慣れた動作で杖を引っ張る。するとなんと刃が出てきて追ってくる男の剣を受け止めた。


「それ、杖としての役割を果たしてないな?」


 二人の内の一人が言う。


「ああ、果たしてないね。これ、欲しいかい? 切れ味も見せるし、今ならお安くするよ?」

「いつまでもふざけやがって! だがバカな……騎士でもないくせに杖なしだと?」

「ああそうさ。でも君達もそうだろう? あ、君達は帝国勤めだから騎士と同じ括りになるのかな?」

「こっちは二人いるのを忘れるな!」


 ギンが一人と剣を交えているとき、もう片方が横から斬りかかってくる。剣を交えたままそれすらも軽やかに回避してみせる。


「なんて身なりが軽いやつだ。そこまで戦い慣れているとは、お前……一般人じゃないな? 本当は何をしている?」

「勿論私は一般人じゃないさ。だって私は商人だからね。最近の商人は、護衛代をケチるために自分で戦うのさ! リューナ商人とか聞いた事ないかい?」

「くそっ……たかが商人風情のくせに……! なめるな!」


 炎の玉を五つ繰り出して一斉に放つ。ギンは直線の軌道を避けるように動くが、炎の玉は曲がって追いかける。


「おいこれ、追尾式なのか!」


 炎の玉がぶつかり煙を上げ、続けていくつもの炎の玉が飛び込んでくる。


「さすがにこれは避けられなかったか。まあ、たかが商人か……」

「そ、そんな……!」

「五個を追尾式なんて誰もがポンポンできるもんじゃないだろう。君、今からでも騎士になった方が良いんじゃないか? 結構かっこいいし、その魔法は映えるよ」


 煙の中からいつも通りの声が聞こえてきた。


「……大丈夫、なんですか?」

「うん、大丈夫さ。私はルクレシウスを正面から相手にしたら勝てないけど、この二人程度は私が受け持つよ。まあ多分倒せないだろうけど、避け続けてみせるとも。さっきみたいに親玉を倒したら私を助けに来ておくれ!」

「受け持つだと? くそ……バカにしやがって!」

「いいやバカになどしてないさ! わざわざ二人を連れてきたんだからね! さて……普段護衛費をケチっている商人の真髄を見せてあげよう!」


 帝の影の男がギンさんに向かって再び火炎弾を放つが、今度は壁に誘導して見事に避けて見せた。


(……ほ、ほら、やっぱりギンなら大丈夫だったでしょ?)

「うんーーわかりました! お願いします! ……これであいつを殺すのに集中できる」


 それを見たルクレシウスは少々驚いた様子を見せるが、こちらを見て構え直す。


「そう上手くはいかないか。私は反抗期の若者を公正するために来たわけではないが……これも仕事だ。あんな怪しい商人の依頼を受けてしまったことが運の尽きだと思え」

「レノン……無茶はしないで!」

(そうよ。落ち着きなさい。勝てる戦いも勝てなくなるわ。いつものあなたのように、落ち着いて戦えば良いの)

「わかったよ……それが一番あいつを殺せるのならーー」

(そう。今できる事を確実にこなしていきましょう)

「僕にできる事はーー」


 戦力の差があり過ぎる。あいつと正面でやり合っても敵わない。僕にできる事を考えろ。


「ない。貴様程度の普通の騎士見習いに私の相手が務まる訳がない」

「黙れ! 僕にはラティーの皆がついている。その想いが、絶対にお前の首を落としてみせる!」


僕はやつの剣にも劣らない鋭い視線で睨みつけた。

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