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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
序章 魔女との出会い
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3話 覚めても聞こえる魔女の声

「ん……?」


 目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。部屋には光が入って明るく、夜は明けたようだ。

 辺りを見渡す。どうやらここは自分の家のベッドらしい。まるで昨日の出来事が全部夢だったみたいだ。


(目が覚めたのね。良かった……)


 聞き覚えがある少女の声が聞こえる。とても穏やかな声だった。


「サキ? そっか……ごめんね。僕が上手く戦えなかったから、身体もそのまんまーー」

(ーーレノン! 今喋っちゃ……!)

「えっ?」

「レノン、目が覚めたのね!」


 頭を持ち上げて声がした方を向くと、僕のベッドに腰掛けていた母さんが僕を見て叫んだ。


「あっーー母さん! 無事だったんだ!」

「ええ、無事よ。目が覚めた時には怪我もなくなっていたし……それよりさっき、何か言った? 誰かと話していたように聞こえたけど……」


 母さんは不思議そうに辺りを見回した後、再度僕を見た。


(ほら! 声に出して喋っているからよ! とにかくどうにかして誤魔化さないと!)

「えっと……ううん。何でもないよ。なんて言うかーーもう傷は痛まないんだけどさ。ち、ちょっと疲れてるのかも……?」

「そう……でも目が覚めたのを見て安心したわ。一昨日の夕方に私の意識が戻った時に、近くで倒れているあなたを見つけてから、今までずっと眠っていたから……」

「一昨日からずっと……心配かけてごめんね。僕はもう大丈夫だよ」

「そっか。良かった……」


 母さんは安心したように言った。


「それより、他の人は? 皆は無事なの?」

「全員が全員無事ではなかったけど……覚悟した被害よりは多くの人が助かっているわ。あれだけの火事、そして襲撃があった事を考えると、村の形が残って、それを立て直すだけの数の人がいるだけで奇跡だったと思うしかないわ」

「そっか……放火した悪いやつもいたけど……何だったのかな? 神とか、陛下とか言ってたけど……」

(やっぱり神様なんてお話にしか出てこないわよ。だって私が見た事ないし、見たという話でも、本当なのは聞いた事もないもの。まあ、きっと陛下はいるんでしょうけどね)


 サキがそう言った後も母さんは少し考えるように俯いていたが、首を振った。


「……わからないわ。魔法陣ーーつまり上級魔法を使っていたって言っている人もいるし、そんなの誰もが使えるはずじゃないのに……」

「…………許せないよ」


 平気で人を殺すやつがいた。そして、僕が助けられなかった人もいた。わかっていたけど、とても悔しかった。


「レノン……大丈夫? やっぱり具合が……」

「ううん、大丈夫だよ。それより母さん、この後は?」

「村の今後を決める話し合いがあるわーー具合悪いなら、母さんも家に居るけど……」

「大丈夫だよ。僕もう十五歳だよ? そんなに子どもじゃないって」

「ふふっ、そうよね。じゃあ、行ってくるから、レノンは休んでなさいーー帰ってきたら、ゆっくり話をしましょう」

「うん、いってらっしゃい」


 僕は部屋を出る母さんを見送った後、ベッドに座る。


「全員が全員無事ではなかった……か」

(落ち込む気持ちもわかる。でも、レノンは出来ることをやったわ。だからお母さんは死ななかったし、村も残っている。それは忘れないでね)

「……わかってるよ。僕も、母さんも、今この村で人が生きているのはサキのお陰だ。ありがとう」

(うん、まあ、それは良かったんだけど……)

「どうしたの?」


 微妙な反応するサキが気になって聞いてみる。


(私の声、他の人には聞こえていないんだからね? 気をつけないと……)

「ああ、うん、全然気にしてなかった……これからは気をつけるよ」

(誰かと話してるときは私が何か言っても反応しないように! 良いわね?)

「でも……それで良いの?」

(良いというか……そうでもしないとやっていけないでしょ?)

「うん、サキが良いなら、わかったよ」

(でもずっと無視はダメよ? 私にはあなたしかいないんだから、きちんと時間を作りなさいよ)

「わかってるってーー」


 そして僕は会話を終え、ベッドに寝転ぶ。色々あったなと思いながら一息吐いてみる。


「わからない!」

(なんでよ! 一人って寂しいのよ! 自分がしたい事も出来ないのに、その事すら誰とも話せない孤独ーー)

「あの空間で何が起きていたのかも、結局サキが何者なのかも、どうやったら元に戻せるのかも何もかもが!」

(でもレノン、納得して私の事を信じて、お願いしたんじゃなかったの?)

「ごめん、全然わからなかったけど縋るしかなかったから……」

(そう……仕方ないわね。順を追って答えていくわーーまずは、あの空間で何が起きていたのか、よね)

「うん」


 僕は頷いた。今の有様を見ればわかるが、あの時急かしたのは、有耶無耶にしたいからではなかったようだ。


(まずレノンと私が初めてあったあの場所は『魂の部屋』よ)

「魂の部屋……?」

(人の身体の内、魂が住んでいる場所よ。本来は一人に一つの魂しか住む事は出来ないわ)

「僕の魂の部屋にサキが来たって事? 鎖が何とかって……」

(そうそう! それでね、あの赤い宝玉も魂の部屋みたいなんだけど、ただ真っ赤でつまらないの! それで、部屋にいて声が聞こえるなんて初めてだったから、頑張って外に出ようとしたの! ビューンって『魂の鎖』を伸ばしてあなたの魂を捕まえて、グイグイ手繰り寄せてあなたの部屋にまできたってわけ)

「魂の鎖……凄く凄い特別な魔法、だっけ?」

(そうそう! レノンもわかってきたみたいね!)

「サキがそんな事言ってたなって思い出しただけだよ」


 その声から、とても笑顔で喜んでいる彼女が目に浮かぶ。しかし、正直あまりわかっていない。


(そしてレノンと約束して、私があなたの身体を使ってこの村を助けようとしたの。ジャラジャラーのガチャって私の魂をあなたの部屋に固定したまでは良かったんだけど、残ったあなたの魂を解放出来なくて、私がレノンの身体の主導権を握れませーんって感じになって今に至るわ)

「ーーつまり現状サキの魂は、僕の魂の部屋に鎖で固定されてはいるけど、自分では動けない状態なんだね」

(それさえわかれば十分よ)

「それにしても、魂だけで他の身体に干渉するなんて……君は僕には想像もつかない位の天才なんだなぁ……」

(それがわかれば満点よ)


 彼女は自慢気に、そして満足気に言った。


「それで、サキはなんで協力してくれたの?」

(えっ? 退屈だったからよ。後、助けてもらえてあなたも嬉しかったでしょ?)

「嬉しかったけど、君は……」


 その結果サキは、僕の身体に縛りつけられてしまった。自分で身体を動かす事も出来ないし、外に声を響かせる事も出来ない。


(それは……私の失敗だから、仕方ないわ。それに私が選んでやったことだもの。後悔もないわ)

「実は、本当の目的があったんじゃないの? 僕の身体を乗っ取るとか」

「……乗っ取るつもりはなかったわ。本当に。でも、また外の世界が見たかったの。誰かと話したかったの。さっきも言ったけど、ずーっとあの赤玉の中で、退屈だったから……」


 『また』外の世界を見たかった、かーー

 サキは何者なんだろうか。理由はともあれ、宝玉の中に居る前は、魔女として活動していた時期があったのだろう。

 ところでサキって、今いくつなのだろうか。あの時は状況が状況だし、よく考えずに声の幼さから年下だと勝手に思って話していた。

 しかし思い返すと彼女はどう考えても凄い人だ。やはり騎士の中の騎士、守護騎士だったのだろうか。でも本人は天才とは言えど騎士ではなく魔女と言ったし、あの恐ろしいほどの強さを持った狂った悪魔、アゲートからもそう呼ばれ、認められていたしーー


(レノン? ねえ、どうしたのってばー!)

「ねぇ、サキ、今いくつ? 今更だけど……ですけど、敬って然るべき身分の方ですか? ですよ……ね?」


 ーー沈黙が流れる。緊急事態でそこまで頭が回らなかったとしても、今までの行為は失礼極まりない振る舞いだったのかもしれない。そう思うとゾッとした。


(私の歳? うーん……あー、そういえば今って何年?)

「今は帝国歴千二百三十年……です」

(あらそんなものなの。あんなに長くて退屈だったのに、あんまり経ってないのね。意外だわ。じゃあ皇帝もまだルシヴさんじゅうなんとかせい?)

「言いたい放題だな……今は前皇帝がご逝去されたらしくて、それから……ごたごたしているみたいで、最新の事はよくわかってないや」

(ふーん、じゃあきっと、ルシヴさんじゅうなんとかせいからルシヴさんじゅうなんとかせいに変わったのね。まあそういうの興味ないから良いわ。で、なんの話だったかしら?)


 彼女は興味なさそうに適当に流した。


「その、サキ様の御年齢の話だったのですけど……」

(そうだったわね。メイジスでいたのが十八年で、あの杖の赤玉の部分なんだけど、あれの中に収まってからはピッタリ十年になるわね。レノンは十五って言っていたから、私の方がお姉さんね)

「あっ……そうなんですね! うわーやっぱ歳上か……その、汚い言葉で話してすみませんでした!」

(ああ、そういうことね、えーっと……私は自然な話し方が好きよ。親しみやすいし、レノンにはいつも通り話してほしいかも)


 少し困ったというような声色でサキは言った。


「そうなんですか?」

(うん。私はむしろそっちの方が慣れているし。私も気にしないから。堅物騎士は懲り懲りよ。あっ、でもーー)

「でも?」

(見た目と年齢がしっかり合っていた私だったから良かったけど、あまり年齢を聞くのは良くないと思うわ。あと、見た目で年齢を判断するのもね。気にする人は、きっと気にするから……)

「……ごめん、気をつけるよ」


 気に障ってしまったようだ。怒られはしなかったが、反省しなくてはいけない。でも、僕から見たら五、六年幼く見えたよ。気にするだろうから言わないけどね。


(それで、私について知りたいんでしょ? 何者かーって)

「えっ? あっ、うん。そうだけど……」

(私はサキで魔女。それだけで十分でしょ? 後は色々あるから教えてあげなーい)

「えっ……でも僕は君をもっと知りたいんだけどな……」

(なんで?)

「だって君の事を知れれば、今のこの状態を打破する案が浮かぶかもーー」

(私の事に触れると、面倒事に巻き込まれるわ。止めておきなさい。これはあなたの身体であなたの人生よ)

「……うん、そうだよね……」


 それに返す言葉と自信は持ち合わせていなかった。勝てる強さはあったかもしれないのに、アゲートの相手にもならなかったのだ。警告を無視して知ったとしても、今のままではまた村を巻き込むだけ巻き込んで救う事もできないのだ。


「でもこれだけは聞かせてくれないかな?」

(何々?)

「結局、魔女って何だったの……?」


 会ったときからずっと思っていた疑問を口にする。凄い人とだけ言われても困る。元々のイメージもある。彼女がどういうイメージなのかだけでも知っておきたい。

 彼女はそれを聞くと、黙った。やはり聞いてはいけないことだったかと思い、謝ろうと思ったがーー


(それはーー騎士でもなく、悪魔でもない。だけど世界を旅して出会った人皆を幸せにする。そんな夢のある人の事よ)

「……うん? わ、わかった」


 若干格好つけている部分とか、随分言い慣れている印象を受ける。きっと何回も聞かれたことがあり、何回も答えてきたのだろう。とりあえずただの口上の演出で黙っていただけだとわかって安心した。


(えっ? 何か反応薄くない? 世界よ? 幸せよ? そして夢なのよ?)

「いや、安心したんだよ。魔女って本だと怖いイメージなのに、敢えてそう呼んでいたからさーー」

(私は良い魔女だもん。レノンにやったみたいに会った人が幸せになるような魔法を使ってきたし、悪い事なんてわざわざしないわ)


 どうやら単純に魔女って呼び方を気に入っているだけみたいだ。それにサキの活動は僕がやりたいと思っていた事と一致する部分もあるし、近い仕事にも覚えがある。

「そうだよね。短い時間だけど、一緒に居ればわかるよーーそれで、これからの話なんだけど、どうしようか? サキの魂の戻し方とかわかる?」

(戻し方……あの宝玉になら、あっちの部屋に鎖をぶっ刺して伝っていけば戻れるかも知れないけど……)

「けど?」

(……戻りたくないわ)

「そう言えば、戻っても今と不便さは変わらないんだっけ」

(むしろ今の方が楽しいわ。あなたと話せるし。迷惑かも知れないけど……)

「サキの身体って今はどこにあるの? 十年前は魔女として生きていたんだよね? そこに戻してあげるのが一番だと思うんだけど……」

(私の身体……? 土……かしら……?)

「あっ……ごめん……」


 どうやら身体は失って今の状態になったらしい。深入りしない方が良いだろう。


(ううん、良いわ。私の事を考えてくれているのがわかるから。私も気づいたらこうなっていたから、その間にどんな手順を踏んだのかはよくわかっていないのよねー)

「色々な街を巡ればわかるかな?」

(そうかも知れないわね。でも、良いの……? 折角街を守ったのに)


 サキは申し訳なさそうに聞く。


「ここに居続けても、村を守れるようにはなれないよ。本当は、わかっていて、もっと外の世界を見て、強くなりたいって思っていたんだ。村に何かがあった時、今度こそ助けられる僕でいたいから」

(確かに村にいるだけじゃ強くなれないかも)

「それにさ、立派な騎士ーー守護騎士になりたいって……! 思っていただけで……全然外に、出れてなかったけど……サキとなら、目指せると思ってさ」

(うーん、騎士なの……? とは思うけど、外に出てみるのは楽しそうね。杖さえあれば結構戦える事もわかったし……?)

「どうしたの?」


 賛成してくれている。と思いきやサキの語尾が迷子になっているのを感じ、僕は首を傾げる。


(ねえ、その杖、どこにある?)

「杖ならーー確かにない!? あれ? 最後まで手に持っていたし、僕をここに運ぶ時に捨てておくなんて事はないと思うんだけど……」

(もしかして、見当たらない……?)


 サキが不安そうに聞く中、僕は一生懸命探してみる。


「……うん」

(大変よ! 探しに行かないと!)

「と、取り敢えず外に落ちているかも! 誰かが拾っているかもしれないし!」


 僕はもう一度周りにないかを確認した後、ドタバタと階段を降り、家を出た。

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