26話 いざ洞窟の中に
「いやー強いね。お陰でここまで楽勝だったよ。やっぱり君達にお願いして良かった。私はうん、こういうのは見ている方が好きだからね」
(……あくまで好き嫌いの話よ。戦えないなんてことはないわ。何かあったら置いていきましょう)
洞窟の目の前まで来たところでギンが言う。確かにここまで何回か魔物が襲ってきて戦ったが、フラウの強さは圧倒的でギンや僕が出る幕はなかった。
そしてギンが何かを喋るとサキが突っ込む、あるいは否定するをここに来るまで延々と繰り返している。あのサキにここまで言わせるとは、この人は一体何をしてきたのだろうか。
「こんなのまだまだです……もっと強い人はたくさんいます」
「それを言っちゃあおしまいだよ。何事も上には上がいるさーーさあ、という事でこれから洞窟の中に入るけど大丈夫かな?」
「「大丈夫です」」
僕達は声を合わせて返事をする。
「良い返事だね。じゃあはい、これランプ。洞窟の中は暗いからね」
「灯りなら魔法を使えば自前で用意できますよ?」
「そうかもしれない。でも、君達には護衛と討伐に徹してほしいからね。お金は私が持つから安心して良いよ」
(この思い切りの良さ。やっぱりなんか怪しいわ。一体何と戦わせようって言うのかしら)
そういえば討伐してほしいと聞いてその理由を聞いただけで何を討伐するかは聞いていなかった。普通ではあり得ないことだが、金額と困り具合と勢いから断る気にもならず、そのままここまで来てしまっていた。
「あの、そう言えば聞いてなかったんですけど何を討伐すれば良いのでしょうか?」
「私も、最低限の前情報として知っておきたいです」
「あれ? まだ言ってなかったかな? でも目的地まで少し距離があるから、進みながら話そうか」
それだけ言うとギンは洞窟の中に入っていく。
「一応護衛も含んでいるので勝手に先行しないでください!」
僕達も続いて中に入っていった。
洞窟の中に入った最初の感想はやはり暗い、ということだった。同じく暗い場所としてリシューの東の森と比べると、日が当たらない分涼しいという共通点はあるものの、こっちはジメジメしていて心だけでなく身体の方も居心地が悪かった。
「もしかすると二人とも洞窟は初めてかい?」
ギンが僕達に問いかける。その声が洞窟内で響き渡り、不思議な聞こえ方をする。
「はい。僕はそうです。騎士見習いになってから日が浅くて……」
「その……私もです。すみません……」
「謝る事じゃないさ。うん、それなら私はここや他のところにも通い慣れているから先輩ということで伝えておくけど、所々足場が悪いから気をつけると良い。照らしながら進むと良いよ。転んでしまったら痛いで済むならまだしも、持ってきた道具が壊れてしまったときには損失になるからね」
ギンの言う通り歩きづらく、普通に歩いていると歩き慣れているギンが前に出てしまう。そのまま魔物と会うなんてことがないように頑張って前に出なくてはと思うから余計に疲れる。
(ちょっと待って。そんな環境であの子を暮らさせていないわよね? そうだとしたらただじゃ済まさないわよ? ちょっと今聞いてくれる?)
度重なる悪態や文句の中でサキが聞けというのは初めてだ。依頼のときもその人が話題に出てきた辺りから態度が変わったことからとても心配しているらしい。
「ここに通い慣れてるってことは、まさか洞窟で暮らしている……なんてことないですよね?」
「ハハハ、まさか。こんな暗くてジメジメしていてすぐ服が汚れて、一見静かだけど実は水が滴る音や魔物の鳴き声が気に障る場所なんて、私でも本当は行きたくないし、何よりもう一人の方が発狂してしまうよ。前に話した私と暮らす剣族の人は綺麗好きだからね。いつも部屋の整理整頓とかしてるし」
「そうなんですね。ちょっと安心しました」
(ちょっとじゃないわよーーあー良かった。本当に良かったー。早く会いたいなー)
サキもギンと会ってから一番ご機嫌になったところで、早く会うために依頼を成功させなければと思う。
「あの、そろそろ奥で戦う魔物の話をですねーー」
「あー、そうだったね。でもターゲットの話をする前に、洞窟に棲む魔物が集まってきたからそっちを追い払おう!」
「えっ? 魔物が!? 気づいていたなら早く教えてくださいよ!」
「言おうとしたら、質問されたからね。できるだけ答えたいと思ったんだけど、これ以上はさすがに危ないから」
(ということは今は危ない状況なのね……)
僕とフラウは慌てて灯りで照らしながら周りを確認する。
細かい分類を確認している暇はないが、上を向けば翼を持ちじっとこちらを見つめているコウモリ種の魔物が、そして地面にはネズミ種の魔物がいた。
「レノン……これ、何?」
フラウの声に振り向くとそこには見たこともない魔物がいた。大きさは僕達の腰くらいで、底が深い鍋を逆さまにしたような形だが、ドロドロのネバネバに覆われた外見で、顔がどこにあるかわからなくてとにかく気持ち悪い。
「わからない……僕も初めて見たよ」
(何これ……見るどころか、臭いも酷い……)
「ギンさん、これーー」
「キキー!」
ギンにあれを何か問おうとしたとき、コウモリが飛びかかってきた。
「障壁!」
ギンの元に駆け寄って土と石で盾を作り、コウモリ達の襲撃を防ぐ。
「良い判断だ。ありがとう」
「余裕こいてる暇ないですってば! あれなんですか!?」
「うん? おおーーあれはナミマ種だね。面倒なのに見つかってしまったね。とりあえずそれは後回しが良いね。先に簡単に倒せるコウモリとネズミの駆除をする事を提案しよう」
「確かに、斬っても簡単に倒せない……」
「火炎弾! フラウ、大丈夫!?」
コウモリを牽制しながらフラウの方をもう一度振り向く。確かに身体は切断できているはずだが、血も出ず、ドロドロの液体が飛び散るだけなようだった。
「大丈夫! いつものあれ使うよ!」
フラウはコウモリに向けて電撃を放つ。まず一匹に当たり、フラウに飛びかかろうとした個体にも当たる。そのまま連鎖していくと思いきや、近くにいたナミマに当たって止まってしまった。
「そんな……!」
「でも痺れている。一応効いてはいるみたいだね。弱いのは私とレノン君でどうにかするからそれの面倒を見てくれないかな?」
「えっ……これを……? ううっ…………は、はい!」
(かわいそうに……ごめんなさい!)
「いつも大変な役ばかり任せてごめん!」
正直嫌そうな声を出すフラウに罪悪感を覚えるも、そんな事お構いなしに噛み付こうとするネズミを避け、またまた飛びかかってくるコウモリを叩きつける。そして再びコウモリとネズミに向き合う。
「よし頑張ろうか。飛んでる魔物が苦手そうなレノン君はまずネズミから倒すと良い」
「ギンさんも戦うんですか!?」
「まあ戦闘用じゃないけど無理矢理使おうとすれば使えない事もない。そらっーー」
ギンはそう言うと天井めがけて杖を掲げた。
「照明費節約の術!」
「い、今なんて!?」
魔法にあるまじき名付け方をされた言葉が聞こえたと思うと、天井が光り、洞窟内を一瞬で明るく照らした。しかもそれはランプを持つ事がバカバカしくなる程に明るく、男の執念を感じた。
飛んでいたコウモリ達は近くで急に光ったために無茶苦茶に飛びまわる。
「すごい……しっかり効いている……! 僕も負けてられないーーそらっ! これで……火炎砲!」
ネズミを叩きつけ、炎を浴びせる。これまでの戦闘を見て恐れ慄いたのかネズミ達は逃げていく。
「ネズミは逃げていきます! コウモリはどうですか?」
「こっちは最後まで戦わないとダメそうだ。人の血なんて滅多に吸えないし、逃したくないんだろうね。でもこっちで何とか対処できそうだ。君の事を待つ少女の方に行ってあげると良い。さてさてそっちにはーーこれだ」
ギンは肩にかけていた鞄から紙を何枚かばら撒く。
「交通費節約の術……そらっ、鳥になれ!」
ギンの指示に従うように紙は折り曲がり始め、鳥の形になる。
「よし、飛べ!」
それはコウモリに向かって飛び始めた。コウモリに体当たりをして追い回している。
その後もう一度紙を撒くと、大きな一枚の紙にしてコウモリを包み込み、別の紙で尖った形に折り、突き刺した。
(どうやら本当にやってくれるみたいね。お任せしてフラウのところへ行きましょう)
「うんーーじゃあお願いします!」
ギンに背を向け、フラウのいる方へ駆けつける。
「フラウ! 大丈夫?」
「私は大丈夫。だけど、どうすれば……?」
ナミマはあれだけの時間をフラウと戦ったはずなのに傷がついていないようだった。
「斬って、身体を切り離しても、伸びる身体とくっつけば元に戻っちゃう。それにーー」
ナミマが僕に向かって身体の一部を手のように伸ばしてきた。
「避けて!」
『障壁』を唱えようとしたが、フラウにそう言われたので防ぐではなく、避ける。すると今度は倒れているネズミに向けて身体を伸ばした。そしてネズミの上にのしかかった。
「これは……?」
「食べてる……多分。魔物でも、石でも食べる」
フラウは斬りかかるも、身体を伸ばして壁に張りつき、上手く避けられる。もうネズミの姿はどこにもなかった。
「さっきより大きくなった……?」
「うん。これも、切り離しても小さくならない理由。切り離してもくっつくし、食べて溶かして身体の一部にする。強化の魔法をかければ私の鎧と剣は溶けないけど、レノンはーー」
「触れない、か……」
(厄介そうね……ギンは?)
フラウの魔法ですら倒せないならどうするか。ギンの方を見るとまだコウモリと戦っている。コウモリの数も増えており、操る紙の数も増えていて集中しているように見える。話しかけたらダメそうだ。
(群がられ過ぎ……弱くなってない? 手を抜くなって言ってやりなさい!)
「いやいや、依頼人だよ!? そんな事言えるもんか! やっぱりこっちでやるしかない……!」
ギンと話すのを諦め、ナミマへ向き直る。
「魔法は何を試した?」
「雷だけしか使ってない……確実に動きを止めてくれるから。あと、土とかはそうだろうけど、他にも何がまずいかわからない!」
確かに土の魔法で石や泥をぶつけても大きくするだけの可能性がある。恐らく水もだろう。
「じゃあ火だ。フラウは電撃で動きを止めてもらって良い? そしたら僕が直撃させる!」
「わかった!」
フラウは返事をするとナミマに斬りかかる。勿論ナミマは先程と同じように壁に身体を伸ばして張り付くがーー
「これで!」
その移動した先をめがけて電撃を放つ。見事に当たり、痺れて動けなくなる。
「よし! 火炎弾!」
大きな炎の玉を一つ作り出し、動けないナミマに向かって放つ。炎がぶつかった表面が溶けて小さくなっていった。
(小さくなった!)
「よし! 効いている!」
間違いなくそう思った。そして、実際そうだった。
(レノン……避けて!)
勝機が見え始めて安堵したそのときーーナミマが四方八方にその身体を伸ばし始めた。敵なりの必死の抵抗なのだろう。そしてそれは勿論、僕の方にも飛んできた。




