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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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25話 悩みと約束

 宿屋で夕食を済ませた後、僕は外に出た。酒の臭いが漂う空間から解放されたかったのもあるが、理由は他にもある。どこに行ったかと辺りを見回し、手に持った兜と同じ色を探す。


「あっ、いたいた」


 座って空を見上げている少女を見つけた。


(色々思うところがあるみたいね。人によっては、一人にしてもらいたいときもあると思うけど?)

「うーん……そう言われたらこれを届けるだけにするよ。でもさ、話せば楽になることもあるって言うし、放って置けないよ」

(あなたはそういう人よね。私もそう思うし、そうしてあげなさい)


 サキに言われ、僕は話しかけると決めて少女の元へ歩いていく。


「やっぱり外にいたんだ。隣座っても良い?」


 僕を見上げて少し驚いたような顔をしたが、小さく頷いた。


「はいこれ、忘れ物」


 僕は手に持っていた兜をフラウに渡す。


「うん……ありがとう」


 それを受け取ると、被らずに横に置いた。


「やっぱあの雰囲気には慣れない?」

「ご飯を出してくれるのは嬉しいけど、やっぱり人がいっぱいいるのと……あの臭いが苦手で……慣れなきゃいけないのは、わかってるんだけど……」


 フラウは周りが気になるようで食べ物にあまり手をつけてなかったが、途端に先に出ていると言って走って宿から出ていってしまったのだ。


「あの臭いは僕も苦手だなぁ。賑やかなのは結構好きなんだけど、知らない人に急に大声で話しかけられるのは慣れるまで怖かった」


 彼女程ではなかったが、リシューでは僕も驚いたし、居づらさを感じたものだ。生きていくために宿屋で働かないという選択肢がなかったから慣れただけーーそう考えるとそのまま騎士見習いになるより、働けて良かったかもしれない。


「でもレノンは、今はもう違うよね。散々話しかけてくるギンさんからも、他の騎士見習いの人からも私を守ってくれた」

「そんなの……黒死の悪魔やルムンの怪物から守ってくれた事、そして門の前で助けてくれた事と比べたら大した事ないよ」

「そうじゃない。戦いは私ができるほぼ唯一の事。それにあのときは、私じゃなくて家の名前が助けただけ。レノンはどんな事も頑張ってできるようになるのに、私はいつも逃げてばかりで……」

「誰にでも苦手なところはあるよ。そういう部分は少しずつ練習していけば良い。フラウは戦うのがとても上手だし! 全然弱くなんかないよ」

「違う! 違うの!」


 僕の言葉に対して強く否定の言葉を返す。


「戦うのだって最初は上手く出来なくて、やっとのことで今になったのに……そして、戦えさえすれば騎士見習いとしてやっていけると思ったのに…………外に出てみたら、全然違った! レノンやみんなができることでも、私にはわからないことだらけ! 当たり前の事さえもできないから、私はダメ……」

「ーーフラウも最初は弱かったんだ。むしろ僕なんかは、そう思うよ」


 すっかり暗くなった空を見上げながら僕は言った。


「騎士見習いになったのは僕と同じはずなのに、あんなにも実力に差があるんだって、追いつくには程遠い、もしかしたら覆せないのかもしれないって、そう思ったよ」

「そんなことない! だって、杖がなくても魔法が使えるようになったのも、何も言わなくとも使える魔法が増えたのも本当に最近だし、最初は鎧を付けたら動けなかったもん!」


 フラウはそう言って強めに否定する。フラウにそういう頃があったなんて思えないが、そう聞くと自分が今はできなくてもそうなれるかもしれないと思えてくる。


「でも僕はどれもできてないからまだまだだね。だけどね、僕だって同じ十五年で何もしていなかったわけじゃないんだ。村で生活する中で、料理も裁縫も、最初は火を点けるのも飲める水を出すのすらできなかったけど、色々学んだんだ。フラウはリシューに来る前はどこでどんな暮らしをしていたの?」

「私は……リューナのお城でずっと守護騎士になるために練習してた。守護騎士の先生をつけてもらって、強い魔法の使い方とそれを活かす戦い方をひたすら教えてもらった。勉強もしていたけど、ここでは役に立たないことばかり。そんなだから、他には何もできないの…………」


 言い終えると俯き、髪が垂れて顔色が伺えなくなる。


「なーんだ。それならもう、答えは出てるじゃないか」

「えっ…………?」


 驚いたような顔で僕を見る。


「長くやったことはできるし、やってないことはできない。僕はフラウより戦うのが下手だけど、これから更に練習と依頼をこなして強くなるつもりだよ」

「うん。レノンなら上手くなれるよ。最後の炎、凄かったもん。あんな凄い魔法使えるならきっともっと上手くなれる。でも、私は……」

「フラウはもう戦うのが上手い。それなら、僕や他の人が今のフラウに追いつくまでの長い間、フラウは何をやっても良いんだ」

「何をやっても……?」


 首をかしげてよくわからないという顔をしながら言葉を返す。続く答えを待っているようだった。


「そう。何をやっても。できないことをできるようにするために費やしても良いし、もっと上を見て練習して、その先にいる人より強くなるのも良い。どちらの道を選んでも、フラウなら、一緒に歩んでくれる人はたくさんいるよ」

「こんな私でも?」

「フラウだからこそ」


 フラウの目を見てそう言い切る。それでも不安は消えないみたいで、その顔は曇っていく。


「……でも私ね、今より上手くなれるかすらわからないよ……」

「どうしてそう思うの?」

「だって……家からも逃げてきたんだもん。レノンは戦うのが上手って言ってくれたけど、そうじゃないよ。上手くできなくて辛くて、それで困らせて辛くて、更に多くの時間練習して辛くて……! もうそこから逃れることしか考えられなくて! でもそれは私が弱いからでーー」


 フラウの顔を包むように抱き寄せ、僕の肩に当てる。そして頭に手を軽く乗せてあげた。何かあって母さんが話を聞いてくれたときにそうしてくれたのを思い出しながらーー


「うん。今までずっと大変だったんだね。それなのに、よくここまで頑張って来れたね」


 すると、ローブの緑が濡れて濃くなるのが見えた。僕はそのまま動かない。そのままで居続ける。


「あれ……? どうして…………」

「自分を責め続けなくて良いんだ。辛いときは我慢しなくても良いし、誰かに伝えても良い。壊れそうになるまで自分を責めて闇雲に逃げるのはやめて、一緒に考えて明日を決めてそこに向かおう」

「みんな比べるの……! シーザーの娘ならこれくらいできなくちゃダメだって。私が上手くできたと思っても、シーザーの娘ならもっとできるはずだって。会ったこともないのに! 会いたいって言っても会わせてくれたことなんかないのに!!」

「それなら会いに行こう。フラウはもう騎士見習いになったんだ。歩く道を自分で決めて良いんだ。決めた道の中で、それを手伝えるのなら、僕も一緒に行くよ」


 フラウはそれまで溜めていた辛さを全て洗い流すように泣いていた。それを僕は、それ以上は何も言わずに、ただ支えていた。

 ひとしきり泣き終えると、涙を拭き取って顔を上げた。


「ーーありがとう。もう大丈夫」

「そっか。良かった」

「ねえ、レノンーー」

「何?」

「明日の依頼が終わったら、一緒にリューナにまで行ってくれない?」

「リューナに行くの? お父さんが治めているイヴォルじゃなくて?」

「私を探している騎士の人に迷惑かけているから……心配してるかもしれないし、安心させてあげたいし、謝りたいの」

「わかった。一人でも決められるじゃないか。やっぱりフラウは弱くなんかないよ」

「レノンが言ってくれたから決められるの。お母さんと話して、騎士見習いとして頑張るって言ってくる。戦うのが上手いだけじゃなくて、色々見て経験してそれから、立派な騎士になりたいってそう伝えたい。そしたら、自信を持ってお父さんに会いに行ける」

「うん。フラウならきっとできるよ。何かあって悩んだら、また一緒に考えよう」

「ーーうん」


 小さい声でそう言うと、頰が緩んでいるように見えた。それを見ていると、フラウは口を大きく開けて欠伸をする。それを慌てた様子で手で押さえて目が合うと、泣いて既に赤みを帯びている顔を更に赤くした。


「……ちょっと疲れちゃった。えっとーーき、今日はもう寝るから! ありがとう! おやすみ!」


 照れを誤魔化すようにそれだけ言うと、走って行ってしまった。僕はそれを呆然と眺めていた。


(私達も早く寝ましょう。明日は早いわ)

「うん、そうだね」


 そう言って宿屋に入り、自分の部屋に戻ると魔法で簡単に身体を清め、そのままベッドに入った。


「助けてもらってばっかりだった僕も、ようやく少しだけ、フラウの助けになれたかな?」


 灯りも消して真っ暗になった部屋で、サキに話しかける。


(そうね……きっとなれたんじゃないかしら)

「なら嬉しいんだけどなーーそういえばなんで話してる途中何も言わなかったのさ」

(そういうこと言うのはレノンの方が上手でしょ? 思い返せばこの身体になるまでは、自分の事で悩んだ事なんてほとんどなかったのよ。そんな私から渡す言葉はなかったわ)

「それはまた……すごい自信だね」

(自信……私の魔法の力だと思っていた頃もあったけどーーまあ、恵まれていただけよ)

「ふーん。良ければサキはどんな生活送ってたのか教えてよ」

(良ければーーじゃないわよ。雰囲気のまま言っても前にも言った通りダメったらダメ。ふざけてないでさっさと寝なさい)

「わかったよ。ごめんってば。じゃあ、おやすみ」

(……おやすみなさい)


 そう聞こえた後、何も聞こえなくなった部屋で眠りについた。



 ◆



 陽が差し込んで目が覚める。もう朝だろうか。というより窓を開けっ放しのまま寝てしまったのだろうか。


(もう朝に……おはようレノン。よく眠れた? なんだか眩しい朝ね)

「うーんおはよう、サキ。なんだか眩しいねーー」


 本当に眩しい朝だ。そう思いながら目を開けるとそこには窓を開けて僕を見ているフラウがいた。


「あ、お、おはようレノン。今日の依頼、頑張ろうね。朝食べる派の人にはギンさんが干し肉とパンを用意するって言ってたよ」

「うん? ああ、フラウか。おはよう。朝食のこと、了解したよ。ありがとね。よし、それじゃあ……依頼、頑張ろうね」


 彼女が窓を開けて起こしてくれたのだろう。起き上がって体を伸ばす。

 

「うん、頑張ろうね! あっ、あとーー」

「どうしたの?」

「えっと、レノンの先生って、その……サキさんって言うんだね。あまり聞かない名前だけど、男の人なの? それとも、女の人なの?」


 頭が真っ白になった。不覚だった。サキ以外の誰かが起こしてくれるなんて思いもしなかった。


「え、えーっと……」

(よりにもよって、リオナ=ダグラス家の娘に聞かれるだなんて…………)

(絶っ対にーーーー)


 まずい! 怒られる!


(他に話さない約束なら、まあ名前くらいは良いわ)


 ーーあれ?


(でも自分から余計な事を口に出しちゃダメよーーあっ、因みにもしどんな人か聞かれたら、大都市に家を構えるとても優しくて魔法が優秀で弟子が何人もいる先生でよろしくね)


 怒って……はいるだろうが、一大事になるまでではなくて良かった。設定提案までしていて、本人も案外楽しんでいるまである。勿論僕が大都市に行ったことがなく、知り合うきっかけがなくなるので却下だが。


「女の人だよ。確かに僕も今まで聞いた事もないし、読んだ本にも出てきた事もない変わった名前かもしれないね。でも多分優しいし話しやすいから、フラウも話せたらきっと仲良くなれると思うよ」

(多分って何よ。訂正を要求するわ)


 そんな事言っただろうか。無意識に足されてしまったのであろう。


「そ、そうなんだ……! 女の人なんだね!」

「うん。でも、あんまり名前とか話題を外に出してほしくないみたいだから、他の人には秘密にしてもらっても良い?」


 そう僕が言うと、フラウはコクコクと頷いていた。


「ありがとうフラウ。じゃあ、依頼頑張ろう!」


 商人の朝は早いと言うし、ギンはもう待っているだろう。僕は荷物を持ち、彼の待つ部屋に向かった。

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