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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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21話 素顔なひととき

 僕が馬車に戻ると、既にフラウは戻っており、座って発車を待っていた。

 黒死の悪魔と戦っているときにもその雄姿は見たので知っていたはずだが、やはり戦っていないときとのイメージが違い過ぎる。その強さを再確認した今、なんて話しかけたら良いものなのか考えてしまう。今見る限り、この依頼で集まっている騎士見習いの中でも圧倒的と言える強さだった。


「あっ……お、お疲れ様」


 フラウは僕にそう話しかけてくれた。向こうから話しかけてくれるのは安心したが、先程の凛々しさから一転、元のフラウに戻ってしまっているようだった。その姿を見ると、さっきまでとは別人ではないかと錯覚してしまいかねない。


「そっちこそお疲れ様。すごい活躍だったね。大丈夫だった? 怪我はない?」

「大丈夫。全部鎧で弾いたから」

「そっか。良かったーー」


 そう言いながらも口には出さないが、鎧が羨ましいと思ってしまった。


「えっと、それで……さっきまで何の話をしていたんだっけ? さっきのフラウが凄過ぎて忘れちゃったよ」

「そ、そんなことないよ!」


 フラウは大きな声で強く否定した。僕が驚いていると慌てて口を開く。


「あっ……えっと、戦うのは慣れてるから。でも、みんなの前では戦い慣れてないから、みんな見てて怖かった……」

「みんなすごいと思って見てたから大丈夫だよ。僕も含めてね」

「あんまり目立つのは好きじゃないから……」


 そう言えば家の事を隠しているようだし、目立ちたくはないか。今はこの部分に触れるのは止めておこう。


「それでさっきはーー」

(フラウが誰かに聞きたいことがあるってことじゃなかったかしら?)

「あ、そうだ。フラウが誰かに聞きたいことがあるって言ってたんだったね。もし良かったら話してくれないかな?」

「えっ? それは……うーん……」


 フラウは言うかどうかを考えているようだった。もしやこれも家関係のことで言いづらいのだろうか。


「勿論無理して言わなくても良いよ。言いたいところだけで良いし」

「うん。ありがとう。えっと……どうやったらもっと強くなれるかなって……」

「そんな、フラウはもう十分やっていけるくらい強いと思うけどーー」

(それでももっと強くなりたいと思うなら当然でしょう。特に、リオナ=ダグラス家のーーかのシーザーの娘なのだとしたらなおさらね)


 そうだ。大伯の娘という事は、あのシーザーの娘なのだ。

 シーザー卿ーー帝国の元騎士団長シーザー・リオナ=ダグラスだ。最強の守護騎士というイメージが強過ぎて忘れてしまいがちだが、リオナ家のアメリア大伯と結婚し、前線から離れた後もその経歴から危険地域と隣り合わせの都市であるイヴォル領を任された人。

 騎士を目指す者ならーーいや、少年なら誰もが憧れる生きる伝説だ。一度で良いから僕も会ってみたい。


「ううん、私はまだ弱いよ。もっともっと強くならなきゃいけないの」

(まあ、あの程度だって言うなら? 私には全然及ばないし、上には上がーー)

「目指すところが違うのかぁ。凄いなぁ……よし! それなら僕ももっと頑張って少しでも追いつかなきゃ!」

(ーーって聞いてる!?)


 そんなことを言ったり話したりしていると、また馬車が止まる。魔物の襲撃だ。僕達は馬車から降りて同じように迎撃した。

 魔物の迎撃を何回か経て辺りが暗くなり始めた頃、予定より少し遅れて本日の目標地、補給地点に辿り着いた。

 商人は商人の、騎士見習いは騎士見習いのグループで、あるいはいくつかのグループが集まった。火を囲み、鍋を乗せ、思い思いの物を突っ込んで思い思いに語り合った。


「あまり人のいるところにいたくない……」


 そんな中フラウがそう言ったので、僕達は拠点の端の方のこぢんまりとした場所を探し、そこでやり過ごすことにした。近くで燃えそうな枝を探し、集めて火を点けた。

 準備も終わり、ようやくひと段落したところで僕は腰を下ろす。


「……よいしょっとーー」


 フラウは鎧を外してローブを着て、ちょこんとその場に座る。

 有名人は探したがるやつが出てくるから姿を変えておいた方が良い。サキがそう言っていたのでそれを伝えると、僕に対する警戒は解いていてくれていたのか、意外にもすんなり賛成してくれた。

 鎧を脱ぎ、布だけを身に纏うフラウは印象が全然違っていた。顔だけは話しているときに見せていたが、それ以外の姿を拝むのは初めてだ。ゆったりしたローブとはいえ、そこから伸びる手などは金属で覆われている普段より全然細く見え、一つに結んだ金色の髪が印象的な実に少女らしい可憐な姿だった。


「どうかしたの……? な、何か変だった!?」


 少女は不思議そうな顔をした後、一転慌てた風にそう言った。


「ううん、そうじゃなくてさ。鎧を着ているときとは結構印象変わるなって思っただけだよ」

「レノンもそうした方が良いってさっき言ってたし、あとその、やっぱ鎧は重いから。勿論強化の魔法かけてるから問題ないけど、やっぱり疲れるというか……」

(魔力も消費してるからそりゃ疲れるわよね)

「ーーで、でも着ている方が普通ならやっぱ着るから!」


 そう言うと再び鎧に手を伸ばした。


「え、いや! そういう意味じゃないよ! 鎧姿もかっこいいけど、そっちの服も似合ってる。女の子らしいというか、とっても可愛らしいというかーー」

「えっ!? か、かわ!? うぅ…………」


 その言葉を発した途端、少女の顔は真っ赤に染まっていった。


「ううん、そんなに恥ずかしがることないよ。フラウはとてもかわいいから、自信持って良いよ。だからーー」

「ま、また言ったぁ……!」

(…………何言ってるんだか。このやり取り、あなたが止めなきゃこの娘ずっとこのままよ?)

「落ち着いてって。え? どうして? どうすれば……?」


 落ち着かせようとしたのに、想定した事と逆の結果になって段々僕の方まで焦ってきた。


(はぁ……お互い水でも飲んで落ち着きなさい)

「う、うん! 流水ーーはい!」


 呆れたように聞こえるが、サキからの助け舟。素直に従ってカップに水を注ぐ。


「これ! 水飲んで、一回落ち着いて!」


 フラウは大きく何度も頷き、コップを受け取って飲み干す。


「あ、ありがとう……」


 下を向いたままのフラウからコップを返してもらい、僕は自分も水を出して飲む。


「落ち着いた?」


 僕が尋ねると一回だけ頷く。大分落ち着いてきたようだ。


「あ、あんな事、言われた事なかったから……」

「そうなの?」

「うん……」

(そりゃそうでしょうね。あの名家リオナ家のーーアメリア大伯の箱入りのお嬢様よ? 仮にそう思ったことがあっても、そんなナンパみたいな事したらその場でクビになるわ)

「そ、そうなんだーーあっ、じゃあ食べようか」


 頷くとフラウはパンを取り出す。そしてそれをそのまま食べ始める。


「そのまま食べるの?」


 少し疑問に思って聞く。豪華な白の鎧、剣身に一点の曇りもなく透き通る銀色の剣、そして輝く金の装飾が施された鞘と来たのでどんな鍋と食べ物が出るのかと思ったのだがーー


「鍋ないし……良い食べ方がわからないから……」

「もし良ければこれ、食べる?」


 僕はそう言って火に鍋を乗せる。僕には昨日獲って茹でておいた肉がある。パンに合う味付けなどはないが、パンだけよりはマシだろうと思った。


「できるの?」

「味付けするものはないし、食べられる部分を切って、茹でるだけなら……もう少しお金があればマシなものを出せたんだけど……」

「ううん、それだけで良い! パン以外のものを食べるのは久しぶり……!」


 少々食い気味でそう言うと、恥ずかしかったのか、下を向いて顔を隠す。


(パンだけなんて……苦労してきたのね……)

「そうだね……よし! じゃあちょっと待っててね」


 鍋に肉を入れる。フラウはそれをじっくり眺めていた。


「誰かと旅をするって言うのも悪くないでしょ?」

「……うん」

「フラウは家を出てから今までずっと一人で旅をしてきたの?」

「…………うん」


 フラウはそう答えると、横に置いていた剣に目をやり、それにすがるように抱いた。


「その剣はーー思い入れのある特別なもの?」

「うん。お母様が私にくれたの。決して刃こぼれしない家宝の剣」

「すごっ! じゃあずっと使えるじゃん!」

(使うには杖なしじゃないとダメよ? このままじゃレノンはずっと使えないけどねー)


 僕もいつか杖なしでも魔法を使えるようになるよ。そう言おうと思ったが、フラウの顔は明るくなく、そんなやり取りをしている場合ではないと悟った。


「……そう。この剣はすごいの。でも私は……」

「杖なしで魔法を使えるフラウは、しっかり使いこなせていると思うよ。僕には真似できない」


 フラウは首を横に振る。どうやら言いたいことはそうではないらしい。


「本当はね、この剣の力は持ち主にも宿るんだってお母様は言っていたの。でも、私が未熟だからただの業物止まりだって……」

(……シーザーの娘ならそう言われるのも無理ないわね)


 シーザーの娘なら強くて当たり前。僕も会ったことがなければ当然そう思っているだろうし、実際僕、そして周りより一段も二段も上、格が違うと思った。

 しかし目指すのはーー正しく言えば求められているのはだろうーー生きる伝説と同格かその上のみ。それまでは認められることなどない。


「お母様、厳しいんだね……他の人もみんなそうなの?」


 救いを求めるようにその質問をする。僕にはこの少女が置かれている状況が不憫に思えたからだ。


「セレーナは優しかったなーー」

(セレーナ……? どこかで聞いた気が……)

「そのセレーナさんって?」


 サキが引っかかり、僕も気になったので聞いてみる。


「セレーナっていうのはねーーあっ……! え、えっとーーお、同じ家に住んでいる近所のお姉さん……かな? うん! そう!」

(同じ家……お城で働いている人? うーん、なら関係ないか。私お城好きじゃないし、会うわけもないし)


 剣の腕に匹敵する速さで矛盾しているとは思ったが、本人は隠しているのだからそこを詮索する事は止める。


「そっか。ちゃんとわかってくれる人もいたんだね。良かったーー」

「うん。私のことを気にかけてくれて、励ましてくれた。でも今は……違うかも……」


 申し訳なさそうに肩を落とし、力無さげにそう呟いた。


「ううん、きっと今も応援している。それに今は、僕もフラウを応援しているし」


 僕がそう言うと、それを聞いたフラウは大きく頷く。


「ありがとう。私、今もセレーナに守られているのかも。家を出てからも、知らない事ばっかりだったのに、ここまで来れたから……」

「知らない事ばかりなのは僕もそうだよ。しかも外に出たら全然弱くて騎士見習いになるまで苦労したし」

(本当にそうだったわね。まあ私から見れば今もあまり変わらないけど)


 言ってくれるな、と僕は思う。『あなたならできる』と言っていたときの信頼感は何だったのか。


「どうしたの? レノンの先生、何か言った?」

「ああ、えっと……そうだけど……なんでわかったの?」


 声に出してなかったはずだが、気づかれてしまったらしい。


「顔が引きつったから。そうなのかなって」

「よく見てるなぁーーうん、その通りだよ。今でもあまり変わってないし、まだまだだって」

「騎士見習いになったってことは、あの三頭獣を倒したってことなのに。厳しいんだね」

「そうなんだよ。そのくせ魔法を教えるのは全然下手でさ。自分で本を読んだ方がマシなほどでーー」

(むっ……何よ! 私だって頑張って教えようと思っていたのに! ふん、もう魔法も他のことも何にも教えてあげ……ないことはないけど、ふーんだ!)

「何だよそれ……」

「なんて言われたの?」


 フラウが僕の方を見て聞いてくる。


「要約するとあれでも頑張っていたのに酷い……って感じかな」

「そんなすごい魔法使える人の中にも教えるの下手な人っているんだ。なんかちょっとかわいいかも」

「抜けているところはあるけど、その分親しみ易いし、そういうところはそうかも」

「でも、先生なのにかわいいって怒られないかな?」


 フラウは少し笑って言った。


(あんまりバカにすると怒るわよ?)


 ーー最初から怒っていただろ。


「怒られた」

「ふふっ、仲良しなんだね」


 そう言ってまた笑ってくれた。


「楽しい?」


 鍋の肉をすくい上げて、フラウに渡す。


「ありがとうーーうん。レノンは優しいし、話を聞いてるだけで面白いから」

「ありがとう。僕も笑顔が見れて嬉しいよ」


 そう言って肉をすくって自分のパンに乗せる。そしてその肉を食べる。


「僕は一人だけど一人じゃなかった。そうなんだけど、やっぱりこうして誰かと一緒に旅をするのは、良いものだね」

「ーーうん!」


 元気な声を聞けて嬉しかった。僕は食べ終えると、明日起きたらすぐ出れるように準備をして、テントを張り、フラウに譲って外で寝ることにした。

 折角話せるようになれたし、一緒に寝れば良いと思って提案しようと思っていたのだが、それだけは嫌われかねないから本当にやめなさいとサキに止められた。何故だと思ったが、僕は仕方なく外で寝ることにした。


(あなたそれ何も考えずに普通に口から出てくるの? それともあの子狙ってる?)

「狙ってるって、折角会えたんだから仲良くはなりたいと思ってるよ。当たり前じゃないか」

(…………あなた本当に騎士みたいな性格してるわね)

「本当? ありがとう。そう言ってもらえると頑張れるよ」


 カレンやサキ、そしてレナと雰囲気が違う子で多少サキに助けられた事もあったが、騎士みたいに優しく紳士的に接することができたと認められて嬉しかった。


(あー……あなた生粋の頭騎士、騎士病だったわね。もう良いわ。私もそんなレノンの相手するのも疲れたし、明日も早いからさっさと寝なさい。ネボスケだとダサいわよ)

「それもそうだね。じゃあおやすみ」


 戦いはフラウの活躍のおかげで他の騎士見習い同様僕はあまり活躍しなかったが、話しているだけで何だか疲れた。でも結構仲良くなれたと思うし、明日が楽しみだ。サキに促されると僕は目を瞑る。真っ暗に吸い込まれるように眠りに就いた。

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