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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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20話 フラウとの再会

(出たああああああ!!)


 サキは目の前の鎧を見て叫ぶ。しかし、僕は何とか堪える。何故ならそこにいたのは白い鎧の少女、さっきのあの人だったら無事でいられる自信はまずないが、見た事がある人なので助かった。そしてすごくホッとした。


「や、やあ……! フラウ、だったよね? ど、どうしたの……かな?」


 僕はとりあえず何があったのかを聞いてみる。


「…………」


 無言で何も言い出す気配がない。しばらくそのまま気まずい時間が流れる。


「こ、こここここの馬車にーー乗って、乗って! ご……護衛をしろって! え、えっとあの……さっきの、そうさっきのあの人が!」


 顔まで覆う白く凛々しい鎧は、慌てた口調で早口に話しだした。


「落ち着いて。落ち着いてから、ゆっくりでいいからね?」


 僕は焦って話そうとする少女を落ち着かせるためにーーそして僕自身にも言い聞かせるためにーーゆっくりと言った。


「少しは落ち着いた?」


 僕がそう話しかけると首が飛んでいきそうな勢いでブンブンと縦に振っていた。頷いてはいるが……しかしどう見ても落ち着いているようには見えなかった。

 フラウが言っていたさっきの人とは恐らく騎士見習いを振り分けていた商人だろう。きっと僕が力不足だから、相席でまともな人を入れてカバーしようというわけだろう。もしかしたら彼女も僕と同じような被害にあったのかもしれない。


「この前は助けてくれてありがとう。門の入り口でも、黒死の悪魔に襲われたときもだ。今回の依頼、頑張ろうね」


 そう言って握手しようと手を出すも、顔も見せずに頷くだけ、返事も手も返ってくることはなかった。


(これは……話しかけるだけ逆効果かもしれないわね……)


 前に会ったときも会話はできなかった。今度こそできれば話したいと思っていた僕も、無理矢理話させるのは流石に迷惑かと思ってしまった。


(……仕方ないわね。新聞でも読んでましょう。気持ちはわかるけど、今は時間を有効に使わなきゃね)


 僕はそれに従って渋々新聞を取り出す。フラウはそれをじっと見ていた。

 部屋が大きく揺れる。馬車が動き出したのだろう。これは護衛の依頼の始まりを意味した。


「始まっちゃったか……」


 思わずそう呟く。馬車は音を立てて進み、時々弾む。しかしそれにつられて僕達の会話は弾むーー事などあるはずもなく、無言のまま。このままでは気まずいし、少しは話さないと依頼にも支障が出るかもしれないとは思うのだが、失敗に続く失敗でもう勇気が出ない。

 僕は新聞を読もうとするも、どうにも落ち着かなかった。フラウがこっちーーというよりも新聞ーーをじっと見ているのだ。僕がフラウの方を見ると、目を逸らされてしまうが、文字に目を戻すとまた視線を感じる。

 干からびた心からなけなしの勇気を絞り出し、読むかと一度聞いてみた。しかしやはり返事はなかった。それ以降、何か言おうにも答えてくれそうにもなくて言えない。そんな状況が続いている。


(流石にちょっと不気味ね……まあ、今レノンは特権階級のやつらには関わらない方が良い気もするけどーー)


 急にサキが口を止める。どうしたのか聞こうか悩んでいたら、また話しだした。


(ちょっとレノン! もう少し下の記事を見て)


 サキに言われるがままに下の方を見る。


(そう、そこら辺)


 そこら辺ってアバウト過ぎだろうと思いつつも眺めてみる。するとある記事で目が止まった。

『リューナ=イヴォル領共同領主のアメリア大伯、行方不明になった娘フラウ嬢の捜索願を依頼したことを表明。金貨百枚という莫大な懸賞金をかける』


「金貨百枚!? しかもフラウって……!」

(声を出さないで!)

「あっ……! ごめん……」


 ビクッとしてフラウが僕を見る。

 ーーどうしよう。これで更に警戒されてしまう。


(もう仲良くできないわね。それに、声を出すなら私も話してあげないから)


 サキにも見放されてしまった。と言ってもその通りで、距離を置いたままずっと僕のことを見ている。


「いきなり大きな声を出してごめん。あの、もしかしたら、ここに書かれている人って君じゃない、かな……?」


 新聞の記事をフラウに見せる。

 任命式という正式な場で同じ名前だとわかったこと、そして如何にも高そうな鎧、そして特権階級ならではの英才教育を乗り越えたからだと思われる僕と同じかそれ以下の歳で、杖なしで魔法を使い、武器として剣を差しているという姿。そして実際の任命式での実力。ほぼ間違いないと言えるだろう。


 しかし、フラウはその記事を見ると、更に驚いて必死に首を横に振って否定した。しかし、その焦り具合から既にそうだと言っているようなものに見えた。


「うーん、でもここにーー」


 もう一度新聞を見せようとしたそのとき、フラウは新聞を強く引っ張った。


「「あっ……」」


 二人とも思わず声に出す。案の定新聞は破れてしまった。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! えっと……ごめんなさい!」


 ひたすら平謝りするフラウ。そんな姿を見て、貧しい生活の中での新聞は高かったが、怒る気にもならなかった。


「ううん、良いよ。だからそんなに謝らないで、顔を上げてほしいな」


 できるだけ落ち着いた声で話しかける。


「ほ、本当……ですか?」

「うん。それより少し話をしようよ。顔を見せるのが嫌なら、そのままでも良いし。これ読んでるのも退屈だったし」

(退屈だったとしても読む必要があるものなんですけどねー)


 サキには少し申し訳ないと思ったが、今は依頼を上手くこなすためにここの場の空気を変えることが大事だと思った。


「いえ、顔はその、そういうつもりではないので……」


 そういうと恐る恐るバイザーを上げ、顔を見せてくれた。


「目を見られると怖くて…………」


 多少は落ち着いたのか少女はそう言った。


「ーーありがとう。無理しなくて良いからね?」

「だ、大丈夫です。次会ったらお礼を言わないといけないってずっと、そう思ってたので……」

「お礼なんて。むしろこっちがしないとだよ。僕の方が助けられたのにーー」


 そう言うとまたフラウはまた首を振った。


「そっか。じゃあ、お互い様だね。僕の名前はレノン。前に会ったときにもしたけど、覚えてるかな?」

「ラティー村の……」

「そうそう。覚えていてくれてありがとう。そして、君はフラウだよね?」

「はい」

「僕が言うのもあれだけど、君も合格してたんだね」

「はい」

「同じ試験を受けた者として嬉しいよ。これから頑張ろうね」

「はい」


 どうにも会話が続かない。他に話すことはーー


「そうだ。僕は今十五だけど、同年代の人と一緒に依頼が出来て良かったよ」

(年齢を聞くのはダメ)

「おっと。同年代だと思うのに……えっとーー」


 サキの助言を受けて踏み止まる。今回はセーフだったと思う。後でお礼を言っておこう。


「私も十五……同じですね」


 少しフラウの頰が緩む。少し距離が縮まった気がした。


「そっか。同じなら話し方も気にしなくて良いよ」

「うん。わかった。でもーーあなたは私とは違う……羨ましい」

「えっ? 何が……?」


 羨ましがられる事なんてしたかなと思いつつ、フラウの発言を待つ。


「話すのが得意だから。前に見たときから思っていたけど、いつも誰かと話してるみたいで」

「あー……それは……」

(完全に気づかれてたのね。でも言ってはダメよ)


 どうしよう。この事を聞かれると回答に困る。サキに対して口にした言葉を一度ではなく何度か聞かれているだろうし、会話口調なことまでバレている。独り言と誤魔化そうにも不自然がられる。


「……そ、そうしてると話すの、上手になれる?」


 何よりそんな純粋な目で聞かれても困る。適当なことを言ってそれを真に受けてしまったらかわいそうだ。


「ちょっと待ってね」


 フラウは頭に『?』を浮かべていたが、誤魔化せず、適当な事は言ってはいけないとなるとサキに聞いてみるしかないと思った。


(これ自体怪しまれると思うんだけど……)


 サキは後ろを向いて話す僕の事を指摘する。


「本当にごめん。でも、適当な事言っちゃまずいし、嘘ついて変なことになったらお互いにとって良くないと思って……」

(まあ、それはそうだけど……でもどうするの? 私は良いアイデアは浮かばないし……)

「サキのこと、話しちゃダメかな?」

(だ……ダメに決まっているでしょ! あと名前を口に出さないで! 今みたいに不審がられる度に話すつもり?)

「しっかり対策も考えるから。今回だけ……名前さえ出さなければ良い?」

「ーーーーどうしたの? 大丈夫……?」


 壁の方を向いて話す僕を、心配そうにフラウは見て言う。向こうに何かいるのかと思ったのか、恐る恐る僕が見ている壁を見ようとしているようだ。


(もう……わかったわ。でも名前は出さないで。私を魔法の先生とでも呼んで、こうなった方法さえ言わなければ良いわ。けど信じてもらえるかはまた別問題よ)


 サキが観念したように言う。魔法の種類的な意味ではこうなった方法は僕も詳しくはわからないため、実際に注意すれば良いのは名前だけだ。


「信じてもらえるかはわからないけど……実は、誰かと話してるみたいじゃなくて、本当に遠くにいる人と話ができるんだ」

「そうなの……? 伝心?」


 フラウはやはり信じ難いというような顔をしている。


「伝心じゃないよ。僕はメイジスだし、向こうもそう、魔法の先生なんだ」

「じゃあ……魔法、なの……?」

「多分、そうだと思う。僕も詳しいことはわからないんだけど、その人と話すときには声を出さなくちゃいけなくてさ。向こうの声は僕にしか聞こえないんだけどねーーこんなこと、信じてくれるかな?」

「うーん……」


 フラウは難しいといった顔をする。そしてそのまま少し考えた後に口を開く。


「あなたが知らないことも教えてくれる?」

「そうだね。僕は最近村から出てきたばかりだから知らないことばっかりだし、色々教えてもらってるよ」

「困ったときに話を聞いてくれる?」

「うん。聞いてくれるし、一緒に考えてくれるよ」

(わかっているじゃない。優しいし頼りになるの。その上魔法の天! 才! だしね!)


 僕も本人も若干美化し過ぎというか、良い側面しか話していない気もするが、良いイメージを持ってこの場にいる全員損はないだろう。

 それを聞くと、それまでの曇っていた顔が晴れていった。


「じゃあきっと、信じられる。魔法は知らないこともたくさんあるから」

「ーーありがとう。信じてもらえるか不安だったから、嬉しいよ」

「私も誰かに聞きたいことがいっぱいある。だから、良いなぁーー」


 ガタガタと車内が揺れて止まる。馬車が止まったという事は、魔物が出たということだ。


(魔物が出たみたいね。行きましょう!)

「わかってる。フラウもーー」


 そう呼びかけようとしたときには、既に馬車から飛び出して行った後だった。僕もすぐに追って出ると、魔物もこちらに向かって来ていて、既に目で見て魔物の種類がわかるほどだった。

 あれは爆走蜥蜴バクソウトカゲの群れだ。リシューやそこらにいる疾走蜥蜴シッソウトカゲより少し大きめで、爆発する炎を吐いて獲物を捕らえる攻撃的な魔物だ。


「迎撃の準備を! よしーー完了した者から、放てえええ!!」


 僕も騎士見習いの列に加わる。僕とフラウ含めて六人いるみたいだ。そして、とある騎士見習いの声が聞こえると様々な掛け声とともに魔法が唱えられ、撃たれ始める。僕も風刃を唱え、迎撃に参加する。

 爆走蜥蜴もそれを走って避けたり炎で迎撃して、砂煙が起こる。だが、どうやらこれだけの魔法は捌ききれないらしく、魔法が当たって立ち上がるも、また当たる。そして起き上がる数を減らしていく。


「急げ! 連鎖的に魔物が来る前に倒すんだ!」


 その指示が飛んだとき、水平に電撃が伝い、その場にいる魔物の身体を貫いた。まるで巨人が大きな剣で一閃するように線を描きながら、次の魔物、次の魔物へと伝い、遂には全ての魔物にまで届いたと思ったときには立ち上がる魔物はいなかった。


「すげぇ……今のーー」

「だ、誰がやったんだ?」

「あの子だ! 鎧の!」

「すげーな! うちのグループに勧誘しよう」


 騎士見習い達が騒ぎ立てているのが見える。


「今のってフラウが?」

(話を聞く限りそうみたい? リシューでも思ったけど、改めてこう見ると一人だけレベルが違うわね)


 僕もその様子を見て驚いていると、いつまでも動かない騎士見習い達を見かねた指示役が怒鳴る。


「撃退したなら今すぐ戻れ!」

「ディードさん嫉妬っすか? あの子、小さいけどディードさんより強いかも知れませんしねーー」


 騎士見習いの一人が、馬車の荷車の上で見張りをして先程は指示を出していた騎士見習いの男にそう言った。


「違う……早く発進したいと言っているんだ!」


 ディードと呼ばれた男は声を荒げる。


「三番地点新手だ! 前のも倒し切っていない! 至急援護を!」


 向こうから声がする。三番地点ーー丁度ここから反対側だ。応援要請を聞き、騎士見習い達はめんどくさそうに馬車の合間を縫って移動を始める。僕も急いで向かおうとしたが、上空を通過する物体が見えた。


「嘘、だろ……?」


 思わず口をポカンと開けてしまった。だって、金属の鎧と金属の剣を持った中身少女のはずのそれが、馬車隊を、放たれた矢のように飛び越えて横断したのだから。


(ぼうっとしてない! 援護を!)


 サキの声を聞いてハッとした僕は、急いで馬車の合間を縫って反対側まで移動する。僕が辿り着いたときには、魔法の迎撃は逃げた魔物を追撃するだけとなっていて、未だ迫る魔物とはフラウが剣を抜き、乱戦となっていた。


「おう、そっちから来たか。だが悪いな。もう魔法を唱えるのは止めておけ」


 僕を見た騎士見習いのお兄さんが言った。


「何でですか?」

「何でってーー見りゃわかるだろ」


 見る見るうちに新手の魔物と思われる火吹きハイエナは、斬りつけられていって倒れていく。


「俺達が魔法を撃つと邪魔になるんだよ」


 その光景は芸術、劇の演目のように派手で、なおかつ美しく見えた。そして、その姿に見惚れている間に閉幕となった。それを見ていた騎士見習い達が拍手をする。

 白鎧の騎士はそれに応える事なく、その場から走り去ってしまった。


「これで魔物がハイエナじゃなければ見映えも良いしおこぼれも貰えるしで最高だったんだけどなぁ……」

「そんなハイエナのような事言わないでくださいよ……」

「ハイエナなんてハイエナも食わないっての! あーあ! 俺もトカゲでドラゴンステーキパーティーしたかったのになー!」


 騎士見習いがそうぼやいているとーー


「お前らいつまでそうして駄弁ってるんだ! 最大の戦果を上げたかの騎士を見習って早く戻れ!」


 再び怒号が響きわたる。それを聞いた僕を含む騎士見習い達は、それぞれの馬車に戻って行った。

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