表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
22/147

19話 魔女って一体何なのさ

「すみません。騎士見習いの依頼でクフリーへ行きたいのでこの街を通りたいのですが、良いですか?」

「任命勲章の提示をーー」

「はい! これです!」


 僕は任命勲章を門番に見せた。


「確認した。それよりアムドガルドへ……? ああ、リシュー伯の荷物運びか。そっちでは不幸があったようだが、意味ないと投げ出さずに頑張れよ」

「はい! ありがとうございます! 頑張ります!」


 そう言うと門番の人は通してくれた。しかも頑張れとまでも言ってくれた。騎士見習いって良いな。そう思いながらルセウの街へ入った。

 着いたその日は休み、次の朝から一日で一気に。そう思い出発したが、結局日が暮れるまでには着かず、野宿をした。そして翌日の昼頃にようやくクフリーに着いた。魔物との戦闘は何回かあったが、風刃虫にはもう出会わなかった。

 因みに魔物の肉を持っていれば、それを投げつけることで気をそらすことができると聞いたので、倒した魔物を回収して集めておいたが、それは一部は食料袋に、必要分以外ははした金に変わった。


「やっとクフリー……! こ、これがアムドガルド地方……!」

(やっぱ剣族の街って感じがするわねー)


 辺り一面が規律正しく四角で埋め尽くされている。石畳みにレンガ造りの家だ。

 剣族は身体が大きく力が強いという一方で、細かい技術や学問にも明るい面を持っており、様々な発明家や技術職人、学者も多い。上質な物を作ったり、未知の魔法の法則の研究していたりとメイジスとの関わりも深い。

 隙間なく敷き詰められ、積み上げられているその様は、聞いていた通り技術者の街という風貌をなしていた。


「では私の仕事はここまでなので失礼します。メイジスの方を乗せて楽しいと思えたのは初めてでした。野営のときのお話も面白かったですし」

「僕もあなたみたいな優しい人で良かったです。ありがとうございました」

(ありがとうございました!)

「ありがとうございました! 依頼、頑張ってくださいね! またお会いする機会があれば是非!」


 僕は共にここまで来た車夫と別れを告げた。


「さて、どうしようか?」


 依頼は明日の朝、今は昼。まだ時間があるのだ。


(明日の朝が早いから夜は早く寝た方が良いわ。にしても夕方にもなってないしーー)

「じゃあ、ちょっと行きたいところがあるんだけど、良いかな?」


 そう言うと、僕は宿を取った後にその場所に向かった。


(……やっぱりここだったのね)


 サキが言う。ずらっと店が並ぶ商店街の通り。ここは剣族の技術の宝庫だ。


「これ全部剣と鎧なんだなっとーー」


 ここは人が多く集まる場所だ。喋りながらだと目立ってしまう。できる限り自重しなくてはならない。


(そうね。確かにこれだけあるとすごいわ。それにしてもーー任命式で変なのにバカにされなければこんなので喜ぶレノンを小馬鹿にしていたでしょうけど)


 単純にかっこいいし、いつかは欲しいという願いはあったが、サキが言った通り今は少し違う。騎士見習いとして生計を立てるのに必要な道具である鎧の価格を知るために来たのだ。適当に近くの店に入る。


「いらっしゃいませ! どのようなものをお探しですか?」


 店に入るとお店の人に声をかけられる。ずらっと並ぶ鎧は見ていて圧巻だった。一つ一つ見て回りたくなったが、まずは聞かれたので答える。


「いえ、どのようなものが欲しいと言うより、どのようなものがあるのかを少し見にきました」

「そうでしたか。ではごゆっくりと」


 そう言うと店の人は一歩後ろに下がった。僕は全身を金属で覆えるような鎧を指差して尋ねる。


「これはいくらになりますか?」

「こちら金貨五十枚になります」

「そうなんですか!? 高いですね……」


 あまりの値段に目眩がした。僕が驚いているのを見ると、店の人がある鎧があるところまで歩き、僕を招く。


「それならこちらはいかがでしょうか? 鎧鼠の、鱗と呼ばれる硬い皮膚で作った胴を守る鎧です。こちらなら金貨三枚でお買い上げできますよ?」

(こんなんでも金貨が……!)

「な、なるほど……そうですね……あっーー」


 そう言えば、ふと思って聞いてみる。


「全身が金属で覆われている白い鎧ってありますか?」


 フラウという子が付けていた鎧、素人目からでもわかる質の良さ。きっとあれはすごい値段なのだろうと思っていた。鎧界の天井的なものを聞いてみたくなった。


「こちらでしょうか?」

「いえ、それではないですね……」

「そうですか……それでは今は当店には置いてありませんね。他の店の品物か、或いは特注品かもしれませんね」

「ーーわかりました。では、ちょっと他の店も見てみたいと思います。取り敢えずは失礼します」

「ありがとうございました! 最終的には是非うちに!」


 僕は店を出る。そのまま商店街を後にする。本当はもう少し鎧を見て回る予定だったが、相場を知って今の僕には買えるものではないと完全に言われている気がして、その場に居づらかった。


「やっぱ鎧の相場は高いもんなんだなぁ……」

(まあ……そうね。どうやら簡単に買えるものではないみたいね。あと、さっきの鎧ってーー)

「そう。フラウって子の鎧。やっぱり他とは違うような気がしたから、いくらするのか少し興味を持ってね」

(確かに言われてみればそうねー。でもあれはなんか特別な感じもするし、やっぱ特注品かもね)

「そっか。そうだよねーーところで、サキはどんな鎧をしていたの?」


 魔法使い界の天井がどれ程までのもので、サキがどれくらいにいるかなんて僕にはわからない。だが、自分であれだけ言っているのだしかなりの実力のはずだ。そんな彼女は一体どんな鎧を身に着けていたのであろうか。


(鎧? しないわよそんなの)

「えっ!? 嘘おお!?」

(ちょっと! レノン声大きいって!)


 僕は驚いて声を上げ、その後ハッとして周りを見渡す。幸い人通りの多い商店街は抜けていたので、目が合った一人の剣族が申し訳なさそうに早足で去る程度で済んだ。


(……気をつけなさいよ?)

「ごめん……」

(まあ良いわ。私は鎧なんか必要なかったの。魔法で作った特製の黒いローブがあったから。鎧なんて重くて嵩張って騎士みたいなものより全然高性能だったんだから!)

「騎士みたいなのってダメなの? かっこいいのに?」

(私はあくまで魔女だから。金属の塊なんかより自分の魔法を信じるのよ。もし私が魔法を使えたなら、ここにある如何なる鎧よりも私のローブの方が使えるって事を証明してあげられたのにね)

「うんうんそうだね見たかったよっと。結局今サキは魔法を使うことなんてできないし、それよりこれからどうしようか?」


 どうやら彼女の癖であるらしい魔法自慢は軽く聞き流しておいてーー宿屋に入るまでにはまだ時間がある。そっちの方が、大切だ。


(……まあ、鎧がないなら魔法でカバーするしかないわね! 依頼は明日なんだし、気がすむまで練習よ!)

「わかった。そうしよっか」


 僕達は魔法の練習をするために街の外に歩き出す。


(…………ってるわよ…………なことくらい……)


 会話が途切れたと思ったとき、少女は小さい声で呟いた。


「どうしたの? 何か言った?」

(ううん、あーえー何というか……そう! どんな魔法があったかなーって思い出してただけ。私は手の指足の指じゃ数え切れないくらいほどのすごい魔法があったんだから)

「そっか。強くなったそのときには覚えてみたいね。それじゃあ行こうか」

(ええ、行きましょう行きましょう!)


 僕達はその後は日が暮れるまで魔法の練習をして、明日への不安を振り払おうとした。



 ◆



 次の日、僕は時間より少し前に指定された場所に行った。既にそこには商人と騎士見習いが集まっていた。更にたくさんの馬車が並んでいる。

 向こうでは商人が荷物を馬車に積んでいる。各々の商人が、馬車を用いてアルドガルドからの移入品を馬車に積んで運ぶという事だろう。

 そしてこっちでは依頼したクフリーの商人が、集まった騎士見習いをチーム毎に分けていた。どうやら騎士見習いが乗る馬車の位置と強さのバランスを偏らないようにしているようだ。馬車隊のどの部分が魔物の襲撃にあったとしても即座に守れるようにしなければ、これだけの数を集めた意味がない。僕達も並んでいる騎士見習いの列の後ろに加わる。


「ではお三方はこの馬車にお願いします。この商人団は今すぐ出発するため急いでお乗りください! では次の方は依頼書と任命勲章をご提示ください――」


 あっちこっちと馬車を指差して忙しそうに分けているようだ。そして僕の番になる。


「あなたは……一人だけですか?」

「はい、そうですが……」


 僕がそう答えると、商人は僕を見て不安そうな顔をする。鎧を着ていないし、一人だけということで頼りないと思われたのだろうか。


「……その装いを見ると最近騎士見習いになって応募した人ですよね?」

「はい。ですが領主様からいただいた依頼なので戦力に数えて大丈夫です!」

「その件は伺っておりますよ。しかしこの列は既に割り振られた人にお伝えする場です。新人の人はその辺りにいるーーあっ! あの商人に聞いてください。振り分けてくれるはずです」

「わかりました。ありがとうございます」


 そう言って僕は指差された商人の方に向かい、話しかける。


「すみません。さっきあの方に新人の振り分けをしていると聞いたのですが……」

「はい。こちらで行ってますよーーでは早速戦お聞きしますが、何の魔法が得意ですか?」

「火と回復が得意です。他の属性も使えます」

「今回は迫る魔物を掃討するだけなのであまり回復魔法を使う機会はないと思います。他に何か特筆するべき事はありますか?」

「他には……ですか?」

「ええ、誰かの推薦とか……いや、領主様はわかっているのですが他にもいればと思いまして」

「えっと……それは…………」


 ここでも推薦か。そう思いつつ口ごもっているとーー


(私がいるじゃない。この魔女が。本当はあんまりひけらかすのは良くないけど? またあんな思いをするくらいなら使ってしまいなさい)


 どうしようかと少し考えたが、本人がそう言っているので言ってみようと思った。どれだけの存在かはわからないが、他に言うこともないし、何にもならなくとも言わないのと変わらない。


「あ、あの……その、魔女が師匠で魔法を教えてもらってます」


 嘘はついていない。嘘はついていないはずだ。


「魔女……はて? それは何の魔女ですか?」

「何の魔女……?」

(何の魔女……? 私は魔女ったら魔女なんですけど!)

「はい、魔女という事はーーそういう二つ名を持った騎士見習いの方を師匠に持つという事ですよね?」


 さも知っているかのように商人はですよねと聞くが、僕にはさっぱりだ。どういう事なんですかーー


(えっ……私って何かの魔女だったの!? 二つ名とかあったの? 強そうなやつかしら!?)


 ですよね。こんな気がしていました。ああ、こんな事なら師匠の二つ名を聞いておくべきだった。


「いや、普通に魔女とも呼ばれてるとしか……」

「何の魔女かわからないって……単に魔女と言うと原点の魔女になりますよ?」

「原点の魔女……?」

「原点の魔女を知らないですと!? 騎士見習いができる前、多くの人を見た事もない多彩な魔法で救ったという女性の事で、その人が初めて魔女を自称したのです。あまりの強さと見返りも求めなかった事から畏怖、崇拝され、騎士見習いが形になった今では優れた魔法を使う騎士見習いをその名声と重ねて魔女と呼ぶのです! 同じような名声として何とかの騎士という呼び方もありますが、それは剣技が優れた人の事を指し、とにかく二つ名が付く事はその道に進む者にとってとても名誉な事なのです!!」

「は、はぁ……」


 あまりの早口と勢いに押されてしまったが、話を聞く限りどうやら原点の魔女がサキらしく思えた。


「それで! 魔女というのは! どなたなんですか!?」

「多分……その、原点の魔女だと、思います?」

「なんと!? なななんと! 嘘はいけません! 原点の魔女は姿を消して早十年! 誰も見ていないと聞きますよ! いや、嘘じゃないというのならそれは結構ーー是非サインをくれるようにお願いしてはくれませんかね!?」

「いえ、その……」

「私魔女のファンなのです! ああ、もし宜しければ一目だけでもお目にかかりたい! そしてその声を聞きたいのです! 伝説からは凛々しいお姿を想像いたしますが見た事がある人からするとなんと! 笑顔が可愛らしい正に天使のような方であったと言うのです! 声も同じく透き通るようで……ああ! 想像するだけで天に召されてしまいそうです! その人が羨ましい! 実際会ったら私は天に召されてしまうのでしょう! 神も天国も妄言だと陛下は仰いますが、きっと、会って、声を聞くことが、叶えば! 私自身が天国を作り出してそこへ向かって旅立つことでしょう!!」

(…………や、やっぱ推薦とか止めましょう? 証明するものとかないし…………何よりこ、この人怖いわ! アゲートなんかより全然怖い! 気持ち悪い!)


 激しく同意する。話を聞いているだけで身の毛がよだつどころか全部抜けそうだ。本能があれと関わると危険だと告げている。


「す、すみません……その、冗談です。見栄を張りました……」

「では、こちらで調整しますのでとりあえず向こうの馬車に入ってお待ちください」

「はい! わ、わかりました……!」


 商人のテンションが急に戻り、そう言われた。とりあえずこちらで調整すると雑に言われたのは力不足だと思われたせいかも知らないが、言い返す気になどなれるはずもなく、指定された馬車まで走って入った。


「な、なんだったんだろうね……?」


 馬車に乗り込み僕は尋ねる。


(会って喜んでくれるならその……会いたいような、会いたくないような……)

「あの人が言ってた事はサキっぽいし、多分サキが原点の魔女なんだね」

(結局怖い思いしただけで何の役にも立たないし! 言うだけ無駄だったし! もう嫌になるわ……)

「もうさっきの事は忘れようよ。まだ始まってないのに疲れちゃったよ……」


 そんな事を言いながら座席にドスっと勢いをつけて座ると、子どものように足を伸ばしてそのまま横に倒れこんだ。


 ギイィーー


 僕が寝っ転がった瞬間、馬車の扉が開く音がした。中から鎧が覗き込む。


 バタンッ!


 もう一度音がしたときには扉が閉まって何も見えなくなっており、僕達だけの部屋に戻っていた。


「ね、ねえ……今誰か覗いてたよね?」

(そう見えたけど、誰だったのかしら……なんだか怖くない!?)


 沈黙が流れる。そのまましばらく経つ。


「もしかして監視……? まずい事言ったらクビになるとか!?」

(いや、お化けよ! きっとあの人に憑依して狂わせていたんだわ! 私を見つけたから追ってきたのよ!)


 ガサッ


 そんなことを言い合っていると、先ほどよりも大きな音がする。

 その音とともに姿を現したのはなんと――

 白い鎧と兜で全身を覆った少女、フラウだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ