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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
2章 白鎧の少女
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18話 飛んできた災難

 ガラガラガラガラーー

 車は音を立てながら進む。


 ガタッガタッ……ガタッガタッ……

 車が揺れて、文字も揺れる。

 ここはリシューより更に北にあるルセウへ向かう道だ。ルセウはメイジステン地方最北の街。アムドガルドの玄関口となる街クフリーへ向かうには通らなければならない場所だ。


(疲れてないかしら? さっきからずっと引きっぱなしだし……)


 サキが心配そうな口調で話しかける。


「やっぱり代わりましょうか?」


 僕は剣族の車夫にそう声をかける。長い道のりをずっと車を引いてもらっているのだ。


「めめ、滅相もございません! これが私の仕事なので。もう報奨金は依頼主である領主様から頂いております。その分働かねばなりませんので……!」


 そう言いながら同じテンポで車を引いてくれている。剣族はメイジスと比べて身体が大きく丈夫だ。力も強く、このような力仕事をしている人が多い。


「ですが、ずっと引いてもらっていますし、まだ先は長いでしょうし……」

「お気になさらないでください。これが私の仕事なのでーーそれに、『準備』でしたっけ? 魔法をかけてもらったのは初めてです! こんなに身体が軽いのなら、アムドガルド中を案内出来ますよ」


 何度か申し出たのだが、丁寧な口調で断られるので、せめてもの気持ちという事で強化の魔法をかけたのだ。


(やっぱりお任せするのが一番なのかもね。私達が今仕事をしていない時間で、彼が仕事をしている時間ってことだから。それに、私達もやる事あるでしょ?)

「すみません。じゃあ、これからもお願いしても良いですか?」

「はい! お任せください!」


 思い直してそう言うと、元気な声が返ってくる。僕は再び文字の羅列を眺めることにした。さっきから読んでいるこれは何かと言うとーー



 ◆



(あなたは田舎者過ぎるわ。バカにされないように、少しは世間というものを知った方が良いわ)


 なんてリシューを去る前、サキに言われたので、新聞を買ってみたのだ。

 売店では、国営新聞『新聞』、民間情報新聞『逆位置タロット』、守護騎士新聞『鎧騎士の素顔』、などが売っていた。『鎧騎士の素顔』も読んでみたくなって悩んだがーー


(逆タロが良いわ。私の知り合いが独自に情報を集めて書いているの。変なやつだけど、『知識だけ』は頼りにしても良いはずよ。敢えて繰り返すけど、嫌なやつだけどね)

「繰り返されてないよ……」



 ◆



 サキの評価に不幸そうな名前で僕は不安になったが、その知識の部分を切り取ったこの新聞は頼りにしても良いという事だろう。書き手本人に会わなければ良いだけの話だ。


「えーっと、どこかな……っと」


 僕は気になる用語が書いてあるか探す。お目当てはラティーと黒死の悪魔だ。


(あっ、あった! えっと何々……リシュー領主アラン伯爵が任命式で暗殺。遺体を見た騎士曰く、状態が十年前に世を震撼させた黒死の悪魔と酷似。それに対し帝国は、剣族悪魔学会に調査を命じた。これまで数々の事件解決に携わった話題の悪魔学者クーリィの動向にも注目だ。彼はその実績は勿論、その容姿からメイジスにもファンがいるほどである。黒死の悪魔は討伐されたと公表されていたが、本人か模倣犯か、彼の鑑定と今後の予測にも期待がかかる。本誌では予測の内容は記載できないが、したかどうか、その何日後に捕まるのかをお伝えする方針だーーですって!)

「うーむ……黒死の悪魔も、同じ悪魔のアゲートってのと同じくらい強いのかねぇ……?」


 顎に手を当てて、考えているような素振りを取ってできるだけ低い声で呟く。きっと記事を見た感想をボヤいているように見えるはずだ。


(悪魔は非人道的かどうかで判断されるからそうとも限らないけど、悪魔に値する犯行を起こすだけの能力は持っているとしか言えないわね)

「悪魔かぁ……」


 眉をひそめて首をかしげる。頭も掻いてみる。

 独り言をよく呟くような人だと思わせるような演技をしているつもりだが、演技だけでなく、新聞を読むのは僕には敷居が高い。文字自体は読めるが、読んでも全部理解出来るものではない。内容を理解出来るのも、決して安くはないお金がかかる新聞をわざわざ買う事自体も、サキとの旅ならではの経験だと思った。


 ガコンッ


 という音、振動とともに車が止まる。


「うわぁ……何でこんなときに……」


 車夫がそう呟くのが聞こえた。


「どうかしましたか?」

「あっ……! 熟慮中すみません! 魔物が見えましたので……本当に申し訳ございませんが、ご対処お願いします!」

「わかりました。お任せくださいーー準備!」


 強化の魔法を唱え、僕は辺りを見渡す。遠くてはっきりとは見えないが、前方にうっすら巨大な竜巻のようなものが起こっているように見える。


(これは……魔法……? 段々こっちに来てない!?)

「風刃の竜巻!? そんなのを使える魔物が……?」


 僕が驚いていると、車夫はいやいやと言いながら首を振る。


「あれは魔法ではありません。風刃虫です! 群れているだけで個々は小さいですが、あのまま突っ込まれると危険です! 切り刻まれて食べられます!」

(虫!?)

「食べられる!?」


 サキと僕はそれぞれ驚く。凶悪さはそのままで、まるで意志のある風刃の竜巻だ。あれの中に入るなんて荒技はもう出来ないし、どうすれば良いだろうか。


「な、何か有効な手はありますか?」

「あの中に火を入れてください。そうすれば多少止まるはずです! そうしたら車を引いて全力で逃げます!」

「わかりました。火炎弾!」


 三つの火の弾を飛ばすも、竜巻の外側で弾かれてしまった。


「効かない!?」

「火力が足りなくて竜巻の内部まで届いてないです! もっと威力を上げてください!」

(もっと火力を……火炎竜?)


 サキはそう言うが、あれは大部分の魔力を持っていくので、そう簡単に使うわけにはいかない。使った後も旅は続くし、会う度やれと言われるときつい……強がった、二度目は不可能だ。


「わかりましたーーでは申し訳ないのですが、僕と竜巻が触れるくらいまでこのまま引き寄せて貰っても良いですか?」

「引き寄せる……ですか?」

「はい。もっと竜巻を引き寄せて、僕が魔法を撃つ直前に走ってください。それが一番威力が出せると思います」

「わ、わかりました! では、合図お願いします!」


 そう言った後、僕は竜巻が近づいてくるのを待つ。


「まだだ……まだだ……」


 竜巻は近づいてきて、その分全体が大きく見える。そして近づくと、一体一体の風刃虫が見えてきた。小さいとは言ったものの、近くで見ると僕の握り拳くらいはある。竜巻と比べれば全然小さいが、思っていたよりも全然でかい。


(もっと……いや! やっぱ無理無理見ないでレノン! 今すぐ撃ってえええええ!)


 サキが何か言っているが、その音は風で聞こえない。聞こえないのだ。確かに気持ち悪いとは思うが、そんな声を気にしていると失敗しかねない。


「ま、まだですか!?」

(ひいいいいいい! 来る! 来りゅうううう!! いちにさんしごろくしちはちきゅうーー)

「お願いします! 火炎弾!」


 ギリギリまで引き寄せて、一つの大きな火の弾を放つ。竜巻に当たると火は竜巻の形に燃え広がり、竜巻の形を解除して霧散する。車はそれに巻き込まれないように走り出す。


(ぶわぁーって! 来る! いや! 触りたくないいいいい!!)

「うえっ!? くそっ……! 火炎砲!」


 散らばった後に飛んでくる風刃虫を撃退しながら逃げ続ける。


「行けそうなのでこの群れを迂回して進路通り進みます! しっかり掴まっててください!」


 車夫がそう言うと、車がガタッと大きな音とともに揺れ、大きくカーブを描くように動いた後、再び進路方向を変えて一直線に進んだ。

 ーーそして風刃虫は点となり、見えなくなった。


「ど、どうにかなったかな……?」

「はい! おかげさまで、このまま走れば振り切れます! どちらも無事で良かったです! ありがとうございます!」

(あぅ……う、ぁぅ…………)

「は、はい。一応、無事で良かったです……」

「どうしました? もしかして酔ってしまいましたか? もう少しでルセウまで着きますが、休んで行きますか?」

「いえ、多分、大丈夫です。このままお願いします」


 一名無事じゃない人がいるみたいだったが、何とか乗り切った。僕達は、そのままルセウまで進んで行った。ルセウはまだメイジステンだが、アムドガルドへの旅路は、危険な道だと心に刻んだ経験となった。

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