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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
1章 騎士見習いへの道
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17話 黒き死を与える者

(えっ……? 嘘、これ、まさか……)

「知ってるの? ゲホッゲホッ!」

(この煙……まだ生きていたなんて! その煙は吸っちゃダメ! 今すぐ部屋から出て!)


 サキの反応と状況からして危険なやつということはわかる。


「一陣の風ーーあれっ……?」


 杖を力強く振り、風を起こそうと魔法唱えても思ったように使えない。


「一陣の風!」


 もう一度唱えても風は起きるが、煙を払う事が出来なかった。


(やっぱり魔法は吸われちゃう……逃げるしかないわ!)

「くそっ……! 見えない……どこだ!」


 黒い煙で辺りが見えない中、部屋の端にまで移動し、壁を伝いながら入り口に向かおうとする。


「ぐあっ……!」

「どうして!? 魔法が……!? ぎゃあああああ!!」


 奥から男の叫び声が聞こえる。思わず振り向いてしまうが、何も見えない。


(良いから早く逃げて!)


 その声を聞いて再び歩きだすが、今度は何かに足を取られて転ぶ。自身が向かう先で大きな音がして、その後すぐに金属がぶつかり合う音がした。それでも未だ見えないが、誰かが戦っているようだ。


「ゴホゴホ……ガハッ!」


 その場で強く咳き込み、何かを吐く。黒い中、目を凝らすと床に落ちている兜に血がかかっていた。


(毒癒しを! あなたのそれなら、少しはマシなはず……)

「毒癒し……!」


 言われた通りに魔法を使うと、咳は収まって楽になった。


(出口……出口は!?)

「確かこの先のはずだ……!」


 僕は出口に向かおうとするが、その先で声が聞こえる。


「開かない! 開かない!」

「この! くそっ! 押しても蹴ってもビクともしない……な、なんで…………」

(誰一人逃がさないつもりなの……? そ、そんな……どうすれば!?)


 逃げる事も出来ない。僕達が困惑している中、近くで激しく武器と武器が撃ち合う音がする。その方向を向いても何も見えないが、声が聞こえてきた。


「貴様、黒死の悪魔か……! 死んだと聞いたが…………ゴホガハッ!?」


 さっき聞いた男の声ーーリシューの領主アランの声だ。


「ーー私は陛下からこのリシューを任されたノルド家当主アランであるぞ! 魔法を封じたつもりだろうが、強化の魔法は使用可能。それさえあれば目眩しごときの卑劣な手段には屈しはせぬ……その首、切り落としてくれるわあああ!」


 剣で相手を切り裂く大きな音がした後、重量がある物が落ちた音がする。宣言通り討ち取ったかのように思えたがーー


「な、何故……? なんと……どこまで卑劣な…………!?」

「我は貴様らが憎い。殺せるのであればそれで良い」

「ぐっ…………カハッ!?」


 鍋の中身を零したように液体が飛び散る音、そして大きな鍋そのものを落としてしまったときのような音がした。

 ーーそして煙も薄くなり、ようやくその全貌が見えてきた。


「なっ……!? なんだよ、お前……!」


 悪魔とは本来このような者を表すのだろうか。それはあまりに異質、気味が悪い存在であった。黒いローブを身に纏ったそれは人型である。しかし同じ人と呼ぶには大きく異なっていた。

 まず足がなく、宙に浮いていた。そして長いローブから伸びるその肌は白くーーいや、肌などなく、明らかにそれは骨であり、その手には不釣り合いな大きさの鎌を持っていた。そして最後に最も異質であったのは、頭を落とされても死なないどころか全く動じない事だ。付近を見渡すと白い頭は床に転がっていた。


「この姿を見た敵は逃さぬ。全て殺す。それが我が信念ーー」


 頭は不気味にも宙に浮かびながら、低く枯れた声でそう言った。そして言い終えると同時に元々あったのであろう首の上に戻った。


「まずはーーーー」

「ケホッ……」


 僕は杖を握り、戦う姿勢を取る。そのときに横の白い鎧の少女が咳をした。


「貴様だ。鎧騎士よ……!」


 そう言うと浮いたまま宙を滑って移動し、少女と一気に距離を詰めようとする。


「貫いてーー」

「魔法などーー消えないだと!?」


 少女の剣から細い線のような雷が放たれる。それは衰えを知らず、そのまま悪魔の身体に迫る。咄嗟に伸ばした左手を弾き飛ばし、そのまま少女の剣と右手で持った悪魔の鎌がぶつかる。


「何故だ!? 何故このような事が……!」


 悪魔に焦りが見え、撃ち合いは一度は止まる。そしてまた撃ち合うを何度か繰り返した。


「あの子ーーフラウが有利だ。参戦して一気に押し切れば……! 火炎弾!」


 煙の薄くなった今ならと思い、目の前に炎の弾を作って悪魔に向かって放つ。しかし、みるみるうちに小さくなっていった。元の位置に戻ろうとした左手に丁度当たりはしたが、弾き飛ばすどころか怯みもしなかった。


「くそっ……僕はダメなのか!」

(有利……いいえ、あいつが狙っているのはーー)

「はぁ……はぁ…………ゔっ……!」


 斬り合いの途中、少女が咳き込んで隙を見せた瞬間を逃さず、悪魔は戻った左手で兜を掴んだ。


「隙を見せたな! 死ね!」

「ーーそうはさせない! こっちだ!」

「何だと!?」


 既に駆け出していた僕は、横から突っ込む。


「だあああああああ!!」


 白い細腕の上から杖を叩きつけ、少女を掴んでいる悪魔の腕をへし折った。


「雑魚が、粋がるな!」


 僕が折った左手が動き出し、僕の腹部に直撃する。


「ぐあっ……!」


 僕はそれにより思いっきり吹っ飛ばされた。しかしーーそれまでの時間はあまりに長過ぎた。

 少女は体勢を整え終わっており、剣を悪魔に突き刺し、


「ーー砕け散って!」

「ぐおおおおおお……!」


 今までになく大きな声で言葉を放った。剣から雷が四方八方方向に走り出し、それぞれが悪魔の骨を貫き、砕いた。形を保てなくなったそれらは崩れ落ち、床にバラバラに散らばった。

 それでもなおそれぞれが浮かび上がり、顔は少女に目を向ける。


「き、貴様……不完全ながらもその剣の輝き、もしや憎きあのーー」


 少女は剣に雷を纏わせ、再び無言で斬りつけた。これまでの骨を断つ音とは違う音が響き、紐のようなものが垂れる。


「がああああ! くそおおお……!」

(レノン! あいつの身体あれ……魂の鎖よ! あれを千切ればもしかしたら……)


 魂の鎖。サキの魂を固定する時に使っていたあの鎖か。確かにそれならーー


「ーーフラウ! 鎖だ! やつの体にある鎖を千切れば倒せるかも知れない!」


 届いてくれ。答えなくても良い。この言葉だけでも、信じてくれ。


「鎖……? あっ、あった! それが弱点ならーー千切るだけ……!」


 そしてローブに斬りかかり、一緒に鎖を断ち切った。


「ぐっ……そこまで……! しかし! 元来の目的は果たした! 貴様ら、顔は覚えたぞ……次会ったときは、必ず死を…………」


 掠れた低い声でそう言うと、落ちて散らばった骨が浮き上がったローブの元に集まる。少女は再度ローブを斬りつけようとするが、浮いたそれは素早く躱して剣は空を切った。

 集まった骨をローブにくるむと、窓に向かって逃げ去っていく。窓が割れて外に出る瞬間に割れる音と同時にバチッと音が鳴り、薄くなっていた黒煙は完全に消え去った。


「ゲホゲホ……うっーーゴハッ!」


 少女が出すとは思えない苦しそうな声と共に、鎧騎士は崩れるように倒れ込む。兜から血が滴っているのが見えた。


(早く助けないと!)

「だ、大丈夫!? これ取るからね?」


 そう言いつつも確認を取る前に兜を取ると、かなりの量の血を吐いているように見えた。少女は僕を見ると動こうとした。


「動いちゃダメだ。聞こえる? 大丈夫だから。毒癒し……!」


 目を閉じて僕は魔法を使う。苦しそうに呼吸していたのが幾分かマシになったように見えた。


「悪魔を討伐せよ! いないか……なら、周囲を警戒しながら救出を行う! 我らが主人を探せ! 生きている者は手を挙げろ!」


 突然鎧を装備した集団が館の中に飛び込んできた。どうやら騎士団らしい。


「ここに……! 負傷した人もいます。助けてください!」


 僕は手を挙げる。


「いたぞ! すぐ行くからな……!」


 それを見るとすぐに騎士が駆けつけてくれた。


「よく生きていてくれた。すぐに病院に運ぶからな」

「ありがとうございます。助かりましたーー」


 僕とフラウという少女は病院に運ばれ、即座に治療を受けた。済んだ後は、僕は状況を騎士に話した。

 僕達は他と比べれば症状は軽いもので、命に別状はなく、毒はすぐに取り除く事が出来た。

 しかし、領主アランは発見時には既に命はなく、全身が炭のように黒く染まっていたらしい。武装した騎士も、その場にいた全員が兜を外された後に首を落とされていたというーー


「……なるほど、以上が君が見た黒死の悪魔の見た目、能力なんだね?」

「はい。黒死の悪魔、その名を現場でも聞きました。他の場所でもこのような事があったのですか?」

「体を蝕む瘴気、兜を飛ばして首を落とす。似たような犯行を行った悪魔が十年前にいた。目撃者は必ず殺す。それが徹底されていたため、姿を見た者はいなかったーー」

「今回と同じような事を、何度も……」

「そうだな。こっちから探そうにも見つからなかったが、ある日を境に急に事件を起こさなくなったため、死んだと認識していたのだが……」

(実はまだ生きていた……まさか、そういう事なの……?)


 サキは一人で意味深に呟いた。


「まだ生きていてしかも人ならざる者……か。ここまで細かく情報を得た例はない。協力感謝する」


 騎士は礼をした。


「少しでも解決の役に立つならば嬉しいですーーあの、そう言えば、僕と一緒にいた白い鎧の子はまだここにいますか?」

「いや、話を聞きに行ったのだが、治療を終えた後の少しの時間の隙に姿を消したらしい。お金も払わずに……君、知り合いかい?」

「はい。と言ってもそんなに話したことはないのですが……」

「そうか。ならもう依頼を受けに行ったのだろう。領主様に不幸があっても、成立した依頼は今更取り消しには出来ないだろうからな。君も行くのだろう?」

「はい。今日か明日にはリシューを出るつもりです」

「そうか。では引き止めて悪かった。これで失礼する」

「はい。ありがとうございました」


 騎士が部屋から出た後、僕も続いて、二度もお世話になった病院にお礼を言って後にした。

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