131話 魔女の本気
「フハハハハハ! 本気だと? あるのであれば見せてみよ!!」
「邪魔するなら、それじゃあ御期待通りに!」
サキはそう言うと、悪夢の魔剣を十本作り出して、全てアゲートに向けて放った。
「転移は魔力を加えるだけ! 如何に対応しようものか!」
アゲートは、十本の剣を躱しながら言った。
「嘘だろ……あいつあんなに速く動けたのか」
ラドはアゲートの動きに対して言う。
「追加でいくわよ!」
そう言うとアゲートに向けて、サキの背丈ほどある光の球を放った。それは太陽の如く光り輝いていた。師匠はその隙を突いて風の剣を全力放出させ、サキの自動障壁を破った。
「小賢しいのよ!」
サキは指を振ると、悪夢の剣の一本が師匠の元に飛んでいった。
「今のうちに!」
フラウがサキに向けて魔法を放った。
「うう……痺れさせる専用の魔法ね」
「フハハハハハ! 全て回避したぞ!」
アゲートは逃げ回って回避したようだ。
「えーい、これでも食らえー!」
サキは特大の雷をアゲートに放った。アゲートは何も言わずに指でなぞって空間を開いた。そしてサキの頭上に落とした。
「わーすーれーてーたー!」
サキは自分で放った雷を受けた。
「手堅く行かなきゃ! 今度こそ!」
サキは悪夢の魔剣を四本準備して放つ。
「少ないな。何かある」
サキは四本の剣の隙を見て、瞬間移動をした。そして吸魔の大鎌をアゲートに振り翳した。
「痛い! 痛いぞ! 恐怖を感じる。フハハハハハ!」
アゲートは線を引き、空間に穴を開け、
「ハクよ。剣をーー」
「はい。多分必要なのはこれでしょ」
「感謝する。では約束通り繋いでやろう」
アゲートは線を描き空間を裂いた。
「ありがとう」
ハクは裂けた空間の中に入っていった。
「終わったかしら? ハクちゃんを傷つけたくないから待っていたんだけど」
「もう終わったぞ。いつでもかかってこい」
「余裕があるのね」
そう言うとサキは、水で手を作り、押し潰そうとしてきた。
「何度も同じ真似を!」
アゲートは空間を裂く。
「もう間違えないわ」
そう言うと悪夢の魔剣を飛ばして空間を裂いている魔力を吸い取った。
「凍って!」
そのまま波の手は氷となり、落ちてきた。
「のわあああああ! 何と言う事だ」
「喋る余裕があるの?」
その後、雷と魔剣が追い討ちをかけた。
「させない」
師匠が割って入って巨大な雷を受け止めた。
「まだこれがあるもん」
魔剣でアゲートを突き刺した。
「おお、我は恐怖を感じている」
アゲートは鎧を潰されながらもそう言った。
「あっ、良いこと思いついた!」
サキは杖をとんと鳴らすと、氷漬けにした。
「私の魔力を思いっきり使ったから、そう簡単には出られないはずよーーさて」
サキは僕達の方を見た。
「サキ、まだ戦うつもりなの?」
僕はサキに問いかける。
「当たり前でしょ。貴方こそアゲートが動かなくなったから止めようって言っているでしょう?」
「そういう訳じゃないさ。サキがこっち向いてくれたからだよ」
「なにそれ。今の私が怖くないの?」
「怖くないさ。僕とサキの間柄じゃないか」
「レノンなら結界の中に入れてあげても良いわよ?」
「そういう問題じゃないよ。僕がサキと一緒に冒険や経験をしたい。言わば、それが僕の理想なんだ」
「理想同盟でもないのに勝手に理想とか言わないでよね!」
サキはそう言うと、僕に向けて光線を放った。横に飛んで避けた。
「まだまだ!」
さっき使った巨大な光の球を僕に向けて放った。
「レノン! こっち!」
「うん!」
フラウに掴んでもらい、またもや横に飛んで回避した。
「ちょこまかちょこまかと……!」
「こっちが疎かになっているぞ」
「うっ……!」
師匠の風の剣が自動障壁を打ち破ると、風刃の塊、風刃球を放った。
「当たるもんですか!」
そう言って瞬間移動して師匠に悪夢の魔剣で斬りかかった。しかしーー
「当たらないぞ」
「これでもそう言えるかしら!」
四本悪夢の魔剣を飛ばして吸魔の大鎌で薙ぎ払った。それすら回避された為、
「もう良いもん」
サキは部屋の中心に立ち、自分を中心に炎の渦を作り出した。
「これなら逃げ場もないでしょう!」
「レノン! 私の後ろに」
「ごめん、わかった!」
フラウの言う通り、後ろに下がる。セレーナが盾を張り、堰き止めようとするが、破られてしまった。
「ごめんなさい! レノンくん!」
僕とフラウは炎の渦に巻き込まれた。
「うぐぐ……うわあああ!」
「熱い……レノン大丈夫!?」
このまま焼かれ続けられると思ったが、炎が消え去った。
「フハハハハハ! 美味い美味い!」
「どういう事!?」
アゲートは炎を飲んでいた。
「アゲート! どうやって……? そう簡単には……」
「簡単な話だ。汝の炎で溶けたのだ」
「あっ……そっか」
しまったという顔をするサキ。
「あの魔法を試してみてもダメ、この魔法を試してみてもダメ。勝ちきれない……!」
サキは呟くと、
「とにかくもう一度凍りなさい!」
サキは吹雪をアゲートに放った。
「グワアアアアアア!!」
この音はアゲートが食らった音ではない。アゲートはさっき飲んでいた炎を吐き出したのだ。それで吹雪をかき消した。
「熱い熱い! でもすぐに治癒するもんねーだ!」
確かにサキの火傷はすぐ消えた。
「どうやったら勝てるのかな? うーん、わからない……」
サキは唸りながら言った。
「大いなる剣よ、今我が魔力で再現せよ!」
サキは瞬間移動をしながら逃げるが、空間を裂く転移魔法で追いつかれ、自動障壁を貫かれた。
「やっぱり逃げられないよー!」
サキは嘆いた。しかしその様子から余裕があるように見えた。負けるとは思っていないようだ。
「ギンを狙えば良いわ!」
「うげっ……バレてしまった」
「これでどうよ!」
サキはギンに悪夢の魔剣を四本飛ばした後に、彼の元に瞬間移動し、火炎弾を手に持ってそれを握り潰し、爆破させた。
「ぐうわあああ!!」
ギンが普段出さないような声を出しているのを聞いてエイミーが治癒魔法をかける。その後魔剣の二本がギンに刺さった為、また治癒魔法をかけた。
「吹き飛べ!」
師匠がサキを吹き飛ばしてギンの様子を見る。
「大丈夫か?」
「何とかね。死ぬつもりはないさ」
サキが再び瞬間移動をすると、そこから岩の棘か飛び出し、彼女を貫いた。アゲートの魔法だ。
サキは貫いた岩を壊すと傷を癒した。
「今のは痛かったわよ!」
怒ってアゲートを睨みつける。
「フハハハハ! 我と戦え!」
「嫌よ! 貴方倒せないもの」
「だがそれでは勝てないぞ?」
「わかっているわよ!」
言ったと同時に全方位に衝撃波を放つ。セレーナの盾を粉砕し、僕達にも襲いかかってきた。フラウが剣で受け止めてくれた。
「ありがとうフラウ」
「この剣は丈夫だから。吸魔の大鎌とか悪夢の魔剣は受けたくないけど……」
「またダメだった……ねぇヴィロ! どうすれば勝てると思う?」
サキはヴィロに助言を求める。しかし、ヴィロからの返事はなかった。
「ヴィロ?」
おかしいと思ったサキはヴィロの籠を覗き込む。何とそこにヴィロの姿はなかった。
「ヴィロがいない! 探さなきゃ!」
そう言うと、空間を裂いてその中に入ろうとした。しかし、アゲートに前後に空間の裂け目を置かれた為、頭から床に落ちた。
「痛い……貴方達ーー」
「ヴィロを探す邪魔をするなあああああ!!」
サキは、聞いたことがないような声で叫んだ。




