130話 魔女の降臨
「あああああああ!!」
サキの声が響き渡る。そして周囲に魔力を出して爆発を起こした。
「なんだこれは!?」
ラドは目の前の光景に焦って叫ぶ。
「セレーナの盾でも防ぐのは難しいだろう。とにかくサキから離れるんだ!」
ギンは走りながら言う。
「何が起きているんですか?」
僕がギンに聞くと、
「推測だけど、多分私達を見た時の反応がサキと怨恨の憑魔で抱く感情が違うから頭が暴走したんだ」
「なるほど、魔女が暴れているのはそういう事なのだな」
「あっ、あなたは……!」
声の主は、アゲートだった。
「どうしてここに!?」
「怨恨の憑魔に仲間扱いされていたのだろう。とにかく我も魔女と戦えるぞ」
そして爆発が収まった頃に様子を見に近づくと、肩で呼吸しているサキの姿があった。
「ようやく慣れてきたわ。まだ頭痛が酷いけど」
サキは僕を見ながら言った。
「サキ、君を連れ出しにきたよ」
僕はそう言って手を差し伸べる。
「私はヴィロといる事を望むわ」
手を弾く動作をしながら言った。
「じゃあヴィロも一緒に連れ出すよ」
「ヴィロは迫害されるから居場所はルムンにしかないわ」
「それは世界を変えるよ。みんなでね」
「適当なこと言わないでよ。どこでもヴィロはまともに人として扱ってもらえなかったわ」
「それは酷い……」
「サキ! だからって引きこもらなくても良いと思うの。サキと見たい世界が私にはたくさんあるわ」
ハクもサキを説得する。
「ハクちゃん……ううん、言うことを聞かせたいなら、私に勝ってみなさい」
「望むところだ」
「ヴィロもそこで見ていてね。私、勝ってみせるから!」
そう言うとサキは杖を振ると、時間が止まった。そう思ったのも束の間、時が動きだした。
「ギンが邪魔しているのね」
「時止めは対策しておかないとって思ってね」
師匠が風の剣で、サキを攻撃したが、
「無駄よ。そんな攻撃届かない」
自動障壁を割ることができなかった。サキは指で線を引くと、その引いた場所が大爆発を起こした。
「くっ……」
盾はなかったかのように粉砕され、僕達を襲った。
「レノン!」
フラウが僕を庇う形で何とか乗り切った。
「うわああああああ!」
「フラウ!」
セレーナ、エイミー、僕で素早く治療した。しかしフラウ達の鎧は砕け散った。
「師匠! お願いがあります。僕に魔法で鎧を作ってくれませんか?」
「悪夢の魔剣を使うと消えるぞ?」
「大丈夫です! それを利用します」
「利用? まあわかった」
そうして僕は師匠に魔法でできたら鎧をもらった。
「フハハハハハ! 魔女よ行くぞーー大いなる剣よ、今我が魔力で再現せよ」
そうするとサキの上空に魔法陣が展開され、剣が落ちてきた。
「アハハッ強そう」
サキは指で線を引いて空間の裂け目を作った。
「させぬよ」
一言だけ呟くと、サキの空間の上下に空間の裂け目が現れ、その中に入り、サキの頭上に再出現した。そして、アゲートの魔法は、サキの自動障壁を突き破った。
「痛い痛いーーずっと座っているのも良くないことね」
そう言いながらも既に傷は癒えていた。そしてサキは立ち上がった。
「今だ! 畳み掛ける!」
ラドはサキの周りに三本の槍を刺し、瞬間移動をして三回斬りつけた。
「吸魔の大鎌!」
サキがそう言うと大きな鎌が先の手元に現れた。
「それと武器をぶつけちゃダメだ! 絶対に折られる」
ギンはラドに忠告する。
「わかった」
「それならば、俺の出番か」
師匠が風の剣を持ちながら言った。
「馬鹿かお前は刀の魔力を持っていかれるだけだぞ」
ラドは師匠に言った。
「そうだったな。でも当たらなければ、問題ないのだろう?」
そう言うとサキとの距離を詰めて風刃球を放った。
「痛いわね……!」
そうすると吸魔の大鎌を振り回した。
「確かにその鎌は強い。だけど扱い慣れていないな」
「うるさい! 私は最強だもん!」
そう言って鎌を振り落ろす。あっさりと師匠は躱してみせた。
「ムカつくわね。そもそも私の為に戦ってくれるんじゃなかったの?」
サキは師匠に言った。
「サキの事を想って戦っているが?」
「じゃあ私が望む理想郷の邪魔をしないでよ! まあ勝つだけだし、格の違いを見せてあげる」
そう言うと今度は悪夢の魔剣を九つ作り出し、それぞれに放った。
「何っ!? 追尾式だと!」
ラドはサキの魔法に対して驚いて言った。
「精々頑張りなさい。当たると痛いわよ」
サキは、そんな事を言いながら次の魔法を唱えた。
「火炎弾」
八つの巨大な火炎弾がパロ以外のそれぞれに襲いかかる。
「数が足りなかったわね。まあ運が良かったってことで」
セレーナが盾を張るも壊されてしまった。
「こうすれば!」
フラウが悪夢の魔剣と火炎弾をぶつけた。悪夢の魔剣は巨大化し、さらに速度を増した。
「……みんな! 火炎弾は悪夢の魔剣にぶつけちゃダメ! 魔力吸って大きくなるよ!」
そう言った直後、フラウに魔剣が突き刺さった。
「フラウ!」
「傷癒やし!」
僕は逃げながら唱えた。火炎弾を壁にぶつけ、悪夢の魔剣の魔力が尽きるのを待つしかない。
「さて、次の準備っと」
サキは魔法陣を展開させる。
「何とか逃げ切ったゾ」
パロをはじめとしてみんな上手く躱したようだった。
「よく逃げ切ったわねでも次はどうかしらーー想像魔法、飛竜!」
「何ですって!?」
セレーナは思わず声に出してしまった。その後に飛竜が現れた。
「あんな短時間で出してくるなんて!」
「おお……飛竜とな? 戦わせてもらおう」
飛竜は跳び上がり、僕を狙って突っ込んで来た。
「レノン!」
フラウは僕を抱えると、上手く躱した。
「ありがとう!」
「ねぇ、レノン。貴方は悪夢の魔剣を使わないの?」
「鎧をつけているからね。残念だけど使うと動けなくなっちゃうんだ」
「あらそう。飛竜との戦い頑張ってねー」
「雷撃ができるものは放て!」
その指示に従ってセレーナ、エイミー、フラウ、ゼクシム、パロ、ギン、僕は、雷を放った。
「雷撃!」
翼の膜を突き破り、飛竜を地に落とした。
「心臓を貫く!」
フラウが心臓に剣を突き刺し、そこから雷を放った。
「ガアアアアア!!」
飛竜は悲鳴を上げると無茶苦茶に暴れ出した。
「くっ、今ので消えないとは!」
その時ーー
「つまらん。少年は何もしないで逃げているだけではないか」
「レノンとサキはあまりにも実力が違いすぎてまだ何もできていないだけよ。何か案はあるはず。だって、これまで自分の格上と戦ってきたんだから」
「ハクがそうすると言うのであれば我が少年の剣となろうーー大地よ隆起し、数多の棘となれ!」
そうすると地面から巨大な針が幾つも飛び出し、飛竜を貫いた。飛竜は翼の膜を突き破られ、串刺しとなり、飛べなくなっている。
竜はアゲートに向けて炎を吐いた。涼しげにその炎を受けると、剣で竜の頭を叩きつけた。竜は倒れ込んだ。
「何で!? 最強の創造魔法のはずなのに……!」
サキは驚きと悔しさを滲ませて言う。
フラウがもう一度竜の心臓を貫き、電撃を放った。すると、飛竜は消えていった。
「魔女よもっと存分にその力を発揮するが良い! 我が打ち砕いてみせよう!」
アゲートはそう言うと、両手剣をサキの頭上に剣の一撃を入れた。自動障壁をまたもや突き破ると、サキに向けて剣の一撃をお見舞いした。サキは対抗して悪夢の魔剣を持ち、アゲートの剣を折ってみせた。
「ハクよ。新しい剣を取ってきてくれ」
「わかったわ。その後に繋いでほしい場所があるんだけど……」
ハクは場所をアゲートに伝えた。
「良いだろうーー行け! ハクよ!」
「はいはい」
ハクは裂けた空間の中に消えていった。
「アゲート! やっぱり貴方が一番邪魔ね。一騎討ちでは無くなってしまったけど、あなたにはもう容赦しないわ」




